イギリス
イギリスの離婚後の親権・養育制度
出典:「平成26年度法務省委託 各国の離婚後の親権制度に関する調査研究業務報告書」一般財団法人比較法研究センター(2014年)P.55~82
報告書PDF
イギリスの共同監護立法化の流れ
年 | 法律 | 規定内容 |
---|---|---|
1925年 | 幼児後見法 | 子の監護をめぐる紛争において両親が対等な当事者となることを規定 |
1973年 | 後見法 | 両親が完全に対等な「親権」を有するようになった |
1975年 | 子ども法 | 「親の権利と義務」が明文化され、監護に関し実際に子を物理的な管理下におく状態(実質監護)と法的監護に分けられた |
1989年 | 子ども法 | 従来の父親優位の「親権」制度が完全に撤廃された。「親権」にあたる概念として「親の責務」が規定された。 |
2014年 | 子ども及び家族法 | 両親が別離後も継続して子育てに関与する「共同の親業行使」の前提が新たに規定された。 |
「親権」と「親の責務」
- 離婚手続の原則は司法の介入を前提とするものであり、全て裁判所の判決によって処理される。
- 離婚及び法的別離/別居の判断を行う際に、裁判所は子ども法が規定する子の福祉に照らして子の監護養育に関する取決めがなされているかを確認しなければならない。
- イギリス法における「親権」とは「親の責務」である。1989年子ども法により新たに導入された概念であり、従来の子に対する親の「権利」から子に対する親の「責任」へと比重を積極的に移行させることを意図して規定された。
- 2014年子ども及び家族法(改正法)では、「子に関する取決め決定」が新設された。子ども法の子育てにおける家族と行政の協調や子育ては親が第一義的な責任を負う主原則に関連して、子育てには両方の親が関与することが子の福祉にかなうことが強調された。
共同監護
- 2014年子ども及び家族法で「双方いずれの親も別離後も継続して子育てに関与すること」の原則が強調され、新たな規定として盛り込まれた(同法s11)。
- 父母は子が成人(18 歳)になるまで「親の責務」をそれぞれ有し、かつ行使する義務を負うので、いわゆる親権者を決める必要はない。父母が別離あるいは離婚する場合でも、子の監護養育は父母が共同して責任を負う。
- 父母は離婚(及び法的別離/別居)において共同で「親の責務」を行使できない場合に離婚後の子の処遇に関する取決めをし、所定の陳述書を裁判所に提出しなくてはならない。取決めは、基本的に子の両親が双方の話し合いで自律的に取決めを行うことが求められている。
- 陳述書には、子が生活する住居の状況、受ける教育の内容(教育費の負担などを含む)、日常的な子の監護養育の状況、子の養育費の詳細(裁判所の決定の存否などを含む)、子と非同居親との交流の内容、子の健康状態などについて父母の合意結果を記載する。
- 子ども法及び子どもの養育に関する政策の理念は、子どもが両親によって養育されることを第一としていることから、両親が別居する場合にも裁判所の共同居所決定によって、子どもがそれぞれの親と「同居」することを制度的に可能にしている(子ども法s11(4))。
共同監護~「共同の親業行使」
- 離別後も子の親に変わりはなく、子ども法で実親による子育て関与・責任が強調されていることから、離別後の両親も共同して子に対する監護養育を行う=「共同の親業行使」は基本的な前提とされる。
- 2014年子ども及び家族法の11条で、子育てには常に両方の親が関与することが子どもの福祉にかなうことがさらに強調され「共同の親業行使」の前提が盛り込まれた。それにより、子ども法の1 条に2A 項、2B 項が新設され、当該親による「子とのかかわりがその子にとってさらなる福祉に繋がることをも考慮して裁判所は判断することなどの規定が設けられた。
- 1991年子ども扶養法は、いずれの親もその子の扶養責任義務を負うという子ども法の前提から、子どもの別居親(多くの場合は父親)に必要な養育費を定期的かつ確実に支払わせる目的で制定された。
- 国内で子を奪取された側の親が子を連れ戻すことを求める場合は(将来の奪取の阻止も含めた)禁止措置決定ではなく居所決定を申し立てる。
2015-11-08 (日) 21:34:37
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