寄稿SeasonⅠ⑥
寄稿Season Ⅰ ⑥ 一粒の麦
Aikoさん(千葉県の訪問介護士、70歳)
聞き手・Masaくん(気弱なジャーナリスト)
Masaくん 貴重な頭脳の喪失。この一点の重みを知っただけでも、ジャーナリストとして親権問題に関わることができて幸せだったと思います。
Aikoさん 自死した息子は千葉県内の高校から国立大学の理工系へと進み、地震学・火山学の研究に打ち込んでいました。
博士論文のテーマは「溶岩ドーム噴火における非定常1次元火道モデルの解析」という難しい内容でした。我が国は火山列島で最近も噴火が相次いでおり、阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)に続き、南海トラフにおける東海・東南海・南海の連動型巨大地震も危惧されています。
生きてさえいたら、どれだけ自然災害のリスク回避に貢献できたかと思うと無念でなりません。日本の将来を担う子供たちのメンタル面だけでなく、親子断絶は国益に関わる問題なのです。
Masaくん 自宅マンションからほど近い丘の霊園にある墓碑には、十字架、ユリの花とともに聖書の一節が刻まれていますね。
Aikoさん「一粒の麦は地に落ちて死ななければ一粒のままである。だが死ねば多くの実を結ぶ」…。ヨハネ伝にあるキリストの言葉です。息子は一人のサクリファイス(犠牲)。全国の数え切れない当事者たちを悲劇から救う一粒の麦にしなければと思い、当事者団体の活動に加わりました。
Masaくん 団体では祖父母の会の代表も務めましたね。
Aikoさん 祖父母の役割も大切です。両親が気まずくなったとき、おじいちゃん、おばあちゃんの存在は一時的な避難所、安心して相談できる場として力を発揮します。フランスを例に挙げれば、祖父母と孫が交流する「訪問権」は法によって手厚く守られています。
家庭内暴力(DV)の問題がずいぶんと取り上げられますが、DVがあると分かったなら、これでは子供に会わせられないと裁判の場で決定を下せばいい。
離れて暮らす親が負担する養育費についても、面会交流の機会を増やせば、責任感が増すことで支払い能力が増すと統計にはっきりと表れています。
負の連鎖はもう絶ち切らねばなりません。
更新 2021-11-08 (月) 08:14:05
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