民法819条(単独親権制度)改正を求め共同親権・共同監護制度の導入・ハーグ条約締結の推進と活動を行っています

''日弁連の意見書''

”子どもの最善の利益を最大限に無視”した日弁連の意見書

 日弁連は2月23日までに、国際結婚が破綻した場合の親権争いのルールを定めたハーグ条約について、条約を締結する際、児童虐待や配偶者間暴力(DV)があった場合には子の返還を拒否できるよう、国内法の整備を求める意見書を法務省などに提出した。

日弁連による意見書作成の背景と歪められた理念、利権団体と化する日弁連
~意見書に対する当会反論~
日弁連の両性の平等委員会が精力的にネガティブキャンペーンを行った結果、日弁連内にハーグ条約に対する偏見が広がり、このような意見書になったようだ。
意見書は、子どもの最善の利益といいながら、常居所地国からの連れ去りによる他方の親と環境からの引き離しが原則として子どもの利益に反するという条約の基本理念にはまったく触れていない。
また、理論的にも問題があり、法律の専門家団体の意見書としては、本当に恥ずかしい意見書である。日弁連の権威を貶めるものと言っても過言ではない。
条約が基本理念とする「子どもの引き離しを許さない」という大きな世論があるのだということを全く無視した意見書である。
大阪弁護士会の意見書がハーグ条約の理念を理解し子どもの最大限の利益を尊重した意見書であるのに対し、日弁連の意見書はおよそ人権擁護を崇高な理念とする法律家がとりまとめたとは思われない子どもの人権を全く無視した意見書である。

意見書の最大の問題は、「子どもと親との継続的接触が子どもの健全な成長にとって重要」であり、子どもの権利条約9条でも保障されているという観点がまったく欠けている点である。
ハーグ条約は、このような観点にたって、不法な連れ去りが子どもと残された親とを引き離してしまうことを防ぐことを目的にしたものである。
この点を考え方の出発点におかなければ、原則と例外が逆転してしまい、子どもの最善の利益を考え守ることができない。
また、国内の事案には適用がないことを明記すべきだと言っており、国内の連れ去りによって多くの子どもたちが一方の親と引き離されることの問題点は、まったく抜け落ちている。日弁連の人権意識、人権感覚を疑う意見書であり、私達は強く抗議する。

[参考資料]
意見書全文
意見書の趣旨(日弁連ホームページ掲載)

<趣旨抜粋>
ハーグ条約が子どもの権利条約に定める「子どもの最善の利益」にかなうよう適切に実施・運用されることを確保するために必要な事項を定めた国内担保法(以下「担保法」という。)を制定すること。
ハーグ条約に遡及的適用がない旨の確認規定を担保法上定めることや、国内における子の連れ去り等や面会交流事件には適用されないことを担保法上明確化し、かつ周知すること
・条約実施の準備及び国民への周知のために,条約実施・担保法施行まで3年間程度の周知・準備期間を置くこと
ハーグ条約の締結と同時に、市民的及び政治的権利に関する国際規約第一選択議定書及び女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約選択議定書を批准し、各条約の個人通報制度を受け入れること。

大阪弁護士会のハーグ条約批准についての意見書

2011年(平成23年)2月25日
国際的な子の奪取の民事面に関する条約の批准についての意見書
大 阪 弁 護 士 会
会 長 金 子 武 嗣

第1 趣旨
 政府は,ハーグ国際私法会議において制定された国際的な子の奪取の民事面に関する条約(以下「ハーグ条約」という。)について,批准に向けた前向きな検討を行うと発表している。ハーグ条約の国境を越えた子の連れ去りについて法と裁判による解決を行う基盤を与え,これによって国境を越えた子の連れ去りを抑制するという側面に着目した場合,その趣旨は十分に理解できるものである。
 ただ,ハーグ条約の形式的な適用により,実質的に子どもの権利を侵害する恐れのある事案や,いわゆるドメスティック・バイオレンスの被害者に不当な結論を生じさせる事案が存することも考えられ,またハーグ条約の基本的な発想と従来のわが国の法制度との整合性についても,いまだ調整の必要な点もある。批准にあたっては,これらの問題にいかなる対応が可能であるのかについて十分な検討を行い,実施法の制定その他条約実施のための施策において必要な措置をとるべきである。
 加えて,条約の締結から実施法の制定に至るまでの過程は,出来る限り国民に分かりやすい形で開示され,周知されるとともに,特に在外邦人に対する情報提供や援助の体制整備がなされるべきである。

第2 理由
ハーグ条約の内容
 ハーグ条約は,子どもが,片方の親の監護権を侵害して常居所地国から他国に連れ去られた場合,残された親の申立てにより,子どもを常居所地国へ返還する制度を定めたものである。
 双方の親の間で,子どもの親権や監護権,具体的な養育方法について争いがある場合には,子の最善の利益を基準として常居所地国の裁判所において法に従った解決がなされるべきであり,現実にもわが国を含む多くの国において,このような手続が存在するところである。
 ところが,国境を越えた子どもの連れ去りがあった場合,ハーグ条約が提供するシステムがない中では,残された親は,連れ去った親の住む国において,その国の定める手続をとらなければ実効性がないこととなる。この場合,異なる法制度や言語,連れ去った親や子の居場所の特定,状況の立証など多くの側面で残された親に多大な手続的負担があり,法的手続をとること自体が困難となる。このため,親権や監護権をめぐる争いがある場合,常居所地国で適正な法的手続をとるのではなく,仮に同国内ではそれが違法であったとしても,子どもを他国へ連れ去るほうが連れ去り親にとって有利であるということになり,結果として子どもを連れ去って国境をこえる親が発生し,子どもをそれまでの環境から引き離し,子どもと残された親との交流の機会を奪うことにつながり,子どもに悪影響を及ぼすことになる。
 ハーグ条約は,このような場合に,16歳未満の子どもに限定して,迅速かつ実効的に,子どもを常居所地国へ返還する手続を定めるものであり,子どもの連れ去りに対する法的対応方法を与え,これにより親権や監護権をめぐる紛争に関して常居所地の裁判所において法に従った手続をとることを促し,違法な子の連れ去りを抑止しようとするものである。さらに,ハーグ条約においては,常居所地国への返還が必ずしも残された親への返還を意味するのではなく,最終的な子の親権や監護権は常居所地の裁判所で決定されるものであって,その趣旨は十分理解できるところである。

2 日本をめぐる子の連れ去りの状況
 現在,締約国の一部から,日本がこの条約を批准していないことにより,日本への違法な子どもの連れ去りが相当数発生し,残された親の権利が侵害されているにもかかわらず,これに対する法的対応が困難な状況にあるという批判を受けている状況にある。
 また外国に居住する日本人の親が,当該国の法制度に従い,子の監護権を取得したり,子を日本に一時的に連れ帰る裁判所の許可を得ようとした場合に,わが国のハーグ条約への批准が未了であり仮に当該日本人の親が実力行使に出た場合には実効的な法的対応が困難という理由で,このような許可が得られにくいという問題が発生している。
 なお逆に日本から連れ去られる子のケースでは,その連れ去り先は,アジア諸国の条約非締約国であることが多く,日本が締結しても子の返還には役立たないとの批判がある。現状はそのようにいえるだろうが,アジア諸国の中でも近時シンガポールがこれを批准し,また韓国が現在検討中であるという状況もあり変化の兆しが見受けられる。日本がハーグ条約を批准すれば,今後,非締約国が多いアジア諸国に対して,ハーグ条約の批准を求めていき,将来的に連れ去られた国からの返還を求めることが可能になる一歩となるものと考えられる。
 ハーグ条約の批准については,第2,1記載の内容に加えてこれらのような状況をも考慮する必要があり,総じて,その意義は十分理解できるものである。

3 批准により発生する問題点
 他方で,ハーグ条約の批准については,別の側面も十分考慮されなければならない。子どもを他国からわが国に連れ帰った親子を想定すれば,ハーグ条約の子どもの原則的・即時返還という効果は,時に子どもに大きな負担を課することになる。特にハーグ条約が抗弁事由を狭く解釈すべきとしていることから,連れ去った親と共にわが国に住み続けることが子どもの最善の利益にかなうであろうと思われる場合にまで,即時返還が求められるという結果に結びつくという事態も発生しうる。
 さらには,外国でドメスティック・バイオレンスの被害に遭った一方の親が,それから逃れるためにやむなく子どもを連れてわが国に帰国した場合に,ハーグ条約の適用により,連れ去った親は,被害を受けた国に子どもと共に戻るか,子どもと別れて子どもだけを常居所地国へ戻すかの選択を迫られることになり,当該親にとって酷な結果になるという点も指摘される。特に,日本人の国際結婚の現在の特徴として,日本人女性と外国人男性との婚姻件数が,日本人男性と外国人女性との婚姻の5倍以上多くあることから*1,現在は,子どもの連れ去り事件については,日本人女性が海外から子どもを連れ帰る事案が圧倒的に多く,その中にはドメスティック・バイオレンスの被害者である日本人女性の事例も含まれていること,にもかかわらず常居所地国においては刑事訴追を受ける可能性すらあることを考慮しなければならない。

4 形式的適用に対する懸念に対する対応
(1)序
 子の連れ去り事案の中に,第2,3記載のような懸念が正に妥当し,ハーグ条約の形式的な適用が,子どもの最善の利益に反する結果を招く事案が存することは確かである。違法な子の国外への連れ去りに対する実効的な法的対応策を構築するというハーグ条約批准の意義は十分に理解できるとしても,ハーグ条約の批准,わが国への導入にあたっては,このような事案に対するきめ細かな対応を行うことができる制度をどのように構築するかという議論を欠かすことができない。

*1 「国境を超える子の奪取をめぐる問題の現状と課題」外務省国際法課長岡野正敬,国際法
外交雑誌109 巻第1号,34 頁

 この点については,既にハーグ条約の締約国となって,多くの実務的な工夫を積み重ねている国から学ぶとともに,日本の実情や法制度を踏まえてわが国独自の観点からの検討を行うべきである。
(2)抗弁事由等の精緻化
 既に,第2,3記載のような懸念のある事案が存するという認識は,ハーグ条約締約国において,共通のものとなっている。このような懸念に対する対応として,抗弁事由の適用,アンダーテイキング*2やミラーオーダー*3の活用等が多くの国において一般的に提唱され,採用されている。さらに,専門調停制度の活用など,各国がそれぞれの法域の実情に即した工夫を行っている状況にある。
 このうち,まず,抗弁事由の柔軟化は子の迅速な返還を指向するハーグ条約の根本的なあり方とは緊張関係にあるともいえる。しかし,この点についてはヨーロッパ人権裁判所の2010年7月6日大法廷判決が参考になる。同判決は,ハーグ条約による機械的な子どもの返還命令が子の最善の利益の観点から問題があり,これはヨーロッパ人権条約に反するとした。ここでは,ハーグ条約の存在そのものの価値を認めた上で機械的な適用に対する警鐘が鳴らされたものと評価でき,抗弁事由について,子どもの最善の利益の観点からさらなる精緻化やきめ細かな検討が必要である。
例えば常居所地国において子どもへの虐待が行われている場合には,子どもに対する重大な危険の抗弁事由や,人権及び基本的自由の侵害の場合に返還を拒否できる条項(ハーグ条約20条)など,条約の中に組み込まれた制度を実質的に適用することができるよう,解釈規定を置くなどの国内の施行法の整備に努めるべきである。
 さらに,ドメスティック・バイオレンスや連れ去り親の刑事訴追の懸念については,あくまで抗弁事由は子どもに対する「重大な危険」であってこの枠組みそのものを修正することはできないとはいえ,近時の研究の深化により,片方の親に対するドメスティック・バイオレンスが子どもに与える強い悪影響を引き起こす恐れが高いことや,子どもが返還に伴い連れ去り親と永続的に分離されることにより子どもへの悪影響を及ぼすことや,刑事訴追の可能性がある場合にはこの懸念が一層高まると考えられることなどの観点からの精緻化が必要である。
(3)手続についての視点
 また条約を実施する手続についても,できる限り子の意思を十分反映する内容のものとすることが,子どもの権利条約により保障された子どもの
意見表明権の観点からも重要である。条約の中には,抗弁事由としての子の異議についての規定しかこの件に関する規定が見受けられないが,その他の抗弁事由を考慮する上でも極めて重要な要素であり,条約がこの点について消極的な姿勢であるとはいえないはずである。この点は施行法の中で言及されるべきである。
 なお,前記のスイスの国内法の9条はこの点について意識し,審理の中での当事者(当然子どもを含むと解釈されている)の意見聴取を義務付ける規定であり,参考にされるべきである。

*2 返還を申し立てている親(連れ去られた親)が,子の所在国の裁判所において,例えば「暴力をしない」「刑事告訴を取り下げる」「被申立人(連れ去った親)から,子を取り上げない」といった約束をすること
*3 子供が返還される先の国の裁判所が,アンダーテイキングと同じ内容の命令を出すこと

(4)アンダーテイキング,ミラーオーダー
 次に,いわゆるアンダーテイキングやミラーオーダーなどの制度についても,そもそも法域を異にする裁判所間の取り決めとして実効性に乏しいという点が指摘されているが,特に言語の壁のある日本において,どの程度この制度を活用できるのかの検討が必要である。
(5)その他
 さらには,各国独自の運用の中で日本においてなじみやすいものを採り入れる工夫が必要である。特に,専門調停手続を採用している大陸ヨーロッパの一部の国の実践が参考になるものと考えられる。

5 日本の法制度との調整
 次に,日本においては従来,共同親権を前提にして,片方の親が他方の親の了解なしに子どもを連れ去ることそのものは,原則として違法性を欠くものと考えられてきたところ,ハーグ条約は,片方の親の了解なく子どもを連れ去ることを違法とするものであり,ハーグ条約とは基本的な発想に差があること,批准により日本国内の上記の考え方に影響を与えるおそれがあることという指摘がある。
 この点,仮に上記の日本国内の考え方をいったん是とした場合でも,国境を超える子の連れ去りは,法的対応を困難とするため違法性が強く,日本国内での連れ去りは日本国内の法により対応可能であるため違法とは言えない,ないしは違法性が弱いという理解は十分ありうるのであって,少なくともこの点の差異が批准の重大な障害になるものではない。ただ,この点や離婚後の単独親権の制度,面会交流権が明文上の根拠を欠く点との関係も含め,日本国内の法制度との関係及び日本法の整備の問題は十分に検討されなければならない。
 特に,日本から子が連れ去られた場合にハーグ条約を利用して返還を求める必要性を考えれば,ハーグ条約前文及び21条の面会交流権に対応して,日本法の中に面会交流権の根拠規定を設けるべきである。
 このほか,居場所の特定や引き渡しの実効性確保など,本格的な導入にあたっては技術的に詰めなければならない事項も多くあり,批准に向けてこのような国内の制度の調整に取り組む必要がある。さらに言えば,これを取り扱うことのできる専門家の育成が必要である。

6 周知と援助体制の整備
 ハーグ条約の適用は,子どもの返還というある意味激しい効果を発生させるものであり,十分な周知期間を置くことが必要である。また在外法人,とりわけハーグ条約締結国に居住する日本人に対し,当該国における親子関係法及び離婚関係法,子を連れ去った場合に犯罪となるか否か,法律扶助制度,親子関係や離婚等に関して精通している弁護士等に関する情報も提供すること,ハーグ条約発効後も引き続き同様の情報提供をすることに加え,在外領事館において可能な支援を行なうことを検討するべきである。

第3 まとめ
 以上のとおりであり,ハーグ条約については,批准を進める理由があると考えられるとともに,子どもの最善の利益の観点からの懸念が存する事案に対する対応,日本国内の制度との調整など,多くの課題があり,これに真剣に取り組むことが必要であるため,冒頭の結論に達した。
以 上

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