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子を連れて別居、代理人の弁護士にも賠償命令 「違法な助言」
出典:令和4年3月30日 朝日新聞
親権を持つ男性から2人の子どもを連れて別居したのは違法だとして、男性の元妻と、元妻に連れ出しを助言した代理人弁護士2人に110万円の損害賠償を命じる判決が東京地裁で25日にあった。市川多美子裁判長は「子どもを守るために必要だった」とする元妻側の主張を退けた。
判決によると、原告である名古屋市の男性は2015年、長男(17)と次男(11)の親権者は男性と決めて元妻と協議離婚をした。男性と元妻はその後、子どもとともに再び名古屋市内で同居したが、元妻は16年に子どもを連れて別居した。弁護士は元妻に対し、連れ出すことに肯定的な助言をした。
■元妻側、精神的虐待があったと主張
これに対し男性は、精神的苦痛を負ったとして元妻や弁護士らに1100万円の損害賠償を求めて訴訟を起こした。
元妻側は裁判で、子どもを連れ出した理由について、男性による自分自身への精神的な虐待があったことに加えて、子どもにも虐待が及ぶ可能性があったと説明。離婚後も復縁を予定した内縁状態だったと主張し、「離婚前の共同親権の状態と同じで不法行為にあたらない」と訴えた。
しかし判決は、男性を親権者と定めた離婚を「有効」と判断し、元妻が子どもを連れ出した時点の子どもの親権は男性にあったと認めた。そのうえで、親権のない元妻の行動について「子どもと不法に引き離されることがないという親権者の利益を侵害した。男性のもとに子どもを残すことが子どもの幸福に反するとは認められない」と結論付けた。
■「弁護士がアドバイスしづらくなる」
さらに判決は、元妻の代理人弁護士2人が子どもの連れ出しを肯定したのは人身保護に関する過去の判決にそぐわず、「独自の見解に基づく違法な実力行使を(元妻に)助言した」として賠償責任を認定した。子どもの親権をめぐって代理人弁護士の賠償責任を認めたのは異例だ。
判決で賠償を命じられた弁護士は取材に、「子どもが虐待の被害を受ける可能性がある場合、親権の有無にかかわらず子どもを連れて逃げたほうがいいというアドバイスを弁護士がしづらくなる。弁護活動の萎縮につながらないかが心配だ」と語った。(村上友里)
子どもの連れ去り、警察庁が都道府県警に「適切な対応に遺漏なきを期する」通達
出典:令和4年3月11日 SAKISIRU
子どもの連れ去り、警察庁が都道府県警に「適切な対応に遺漏なきを期する」通達 [#feec962e]
自民・柴山元文科相がツイッターで公表
夫婦間のトラブルにより、片方の親の同意なく子どもを連れ去って別居する行為が横行している問題で、警察庁刑事局が都道府県警本部に対し、「近年の国会でも取り上げられており、重大な被害に発展するおそれもある」として、連れ去られた側のパートナーから被害を届け出られた場合などに「適切な対応に遺漏なきを期する必要がある」と通達していたことが明らかになった。
通達は2月21日付。自民党の柴山昌彦元文科相が10日、ツイッターで通達内容を公表した。
警察庁から各都道府県警本部刑事部局に宛てた2月21日事務連絡の文書を入手しました。私がツィートしたとおり
①連れ去り
②連れ戻し
それぞれの訴えがあることを明示し、「この種事案については…被害の届出等への適切な対応に遺漏なきを期する必要がある」として参考に2つの判決理論を添付してます。
※Tweetについては、原文を参照ください。https://sakisiru.jp/22855
柴山氏は2月3日、会長を務める超党派の共同養育支援議員連盟の総会で、警察庁側から、一方の親による連れ去り行為が「正当な理由のない限り未成年者略取罪に当たる」と明言し、現場に徹底するとの意向を報告されていたことを明らかにしていた。この時は警察庁が従来より踏み込んだ姿勢を見せたことが注目されたが、共同親権導入の反対派や一部野党議員が警察庁の見解が本当だったのか疑義を示していた。
しかし、同連盟の3月8日の総会で、警察庁が各都道府県に対し、改めて連れ去り行為が犯罪の可能性があるとみて対応する姿勢を示し、都道府県警に通達したことを報告。この日公表された文書は一連の警察庁の変化の裏付けとなる。
「柴山発言」があって以降もネットでは、連れ去り被害の親などからは「警察に相談に行っても動いてくれない」などの訴えがしばしば見受けられたが、柴山氏は8日のツイートで「私から現場に徹底されていないのでないかと指摘したところ、被害受付担当に周知されるようにすること、また不十分な対応をされたことを含め、各都道府県警本部に相談電話窓口を添付のとおり設置する旨の答弁をいただいた」と報告。警察庁は同通達で、最高裁が過去の連れ去り事案で同罪で有罪判決を下した判例も参考に添えており、今後は捜査現場が周知した通りに動けるか問われることになる。
(承前)私から現場に徹底されていないのでないかと指摘したところ、被害受付担当に周知されるようにすること、また不十分な対応をされたことを含め、各都道府県警本部に相談電話窓口を添付のとおり設置する旨の答弁をいただいた。(続く)
※Tweetについては、原文を参照ください。https://sakisiru.jp/22855
子どもを連れ去った親は「未成年者略取誘拐罪」になる? 警察発表が広げた波紋
出典:令和4年3月9日 AERA
子どもを連れ去った親は「未成年者略取誘拐罪」になる? 警察発表が広げた波紋
筆者:上条まゆみ
「離婚話でもめていたある日、夫は5歳の子どもを自分の実家に無理やり連れて行ってしまいました。私が元夫の実家に行っても、ドアを開けてくれません。数カ月たった今も子どもに会えず、つらい思いをしています」
涙ながらに語るのは、神奈川県在住の長原映美さん(仮名・38歳)。
夫の母親からの過干渉が原因で、夫婦仲が悪くなった。夫婦げんかになったある日、人格を否定されるような発言をされ、映美さんは思わず泣いてしまったという。そうすると、夫にいきなり警察を呼ばれた。夫は「妻は精神疾患で、今、暴れて子どもを殺そうとした」と、大うそをついた。
「それを信じた警察は、その場にいた夫の母親が私を羽交い締めにしている間に夫が車に子どもを乗せて出て行ってしまうのを、そのまま見ていました。私がどんなに『止めてください!』と言っても聞いてくれず、『数日して、あなたの気持ちが落ち着いたら帰ってくると言っているんだから、それを待ちましょう』と。私が『もし、夫と子どもが帰ってこなかったら、責任取ってくれますね?』と念を押したら、『大丈夫です』と言ったので、私はそれを信じたんです。でも、結局、夫も子どもも帰ってこなかった……」
数日後、映美さんは警察を訪ねた。「帰ってこなかったら、責任を取ってくれる」と言ったからには、警察が夫を説得して、家に帰してくれると思ったからだ。
映美さんが「夫も子どもも帰ってこない」と言うと、警察は驚いたようだった。そして、「あなたの夫の言葉を信じてしまったことは申し訳ない」としながらも、こう言った。
「民事不介入の原則があるので、残念ですが、あなたを助けることはできません」
親子が同居している状態から、一方の親がもう1人の親の同意を得ずに子どもを連れて家を出ていく行為は後を絶たない。子どもや配偶者へのDVから逃れる緊急避難的な措置ではなく、映美さんのような夫婦げんかの延長で、そうした行為に及ぶ「子どもの連れ去り」は、ずっと問題視されてきた。連れ去られた親にしてみれば、子どもを誘拐されたような状態だが、警察は家庭内で起こった「民事」だとして積極的に動くことはない。
一方、連れ去りの結果、別居している状態から子どもを「連れ戻す」行為は、刑法224条で規定される「未成年者略取誘拐罪」に当たるとされ、連れ戻そうとした親が警察に逮捕されることが多い。
連れ去られた親は警察に訴えても何もしてくれないのに、子どもを連れ戻そうとすると逮捕される――こうした不条理な状況が常態化していたのだ。
だが、ここにきてその状況が変わりつつある。
2月4日、衆議院議員で、共同養育支援議員連盟の会長を務める柴山昌彦氏は、自身のツイッターでこう発信した。
<2月3日の共同養育支援議員連盟総会で政府と協議。片親による子の連れ去りについて警察庁はこれまで「法に基づき処理」一辺倒だったが、昨日ようやく、同居からの連れ去りか別居からの連れ戻しかを問わず、正当な理由がない限り未成年者略取誘拐罪にあたると明言。これを現場に徹底するとした>
このツイートの重大なポイントは、警察庁が「同居からの連れ去りか別居からの連れ戻しかを問わず」「未成年者略取誘拐罪にあたると明言」したところにある。
前述のように、これまで警察は、子どもの連れ去りについては「民事不介入」として、被害者の訴えを退けてきた。それが、柴山氏のツイートによれば、警察は今後、連れ去りであっても未成年者略取誘拐罪として扱う、というのだ。
柴山氏のツイートに対しては、SNS上でもさまざまな意見が飛び交った。
映美さんのように、配偶者に子どもを連れ去られた立場の人たちからは「連れ去りに対する大きな抑止力になる」と期待の声が上がった。
逆に「これが現実になると、DVをされて子どもを連れて逃げた母親が罪に問われてしまう」という否定的な意見も少なくない。
これに対し、柴山氏は次のように話す。
「DVについては『正当な理由』に当たりますので、DVをされて逃げた人が罪に問われることはありません。問題は、正当な理由がなく子どもを連れ去った人でも、それが罪に問われないばかりか、『監護の継続性』の原則によって連れ去りが正当化され、親権を獲得できてしまうということです」
たとえば、映美さんのケースでも、子どもを連れ去られたままの状態で離婚になれば、子どもの親権はかなりの確率で連れ去った父親に渡るだろう。両親が親権を争う場合、家庭裁判所はその時点で子どもが居住している環境に特段問題がないと判断すれば、同居親に親権を認めることが多いからだ。これが「監護の継続性」と呼ばれ、親権を取るには子どもを連れ去ってでも同居すべきだと指南する弁護士もいたほどだ。
これまでは、子どもを連れて家を出ていくのは圧倒的に母親が多く、世間の声もそれを前提としている。夫の暴力から命からがら逃げる母子は、たしかに法律で守られなければならない。しかし、目に入りやすい景色だけを見ていては、そこからこぼれ落ちた人の被害を見過ごすことになる。映美さんのように、母親であっても夫に子どもを連れ去られるケースも決して少なくないのだ。
「少なくとも、子連れ別居をしたら1カ月以内に調停の申し立てを義務づけ、保全処分などで急場の対応をしながら面会交流を進めるなど、親子が引き離されている状態を継続させないようにすべきです」(柴山氏)
柴山氏が言うように、警察はこれから運用を改めるのだろうか。警察庁刑事局に「子どもの連れ去り」「連れ戻し」に対する見解と現場への周知について質問状を出すと、文書でこう回答した。
「子の連れ去り、連れ戻しについて、刑罰法令に触れるものがあれば、法と証拠に基づき適切に対処していきます」
「警察活動に資する情報等の都道府県警察への周知については、必要に応じ適宜適切に行っています」
映美さんは淡い期待を込めてこう話す。
「もしかして、今、改めて訴えれば、警察は守ってくれるのでしょうか」
子どもの連れ去りについて、警察は本腰を入れるのか。今後も注目したい。(上條まゆみ)
離婚が子どもに与える影響「親と子どもで違う喪失感」
出典:令和4年2月15日 CHANTO WEB
3組に1組が離婚する時代。親の離婚を経験する子どもも少なくありません。親の離婚が子どもの心理に及ぼす影響について、臨床心理学者・野口康彦さんにお話を伺いました。
離婚よりも両親の不和がダメージは大きい
── 離婚したいと思っても、子どもへの影響を気にして踏みとどまる人は多いように思います。実際、親の離婚は子どもにどのような影響があるのでしょうか。
野口さん:
子どもにとって、両親の離婚はけっして不幸なできごとではありません。
インタビュー調査のなかで、ある青年が、「親が離婚して、うちは不和家庭じゃなくなった」と話してくれたことがあります。
子どもにとって、両親の紛争や葛藤といった不和状態は、大きなストレスになります。とくに思春期に両親の不和を目の当たりにすると、結婚に対するポジティブなイメージを持てなくなってしまうこともある。
親の離婚によって不和家庭から解放され、子どものストレスが軽減されるケースも多いんです。
離婚直後の子どものメンタル
── 離婚後に子どもと同居する親が、心がけるべきことはありますか。
野口さん:
離婚における親の体験と子の体験は違うということを忘れないでほしいです。たとえば、母親にとって元夫は離婚によって断ち切りたい相手かもしれませんが、子どもにとって父親は、離れていても愛着のある存在であり続ける場合があります。父親だけでなく、父方の祖父母との別れや、転居や転校による友達との別れも、子どもにとっては大きな喪失体験になります。
大人は新しい出会いを求めたり、ときにはうさばらしをすることもできますが、子どもはその喪失感を抱え込んでしまうことが多い。
また、住む家が狭くなったり、母親が仕事を始めたりと、環境も大きく変わりますから、離婚後に同居する親子は、関係の再構築をすることになります。
年齢にもよりますが、しっかりした子ほど、親の苦労を引き受けてしまう傾向がありますね。
ひとり親の子育てで大事なこと
── 離婚後子どもと暮らすのは、多くの場合、母親というのが実情です。母親は、子どもの父親と交流を持ち続けたほうがいいのでしょうか。
野口さん:
基本的には交流を持ったほうがいいと思います。
面会交流は養育費とセットになっているケースが多いこともあり、別れた父親と面会交流ができるような関係であるほうが、子どもにとっては望ましいといえますね。
DVなどが原因で離婚した元夫とどうしたら会わずに済むかと悩んでいる人も多いので、そうした場合はもちろん例外です。
── 離婚後も、子育ての面ではパートナーとして協力している人が増えている印象があります。
野口さん:
離婚する前から積極的に子育てに関わってきた父親が増えたことも理由のひとつでしょう。家庭裁判所の発表によれば、父親からの面会交流親権を求める相談は、2005年から2019年の十数年で3倍になっています。
とくに子どもの年齢が低いほど、その傾向が強いようです。
ただ、日本の民法は単独親権を定めているので、共同養育の責務はありません。
── ひとり親への支援制度も増えてきていますね。
野口さん:
ひとり親の子育てで、何よりたいせつなのは親がラクになることなんです。ツラいのに「だいじょうぶだよ」と言っても、子どもには伝わってしまいますから。
親自身が、経済的にも精神的にも支援してもらえて、楽しく過ごしていれば、子どもは安心して過ごせます。だからこそ、親へのサポートシステムは必要不可欠だと考えています。
たとえば兵庫県明石市では、離婚届を提出した人には、離婚後の生活相談に乗るシステムがあるそうですが、興味深い試みですね。このあたりはやはり行政が主導しないとなかなか変わらないのではないでしょうか。
PROFILE 野口康彦さん
茨城大学 人文社会学部 人間文化学科教授。スクールカウンセラーとしての実績を生かして、親の離婚・再婚を経験した子どもの心理を研究している。著書に『家族の心理 新しい家族のかたち』(共著、金剛出版)ほか。
米前駐日大使、日本の人質司法を批判 「ケリー被告を守る必要」
出典:令和3年10月21日 毎日新聞
米前駐日大使、日本の人質司法を批判 「ケリー被告を守る必要」
米国のハガティ上院議員(前駐日大使)が20日の上院外交委員会の公聴会で、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)に問われている日産自動車元代表取締役のグレッグ・ケリー被告について「弁護人は無罪を確信している。不当な扱いを受けるケリー氏を守る必要がある。懸念は日本の閣僚レベルにも伝えてきた」と訴える一幕があった。
ハガティ氏は、次期駐日大使に指名されたエマニュエル前シカゴ市長の公聴会で、刑事事件の容疑者や被告が長期間拘束されやすい日本の司法制度が「人質司法とも呼ばれ、時代遅れだ」と批判。日産前会長のカルロス・ゴーン被告が主導したとされる役員報酬の虚偽記載についても「仏ルノーとの統合への反対派によるクーデターだった」とのゴーン前会長側の主張を紹介し、「米国は日本への最大の投資国だ。米国の経営者たちが日本でのビジネスを再考し出すことを懸念している」と述べた。
ケリー元代表取締役の事件への対応を求められたエマニュエル氏は「既に調べ始めている。大使として承認されれば、最優先事項にする」と述べた。ハガティ氏は南部テネシー州選出で、ケリー元代表取締役もテネシーに居住していたという。
公聴会ではメネンデス外交委員長が、国境を越えた子の連れ去り防止を定めた「ハーグ条約」に関しても、日本の取り組みが不十分だと不満を表明した。エマニュエル氏は「条約は履行されるべきだ」と述べた。【ワシントン秋山信一】
共同親権「中部の会」100回目定例会を開催 名古屋
中日新聞名古屋本社から第100回定例会の取材を受け、10月13日(水)朝刊に掲載されました。
第100回定例会取材記事pdf
記事に関する意見、お子さまと交流出来ない現状、家族法制度の問題点など中日新聞までお寄せください。
メール送信先>
中日新聞社名古屋本社編集局 読者センター 宛
center@chunichi.co.jp
子を巡る裁判 親権・監護者 母親が9割 状況応じた判断課題
出典:令和3年10月13日 読売新聞
夫婦が争った子を巡る裁判で、親権者・監護者を母親とする司法判断が大半を占めている。福岡市では育児に問題のなかった父親に対し、別居中の母親に子を引き渡すよう命じたケースもある。専門家は「裁判所には母親優先の考えが根強い」と指摘。社会状況の変化も踏まえ、法制審議会(法相の諮問機関)では親権のあり方などについて議論が進んでいる。
司法統計によると、離婚時の家裁での調停や審判で2020年度、「親権者」を母親とした割合は93・8%。このうち、身の回りの世話や教育を行う「監護者」も母親としたのは99・8%にのぼる。00年度もそれぞれ89・9%、99・9%と、20年間にわたりほぼ同じ状況だ。
かつては父親が外で働き、家事・育児を担う母親が子と長い時間を過ごすケースが多かったため、裁判所は離婚後も現状を変えないことが子の福祉にかなうと考え、母親寄りの判断を下してきた。ある元裁判官は「裁判所には『子は母に』の考え方が浸透していた」、別の元裁判官も「本来はケースに応じて判断するべきだが、そうではなかった恐れはある」と言う。
厚生労働省によると育児に参加する父親は増えているとみられ、20年度の育児休業取得率は12・65%と過去最高になった。こうした中、法制審は今年3月から、離婚後の子の適切な養育を目的に、離婚制度の見直しなどを議論。法務省によるときっかけの一つは「親権者や監護者が母親に偏重している」との批判で、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」の導入などが検討課題となっている。
立命館大の二宮周平教授(家族法)は「男性の育児参加が一般的である現在、父親が養育に関わっている場合は、親権の有無や親の性別にとらわれず、家庭環境や子の希望などに配慮したうえで、子の福祉にかなった判断をすべきだ」と指摘する。
◇問題ない父でも引き渡し命令
福岡市のケースでは、父親(38)が今年3月、一緒に暮らす娘(7)を母親に引き渡すよう命じられた。
娘を巡っては父親は監護者指定を、母親は引き渡しを求めて昨年11月、福岡家裁に裁判を起こした。
家裁の認定では、夫婦は事実婚だった2014年に娘が生まれ、親権は母親が持った。父親は不仲から16年に家を出た。娘は父親宅に泊まる日数が増え、19年8月から父娘で暮らした。娘が通った保育園職員は「父親は育児熱心だった」と話す。
一方、母親は前夫との間に生まれた長男、長女と暮らし、娘との関係に問題はなかった。昨年8月の長男の事故死後に体調を崩し、無職に。生活保護を受給し、心療内科に通院している。
家裁は「父親の監護状況に問題はない」と認定したうえで「母親は日常生活におおむね問題はなく、娘を引き渡しても子の福祉に反しない」と判断した。福岡高裁も今年7月、同様の判断で父親の即時抗告を棄却。現在は最高裁で争われている。
夫が子供を「連れ去り」 面会交流でしか我が子に会えない母親の「月1回4時間の子育て」
出典:令和3年10月8日 デイリー新潮
夫が子供を「連れ去り」 面会交流でしか我が子に会えない母親の「月1回4時間の子育て」
ある日突然、妻や夫が子供を連れて家を出て行ってしまう「実子連れ去り」。一方の親だけが家から締め出される「追い出し」も多発している。引き裂かれた親子は、どのように親子関係を維持していくべきなのか。日常的に子供に接する機会を奪われ、月1回4時間しか会うことしか許されなくなった母親の話を聞いた。(ライター・上條まゆみ)
***
思わず熱く語ってしまう
「お母さん、人気ユーチューバーのエッセイが欲しいんだけど」
「じゃあ、本屋さんに行こうか」
ある土曜日の昼下がり、佐藤佳寿子さん(仮名・46歳)は、長男(14歳)と次男(11歳)を車に乗せて、郊外の大型書店に向かった。聞いたことがないユーチューバーの本を探して、店内をウロウロと歩き回る長男。漫画本のコーナーに張り付く、まだ幼い次男。
「本、なかった、もういいや」
「え、ちゃんと探したの?」
あっさりと諦めてしまう長男が不甲斐なくて、佳寿子さんは店内の検索機に連れていった。彼が欲しかった本は簡単に見つかった。
「何でもすぐに諦めたらいけないよ。欲しいって言ったら、空から降ってくるわけじゃないんだよ。欲しいものは、自分の手で掴み取らないと!」
思わず熱く語ってしまう自分がいた。
義母との同居から始まった夫婦関係の破綻
一見すると、ごく普通の親子にありがちな日常の一コマだ。だが、佳寿子さんと子供たちにとって特別な時間である。今日は月に1回だけ許された面会交流日。彼女は月にたった4時間しか、我が子に向き合うことができないのだ。
夫婦関係の破綻は、義母との同居がきっかけだった。義母の意向を優先して家のことを何でも決めてしまう夫。しまいには、佳寿子さん抜きで大事なことが二人で決められてしまうようになってしまった。改善を求めても一向に直そうとしない夫に勘忍袋が切れた佳寿子さんは、8年前に家の近くにアパートを借り、子供を連れて家を出た。あくまで一時的な措置だった。佳寿子さんは離婚することになっても、夫と子供を引き裂く気などなかった。
だが、2日後、夫は強引に子供たちを連れ戻してしまう。そして、それからはいくら頼んでも、子供に会わせてくれなくなったのだ。最終的には家庭裁判所に訴え出たが、5年後、家裁が認めたのは、月1回、たった4時間の面会交流のみ。理不尽な状況に納得できていないが、現時点で佳寿子さんになす術はない。
親としてどうしても伝えたいこと
「わずかな時間の中で、母親として何を伝えられるかをいつも考えています」
子供たちと会う日は、ファミリーレストランで食事をしながら話をしたり、一緒に買い物をしたりと、ありきたりな時間を過ごす。だが、その中で、佳寿子さんは意識して、生きていく上で大切だと思うことを真剣に語りかける時間を設けている。書店での一コマは、自分の力で人生を切り開いていってほしいという佳寿子さんの思いが溢れ出たシーンだった。
長男が14歳になったときはこう諭した。「これからは悪いことをしたら刑事責任能力があると見なされ、処罰されるのよ。そういう年齢になったのよ。だから、自分の行動に責任をもつように」。
コロナ禍で、長男の部活動の大会が軒並み中止となり、先輩が部活を辞めてしまったという話を聞いたときは、「たぶん来年も同じような状況だろうね。そのとき君はどんな選択をする? 自分がどんな気持ちで、どんな目的で部活を始めたのかよく考えてごらん」と、継続することの大切さを伝えた。
「学校に好きな子いるの? という話から、LGBTについて話し合ったこともあります。君が誰を好きになっても堂々とママのところに連れてきなさい、と言いました」
次第に制限された子育てならではのメリットも感じられるようになってきた。一緒に暮らしていたら、互いに照れ臭かったり、反抗期で反発されたりして話しにくいようなことも、特別な時間だからこそ話しやすくなる。子供たちも素直に聞いてくれている。
子供に誇れる生き方をしたい
母親として子供に誇れる生き方がしたいとも思い始めた。
「調停や裁判の情報を集めるためにネットで検索するうち、こんな理不尽な経験をしているのは私だけじゃないんだと知りました。そして、一方の親に子供を連れ去られたり、自分が家から追い出されたりして子供に会えなくなる背景には、法律やその運用の問題があることにも気づいた。そして、それは親が子供に会えなくて悲しいという以前に、子供の権利を損ねていることにも思い至りました」
子供は、双方の親に愛されて育つ権利がある。それを一方の親が勝手に奪ってはいけないし、司法はそんな親の勝手を止めるべきだ。佳寿子さんは、まずはこの問題を広く世間に知ってもらうことから始めたいと考え、同じような境遇の仲間と一緒に市議会に陳情したりする啓蒙活動を始めた。
「少しでも社会を変えることができるなら。子供にも『ママ、頑張っているよ』と胸を張って会うことができると思って」
母親とは何なのか
それでも、離れている時間の方が長いため、気持ちが落ちることもある。
「今はまだ子供たちも、月1回の面会交流を楽しみにしてくれている。でも、高校生、大学生になったらどうなるのだろう。私なんか死んでしまっても、子供は別になんとも思わないんだろうな、なんて悲観的な考えに襲われてしまうこともありました」
体調を崩したことがあり、それを面会のときにポロッと言ったら、長男がボソッと「ママ、死なないでね」とこぼした。佳寿子さんはハッとした。
「そんな言葉が返ってくるとは思わなかったんです。子供の気持ちが信じきれなくて、すぐに疑心暗鬼になってしまう自分を反省しました」
衣食住の世話という日常のふれあいなくして、母親として自信を持ち続けていくのはなかなか難しい。揺れ動く気持ちを必死で抑え込み、「大丈夫、子供を信じるんだよ」と自分に言い聞かせる日々。
「子供にとって母親って何なのかな。どう生きていけば、子供の母親であり続けられるのかな」
これからも、この問いから逃げ出さずに向き合っていくつもりだ。
上條まゆみ(かみじょう・まゆみ)
ライター。東京都生まれ。大学卒業後、会社員を経てライターとして活動。教育・保育・女性のライフスタイル等、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。近年は、結婚・離婚・再婚・子育て等、家族の問題にフォーカス。現代ビジネスで『子どものいる離婚』、サイゾーウーマンで『2回目だからこそのしあわせ~わたしたちの再婚物語』を連載中。
デイリー新潮取材班編集
子の連れ去りで新法案準備 日本に厳しい措置も 米下院
出典:令和3年9月30日 時事通信社
【ワシントン時事】国際結婚破綻時の子供連れ去りに関する公聴会が29日、米下院外交委人権小委員会で開かれた。
長年この問題に取り組むスミス共同委員長(共和党)は「日本は共同親権の概念を認識していない」と述べ、子供を取り戻すため日本に対し国務省が厳しい措置を取りやすくする新たな法案を準備していると明らかにした。
公聴会に出席した米国人の父親は、連邦政府が適切な措置を取らない国に制裁を科す法律があるにもかかわらず、国務省は依然として制裁に踏み切らないと批判。日本政府についても「恥知らずな共謀者だ」と糾弾した。
親子の面会交流制限は「立法不作為」、国賠提訴
出典:令和3年9月28日 産経新聞
離婚や別居を機に面会交流を制限された親子8人が28日、交流の権利が十分に保障されていないのは国の立法不作為で違法などとして、150万円の国家賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。原告側によると、埼玉や栃木、千葉県などでも同種訴訟が提訴されるという。
日本が平成6年に批准した「子どもの権利条約」では、虐待などのケースを除き「児童が父母の意思に反して父母から分離されないことを確保する」と規定されている。
訴状によると、単独親権制度を採用する日本では、夫婦の別居後に子供と一緒に暮らす親が親権者とされるケースが多く、一方の親が無断で子供を連れ去る「連れ去り行為」が頻発。別居親の監護権や子供と交流する権利が侵害されている現状は同条約や憲法に違反している、と主張する。
提訴後に東京都内で会見した原告の女性(40)は「月に3時間ほどしか子供と会えず、母親として生きる権利を失った。私のような親が増えてほしくない」。原告の一人で、7月に都内でハンガーストライキを行ったフランス国籍のヴィンセント・フィショさん(39)は「今は子供がどこにいるのか、何もわからない。子供が一番かわいそうだ」と訴えた。
共同親権に向けて:国賠の原告とハンストのフランス人男性ら院内集会
出典:令和3年9月14日 SAKISIRU
共同親権に向けて:国賠の原告とハンストのフランス人男性ら院内集会
「明らかに日本社会のシステム、社会の問題」
牧野 佐千子 ジャーナリスト
離婚後の単独親権によって自分の子どもに会えない別居親らが構成する市民団体「共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会」は14日、東京・永田町の衆議院議員会館で院内集会を開き、関連する国賠訴訟の進捗報告等を行った。問題を訴えるために7月に東京都の千駄ヶ谷駅前でハンガーストライキを行ったフランス人男性、ヴァンサン・フィショさんもパネリストとして参加(ハンストについてはこちら)。ハンストの報告やEUで採択された非難決議の現状報告などを行った。
集会でははじめに、「『パパかママか』の単独親権制度は時代にあっていない」として共同親権を求め、国を相手どって係争中の国賠訴訟の進捗状況を報告。弁護団の一人、古賀礼子弁護士は、これまでは被告の国からの具体的な回答がなかったが、今回、親権については「両性の本質的平等」のもと、子どものことを「慎重熟慮のうえに判断する」との文言を使った回答があり、「裁判所も真剣に審議してくれているなと手ごたえを感じている」と語った。
単独親権の問題について取り組む嘉田由紀子参議院議員も集会に参加。「戦後憲法が改正された時に、両性の本質的平等の観点から半年間ほど共同親権を正規の方針にしていた時期があった。現在詳細を調べているところで、進捗をまた報告したい」と話し、離婚の際に子どもを連れ去る行為が、刑法224条の未成年者誘拐略取の対象になるとの答弁が、上川陽子法務大臣からあったことについても報告。その保護法益は「子どもの自由と片方の親の監護権」であると、国会での進捗状況を語った。
また、串田誠一・衆議院議員は「通常国会で諮問になったが、まだまだ共同親権は具体化はされていない。国会議員の一人として本当に申し訳ないと思っている。子どもに会えない祖母の方からも相談受け、この問題は当事者にかかわらず、おじいしゃん、おばあちゃん、いとこまで、一方の親に関わる人間関係がすべて断絶されるとんでもない問題。そのような断絶のない国にしましょう」と訴えた。
ハンストの現場に多くの母親が
続いて、ハンストを行ったヴィンセント・フィショさんが、「この問題について闘う親は、自分たちのためではなく子どもたちのために戦っている」と今回の行動の趣旨について説明。「ハンストの間、たくさんのことを学んだ。多くの(単独親権制によって子どもと会えなくなった当事者の)母親がハンストの現場である千駄ヶ谷駅に来てくれた。あれほどたくさんのお母さんたちも、連れ去りに遭っているとは知らなかった。国内でも被害に遭っている人の数は驚くべきものだ。それなのに最高裁も議会も政府も、『個人的な問題』と言っている。これは明らかに日本社会のシステム、社会の問題だ」と訴えた。
日本の家族法制度の改革について日本政府に長年働きかけてきたフランスの国会議員で、在外フランス人議会議員のティエリ・コンシニさんは、この1年間のEUでの動きを説明。EU議会からの決議案について、ほぼ全議員の賛成票があったことや、フランスのマクロン大統領が東京オリンピック開幕に合わせて来日した際に菅首相と会談し、子どもの権利について話し合いを続けていくとの共同声明を出したことについて報告した。
コンシニ氏は、今後、欧州と日本のフェミニストを招いて子どもの権利のための制度について議論することも検討しているとし、「これからも話し合いの場を作って、一日も早く日本で共同親権が実現するよう戦っていきます」と決意を述べた。
子の連れ去りトラブル相次ぐ 妻がDV口実に支援制度“利用” 対応巡り行政提訴の事態も 背景に「単独親権」
出典:令和3年9月8日 上毛新聞社
子の連れ去りトラブル相次ぐ 妻がDV口実に支援制度“利用” 対応巡り行政提訴の事態も 背景に「単独親権」
夫婦間の不和などを背景に、配偶者のどちらかが一方的に子どもを連れて別居する「子の連れ去り」を巡るトラブルが、全国で相次いでいる。引き離された側が親権を得るハードルは高いとされ、「連れ去り勝ち」との指摘も上がる。ドメスティックバイオレンス(DV)の支援制度が、本来の趣旨から外れて連れ去りの口実に利用されているとして、当事者が群馬県内の自治体を提訴する事態も起きている。(真下達也)
埼玉県の40代男性は、小学生の子ども3人と2年余り会えていない。2019年8月、妻が子どもを連れて自宅を出て行った。当初は実家のある前橋市で数日過ごすだけだと思っていたが、音信不通が続き、実家を訪ねても「知らない」と門前払いされた。警察には捜索願を受け付けてもらえず、「何が起きているのか分からなかった」。
埼玉県の40代男性は、小学生の子ども3人と2年余り会えていない。2019年8月、妻が子どもを連れて自宅を出て行った。当初は実家のある前橋市で数日過ごすだけだと思っていたが、音信不通が続き、実家を訪ねても「知らない」と門前払いされた。警察には捜索願を受け付けてもらえず、「何が起きているのか分からなかった」。
経緯は徐々に明らかになった。男性によると、妻は実母の勧めで、「夫がDVや、子どもへの虐待をしている」と同市に相談。市はDV防止法に基づく措置として被害保護証明書を作成し、警察への相談を促したり、民間シェルターに一時保護したりしたという。
これに対し男性は、夫婦関係は悪化していたものの「妻の訴えは虚偽」と主張する。相談に適切に対応すべき注意義務に違反したなどとして、市に300万円の損害賠償を求め5月、前橋地裁へ提訴した。
男性は「市への相談をきっかけに、半ば自動的に子どもとも引き離されてしまった。最も被害を受けているのは子ども」と強調する。8月25日に開かれた第1回口頭弁論で、市側は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
子どもを巡る係争は増加し、2020年度に前橋家裁(支部を含む)が受理した子の引き渡しに関する審判の申し立ては、過去10年で最多の66件(速報値)に上った。男性のように「子の連れ去り」被害を訴える声は全国で相次ぎ、名乗り出る著名人もいる。
「子どものための共同養育支援法をつくる会」の猪熊篤史代表(渋川市)は、離婚すると一方の親だけが親権を持つ民法の「単独親権制度」が、トラブル増加の背景にあると指摘。離婚後も子どもに父母との交流を認める法整備を求める。「DV被害を主張することや、配偶者に子どもを会わせないことが、離婚を有利に進める戦術として成り立っている面がある」とし、行政は相談内容を慎重に確かめる必要があるとした。
一方、DVに関しては当事者同士の主張が食い違うケースがほとんどのため、相談を受けた行政はDV対応を優先せざるを得ないとの指摘もある。県内のあるDV被害者支援団体は「被害に遭ったかは、被害者の認識に基づいて判断されるのが大前提。今の運用を見直すべきではない」と主張する。
海外は「共同親権」主流
法務省が昨年4月に公表した親権に関する24カ国の調査によると、日本と同様に、離婚後は父母の一方を親権者と定める単独親権のみを認める国はインドとトルコだけで、欧米などは共同親権を導入していた。
子の連れ去りは国際問題になっている面もある。欧州連合(EU)の議会は国際結婚が破綻した場合などに、日本人の親が国内で子どもを一方的に連れ去ることを禁じるよう日本政府に求める決議案を採択している。
単独親権制度により親子関係が断絶したとして、群馬県在住の男性を含む6人が同年10月、東京地裁に国家賠償請求訴訟を提訴。共同親権制度を認めるよう民法改正を求めている。国の法制審議会は今年2月から、共同親権制度の是非を含め、離婚や関連制度の在り方を議論している。
離婚後の子育てについて考える。日米でこんなに違う親権制度
出典:令和3年9月7日 NewsCrunch
実子誘拐
親による「子どもの連れ去り」問題。日本とアメリカでの親権制度の違いを、メディアでの歯に衣着せぬコメントでお馴染み、弁護士でもあるケント・ギルバート氏が解説。
夫婦間でのいざこざが原因で、一方の親が無断で子どもを連れて行方をくらましたり、実家に帰って連絡を遮断する親による「子どもの連れ去り」問題。そもそも海外では犯罪となってしまう親による「子どもの連れ去り」が、日本で行われる背景には、日本とアメリカでの親権制度の違いが少なからず影響を与えているという。メディアでの歯に衣着せぬコメントでお馴染み、弁護士でもあるケント・ギルバート氏が解説する。
※本記事は、はすみとしこ:編著『実子誘拐 -「子どもの連れ去り問題」日本は世界から拉致大国と呼ばれている-』(ワニ・プラス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
海外から厳しい目を向けられている日本
国際結婚や国際離婚も増えた今日、子どもの連れ去り問題について、日本は世界中から厳しい目を向けられています。すでに海外メディアは、この問題を大きく取り上げています。
フランスのマクロン大統領までもが、この日本の親による「子どもの連れ去り問題」に不快感を表しました。にも関わらず、日本人の多くが問題の深刻さを理解していません。それどころか、その存在さえも知らない人がたくさんいます。不思議なことに、日本のメディアは、この問題を大きく取り上げません。国会でも、救済法の議論がずっと足踏みしています。
こうした状況に、子どもと会えない多くの親が不安と不満を募らせています。この問題が抜本的な解決に向かわない理由の1つに、DV(ドメスティック バイオレンス = 家庭内暴力)の問題があります。
つまり、一方の親による「子どもの連れ去り」を禁止すれば、DV被害者が子どもを連れて加害者から逃げることができなくなってしまうではないか、という反対意見があるのです。たしかにDVに苦しむ人も多くいます。そうした方々を強力に救済する必要はあります。
しかし、一方で「子どもの連れ去り」問題の多くのケースにおいて「虚偽DV申告」という事態が発生しているのもまた事実です。自らの子どもの連れ去りの正当化のため、DV被害者であると嘘の申告をするのです。こうした場合、連れ去られた親は、いわば虚偽DV被害者という立場に追いやられます。DV被害者の救済と同時に「虚偽DV被害者」もまた救済されるべきなのです。
どちらか一方に偏ることなく、どちらも救済しうるよう、国は勇気と知恵を絞って対策を講じるべきです。それこそが、最大の被害者となる子どもの救済に資する唯一の道です。
今日、子育ては男女が協力すべきとの認識が高まっています。3組に1組が離婚をする離婚大国となった日本。これほどまでに離婚が当たり前となった社会において、離婚後の子育ての「男女共同参画」は強い社会的要請です。
にも関わらず「子どもの連れ去り」という蛮行が、未だに横行している事実は看過できません。この事実は、私達が子どもを所有物のように扱ってきた証拠なのではないでしょうか。私たちは今一度、子どもの幸せについて深く考えてみる必要があると考えます。
日本は「単独親権」、米国は「共同親権」
私は米国カリフォルニア州の弁護士でもあり、日本に長年住んでいる米国人として、米国での離婚後の親権の問題に関して少し記しておこうと思います。 日本では、この連れ去り問題の当事者や団体の多くが「共同親権」にすれば、日本の子どもの連れ去り問題が解決すると考えているようです。
しかし、これは大きな誤解に基づいていると言わざるを得ません。 日本では離婚後の子どもの親権に関しては「単独親権」(父親か母親の一方が親権を持つ)なのですが、米国では「共同親権」といい、離婚後も両親が親権を持ちます。
この問題は複雑で、米国での例をそのまま日本に当てはめれば解決するのかと言えば、国の生い立ちや文化などの違いを考えたときに、解決策になり得るとは思えませんが、“参考にはなる”とは思っています。
子どもの連れ去り問題での犠牲者は誰なのか? ですが、まず一番の影響を受けるのが、 連れ去られた「子どもたち」です。今まで毎日、仲良く遊んでもらったり、さまざまな事を教えてもらったり、面倒を見てもらっていた片方の親から、もう一方の親のエゴによって強制的に引き離されるわけです。
そして、このことによって、子どもの精神状態は大変不安定になります。なかには、そのことだけで、精神疾患に陥った子どもたちも少なくありません。登校拒否をしたり、薬物に手を染めたりするのも、片親の子どもの場合が多いのは、各調査でも明らかになっています。
もう1人の被害者は、連れ去られた側の親です。 ある日突然、配偶者と子どもが消えてしまいます。その背後には「婦人相談所」などの機関が関わっているという話もあります。
その連れ去られた親も、仕事が手につかずに精神疾患に陥ったり、自殺したりと悲惨な状況にあります。何ヶ月も、何年もかけて子どもの居場所を見つけて、取り戻しに行って逮捕された親も多くいます。驚くことに、連れ去られた被害者には、裁判官や弁護士もいるということです。
共同親権は権利であると同時に義務でもある
米国では離婚後、どのような制度になっているのかを簡単に説明します。州によって若干の違いはありますが、ここでは、カリフォルニア州の場合に限定してご説明いたします。米国では離婚後は「共同親権」の制度を採っています。
米国が「共同親権」だから、日本でもそうするべきだというのではありません。日本と米国では、国そのものの生い立ちも違います。日本人が考える方法が日本には最善と考えますので、私の話は参考程度にしていただきたいと思います。
「共同親権」は、米国では“Shared Parental Authority” (シェアード・ペアレンタル・オーソリティ) と言います。この他に「共同養育」を “Shared Parental Custody” (シェアード・ペアレンタル・カス ティディ)と言います。
離婚後でも、双方が親権を持つわけですが、この親権は「権利」だけではなく「義務」も付随します。子どもが成人になるまでは、その監護義務があります。そして、その費用に関しても、双方の収入の合計を半分にして、収入の多いほうが少ないほうに基準に沿った差額を支払う義務があります。
この義務を怠ると、給料の差し押さえ・ローンを組めない・公務員になれない・公の仕事を受けられない、・自動車運転免許証を持てない。自動車を購入できないなど、さまざまな制裁があります。 しかし同時に、子どもに会う時間も、お互いの親が最大限に努力し、多くの時間を子どもと過ごせるようにする義務があります。これを怠ると、ともすれば、児童虐待になる場合もあります。円満な婚姻関係の解消であれば、当然、これらの問題は起きません。
しかし、片方の浮気が原因や、その他の原因で夫婦が憎しみあった場合には、子どもを盾にした訴訟合戦に発展します。米国の訴訟には多額の弁護士費用が必要になります。この多額の弁護士費用が、ある意味、訴訟への進展を思いとどまらせる効果がある場合もありますが、逆に相手を脅す材料にも使われます(ここは日本には当てはまらない部分です)。
金銭的に余裕がない側は、訴訟になることを避けるために相手の出す条件を泣く泣く飲まなければならない場合もあります。訴訟になる原因の多くは、お互いが同等に持っている「親権」を理由に争いますので、ある意味、決着が付かない長期戦になり、双方が大金を投じて消耗し、子どもがその影響を大きく受けて、貧困に陥ったりするのです。
この親権の問題は、日本では子どもが成人する20歳までの問題です。逆に言えば、20歳までは、自分たちの意思で結婚し子どもを作った親としての責任を感じ、子どもが成人するまでは我慢するというのが、日本だけではなく世界の親が行うべきことだと私は思います。
実子誘拐を黙殺する日本のメディア|上條まゆみ
出典:令和3年8月27日 月刊Hanadaプラス
実子誘拐を黙殺する日本のメディア|上條まゆみ [#jb133de5]
「私の子供たちは日本で誘拐されています」。メダルラッシュに沸いた東京オリンピックの陰で、命がけのハンストを行っていたフランス人男性、ヴィンセント・フィショ氏。BBCをはじめ、海外メディアが続々とこの問題を報道するなか、日本のメディアは「報道しない自由」を行使。日本の司法は腐っているが、日本のメディアも腐っている――。
私の子どもたちが日本で誘拐された
日本在住のフランス人男性、ヴィンセント・フィショ氏は、2021年7月10日から30日まで21日間にわたり、オリンピックスタジアム近くのJR千駄ヶ谷の駅前でハンガーストライキを行った。
ヴィンセント氏が命を賭けて訴えたのは、妻に連れ去られた子どもとの再会である。ヴィンセント氏によると、彼の妻は2018年8月、彼に無断で、当時3歳と1歳の子どもを連れて家を出て行った。
ヴィンセント氏が来日したのは15年前、24歳のとき。金融機関の駐在員として東京にやってきて、同い年の日本人女性と知り合った。意気投合して結婚し、2015年には長男が誕生。ヴィンセント氏が公開しているHPによれば、出産後、妻は家事や育児を放棄するようになり、夫婦仲が悪くなった。その後、妻はヴィンセント氏に無断で、不妊治療の際に冷凍保存してあった精子を利用して2人目を出産。ヴィンセント氏は妻に離婚をもちかけたが、妻は拒否した。
そんなある日、ヴィンセント氏が仕事から帰ると、家の中はもぬけのから。家財道具も車も、妻子の姿も消えていた。
「警察に行き、子どもの誘拐を訴えましたが、何の協力も得られませんでした。それどころか、私が子どもを連れ戻そうとすれば、誘拐罪で逮捕するとまで言われてしまいました。弁護士にも相談しましたが、いったん連れ去られてしまえば子どもに会えなくなってしまうのが日本の現実だ、と……」
その後、ヴィンセント氏の弁護士と妻側の弁護士が協議した。「子どもに会わせてほしい」という彼の訴えに、妻側の弁護士は「自身のDVを認めれば会わせるが、認めなければ会わせない」と言ってきた。
ヴィンセント氏は、DVなどしていない。だから、DVを認めなかった。実際、その後の調停でヴィンセント氏のDVはなかったとされ、妻側も主張を撤回している。
調停では、子どもの監護者指定をめぐる話し合いがもたれた。連れ去りによって妻が子どもの監護を行っている現状があることから、「継続性の原則」が適用され、子どもの監護者は妻に指定された。妻はヴィンセント氏に子どもを会わせることを拒否しており、司法もそれを許している。現在は離婚裁判中である。
今日までおよそ3年間、ヴィンセント氏は子どもに会えていない。
実子誘拐を容認する日本の司法
なぜヴィンセント氏は子どもに会えないのか。
家事事件にくわしい栗原務弁護士は、
「その背景には、日本における法制度の不備と裁判所の不適切な運用実務がある」と言う。
日本は、離婚をした際に片方の親だけが親権をもつ単独親権制度を採用している。しかし、離婚後、どちらの親が親権を得るのかについての基準は法制化されていない。また、離婚前に子どもの監護者の指定が問題となる場合も、どちらの親を監護者として指定すべきかについての基準は法制化されていない。
その法の不備を裁判所の裁量的判断が埋めているが、裁判所における親権者または監護者の判定においては「現在、どちらの親が子どもと暮らしているか」という点が重視され、子どもが片親と暮らさなくなった経緯(同意に基づく別居か、連れ去りによる別居か等)の当否や、子どもと暮らしている親の都合により他方の親と子どもの関係が断絶されていることの当否等が軽視されている。
つまり、先に子どもを連れ去り、子どもを引き離した側が有利となる。
そもそも、片方の親の同意なく一方的に子どもを連れ去る行為は未成年者誘拐罪にあたる。しかし、なぜかそれは不問に付され、連れ去られた子どもを連れ戻す行為は未成年者誘拐罪として逮捕されてしまう。
子どもと引き離された親が、子どもと交流し続けることを担保する手続きがないという問題もある。裁判所が面会交流を認めても、強制力がないため、引き離されている親と子どもは子どもと同居している親の都合により簡単に断絶される。
「結婚生活で揉めて、妻が『実家に帰らせていただきます』と子どもを連れて出て行ってしまうのは、日本では昔からよくあることだった。出て行かれる側は相当ひどいことをしたんじゃないの、それならまあ仕方がないよね、といったような偏見が未だ根強い。しかし、一方の親が他方の親の同意なく子どもを連れて家を出ていくことは、未成年者誘拐罪にあたる。それにもかかわらず、警察も弁護士も裁判官も調査官までもが、原則論を無視し、また、例外的に正当化される事由の有無を一切検討することなく、法的な正当化根拠を曖昧にしたまま、連れ去りや親子の引き離しを容認しているんです」(栗原弁護士)
日本は子どもの拉致国家
親子が片方の親によって一方的に引き離されている状態は、子どもの権利を侵害している。1989年に国連総会で採択され、1990年に国際条約として発効した「児童の権利条約(子どもの権利条約)」に、日本は1994年に批准しているが、その9条1項には「児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」と定められている。
また、9条3項は「児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と定めている。子どもの連れ去り、そしてその後の親子の断絶は、明らかに国際条約違反だ。
「子どもの権利を守ってほしい」
これまでヴィンセント氏は、さまざまな法的行為を試してきた。日本の警察や司法には頼れないと知ると、EUや欧州議会に訴えるほか、2019年にはフランスのマクロン大統領にも面会し、支援を求めた。マクロン大統領は、ヴィンセント氏の訴えを受理し、日本に抗議した。しかし、事態はいっこうに改善しない。
その間にも、妻側が提起した離婚裁判は粛々と進み、年内には判決が出る見通しとなった。ヴィンセント氏は、今は子どもの親権者だが、裁判で離婚が成立すると、監護権をもつ妻が子どもの単独親権者となってしまう。
婚姻中で共同親権の状態にある今でさえ夫に子どもを会わせない妻が、単独親権者となってから、子どもを会わせるようになるとは思えない。ヴィンセント氏は危機感を募らせた。
そこで始めたハンガーストライキ。
ヴィンセント氏を支えるハンガーストライキ支援事務局によれば、このプロジェクトの立ち上がりは今年4月。オリンピックのタイミングに合わせてハンガーストライキを行うことで注目を集め、日本における子どもの権利侵害を広く訴えようと考えた。
マクロン大統領にもコンタクトをとっていた
ヴィンセント氏自身は、実際に子どもに会えるまでハンガーストライキを続ける覚悟だった。ふらついて倒れた際にけがをした手の手術を余儀なくされたことで、30日をもってハンガーストライキは中断している。
「子どもに会いたい」というヴィンセント氏の望みはかなわなかったものの、ハンガーストライキは事態の改善に向けて一定の効果があったと支援事務局では見ている。
「ヴィンセント氏の訴えが重大な子どもの人権侵害だということが理解されたのだと思います。初日から海外のメディアの取材が入り、フランスやイタリア、アメリカなど欧米諸国では大きく報道されました。最終的には、BBC(英国公共放送)で放映され、日本でも配信されました。ヴィンセント氏と同じように親子断絶に苦しむ当事者がたくさん現地に訪れ、これが個人の問題ではなく社会の問題であること、男女問わず誰にでも起こりうる問題であることを世間に示してくれました」(支援事務局)
日本のメディアは消極的だったが、これは想定内。日本にはこれまでの経緯から、日本のメディアが子どもの連れ去りや親権がからむ報道に、必要以上に慎重であることはわかっていた。実際、一度、記事になったものの、ヴィンセント氏の主張だけで相手方の主張が併記されていないとの理由で削除されたWeb記事もあった。
ヴィンセント氏は、フランス大使館を通じてマクロン大統領にもコンタクトをとっていた。マクロン大統領が現地を訪問し、直訴の機会が得られるのではないかとも期待された。結論として訪問は実現しなかったが、マクロン大統領は7月24日に行われた菅義偉首相との会談で、ヴィンセント氏が訴える子どもの連れ去り問題に言及。その結果、日仏共同声明のなかに領事協力として「両国は、子の利益を最優先として、対話を強化することをコミットする」との文言が盛り込まれた。
さらに7月30日には、パトリシア・フロアEU駐日大使をはじめフランスやドイツ、イタリア、スペインなど欧州連合(EU)加盟国の駐日大使ら9人がヴィンセント氏を訪問し、連帯の意向を示した。
「これらのことは、ヴィンセント氏にとってはもちろん、日本人当事者、共同親権・共同養育支持者にとって決して小さくない成果だと思っています」(支援事務局)
子どもに会うことはできるのか
さて、今後だが、ヴィンセント氏は子どもに会えるのか。ヴィンセント氏が望んでいるのは、離婚をしても子どもの養育に半分携わる、欧米では当たり前のスタイル。はたして、それは実現するのか。
「正直、見通しは甘くないと思っています」と言うのは、ヴィンセント氏の代理人を務める上野晃弁護士。たしかにハンガーストライキには、一定の効果があった。終盤を迎えていた離婚訴訟に和解のテーブルが設けられる可能性が出てきたのも、ハンガーストライキが与えたインパクトのおかげだ。しかし、形式的に和解協議の機会が与えられただけでは、結局、双方の意見が一致せず、和解は決裂する未来が見えている。
「家事事件にせよその他の訴訟にせよ、裁判官は、当事者が抱く、『自分に不利な判決が出るのではないか』という不安を利用して和解を引き出します。例えば100万円を返してほしいという訴訟の場合、訴えた側が、『判決だと50万円くらいしか返ってこないかもしれない』と不安を抱く一方、訴えられた側が、『判決だと100万円を全額返せという判決が出るかもしれない』と不安を抱く。その両者が抱く不安を利用して『80万円でどうですか』と和解に導くことができるのです。しかしながら、今回の件を含めて日本の家事司法のように、子どもを連れ去った側に、確実に親権が得られる仕組みになっており、さらに連れ去られた親に子どもを会わせるか否かも連れ去った親に多大な決定権が事実上与えられている現状では、子どもと同居する相手側に、たとえば『ヴィンセントさんと子どもたちとの交流を年の半分くらい確保する』といった和解に応じる心理的動機付けが極めて乏しいと言わざるを得ません」
要するに、連れ去り勝ちを容認する法の運用実務がある限り、ヴィンセント氏の現状は好転しない。子どもの権利は守られない。
上野弁護士は、裁判所に法の運用実務を改める努力をしてほしいと言う。
「具体的には、フレンドリーペアレントルールの導入です。フレンドリーペアレントルールとは、子どもの親としての関係で、片方の親と友好的な関係を築くことのできる親のほうが親権者にふさわしいとするもの。このルールの導入によって、子どもの連れ去りや親子の引き離しは減るはずです」
個々の案件の積み重ねによって法の運用実務は変わる。弁護士や裁判官、調査官など家事事件に携わる人たちみんなが子どもの連れ去りや親子の引き離しに厳しい目をもつことで、少しずつ運用実務は変わっていく。
「当事者ではない、まったく利害関係がない人に子どもの連れ去りや親子の引き離しについて話すと、たいていは『それは酷いね』『おかしいね』といった反応です。それがふつうの感覚なんです。この問題を広く世間に知らせ、まわりの声を大きくしていくことが大切なのだと思います」(前出・栗原弁護士)
ヴィンセント氏の起こしたアクションは、その一助となったと思われる。それにしても、日本のメディアがヴィンセント氏のハンガーストライキをほとんど報道しないのはなぜなのだろうか。
国際離婚で「子供と会えなくなる」 日本特有の問題、解決を
出典:令和3年8月15日 毎日新聞
東京に駐在する外国メディア特派員の目に、私たちの社会はどう映っているのだろうか。韓国、フランス、米国、バングラデシュ、シンガポールの個性豊かな記者たちがつづるコラム「私が思う日本」。第17回はルモンド紙(フランス)のフィリップ・メスメール東京特派員が、離婚に伴い片方の親が子供を連れ去り、もう片方の親と子供が会えなくなる問題について語る。
◇ ◇ ◇
バンサン・フィショさん(39)は東京・千駄ケ谷の駅前で3週間持ちこたえた。だが今年7月末、ハンガーストライキを中断せざるを得なかった。彼の日本人の妻が連れ去った(彼は「拉致した」という言葉を使う)我が子たちにもう一度会うためのハンストだった。けがをして緊急の外科的措置のために断念したが、それがなければ続けていただろう。
彼を決意させたのは絶望だった。フランス出身の元トレーダーで日本に15年間住むフィショさんは2018年以降、6歳の息子と4歳の娘と会うことができない。「18年8月10日の朝が最後でした。息子は私が出かけるのを嫌がりました。私は彼に、仕事に行くけど、夜帰ったら遊ぼうと約束しました。仕事から帰ると、…
※以下、紙面を参照ください。
「子どもの立場で親権制度議論を」嘉田由紀子参議院議員
出典:令和3年8月4日 Japan In-depth
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・離婚後単独親権という構造を変えなければ、子どもの幸せは確保できない。
・単独親権派のロビイングパワーは強大。
・法務省に親権制度改革は大きく期待できない。政治が動くしかない。
離婚後の親権について日本は、父母のどちらか一方に行使を認める「単独親権」制度をとっている。120年以上前の明治民法の規定だ。これに対して欧米の多くの国では、離婚後も両親が共同で親権を行使する「共同親権」制度をとる。主要先進国のうち「単独親権」制度のみをとるのは日本のみ。国連の「児童の権利委員会」や欧州議会をはじめとして国際的な非難を浴びている。毎年約80万人しか生まれない日本の子どもの約4人に一人が毎年片親ロスになり経済的貧困やなどに追い込まれる。
「共同養育支援議員連盟」に所属する嘉田由紀子・参議院議員は、単独親権を定めた民法819条を「親子の分断」と非難する。
■ 単独親権派のロビイングパワー
大人も子どもも、「日本の単独親権が当たり前だと思っているが、親が離婚しても父子、母子の情愛的つながりは変わらないはずだ」と嘉田氏は指摘する。
「ロビイストたちが世論を徹底的に、共同親権は駄目だということを広めている。マスコミを使って。SNS を使って」
嘉田氏は、共同親権に反対する人物は様々な分野に存在し、彼らのロビイングパワーが極めて強力であることを指摘した。嘉田氏自身も、単独親権派のネットワークの強さを体感した経験がある。2019年度の参議院選挙に出馬したとき、いわゆる「落選運動」が嘉田氏に向けられたことを明かした。
■ 法制審議会家族法制部会に失望。政治が動かなくては変わらない。
「法制審議会家族法制部会」は、2021年3月30日、子どもの利益確保などの観点から離婚に関する制度を見直すため設けられた。審議会の内容について、嘉田氏は厳しい意見を述べた。
「(審議会の)議事録を丁寧に見ても、法律専門家の技術論や共同親権反対派の手続き的議論に終始し、本当に共同親権の必要性を求めている離婚後の子どもの声を代弁するような意見がほとんどない」
「問題は離婚後放置され、まさに無法地帯に置かれている子どもが毎年20万人ずつも増えていることは日本の未来社会の脆弱性を招く事」だと述べた。
さらに嘉田氏は、審議会のメンバー構成について言及。
「誰が(委員を)選ぶか。それは法務省の官僚です。法務省の官僚も共同親権は本心はやりたくないのではないか?過去2年間に参議院法務委員会で31回、共同親権問題で質問してきました。法務省の答弁は前向きではありませんでした」
嘉田氏は、その理由を「判検交流」と説明する。「判検交流」とは、裁判官と検察官の人事交流制度のことで、裁判官は検事として法務行政職に従事することができる。
「裁判官が検事になって法務省を支配しています。法務省の担当者はもともと裁判官ですから、既存の法律を変えたくないのです」
嘉田氏によると上川法務大臣は、本来法務大臣の指揮下にある法務省の担当者が法制審議会メンバーであることは合理的であり、彼らは法務大臣の指揮監督下にないことを説明したという。法制審議会は法務省官僚の「お手盛り」と言われかねない。
裁判官の人事権は、最高裁判所にある。
「最高裁判所の管理下に法務省があります。だから法制審議会が共同親権を主張するとは思いません。せいぜい「選択的共同親権」でしょう。それでは単独親権とほとんどかわりません。(変えるのは)政治しかないのです」
■ ヴィンセント・フィショ氏の事例について
親権制度をめぐる日本の司法制度は、ヴィンセント・フィショ氏の抗議行動によって、再び諸外国の注目を集めている。フィショ氏が提起するのは、「子どもの連れ去り」の問題だ。彼は、3年前、妻と一緒に家を出た2人の子どもたちとの再会を求めて、7月10日から3週間ハンガーストライキを行った。
フィショ氏のハンガーストライキについて嘉田氏の考えを聞いた。
「フィショ氏のハンガーストライキ、大変つらいです。日本を愛し、日本に長年住んで、家族を持ってくれている人が日本の民法の仕組みの中で、愛する子どもさんに会えないという状況を作り出してしまっている 。日本の立法府を担う国会議員の一人として大変申し訳ないと思っています。フィショ氏のように苦しんでいる日本の父親、母親、子ども達の為に立法府を担う国会議員として法律改正に向けて力を入れたいと思っています」
「(フィショ氏に向けて言いたいのは、)あなたが死んだらだめよってそれだけです。言いたいのは。あなたが命を守らなかったら子どもさんが何よりも寂しがるでしょう?と」
(編集部注:フィショ氏は転倒して小指を複雑骨折し、その手術の為、7月31日にハンストを中止した)
7月24日の日仏首脳会談では、「領事協力」として「両国は、子の利益を最優先として、対話を強化することをコミットする」と明記した共同声明が発出された。これについて嘉田氏は、「評価はするが、本当にこれで政府が動くのかと言うと、ちょっと期待はずれかもしれない」と懸念を示した。
「(共同養育支援議員連盟の)柴山(昌彦)幹事長と牧原(秀樹)事務局長がフィショ氏のところに慰問に行ってくれていました。これは大変心強い行動です。できるだけ早い段階でフランス政府との約束が守れるよう菅(義偉)総理大臣と上川(陽子)法務大臣に要望を出す必要があるだろうと、これはお二人にもお伝えしています」
「日本政府にも、何が国民を守るための法律なのか、民法改正に向けて本気で努力してほしい」
■ 「子どもの連れ去り」は刑法違反
嘉田氏は、今年4月13日の参議院法務委員会で「子どもの連れ去り」について質問し、上川陽子法務大臣と川原隆司法務省刑事局長から回答を得た。
実子連れ去りは、「未成年者の自由と安全」「監護側の監護権」を保護法益とする刑法224条の「未成年者略取・誘拐罪」に問えるということが明らかになった。(動画:参議院法務委員会2021年4月13日。3:53:10ころから)
離婚成立してない場合は婚姻中であるから、「子ども連れ去り」は、この刑法224条の未成年者略取・誘拐にあたることを政府が公式に認めたことになる。
「子どもの連れ去り」には、司法の内部に要因があるとも指摘される。そのひとつは、裁判所が親権者を定める判断基準、「継続性の原則」だ。「継続性の原則」とは、現在の子どもの監護環境に問題がなければそれを維持するべきとする考え方だ。親権を確保するため、弁護士が「子どもの連れ去り」を勧めることもあるとされる。また、「連れ去り」を正当化するため、虚偽にDV被害を主張するケースもあるという。
嘉田氏は、「DV防止法が甘い。言った者勝ちになっています。DV 防止法も警察がきちんと入るべきでしょう」と主張する。
「もちろん虐待や DV(が実際にある可能性) がある場合は、共同親権を義務化しても親権を外したらいい。今の民法だって親権停止・喪失の条文はあります 」
■ 単独親権という構造的問題
「議論を加速させるためには、単独親権の一番の被害者である離婚後、経済的貧困に放置され片親疎外にあっていて自己肯定感などを失ってしまっている子どもの立場からの議論が最も必要です。そこを私自身、法務委員会、議連の場、そして特にマスコミの皆さんに訴えたい」
嘉田氏は、フィショ氏の抗議行動を取り上げることに関して、日本のマスコミが及び腰であることに疑問を呈した。
「(親権制度について)マスコミも触れたくない。官僚も触りたくない。法務省も触りたくない。法律を変えて自分たちには得はないからという逃げでしょう。本当にこの国の未来が心配です。誰が子どものことを考えるんですか」
「日本の警察や司法は家族問題には介入しない。法務省はずっと家族の個別事案には入り込まないと言って逃げています。でも(民法は)離婚後片親親権(単独親権)と決めている。すでに家族のあり方を司法が構造的に決めている 。明らかに構造的に介入しています。この構造を変えることが子どもの幸せ確保の第一歩です。これが私の一番の言いたいことです」
(了)
日本人妻に「連れ去られた」子供に会いたい……仏男性が東京でハンガーストライキ
出典:令和3年8月4日 BBC NEWS JAPAN
日本人妻に「連れ去られた」子供に会いたい……仏男性が東京でハンガーストライキ
東京のオリンピックスタジアム近くで、フランス人男性が7月10日にハンガーストライキを始めた。実の親による子供の連れ去りに抗議するために。
フランス人のヴァンサン・フィショさんは、日本人の妻が3年前に2人の子供を連れて自宅から姿を消して以来、子供に会えていないと訴えている。
日本では結婚生活が破綻した場合、片方の親だけが子供全員の単独親権を得ることができる。そのため、フィショさんに起きた出来事は日本では珍しいことではない。
ハンガーストライキは世界中の注目を集めており、同様の経験を持つ人たちが活動に加わった。
フィショさんは転倒して手を骨折し、手術のため抗議を中断せざるを得なくなったが、今後も継続する意向という。
リポーター:ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ
プロデューサー:中山千佳
EU加盟国大使ら連帯示す ヴィンセント・フィショ氏ハンストは終了
出典:令和3年7月31日 Japan In-depth
EU加盟国大使ら連帯示す ヴィンセント・フィショ氏ハンストは終了
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部
【まとめ】
・ヴィンセント・フィショ氏、骨折した指の手術でハンスト中止。
・欧州連合(EU)加盟国の駐日大使ら9人がフィショ氏を訪問
・駐日仏大使「日本当局に領事保護の支援をお願いしており、これからも当局にコンタクト続ける」
仏人男性ヴィンセント・フィショ氏の命をかけたハンガーストライキが21日目の今日終わった。昨日29日に倒れた時に小指を複雑骨折し、その手術が今日行われたからだ。
フィショ氏は、3年前妻が子どもと家を出てから会えていない2人の子どもとの再会を求めて、国立競技場側の千駄ヶ谷駅(JR東日本総武線:東京都渋谷区)構内で 3週間にわたりハンストを続けていた。
フィショ氏は30日夕方、Facebookにこう投稿した。
「21日前にハンガーストライキを開始したとき、私の目的は、(私が)危篤状態になって、子供たちがどれだけ苦しんでいるかを当局に示し、楓(かえで)と翼(つばさ)を家に戻すきっかけを作ることでした。あと数日だったと思っています。水曜日に失神して指を骨折したときは、簡単に治せると思っていました。2日間努力しました。しかし、残念ながら今日のニュースでは、完全に麻酔をかけて手術をし、チタン製のプレートを指に挿入する必要があると言われてしまいました。私は非常にがっかりしています。しかし、子供たちを失望させたという気持ち以上に、子供たちを支援してくれる多くの人たちと出会い、日本政府による子供たちの権利侵害を一緒に終わらせることができると確信しています。(欧州各国の大使9名が朝から応援に駆けつけてくれました)」
それに先立ち、30日午前11時過ぎ、パトリシア・フロアEU駐日大使を始め、フランスやドイツ、イタリア、スペインなど欧州連合(EU)加盟国の駐日大使ら9人がフィショ氏を訪問し、連帯を示した。現場には欧米メディアだけでなく、時事通信、共同通信、テレビ朝日など、一部の日本のメディアも集まった。
駐日欧州連合代表部は以下のTweetを投稿した。
EU大使と複数のEU加盟国大使は本日、日本にいる自身の子どもへのアクセス を求めているフランス人、フィショ氏と面会した。大使たちは、全ての子どもたちが両親との絆を保てるよう、#子どもの権利条約 を順守することへの連帯を示した #EUinJapan
また、フィリップ・セトン駐日フランス大使は、「(フィショ氏を含め)EU市民に関わっているこのような問題について、EUレベルでもEU加盟国の大使レベルでも、日本の様々な機関と何度も話しあっています。ただ、日本国内の司法に関することに干渉することは考えていません。私たちは、(自国民を)領事保護(注)できるよう、日本当局の支援をお願いしており、これからも当局にコンタクトを続けていきます」と述べた。
EU大使らの訪問を受け、フィショ氏は、Japan In-depthの取材の取材に対し、「私の戦いは始まったばかりだ。まだ子ども達は家に戻っていない。日本の政治家が行動を起こし、日本の裁判所が法律を尊重すべきだ。既に法律はあるのだから。(今日のEU大使らの訪問で)事態は動くかもしれないが、私の戦いは終わらない」と話し、ハンストを続ける意志を示していた。
緊急手術により、まだ続くと思われたフィショ氏のハンストは終わった。結婚破綻後の片方の親が子どもを連れて出た後、子どもに会えなくなる、いわゆる「子どもの連れ去り問題」で苦しむ人は多い。子どもの権利を守るためにはどうしたらよいのか、政府・司法が解を見いだせないのなら、国会が動くべきではないのか。政治家の覚悟が問われる。
(編集部注:領事保護=在外公館が自国民の利益を保護すること。安否確認することなどを含む)
必死のフランス人父親 怪我で21日間のハンスト終了を余儀なくされる
出典:令和3年7月31日 ARAB NEWS
必死のフランス人父親 怪我で21日間のハンスト終了を余儀なくされる
東京:連れ去られた子供たちに会いたいと3週間にわたってハンガーストライキを行なっているヴィンセント・フィショ氏は、指の骨折手術のためオリンピックスタジアム近くの千駄ヶ谷駅を離れることとなった。
フィショ氏は28日水曜日、およそ20日間の絶食により気絶、負傷した。
フィショ氏はフェイスブックに「水曜日に気を失って指を骨折した時は、簡単に治せると思っていた。残念ながら今日、手術が必要であり、全身麻酔でチタンプレートを入れると聞いた。非常に残念だ」と投稿した。
フィショ氏は子供たちと再会するためのあらゆる手段を使い果たし、大々的にハンストに突入することにした。彼の妻は3年前、突然子供たちを連れ去り、それ以来会っていない。まだ婚姻状態にあり、日本の法律では父親としての権利はあるものの、日本の裁判所は妻に対し、フィショ氏が子どもに会うことを強制しなかった。
日本では、突然親子が引き離されることがしばしばあり、取り戻せないように見える。毎年約15万人の子供が親から引き離されていると推定されている。フィショ氏は、父親としての権利を行使すれば起訴される可能性があると聞かされた。
当面ハンストは終わったが、彼は闘いを続けると誓っている。
フィショ氏は「21日前にハンストを始めた時、子どもたちがどれほど苦痛を受けているかを当局に示し、カエデとツバサが戻るきっかけとして深刻な健康状態に入ることが私の目標だった」と話した。「私の子どもたちには申し訳ないが、子どもを支援する本当にたくさんの人々に会ってきて、日本の当局が犯した子どもの権利侵害を共に終わらせることができると確信している」
ハンスト終了前の30日金曜日、駐日仏大使を含む9人の欧州連合(EU)加盟国駐日大使がフィショ氏を訪ねて支持を表明した。フィショ氏はまた、マクロン仏大統領の側近と会い、菅首相に問題提起が行なわれたとのことであるが、仏政府は自国民であるフィショ氏や子供たちを支援する行動をとっていない。
“子供の連れ去り問題”ハンスト現場に、マクロン仏大統領のブレーン現る
出典:令和3年7月31日 SAKISIRU
“子供の連れ去り問題”ハンスト現場に、マクロン仏大統領のブレーン現る
西牟田 靖 ノンフィクション作家/フリーライター
7月23日正午すぎ、千駄ヶ谷駅を再訪した。これまでと違って、駅前広場は足の踏み場もないほどの人でごった返していた。スマートフォンを手に皆が同じ方向を見上げ、ブルーインパルスが青空に五輪を描く様子に夢中になっていた。そんな中、フランス人、ヴィンセント・フィショさん(39歳)は、これまでと同様にキャンプ用の薄いマットに座り、視線を下に向けて座っていた。
目まいでもしているのか、時々目を閉じている。体力の限界かもしれない。
人は飲食をしなければ死ぬ。何も飲まないと3日間で、水分を補給していても1か月が限界だろう。真夏の酷暑下で肌はかさつき、体つきもひとまわり小さくなっているように見えた。「医師のすすめにより、塩分とビタミン剤を服用するようになった」(支援事務局スタッフ)とはいえ、人の身体はそう長く持つものではない。
今年3月、法務省は法制審議会で、共同親権の導入についての議論をはじめたが、改正には時間がかかる。ハンスト中にどう考えても間に合わない。かといってハンストという手段を選ぼうとする彼の気持ちをむげにしてまで、行動を中止するよう、説得することはできない。
ブルーインパルスの飛行にどよめく中、私はヴィンセントさんの命がけの行動に対し、なにも力になれないことの無力感に苛まれた。日本の制度が遅れているからこそ、彼の苦労に対して、申し訳ない気でいっぱいになった。
ハンストの目的は、次の通り。
報道によると、23日正午の時点でマクロン大統領はすでに日本に到着し、40時間滞在するという。オリンピック開会式が始まる午後8時までの間、あるいは菅首相と会談する24日午前11時前。そのどちらかのタイミングで、ヴィンセントさんの元を訪れるかもしれない。
仏大使が大統領の右腕と訪問
午後2時すぎ、フランス高官と思われるスーツやドレス姿の男女5~6人が現場に現れた。ヴィンセントさんは力を振り絞って立ちあがり、熱っぽく語り始めた。在外議員のコンシニ・ティエリ氏によると、フィリップ・セトン駐日フランス大使、エマニュエル・ボンヌ外交顧問、アリス・ルフォ副外交顧問。外交顧問とは、マクロン大統領の右腕だという。
マクロン大統領訪問の下見なのか、あるいは代理訪問なのか。詳しくは分からなかったが、フランス政府が問題解決を真剣に考えていることは伝わった。
翌24日朝、私はマクロン大統領の訪問を待った。前日とは一転して、駅前は閑散としていた。
日仏首脳会談では、親権問題についてマクロン大統領が取り上げることが予定されていた。会談直前に数分でも立ち寄って彼を見舞い、その上で会談に臨むかもしれないと考えた。
しかし、会談開始10分前の10時50分になっても大統領は現れなかった。
ヴィンセントさんは諦めたのか。支援者に抱きかかえられるようにして立ちあがり、支えられ、100メートルあまり先にある公衆トイレへとむかっていった。トイレが終わり、戻ってくると、彼はキャンプマットに横になり、目を閉じて眠り始めた――。
報道によると、会談では国際結婚が破綻した後に起きる子どもの親権問題についても話し合い、共同声明で「子の利益を最優先として対話を強化する」と盛り込んだ。
■
7月30日午後2時ごろ、ヴィンセントさんのハンストは中断された。21日目のことだった。理由はドクターストップ。数日前に転倒して手を骨折し、手術のため入院が必要となったのだ。ハンスト開始前に比べて体重は約15キロ減少した。
今後、日本政府が「子供の連れ去り問題」にどこまで取り組むのかは、分からない。日本政府は、親子の別れにいつまで見て見ぬ振りを続けるのだろうか。(連載おわり)
橋下徹氏 共同親権を原則にすべきと持論「つい先日も福原愛さんが離婚された時も」
出典:令和3年7月31日 デイリー
橋下徹氏 共同親権を原則にすべきと持論「つい先日も福原愛さんが離婚された時も」
元大阪市長で弁護士の橋下徹氏が30日、フジテレビ系「バイキングMORE」に出演。映画コメンテーターの有村昆(45)とフリーキャスター・丸岡いずみ(49)が29日に離婚したことに関連し、日本も共同親権を原則にすべきだと持論を語った。
番組では事務所関係者の話として慰謝料や財産分与については公表せず、長男(3)の親権は有村が持つと報じたが、橋下氏は「お二方の話からちょっと外れて一般論で言わさせてもらうと」と前置きし「日本だけがある意味特殊な国で…日本だけというかごく少数の国で…離婚した時に父親か母親かどちらかが単独でしか親権を持てないってのは日本が特殊。世界の流れは共同親権で」と持論。
「つい先日も福原愛さんが離婚された時も共同親権、離婚はしたけれども子どもはお父さん、お母さんが両方で親権持って育てる。これが当たり前なんですけども、日本の民法が単独親権ってなってるので、お父さんかお母さんかどちらかに決めなきゃいけない。お二方がもし話し合いをされて、本当は2人で親権持ちたいのにっていうんであれば日本の民法が遅れ過ぎ」と問題視した。
ただ、これには理由もあるとし「特殊な夫婦関係、DVなんかで離婚した場合には奥さんは二度と旦那さんに会いたくない。だから共同親権やるとどうしても顔合わさなきゃいけないので、それはダメだということでそういう特殊事例をもって」単独親権を主張する声が強いのだと解説。そういう事情があるにしても「もう共同親権を原則にして、共同親権がダメな場合には単独親権っていうような法律にすべきじゃないですかね」と自説を述べた。
“子供の連れ去り”問題 フランス人男性が千駄ヶ谷でハンストする理由
出典:令和3年7月30日 SAKISIRU
“子供の連れ去り”問題 フランス人男性が千駄ヶ谷でハンストする理由
西牟田 靖 ノンフィクション作家/フリーライター
東京オリンピックのメインスタジアム、国立競技場。その最寄り駅であるJR千駄ヶ谷駅の改札外で英語と日本語のメッセージが書かれたのぼりをたて、座りこんでいる外国人男性がいる。のぼりには、こう書かれている。
「ハンガーストライキ 拉致 私の子供たちは誘拐されています」
男性はキャンプ用の薄いマットに座り、静かに過ごしている。差し入れのペットボトルの水が10本以上置かれ、外国人や日本人の支援者が入れ替わりやってくる。なぜハンストを始めたのか。7月17日、男性に話を聞いた。
子供に会いたい
「ハンストを始めたのは私の子供たちに会うためです。6歳の息子と4歳の娘が、今どこにいるのかさえわからない。子供に会えるまではやめません」
気丈な様子で男性は言う。絶食して1週間も経とうしているのに、口調は元気そうだ。
男性の名はヴィンセント・フィショ。「ハンガー・ストライキ支援事務局」によると、フランス・マルセイユ出身の39歳で、15年前に来日。日本人女性と結婚して2人の子供をもうけた。大手証券会社で専門職に就き、自由が丘に家を建てて家族と共に不自由のない生活を送ってきた。
だが、現在はマイホームを売却し、会社を辞めた上で、7月10日からハンストを開始した。
「 2018年6月、家事や育児に協力しない妻に対し、別居を提案しました。その時、平等に分担するよう養育計画も提案しましたが、拒否されました。その後、8月10日夕方に帰宅すると、家はもぬけのからでした。家財道具や車が一切なく、妻や子供たちもいなくなっていました」
ヴィンセントさんは警察に相談した。母国フランスでは誘拐罪にあたるからだ。
「警察は相手にしてくれませんでした。次に弁護士に相談したんです。すると、『そういうふうになっちゃったら子供に会えないんだよ』と言われれました。ショックでした。当時、私は日本の連れ去り問題について、何も知らなかったんです」
日本では離婚後、配偶者のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」を採用している。そのため、離婚後の配偶者に子供との面会交流をさせず、親子関係を切ろうとするケースもある。
一方、諸外国では離婚後も「共同親権」を採用し、配偶者それぞれが対等に親権を持つ場合が多い。
「フランスでは離婚後も共同養育で育てるのが一般的です。共同親権の下、片方の親が協力的でなければ、裁判所が是正命令を出す。子供を連れ去った場合、5日以内に合理的な理由を示せなければ逮捕され、監護権を失います」
ヴィンセントさんは、G7のひとつである日本も同様と考えていた。だが、実際は大きく違った。
完全な親権を有している
その後、ヴィンセントさんと妻の双方の弁護士が協議した。ヴィンセントさんの弁護士が、「子供に会いたい」と妻側に伝えたところ、相手の弁護士は次のように条件を出した。
「『自身のDVを認める手紙を書けば、会わせてもいい。そうしない限り、決して子供に会うことはできない』と妻の弁護士が言ってきました。脅迫だと思います。私はDVなんてしていないので、そんな手紙は書きません」
その後、両者は裁判所での正式な話し合いである「調停」を行った。
「調停では、暴力を振るわれたと主張する書類を出されたのですが、根拠のない嘘ばかり。彼女のSNSには『遊び過ぎて疲れた』など、DVを受けているとは思えない投稿が多く、DVの主張は裁判所に認められなかったんです」
だが、子供たちが戻ってくることはなかった。『継続性の原則』が適用されたのだ。子供の現在の生活に特段の問題がなければ、同じ状況を続けることが子供の利益になるという考え方だ。
「『子供が新たな生活に慣れているから、子供を戻すことができない』と裁判所は結論を出しました。私は子供に会いたと繰り返し主張したのですが、無理でした」
離婚後のプロセスで気になったことがある。「面会交流の申し立て」をしたのかということだ。申立てをして、少しでも会えた方がいいのではないか。
「面会交流の申し立てはしていません。離婚前なので、僕は完全な親権を持っているんです。誘拐した人に対して、会わせてくれとお願いするのはおかしいと思う。申し立てをしても、約束が守られずに結局会えなくなるケースもあります。ハンスト現場に来てくれたある日本人女性は、面会交流の合意があるのに果たされず、7年間も子供に会えていないと言っていました」
ヴィンセントさんについて、国際的な家事事件に詳しい松野絵里子弁護士はこう語る。
「日本では連れ去りされた親は、離婚前の共同親権の状態であっても子供の居所(住所)を知ることすら阻まれます。ヴィンセントさんは、親としての監護責任を果たすことができない状況です」
外圧に期待
日本の司法や警察を頼れないと知り、フランス政府やEUに助けをもとめた。子供たちはフランス国籍も有している。フランス大使館が『子供のことを確認したいので訪問したい』と妻に提案したが、拒否された。
2019年6月、ヴィンセントさんは来日中のマクロン大統領を訪問し、日本での連れ去り問題を伝えた。2020年にはEU本会議で、日本の子供連れ去り問題について、非難決議が出された。
欧州で日本の連れ去り問題が提起され、日本では3月、法制審議会で共同親権導入の検討をようやくはじめた。だが、法改正にはまだ時間がかかりそうだ。
「日本政府や裁判所には、法の支配が欠けています。人権を尊重していないし、子供の権利条約を守っていない。私には日本政府を変える力はないし、日本政府がハンガーストライキを気にして行動を起こすとは思っていない。私は、フランス政府に期待しています。フランス政府の制裁によって、日本政府が子供の権利条約を守るよう動いて欲しい」
ヴィンセントさんの一連の言動について、妻側の代理人弁護士は次のようにコメントした。
「どちらも私人で、公人でも芸能人でもありません。それに今、離婚裁判中です。マスコミを利用して争うというやり方は望んでいません。本人はプライバシーを尊重されたい、個人情報を保護していただきたい。そういう気持ちでおります。あまりにも目に余るような状況ですし、納得できないことが多々あります。本人としては離婚判決が出た段階で公表も考えますが、現状では裁判外で戦うつもりはありません」
ハンスト男性に連帯表明 「子連れ去り」で、EU加盟国大使ら
出典:令和3年7月30日 時事通信
フランスやドイツなど欧州連合(EU)加盟国の駐日大使らが30日、日本人妻に子供を連れ去られたとして都内でハンガーストライキをしているフランス人男性バンサン・フィショさんを訪問した。パトリシア・フロアEU駐日大使は「日本側と議論を続ける」と述べ、フィショさんに連帯を示した。
今月10日からハンストを続けているフィショさんは、今回の大使訪問により「(日本での)注目が集まり、変化への第一歩となる」と期待を寄せた。
ただ、担当の弁護士によると、フィショさんは病院で指の手術を受けるためハンストを中断する。治療後も本人はハンストを続ける意向があるが、健康状態などへの不安から継続するかは不明だという。
単独親権の考え方を取る日本に対し、フランスは共同親権を基本とする。制度の違いから、国際結婚破綻後に起きる日本人の親による「子供連れ去り」が欧米などで問題となっている。欧州議会は昨年7月、子供連れ去り行為を禁止するよう日本政府に求める決議案を採択した。
実子連れ去り:マクロン大統領が直談判も、日本は政権とメディアが淡白
出典:令和3年7月25日 SAKISIRU編集部
実子連れ去り:マクロン大統領が直談判も、日本は政権とメディアが淡白
東京オリンピック開催に合わせた来日したフランスのマクロン大統領が24日、東京・赤坂の迎賓館で菅首相と会談した。この会談に際し、注目されていたのが、在日フランス人男性が離婚係争中の日本人妻に実子を連れ去られたと訴えている案件で、マクロン氏が日本側に善処するように求める方針だったことだ。この男性は、野村証券に最近まで勤めていたヴィンセント・フィショ氏。国立競技場近くのJR千駄ヶ谷駅まで2週間あまりハンガーストライキをしており、フランス政府の関係者も現場で男性に面会している。
首脳会談後に外務省はホームページで共同声明の日本語訳文を公開。「1. 特別なパートナーシップ」「2.オリンピック・パラリンピック」「3. 感染症・ワクチン」「4. インド太平洋」「5. 開発金融」「6. 気候変動・環境・生物多様性」「7. 経済」と記述がきて最後に盛り込まれた「8. 領事協力」に、以下のように盛り込まれた。
両国は、子の利益を最優先として、対話を強化することにコミットする。
この一文だけをみるとフランス側の訴えを日本側が考慮しているように見えるが、句読点を入れてもわずか33文字の記載のみ。他は「3. 感染症・ワクチン」の574文字、「7. 経済」の723文字などと比べても“熱量”の相違は明白な状態だ。記者クラブに加盟する日本の大手メディアも何かに規制されたかのように口が重い。この問題を大手紙で珍しく事前に報じていた日経新聞は「フランスなどは離婚後も父母両方が親権を持つ『共同親権』が一般的になっている一方、日本は認めていない。首相はマクロン氏に日本の制度を説明し、理解を求めた」とやりとりの概要のみを記載しているが、25日未明時点で読売新聞や朝日新聞など大半のメディアは記載が見当たらず、「なかった」ことになっている。
これに対し、フランス側はメディアも含めて関心が高い。AFP通信は日本語サイトの速報では概要の経緯にとどまったが、フランス語版では、日仏首脳会談の記事のおよそ半分が、フィショ氏の問題について記述を割いており、菅首相がマクロン氏に対して「対話を再開する」などと述べたことが紹介されている。
それでも前述したように、他の外交問題に比べても取り組みへの落差が目立っており、メディアも含めた日本側の反応が総じて「淡白」であるのは確かで、「人権国家」フランスを含めたEUから見たときにどのように映るのか気がかりなところだ。というのも、すでに昨年7月、EU議会は、日本国籍とEU加盟国の国籍を持つ子どもを日本人の親が連れ去ることを禁止するよう求める決議をしている。EU籍の人と日本人の婚姻関係が破綻した際に、EU圏内から日本人の片親が実家のある日本に連れ去る事案が多発していたためだ。マクロン大統領は安倍首相の時代から日本側に善処するように求めてきたが、大きな動きはなかった。菅政権になり、上川陽子法相の下で法制審議会で親権制度のあり方を見直すかどうかの議論を始めたが、まだ審議中の段階だ。
とはいえ、日本側もSNSでの関心を反映するように、週刊誌やネットメディアでは露出も増えてきた。朝日新聞系のウェブ論座がフィショ氏のレポートを掲載後に削除される事件があった際には、この問題が日本の大手メディアで「タブー」扱いされている壁を感じさせたが、日仏首脳会談当日朝には、ビジネス系のネットメディアで最多の2億超のページビュー数を誇る東洋経済オンラインが仏フィガロ東京特派員の長文レポート記事を掲載。大手週刊誌、週刊新潮系のデイリー新潮もここまでの経緯を取り上げる記事を配信するなど変化の兆しもある。
日仏首脳、インド太平洋で協力深化 香港「深刻な懸念」
出典:令和3年7月24日 日本経済新聞
菅義偉首相は24日、東京・元赤坂の迎賓館でフランスのマクロン大統領と会談した。「自由で開かれたインド太平洋」の重要性を確認し、防衛協力を深化させると申し合わせた。中国による香港や新疆ウイグル自治区での人権弾圧に「深刻な懸念」を共有した。
マクロン氏は23日の東京五輪の開会式に出席するため来日した。両首脳は15分ほど協議した後、80分間程度1対1の昼食会に臨んだ。その後、共同声明を発表した。
首相は「日仏間で『自由で開かれたインド太平洋』に向けた具体的協力が進んでおり喜ばしい」と伝え、協力強化を呼びかけた。マクロン氏は「インド太平洋地域で引き続き日本と緊密に連携していきたい」と話した。
フランスはインド太平洋地域にも領土を持つ。5月にはフランスの練習艦隊「ジャンヌ・ダルク」が日本に寄港した。陸上自衛隊と米海兵隊、仏陸軍が九州で離島防衛訓練も実施した。
両首脳は国際結婚が破綻した後に起きる子どもの親権問題も話し合った。共同声明に「子の利益を最優先として対話を強化する」と盛り込んだ。
日本は原則として離婚後の親権は片方の親が持つ「単独親権」の考え方を取る。フランスでは国際結婚が破綻した後に子どもの連れ去りが起きる背景に日本の制度の存在を指摘する声がある。
フランスなどは離婚後も父母両方が親権を持つ「共同親権」が一般的になっている一方、日本は認めていない。首相はマクロン氏に日本の制度を説明し、理解を求めた。
フランスは2024年のパリ五輪の開催国になる。マクロン氏は開会式について「素晴らしかった。東京大会の成功を確信している」と述べた。
新型コロナウイルス対策では、ワクチンの公平な確保が重要だとの認識で一致した。共同声明でビジネス目的などの人的交流の早期再開を期待すると記した。
両首脳の対面会談は6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)に合わせて英国で開いて以来、2度目となった。マクロン氏は会談後、ツイッターに「日仏のパートナーシップは特別なものだ」と書き込んだ。
首相は24日、マクロン氏に先立ちポーランドのドゥダ大統領、アルメニアのサルキシャン大統領らと個別に会談した。
フランス人男性が「子の連れ去り」被害を訴えハンスト中 日仏首脳会談でマクロン大統領が議題に
出典:令和3年7月24日 デイリー新潮
フランス人男性が「子の連れ去り」被害を訴えハンスト中 日仏首脳会談でマクロン大統領が議題に
「子の連れ去り」被害を訴えるフランス人男性が、国立競技場前でハンガーストライキに入ってから2週間が経過した。「死んでも構わない。五輪中も成果が得られるまで続行する」と男性は語るが、体力は限界に近づきつつある。
14日目に迎えた開会式
7月23日午後。東京・渋谷区のJR千駄ヶ谷駅前には、立錐の余地がないほど大勢の人々が詰め掛けていた。東京五輪の開会を祝うブルーインパルスが空を舞い出すと、群衆から一斉に大歓声が上がった。
そんなお祭り騒ぎの中、人だかりの影に隠れるように、ヴィンセント・フィショさん(39)は、しゃがみ込んでいた。
「とても五輪を祝う気になんかなれないよ。今の僕が考えていることはただ一つ。子供たちに会いたい。それだけです」
7月10日から水以外は口にしないハンガーストライキを続けてきた彼は痩せ細り、憔悴しきっていた。
頭がぼうっとする
ヴィンセントさんは3年間、我が子と会えていない。2006年に外資系金融機関の駐在員として来日した彼は、15年に日本人女性と結婚。二人の子宝に恵まれたが、3年前に夫婦関係が破綻してしまい、妻は子供たちを連れて家を出て行った。その後、子供たちがどこにいるかわからなくなってしまったのだ。
「警察、裁判所、役所にいくら掛け合ってもダメだった」。妻がヴィンセントさんからDVを受けたと訴えていることなどが原因で、子供たちの住所が秘匿されてしまったという。
「私は誓ってDVなどしていない。日本の当局は証拠もなしに、妻の一方的な訴えのみを信じて、私と子供たちを引き裂いたのです。フランス政府、国連、メディアに掛け合っても全部ダメ。もう私の体を投げ出す最終手段しか残されていない」
ヴィンセントさんの行動がSNSなどを通して知れ渡ると、連日、多くの支援者が駆けつけた。ほとんどが、同じような事情で子供たちと会えない“同志”たちだ。19日、20日には超党派で結成されている「共同養育支援議員連盟」の国会議員メンバーも来訪。その度、ヴィンセントさんは立ち上がり、一緒に写真に収まるなど元気な様子を見せていたが、五輪開会式を迎えた23日は一日中、座り込んだままだった。
「足が痛く、立ち上がるのがしんどい。頭もぼうっとする」
支援者によると、医師の勧めで、1週間くらい前から最低限の塩分やビタミンを取ってはいるものの、体力の限界は近づきつつあるという。
フランスでは連日ニュースに
日本でこのような「連れ去り」が多発している要因として挙げられるのが、離婚後の単独親権制度だ。一方、共同親権が一般的な欧米などの先進諸国は、日本に対し「連れ去りは子供への重大な虐待」と批判してきた。20年7月に欧州議会は、日本人の親が日本国内で子供を一方的に連れ去り、別れた相手に面会させないことを禁じる措置を迅速に講じるよう、日本政府に要請する決議案を採択している。
ヴィンセントさんは2年前に、母国フランスのマクロン大統領が来日した際に面会し、支援を訴えている。「あの時、大統領は『善処する』と約束した」。しかし、状況は何も変わっていない。五輪開会式出席のため来日するマクロン大統領に再会し、直訴したい。そんな思いのもと、彼はこの2週間、ハンストを続けてきた。
ヨーロッパ在住のジャーナリスト・栗田路子氏によれば、フランスでは彼の行動は連日大きく報じられているという。
「『ル・フィガロ』『ル・モンド』などの大手紙を始め、国営放送のニュース番組でも特集が組まれており、広く市民に共感されています。フランスのみならず欧州圏では、どんなにいがみあって別れても、子供の最善のために協力して育てる『共同親権』が広く実行されているので、みな信じられないといった思いです。24日、マクロン大統領が菅首相との首脳会談でこの問題を取り上げることも大統領府から発表されており、大きな関心が寄せられています」
マクロンは来たのか……
マクロン大統領が来日した23日の午後2時過ぎ、突如、大統領顧問とフランス大使がヴィンセントさんの前に現れ、現場には緊張が走った。マクロンがやってくるのではないかーー。だが、彼らは大統領の代理として訪れただけだった。この時ばかりはヴィンセントさんは体を振り絞るように立ち上がり、フランスから日本に外圧をかけ、この状況を打開してほしいと訴えた。翌24日昼、日仏首脳会談が開かれ、マクロン大統領は菅首相に対策を講じるよう要望したとみられるが、千駄ヶ谷駅前に現れることはなかった。
ヴィンセントさんはこう訴える。
「マクロンがここに来ることが重要だったわけではない。それなら2年前と変わらない。僕が要求しているのは、子供たちと会わせてくれること。そのために、母国がちゃんと動いてくれること。それが確約されるまで、僕は続けます。死んでも構わない。二人の子供たちはパパに会いたがっている。彼らのためにも戦い続けます」
日仏首脳が会談 共同声明で「子の連れ去り問題」言及
出典:令和3年7月24日 AFP
【7月24日 AFP】東京五輪開会式出席のため来日したフランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領は24日、東京・元赤坂の迎賓館で菅義偉(Yoshihide Suga)首相と会談した。両首脳は会談後に共同声明を発表し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現の重要性を強調したほか、国際結婚の破綻に伴ういわゆる「子どもの連れ去り問題」にも言及した。
マクロン氏は会談終了後、「私たちが一丸となって新型コロナウイルスと闘い、回復を目指している時、このパートナーシップは強みになる」とツイッター(Twitter)に投稿。日仏関係を「特別なもの」と評価した。
またマクロン・菅両氏は、会談で気候変動対策についても協議したと明らかにした。
共同声明は、日本におけるいわゆる「子どもの連れ去り問題」にも言及。日本では両親が離婚・別居した際の共同親権は認められていない。両氏は日仏が「子どもの利益を最優先して対話を強化していく」としている。
子どもの問題をめぐっては、わが子を日本人妻に「誘拐された」と主張する日本在住歴15年のフランス人、ヴィンセント・フィショ(Vincent Fichot)氏(39)が今月、子どもとの面会を求めて東京都内でハンガーストライキを行った。
フィショ氏は実子2人と3年近く会えずにいると訴えており、今週、マクロン氏の顧問らと面会している。(c)AFP
日本の「子ども連れ去り」に海外が注目する理由
出典:令和3年7月24日 東洋経済ONLINE
日本の「子ども連れ去り」に海外が注目する理由 「共同親権」をめぐる日本と海外の大きな溝
レジス・アルノー : 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員
7月10日、フランス人のヴィンセント・フィショ氏がオリンピックスタジアムの近く、千駄ケ谷駅前でハンガーストライキを始めた。オリンピック期間中に自らが直面している問題に世界の注目を集めるためだ。2018年8月10日に妻が2人の子どもを連れて去ってから、フィショ氏は子どもたちに会えていない。
目下、離婚裁判が進んでいるが、フィショ氏と妻はまだ婚姻状態にあるため、法律では2人は今も共同親権者だ。もっとも、離婚までの監護権者は裁判所で妻に指定されている。この件で、妻はフィショ氏による家庭内暴力を主張し、フィショ氏は全面的に否定した。村松多香子判事は、ドメスティック・バイオレンス(DV)があったかについては判断しないまま、監護権者として母親を指定した。
マクロン大統領が菅首相に協議を要請
フィショ氏はハンガーストライキの場所と時間を慎重に選んだ。そして、日本の中で世界の注目を集めている場所のそばで、オリンピックの13日前に行動を起こしたのである。
同氏はこれによって、フランスのエマニュエル・マクロン大統領がこの問題に対して何らかの行動を取ることを望んでいる。フィショ氏は2019年に同大統領と在日フランス大使館で会い、この件について問題提起をした。同大統領は同情し、その日の夕食会で当時の安倍晋三首相にこのことを話している。
「だが、それ以来、何の進展もない」と、フィショ氏。フランス大統領府が明らかにしたところによれば、マクロン大統領はオリンピックで来日の際、この問題を協議することを菅義偉首相に求めている。大統領は、数少ない重要な国家元首の1人がはるばるフランスから訪れるのだから、自分の立場は強いと見ているようだ。
マクロン大統領はまた、菅首相が安倍前首相よりも一個人としてこの種の社会問題に柔軟であると信じている。ただし、フィショ氏のもとを訪れることは逆効果だろうと考えているのか、現段階で大統領はフィショ氏を訪れることは予定していない。
フィショ氏の行動は世界の注目を集めている。フランスのAFP、アメリカのワシントン・ポスト、イギリスのフィナンシャル・タイムズなどがこの件を報じている。しかし、マクロン大統領が子の連れ去り問題を来日時に取り上げることを明らかにしたことから、ようやく少し取り上げられるようになったものの、日本のメディアはほとんど沈黙したままだ。
千駄ケ谷駅の改札口には外国人と日本人の何十人もの親(男性の方が多いものの、女性も少なくない)がフィショ氏のもとを日々訪れている。水筒を持ち寄り、同氏を支えている。お互いに自分の物語を語り、泣いている。毎日通っている人もいる。自分の結婚相手と連絡が取れなくなった人もいれば、パートナーとの関係が緊張状態にあり、子どもが連れ去られるのではないか、とおそれている人もいる。
「大阪からバスで会いにきてくれた日本人の父親もいます」とフィショ氏は話す。
「子の連れ去り問題」日本と海外で認識の差
国際結婚をしたカップルの片方が、子どもとともに姿を消して連絡を絶つ、という問題は双方が日本人同士であるより複雑だ。それは、日本と他国の制度や考え方に大きな違いがあるからだ。
例えば日本とフランスの制度を比較した場合、どちらの国も、「子どもの最善の利益」を原則としている。しかし、「何が子どもの最善の利益か」という点において、両者は大きく異なっているように見える。日本の裁判所は、継続性の原則、つまり、子どもの現在の生活状況に特段の問題がなければ、その状況を維持することが子どもの最善の利益にとって重要であると考えている。
他方で、フランスでは両親の相互への愛が冷めたとしても、子どもとそれぞれの親との関係を維持することこそが子どもの最善の利益である、という信念がある。このため、フランスでは両親が離婚しでも双方の親が親権を持つ。
フランスの家族法に詳しいセリーヌ・ケダール=ボーフール弁護士は過去30年間、繊細な事例を扱ってきた。同弁護士によると、「子どもたちは主に同居する親としてどちらかの親を指定されるが、もう一方の親もどうどうと子どもに会うことができる。一般的には隔週の週末とすべての祝祭日の半分だ」と話す。
判事は子どもの「主な住居」としてどちらがふさわしいかを判断する際、いくつかの基準を検討するーー子どもと過ごす時間を持てるかどうか、教育面での世話ができるかどうか、どれくらいの収入があるかなどだ。
「例えば夫が教師で、家で過ごす時間が多い一方、妻が弁護士で極めて多忙という場合は、判事は子どもの家として夫の家を選ぶ」とケダール=ボーフール弁護士は話す。結果的に、フランスでは、両方の親が子どもと十分に過ごすことが認められている。
また、日本の制度と比較した場合大きく違うのは、子どもとの面会を求めることができる人の範囲が驚くほど広いということだ。フランス民法典第371条第4項は次のように説明している。
「家庭裁判所は、子どもの利益のために、親かどうかにかかわらず、特に、その第三者が基本的に安定して子どもおよび親の一方と一緒に住んでおり、子どもの成長、養育費、安定的な生活を提供し、子どもと永続的な感情の結びつきを築いている場合には、子どもと第三者の関係性に関する条件を決定しなければならない」
これが実際に意味することは、祖父母や義理の親、さらには乳母であっても、長い間子どもたちと一緒にいた人なら、両親の離婚後も面会を求めることができるということだ。当然、子どもたちが望んでいる場合だが。
DV被害者を守る制度
共同親権問題を語るときに重要となってくるのが、ドメスティック・バイオレンス(DV)である。カップルのどちらかが伴侶から暴力を受けていて、妻あるいは夫が子どもを連れて去る、というケースも考えられるからだ。この場合、逃げた側が自身と子どもの安全のため身を隠していることもあるだろう。
フランスでもDVは大きな問題だ。フランスでは女性がDVから逃れたいと思ったときの仕組みはこうだ。
「DVの疑いがある場合、裁判所はヒアリングが設定された日から最大6日以内に、被害者に対する緊急保護命令を出すことができる。請求してから数日でヒアリングの日程が決まる。一般的に、例えば女性が木曜日に申請した場合、翌週の火曜日に裁判所でヒアリングが行われ、翌週に決定が下される」(ケダール=ボーフール弁護士)。命令では、加害者を家から退去させることもできる。期間は6月だが、延長も可能である。
これに対し、日本では、DV被害者は逃げるのが基本だ。退去命令を求めることも可能だが、その期間は2カ月であり、その間にDV被害者は自分が住んでいる家から逃げ出さなければならない。このように効果的なDV対策制度がないため、被害者の親は子どもと一緒に逃げて自己防衛しようとするほかない、と子を連れ去る親への偏重を是とする日本の弁護士や非政府組織は説明する。
もっとも、フランスでは、こうしたDVが問題になる場合でも、両親のうち一方が子どもとまったく会えなくなることは通常ない。ケダール=ボーフール弁護士によれば、「子どもを連れ去られた親が暴力的であることが判明した場合でも、心理学者が同席し、判事の監督の下、『面会センター』で子どもと会うことができる。後に、父親が暴力的でなくなったと判事が判断すれば、元夫は段階的に子どもたちと会うことができるようになる」。
一方、日本では両親がそろって同意したとしても、離婚後の共同親権は認められていない。すなわち、両親の別離があった場合、子どもは2つの家庭に属するのではなく、完全な親権を持つ親と一緒に、もう一方の親から離れるべきだという考え方が基本となっている。
「日本では、別離後の面会はイベントであり、日常生活の一部ではなく、面会というイベントは子どもの日常生活を害さない限りで認められる。反対にフランスでは、面会は子どもの日常生活の一部だ」と家族問題を専門とする、ある日本人弁護士は説明する。日本では、残された方の親が判事から面会を認められても、その頻度や時間は申し訳程度のものとなるだけでなく、親権を持つ親によって拒否されれば実現はほとんど不可能だ。
離婚したら子どもの人生から「切り離される」
子どもの連れ去りが容認され、その後は、継続性の原則にしたがって、どちらかだけの親にすべてが与えられる。日本の制度が今後もこうした考えに基づくのであれば、伝統的に主に育児をする側との認識がある妻側だけが主に親権を持つという状況は変わらないだろう。
それどころか、日本人は離婚後に、基本的に親権を持たない親(多くは夫)が子どもの人生から自分が切り離されるという事実や、妻が再婚した場合、夫は完全に子どもの人生から消し去られるという事実を難なく受け入れてきている。
が、一方で若い父親たちはこうした法律を徐々に受け入れないようになってきている。「育児に関して、30代、40代の多くの父親はそれ以前の世代と考え方がまったく違う。育児に関わり続けたいと考えている」と、家族問題を専門とする大畑敦子弁護士は話す。「面会を要求する父親の数はますます増えている」と別の弁護士は付け加える。
実はフランスでも、もともと共同親権が認められていたわけではない。「私が30年前にこの仕事を始めた時には、制度的に母親が親権を持っていた。子どもの近くにいるためだけに妻と一緒にいる、と告白する父親はめずらしくなかった」と、ケダール=ボーフール弁護士は話す。
「2002年に共同親権が法律上の基本原則となった。それ以来、男女間の関係性はまったく違うものになった。もちろん、別れた後のふたりの関係はつねに複雑だ。しかし、双方がお互いに子どもと会い続ける権利を持つことに同意はしている」
今回、フィショ氏の妻と弁護士にも取材を申し込んだが、「繊細な段階」として取材を受けてもらうことはできなかった。
「必要なのは約束よりも結果」ハンスト12日目 ヴィンセント・フィショ氏
出典:令和3年7月22日 Japan In-depth
「必要なのは約束よりも結果」ハンスト12日目 ヴィンセント・フィショ氏
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部
【まとめ】
・ヴィンセント・フィショ氏は7月21日、日本外国特派員協会が主催したオンラインで会見に出席した。
・親権をめぐる日本の問題は、法ではなくその適用にある。
・日本の司法システムが、子供の連れ去りを助長している。
ヴィンセント・フィショ氏は7月21日、日本外国特派員協会(FCCJ)にて行われた会見にオンラインで出席した。(「Press Conference: A hunger strike with diplomatic implications by Vincent Fichot(記者会見:ヴィンセント・フィショ氏による外交問題を提起するハンスト)」フィショ氏は、3年前、妻が2人の子どもを連れて家を出て以来会えていない。現在、子どもたちとの再会を求め、国立競技場近くの千駄ヶ谷駅(東京都・渋谷区JR東日本総武線)構内でハンガーストライキを行っている。 7月21日は、その12日目。自身の健康状態に不安のある中、子どもの権利尊重を訴えた。(前記事:「日本の司法制度は子どもの権利を守ってくれない」ハンスト続けるヴィンセント・フィショ氏)
司会を務めカカリン・ニシムラ氏(仏「リベラシオン」と「ラジオ・フランス」の特派員)は、会見開催の意図を次のように説明した。「私たちがこの会見を設ける必要があると考えたのは、フィショ氏と同じ境遇にある人が多くいること、そして、フィショ氏が彼の子どもだけでなく同じ境遇にある多くの子どもたちの権利のために戦っていることを知っているからです」。
共同司会を務めたピオ・デミリア氏(イタリア人ジャーナリスト)によれば、FCCJはこの会見を開催するにあたり、フィショ氏の妻の担当弁護士から手紙を受け取っている。手紙は、フィショ氏の妻の名誉を棄損しないこと、彼女に言及しないことを求める内容だという。
これに対してフィショ氏は、「私は、妻を貶めるためにここにいるのではありません。日本の全ての国家機関、警察、司法、政府によって侵害されている、私の子どもたちの利益を守るためにここにいるのです」と述べた。
フィショ氏は、続けて自身の現状を説明した。
「私がハンストを行うのは、日本で行いうる全ての法的行為を試しても、日本にはこの状況を変える気がないと分かったからです」
「私は、EUや、欧州議会、2019年にはマクロン大統領にも、訴えを持っていきました。しかし3年間の後に、日本での子どもの誘拐を訴える私の試みは全て退けられました」
「私はフランス政府に圧力をかけることにしました。私の子どもたちはフランス国籍も持っていて、居所に関わらず、保護や人権保障はフランス政府にかかっています。私はハンストを通して、この非難すべき状況をフランス政府に理解してもらいたい。そして日本当局に対して、人権侵害を改善し、子どもたちを東京の家に返し、二度と同じことがないよう約束するように求めてほしい。日本が断った場合には、国際法の侵害として、フランス政府が強い制裁を科すと信じています」
フィショ氏は、日本が自発的に制度改革をする可能性はほとんどないと見ている。
「政府は、共同親権についての審議会を設立すると発表しましたが、これは彼らにとって初めての試みではなく、10年以上何の結果もないまま紛糾しています」
「私たちが必要なのは約束よりも結果です」
「自国領域内の自国民に会いたいという要求を3年間も無視し続けてきた政府が、明日になったら約束を守るようになるとは期待していません」
また、日本の親権制度については、次のように述べた。
「単独親権は問題ですが、最大の問題は司法にあると考えます。裁判官は法を重んじていません」
2011年の民法改正を例に挙げ、さらに訴えた。2011年の民法改正は、児童虐待から子どもを守ることを目的とし、親権が子どもの利益のために行われることを初めて明記した。(参考:「児童虐待から子どもを守るための民法の「親権制限制度」」政府広報オンライン)
「2011年に改正された民法では、親権を獲得するために子どもを誘拐するような凶悪な犯罪を犯す親には親権を与えず、子どもの成長と両親との健全な関係構築のために友好的な計画を提示する親に親権を与えるという点が、改正の原則であり、改善点でした。しかしこれは日本の裁判所では一切顧みられませんでした。問題は法自体にあるのではなく、その適用にあるのです」
さらにフィショ氏は、ハンストの現場を訪れた自身の支持者について言及し、日本政府を批判した。
「7月10日以来、フランス人だけでなく多くの人がたずねてくれました。支持者や、子ども誘拐の被害者たち、それも親だけでなく子の立場の人々もいました。12日の間、先進国で起こっていることと思えないような話を聞きました」
「全ての証言は問題の重大さを示しています。法務省や外務省は、国会議員の質問を受けるといつも『個々の場合に応じて』というけれど、もし彼らが私と一緒にここで12日間座っていれば、これが「個々」の問題でなく組織的な問題だとわかるでしょう。私の事例は特別ではなく、日本人・外国人・母親・父親あらゆる人に起こることです。最終的には子どもたちがこの犯罪・人権侵害に立ち向かうことになるのです」
子ども誘拐の被害者が父親である場合と、母親である場合の違いについての質問に対しては、次のように述べた。
「区別なく誰にでも起こります。しかし、父親が「妻が子どもを連れ去った」と言えば初期反応は「きっとそうするだけの正当な理由があったんだろう」というもので、突然DVや会話の中のことが持ち上がる。一方母親が暴力をふるった可能性となれば、すぐさま決めつけられることはないようです」
「被害者には、母親が多いように感じます。そしてその大きな理由は競争にあると思います。父親は、母親が子どもを連れ去ってしまえばもう二度と子どもに会えないと知っているので、より早く子どもを連れ去って親権を確保することを考えるでしょう。システムが、このドラスティックな行為を助長しているのです」
「私が子どもたちを取り戻したい理由は、日本が私の子どもたちの権利を守ってくれないことが現在明らかだからです。彼らの権利を尊重するために私ができる唯一のことは、私が彼らと共に東京の家に戻り、彼らの利益と両親との健全な関係を保障することです。私は、子どもたちと妻との関係がどうあるべきか決めようとはしていない。彼らが自分で決められる年になるまで、健全な関係を支えようとしているだけです」
マクロン大統領への直訴の実現可能性については、「50-50(五分五分)」と予想した。そのうえで、「約束よりも結果」を求める姿勢を強調した。
「ハンストの目的はマクロン大統領に会うことではありません」
「もし握手をして『最大限努力する』と言うだけなら、私は既に2年前に聞きましたし、それで私の子どもたちの境遇が改善されることはありませんでした」
妻に対して伝えたいメッセージを問われると、フィショ氏は「ありません」と否定した。「ここでの私の戦いは、私の子どもたちを保護すべき日本当局との戦いなのです」。
「短期的にはどんな結果になろうとも、日本当局による子どもの権利侵害を止めることは、過去のすべての抗議行動の結果だと言えるでしょう。過去20年もの間、メディアがこの問題を議論し、政府が目を向ける水準には達していませんでした。私以前に行動を起こした人全てに感謝しています」。
会見に質問を寄せたメディアは、Reutersなど外国メディア、フリージャーナリストが中心。会場で質問した日本のマス・メディアは読売新聞一社のみだった。
マクロン大統領は、23日に東京五輪開会式出席の為に来日する予定だが、フィショ氏と面会するかどうかはまだわからない。マクロン大統領が菅首相と面会した時に「子どもの連れ去り」問題について提起するかも未定だ。開会式まで後2日。東京は連日最高気温30度超の猛暑だ。フィショ氏の健康が懸念される。
【ヴィンセント・フィショ氏 FCCJ会見動画】
https://youtu.be/jithMFYFJfA
【以下追記:2021年7月22日21時】
Japan In-depthはフランス大使館に対し、フィショ氏の問題に関する見解を独自に問い合わせた。
会見と同日(7月21日)、フランス大使館より公式のコメントが得られた。内容は、以下の通り。
「Fichot氏の状況はこの大使館でも約3年前から注意深く追っており、私たちはこの家族の状況について日本の当局(外務、司法、警察)に繰り返し注意喚起してきました。
Fichot氏の子どもたちの居場所については、これまで何の情報も一切提供されておらず、私たちの再三の働きかけにもかかわらず、Fichot氏が子どもたちに会える保証も、またこの大使館が領事訪問することを認められるということも、何の約束もとりつけられていません。
フランス当局は、最も高いレベルにおいても、またこの大使館においても、この件について引き続き注力し、また子どもの最善の利益のために解決策を見出す必要性について、日本当局に訴えかけ続けます。」
マクロン大統領が来日、東京五輪開会式に出席 日仏首脳会談で共同親権問題も協議へ
出典:令和3年7月21日 東京新聞
マクロン大統領が来日、東京五輪開会式に出席 日仏首脳会談で共同親権問題も協議へ
【パリ=谷悠己】フランス大統領府は20日、マクロン大統領が次回2024年パリ五輪開催国の首脳として23日の東京五輪開会式に出席するため来日すると発表した。24日に菅義偉首相との会談が予定されている。
大統領府は、首脳会談ではフランスの海外領土があるインド太平洋地域の安定が主要議題の一つになると説明。同地域での中国の軍事的、経済的な台頭を背景に、日本との連携を確認する目的があるという。
大統領府はまた、マクロン氏が、日本人配偶者との離婚後も子どもの親権を主張する在日フランス人を支援するため、日本側当局者と協議する意向だと明らかにした。日本と違って共同親権を認めているフランスなど他国出身の外国人が来日後、日本の裁判所の決定で離婚後に子どもに会えないことを不当だと訴えるケースが相次いでおり、仏国内でも注目を集めている。
仏マクロン氏、来日時に子供の「連れ去り」問題を討議へ
出典:令和3年7月21日 日本経済新聞
【パリ=白石透冴】フランスのマクロン大統領は23日の来日時に、国際結婚が破綻した後に起きる子供の親権問題について日本側と討議する。フランスでは日本の制度は子供の連れ去りを容認しているとの指摘があり、問題意識を共有する。
仏大統領府関係者が明かした。東京五輪開会式出席のため来日し菅義偉首相とも会談する予定だが「日本が決めるべき事柄だが、日本当局と解決策を探る」(大統領府)という。配偶者に子供を連れ去られたとしてフランス人男性が10日から都内でハンガーストライキをしており、仏政府も関心を高めている。
日本の民法は原則、離婚後の親権は片方の親が持つという「単独親権」の考え方を取る。ただ片方の親が無断で子供を連れ去って親権を主張し、他方の親が泣き寝入りするという問題につながっている。フランスでは離婚後も両方の親が親権を持つ共同親権が基本となっている。
「子連れ去り」協議へ 東京五輪で訪日時―仏大統領
出典:令和3年7月21日 時事通信
【パリ時事】東京五輪の開会式に出席するため訪日するフランスのマクロン大統領が、国際結婚の破綻に伴う、いわゆる「子供の連れ去り問題」に関し、日本政府側に協議を求めることが分かった。仏大統領府が20日、明らかにした。
フランスは共同親権が認められ、夫婦の関係が破綻しても、いずれも子供に会う権利を持つ。離婚後は子供が平日を母親と過ごし、週末を父親と過ごすなど、双方が均等に子供を養育するよう工夫している。また、親の一方が他方に無断で子供を連れて引っ越すのは禁止されている。
日本は単独親権で、離婚した場合は親のどちらかが子供と暮らし、他方の親が面会交流を認められない場合もある。子供の進学や居住地などは親権者が決定する。こうした日仏両国の制度の違いから、子供の親権や面会交流をめぐる争いが多く報告されてきた。
日本に暮らすフランス人のバンサン・フィショさん(39)は、日本人の妻が子供を連れて突然家を出たと訴え、今月10日からハンガーストライキを行っている。仏大統領府は「大統領はフィショさんの状況に注意している。日本当局との解決策を引き続き模索している」と説明した。
これに関して茂木敏充外相は13日、「個別の民事事案にコメントする立場にない。(日本)国内における事案は、国内法にのっとり、当事者間で解決されるべきだ」との認識を示した。
「日本の司法制度は子どもの権利を守ってくれない」ハンスト続けるヴィンセント・フィショ氏
出典:令和3年7月17日 Japan In-depth
「日本の司法制度は子どもの権利を守ってくれない」ハンスト続けるヴィンセント・フィショ氏
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(石田桃子、菅泰亮)
【まとめ】
・フィショ氏、子どもとの再会のためハンスト継続、7日目迎える。
・離婚・親権をめぐる日本の法制度に疑問を呈する。
・フランス政府による日本政府に対する圧力を望む。
炎天下の千駄ヶ谷駅前(東京都渋谷区)。「拉致」の文字がはためくのぼりの下に、横たわる男性の姿がある。フランス人、ヴィンセント・フィショ氏。息子と娘との再会を果たすため、ハンガーストライキを続けている。今日で7日目だ。気温30度を越す猛暑の中、体力の消耗が激しいように見える。
■ ハンストのわけ
なぜ、フィショ氏はハンストを始めたのか。ことの発端は、2018年8月10日にさかのぼる。フィショ氏の妻が当時3歳と11か月の子供を連れて家を出たのだ。
妻の弁護士を通じて知らされた理由は、彼のDVだった。DVの事実は、後の裁判で否定され、妻もその主張を撤回している。にも関わらず、妻や裁判所は、彼と子供との面会を拒否し続けている。
「私は警察に4回行って、子供の誘拐を訴えたが、警察は私の訴えを拒否した。その代わりに、もし私が子供に会おうとすれば、誘拐未遂罪で逮捕すると言った。私はまだ親権を持っているのに」
そうフィショ氏は訴える。
3年近くもの間、彼は子供に会えていない。
「今では子供たちが生きているかどうかもわからない」
フィショ氏の決意は固い。
「子供たちを家へ連れて帰る」
そのためにフィショ氏は、ハンストを選んだ。
■ ハンストのメッセージ
私たちはフィショ氏に彼が最終的に何を望んでいるのか聞いた。
「私の望みは、フランス政府が、日本に対して子供の権利保護をするように求めること。そして日本がそれを断った時には強い制裁を課すことだ」
フィショ氏は、「日本の司法制度は子供の権利を守ってくれない」と非難する。
「日本は『児童の権利に関する条約』に1994年に批准した。27年も前だ。なのにそれを尊重しないことを続けている。クレイジーだ」
「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」は、子供の基本的人権を国際的に保障するため、 1989年に国連総会で採択された条約(1990年発効)。「子どもの最善の利益(子どもに関することが行われる時は、「その子どもにとって最もよいこと」を第一に考えます)」を原則の一つとしているほか、「児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する(9条1項)」などを定めている。
フィショ氏はこれまでも、似た境遇にある親たちと共に、日本における子供の権利侵害を国際社会に繰り返し訴えてきた。国連人権理事会、欧州議会、フランス・マクロン大統領は、彼らの訴えを受理し日本に対する抗議を行った。
フィショ氏によれば、2019年6月の面会時、マクロン大統領は「私たちの状況を「受け入れられない」と言って、支援すると表明してくれた」という。
このほか、日本に対する国際的な抗議は、参議院の調査報告(『立法と調査 2020. 9 No. 427)に、以下のように紹介されている。
「2019(平成31)年2月、国連の「児童の権利委員会」が、日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見において、「児童の最善の利益である場合に、外国籍の親も含めて児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正し、また、非同居親との人的な関係及び直接の接触を維持するための児童の権利が定期的に行使できることを確保する」ため、十分な人的資源、技術的資源及び財源に裏付けられたあらゆる必要な措置をとるよう日本に勧告した。これに対し政府は、勧告については真摯に受け止めているとしている。」
「2020(令和2)年7月、欧州議会は、加盟国の国籍をもつ人と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が日本国内で子を一方的に連れ去るケースが相次いでいるとして、連れ去りを禁止する措置や共同親権を認める法整備などを求める決議を採択した。これに対し森法務大臣は、離婚に伴う子の連れ去りや親権制度をどうするかという問題は複雑だが、子の利益を最優先として、様々な意見に耳を傾けながら検討を進める旨発言している」
■ 日本の親権制度
「一方の親による子どもの連れ去り」の問題において、海外から非難を浴びる日本の法制度には、次のことが挙げられる。(参考:コリン・ジョーンズ「日本の法制度における離婚と親権の問題)
1.「一方の親による子どもの連れ去り」の多くが犯罪と認定されないこと。
ある事例が、刑法224条に定められた「未成年者略取及び誘拐」の罪に当たるか否かの判断が警察によって行われる可能性がある。日本の警察には「民事」不介入の原則、特定の紛争が民事か否かを決める幅広い裁量権がある。
2.単独親権制度
婚姻中の父母は未成年の子に対して共同して親権を行使するが(民法第818条第1項、第3項)、離婚後は父母のどちらか一方が親権を行使することとなる(民法第819条第1項)。このように、離婚後に単独親権制度のみを認める国は、インドとトルコ。ほか主要先進国は、共同親権を認めている。
3.両親の離婚後の子どもの扱いについて法律がほとんど規定していないこと。
離婚の際の子どもに関する親権、監護権、面接交渉権の決定に関して、裁判所に課される法定の指針はない。日本の家庭裁判所の裁判官は非常に大きな裁量権を有しており、親権に関する外国の判決からは考えられないような決定を下す可能性がある。
4.調停の段階では、裁判所が「子どもの引き渡し命令」など暫定的な救済措置に消極的な場合があること。
離婚や親権について裁判所に持ち込む場合、まずは家庭裁判所の「調停」に参加する。調停では、裁判所は補助的な役割しか担うべきでないとされており、子どもにとって最善の利益であることが明らかな場合を除き、暫定的な救済措置(子どもの引き渡し命令など)の実施に消極的なこともある。
5.離婚調停が失敗し両親が提訴しない場合、監護権が裁判所の判断により決定されること。
親権に関する司法判断は一般的に、裁判離婚の成立時に裁判所が下す。離婚調停が失敗し、当事者のどちらも提訴しない場合、法律上は結婚したまま親権は双方が持ち続ける。ただし親権の監護権の部分(誰が子どもと同居し養育するか、面接交渉、養育費の支払い、一方の親に連れ去られた子どもを返還させるべきか)に関しては、調停が失敗すると、当事者が訴訟を起さなくても裁判所が自動的に審判の手続きに入る。
■ 日本への失望感
国際的な抗議にも関わらず、日本には改善の気配がない。フィショ氏は失望感を露わにした。
「日本の機関や日本政府が誠意を持って行動しているとは思えない。日本の司法制度や日本政府には全く期待していないし、信用もしていない」
「日本は人権を理解せず、「法の支配」を尊重していないのは明らかだ。なぜなら、日本は国際条約に調印していて、フランスが礼儀正しく外交的に、日本にそれを尊重するよう要請しても日本は協力を拒んでいる」
フィショ氏によれば、フランス当局は、彼の妻の弁護士を通して子供たちとの接触を試みたが、拒否されたという。さらにフランス当局は、日本当局に対して、子供たちの安否を確認するよう求める要請も行ったが、拒否された、と述べた。
「私は、フランスの法律を日本に押し付けようとしているわけではない。日本の司法に求めることは、日本の法律と、国際法と法の支配を尊重するようになってほしいということだ」
「子供たちを取り戻すか、さもなくばここで死ぬ。父として、私の責任 は、持てるものすべてを子供たちに与えること。子供を守ることは、親の権利ではなくて義務なのだ」
「私は最後までここにいるつもりだ」
■ 支援キャンペーン
オンライン署名サイトのChange.orgはフィショ氏の賛同者を求めるキャンペーン「【賛同者募集】 ヴィンセント[ヴァンサン]・フィショと2018年8月10日に日本で不当に誘拐された彼の子供たちとの再会のために)」を実施中だ。
同サイトにおける要求は以下の通り。(翻訳ソフトDeePLによる。正確には上記サイトの原文:仏語を参照のこと)
・私たちは、フランス共和国大統領および政府に対し、人権および国際条約の尊重を定めた日欧戦略的パートナーシップ協定の第2条に違反しているとして、フランスの同協定への加盟を直ちに停止するよう要請します。
・また、日本の親に拉致された子供たちの事件を、フランスが国際司法裁判所に直ちに提訴することを求めます。
・最後に、私たちは、フランスがこの問題に関して同意していないことを証明するために、駐日大使を呼び戻すことを求めます。
「子の連れ去り」被害を訴えるフランス人男性 国立競技場前でハンガーストライキを開始
出典:令和3年7月12日 デイリー新潮
「子の連れ去り」被害を訴えるフランス人男性 国立競技場前でハンガーストライキを開始
いよいよ開幕が近づく東京五輪。その開会式の会場となる東京・千駄ヶ谷の国立競技場前で、フランス人男性が「子の連れ去り被害」を訴え、ハンガーストライキを開始した。「死んでも構わない。国際社会を動かし、我が子に再会できるまで続ける」と語る男性の覚悟とは――。
オムレツとアボカドだけ
7月10日正午過ぎ。東京渋谷区のJR千駄ヶ谷駅前に、大きなリュックを背負った外国人男性が現れた。改札近くの柱の前に座布団を敷き、腰掛ける。同行する支援者が設置した幟には、日本語と英語でこう書かれていた。
〈ハンガーストライキ 拉致 私の子供たちは日本で誘拐されています〉
「今日のために1カ月間かけて準備をしてきました。最初の2週間は炭水化物なしの食生活。その後の2週間は1日1食、オムレツとアボカドだけで過ごしました」
こう語るのは、フランス国籍を持つヴィンセント・フィショさん(39)。これから彼は、水以外は一切口にせず、ここで野宿して過ごすという。彼はつい先日まで、日本の大手証券会社に勤務する金融マンだったが、決起のため仕事も辞めた。なぜ、そこまでしてこのストライキに賭けるかというと、
「子供に会いたいからです。私の子供たちは母親によって“拉致”されてしまったのです。日本の裁判所や警察に訴え続けてきましたが、まったく進展がないままもう3年が経ちます。フランス政府、国連、メディアに掛け合っても全部ダメ。もう私の体を投げ出す最終手段しか残されていないのです」
ある日、突然連れ去られた
ヴィンセントさんが来日したのは15年前、24歳の時。外資系金融機関の駐在員として東京にやってきた彼は、都内でのちに妻となる同い年の日本人女性と知り合ったという。意気投合した二人はやがて結婚。2015年には長男が誕生し、日本に永住する決意を固め自宅も購入した。だが、次第に夫婦仲は険悪になってしまったという。
「17年には長女も誕生したのですが、子育てや家事を巡って言い争いが絶えず、いつしか家庭内別居状態になっていました。妻とこのまま生活が続けられないと考えた私は、弁護士に相談し、離婚に向けた話し合いを始めました。ただ、あの時はまさか、こんな未来が待ち受けているとは思いもよりませんでした」
離婚問題について話し合いが始まって、数週間が経ったある日のこと。仕事から帰宅すると、家の中はもぬけの殻となっていたという。家財道具、車、そして二人の子供まで。
「彼女は子供を連れてDVシェルターに駆け込んでしまったのです。そして、そのまま行方をくらましてしまった。もちろん私は、言葉も含めて、彼女に一切暴力をふるったことはありません」
彼はすぐさま弁護士に相談し、警察に「妻が子供を誘拐した」と訴え出たが、まったく相手にされなかったという。
日本特有の親権制度
このような実子の「連れ去り」は国内ばかりでなく、国際社会でも長らく問題視されてきた。日本は1994年に国連の「子供の権利条約」に批准、2014年にハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)に加盟しているが、国際結婚した日本人妻による連れ去り被害が絶えないため、EU諸国は条約不履行だと日本を批判してきた。20年7月に、欧州議会は、日本で横行する連れ去りに対して「子どもへの重大な虐待」と厳しく非難。日本人の親が日本国内で子供を一方的に連れ去り、別れた相手に面会させないことを禁じる措置を迅速に講じるよう日本政府に要請する決議案を採択した。だが、一向に事態は改善されないまま今日に至っている。
日本社会では、妻が子供を連れて家を出てしまったという話をよく耳にするが、欧米では考えられないことだという。連れ去りは「誘拐」とみなされ、すぐさま警察が介入し、子供は連れ戻されるのが常識だ。
なぜこのような違いが生じるのか。欧米では離婚した後も父母両方が共同で親権を持つのが一般的だが、日本では「単独親権制度」が採られているからである。離婚すると必ずどちらか一方が親権を破棄しなければならないため、離婚裁判で親権が争われる。その際、裁判官が「監護の継続性」を重視するため、先に子供を連れ去り、相手方と引き離してしまう手法が横行していると言われている。
そして、連れ去る側がよく持ち出すと言われているのが、DV被害のでっちあげだ。もっとも、実際にDV被害にあっている配偶者もいるため、実態はわからない。だが、日本では、一方がDV被害を主張すれば、行政が事実の検証なしに住所秘匿の支援措置を出してしまう慣例がある。諸外国のように警察が司法介入してDVの有無を捜査することも滅多にない。そのため、子供を連れ去られた側は「連れ去り勝ち」だと訴え、「単独親権制度撤廃」を求める声が国内でも高まっているのである。
マクロン大統領に訴えたい
妻が子供を連れて出ていった直後、ヴィンセントさんは家庭裁判所に子供の引き渡しと監護者を自分と定めるよう求める訴えを起こしたが、退けられた。現在は、妻から起こされた離婚訴訟が継続中だ。日本の裁判所に掛け合っても難しいと考えた彼は、母国フランスに対して強く働きかけてきた。
「2019年6月に、私は日本で同じような被害にあっているフランス人たちとともに、訪日中だったマクロン大統領と面会し、日本政府に働きかけてくれるよう頼みました。大統領は『受け入れがたいことだ』と言い、当時の安倍晋三首相に抗議してくれた。けれど、2年経っても進展しないままです。マクロン大統領は東京五輪のために来日する予定です。このハンストは、彼に対するメッセージでもあります」
ハンスト中も常に頭から離れないのは、二人の子供たちのことだ。
「長男はパパが大好きで、毎朝私に『仕事に行かないで』とすがってきました。帰宅すると、靴を脱ぐ間もないくらいの勢いで玄関に駆け寄って、『一緒に遊ぼう』って。長女は母親に連れ去られた時は11ヶ月。まだ歩くこともできない状態でしたが、私に頬ずりされるのが大好きでした。彼らに会えない寂しさはもちろんあります。でも、私がこのような行動を起こすのは自分のためではない。父親を奪われ、寂しい思いをしている彼らのためなのです。もちろん、同じような思いをしている『連れ去り』被害者たちのためでもあります」
こう語り、国立競技場を見据えるヴィンセントさん。決死の覚悟のハンストが実を結び、子供たちと再会できる日は来るのだろうか。
デイリー新潮取材班
日本人妻に「子供誘拐された」、仏男性が再会求めハンスト
出典:令和3年7月11日 AFP
【7月11日 AFP】わが子を日本人妻に「誘拐された」と訴える在日フランス人男性が10日、東京都内でハンガーストライキを開始した。男性は、子供たちと再会するための自身の闘いに国際的な関心が集まってほしいと願っている。
ハンストに入ったのはヴィンセント・フィショ(Vincent Fichot)氏(39)。駅の改札前で座り込みを続けるフィショ氏は「すべてをささげてきた。この3年間で仕事も、家も、貯金も失った」と語る。
日本在住歴15年のフィショ氏は息子(6)と娘(4)が戻ってくるまでハンストをやめないと述べ、再会がかなわなければ「フランス当局が真剣に、私の子供たちを守る意向であることを示してほしい。そして、日本が子供の権利保護に同意しない場合には、日本に制裁を科す方針を示してほしい」と訴えた。
フィショ氏によると、妻は裁判でフィショ氏からドメスティックバイオレンス(DV)を受けたと訴えたが、後にその主張を「撤回」。日本の司法から非難されるべきものは何もないと話す。
「あらゆる手を尽くしてきた、子供たちにとって良くないことだと妻を説得しようともした」
「今は子供たちが生きているかどうかも分からない」
日本では、両親が離婚、あるいは別居した場合の共同親権は法的に認められていない。また、片方の親が他方の親の同意なく子を連れ去ることはよくあり、公式な統計はないが、人権団体の推計によると毎年約15万人の未成年者が強制的にどちらかの親から引き離されている。
その中には、フィショ氏の子供たちのように国際結婚した両親の子も含まれる。日本の当局とのやり取りで障害に直面したフィショ氏は現在、フランス政府と国際機関に救済を求めている。
フランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領は今月下旬、東京五輪の開会式に出席するため来日する。マクロン氏は前回来日時、日本で実子と引き離されたフランス人を支援すると表明し、「この苦境はまったく受け入れられない」と非難した。(c)AFP
福原愛さん離婚で「共同親権」認知度が日本でも上昇か
出典:令和3年7月11日 SAKISIRU編集部
卓球元日本代表でロンドン五輪銀メダリストの福原愛さん(32)が、台湾の卓球選手・江宏傑さん(32)との離婚に際して、子どもの養育について「共同親権」を選んだことで、離婚報道直後には「共同親権」がツイッターのトレンドワード入りするなど、「単独親権」制の日本国内での注目度が著しくあがろうとしている。
日本国内での「共同親権」問題を巡ってはその認知度が低いばかりか、左派系の有識者などがDV問題の横行を名目に共同親権導入に反対。推進側は、DV対策とは分けて考えるべきとの見解を示して反論するものの、左派系有識者らがメディアへの影響力の強みを生かし、言論封殺に近いことも行われてきた。しかし今回、台湾の法制度に基づくとはいえ、日本の著名人が共同親権の当事者になったことで、世界の親権制度においては日本の単独親権がむしろ少数になっていることに社会的認知度が広がりつつある。
福原さんのケースでは、福原さんの不倫疑惑や江さんのモラハラ疑惑が週刊誌報道で浮上し、江さん側が今年4月に台湾・高雄の裁判所に離婚を申し立てた。2人の間には2017年に長女、19年に長男が生まれており、裁判所の審理では親権の取り扱いもポイントになっていたようだ。台湾はかつては日本と同じく、離婚後は単独親権制だったが、1996年の民法改正により、単独か共同かの選択制に変更(※)。共同親権を選ぶ割合は2005年に10%ほどだったのが、その後の10年間で倍増するなど、増える傾向にはあったようだ(※)。福原さん、江さんのケースでは、子どもたちがすでに台湾で生まれ育ってきた経緯から、江さんとともに引き続き台湾で暮らしつつ、福原さんも親権を持つことになった。
「単独親権のみ」G20で3か国のみ
我が国ではこの10年ほど、親権制度のあり方を見直す論議が高まり、2011年には国会で民法の一部改正が成立した際の附帯決議で、「親権制度については、今日の家族を取り巻く状況、本法施行後の状況等を踏まえ、協議離婚制度の在り方、親権の一部制限制度の創設や懲戒権の在り方、離婚後の共同親権・共同監護の可能性を含め、その在り方全般について検討すること」といった要請が盛り込まれた。これに対し日本共産党などが「共同親権の拙速な導入に反対」を掲げるなどしてきたが、世界的には共同親権への流れが圧倒的だ。
法務省がG20を含む海外24か国の法制度を調査し、昨年4月に発表した「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制について」の調査では、日本と同じく単独親権のみを採用するのはいまやインドとトルコだけであることが明らかになった。フランスやイタリア、ドイツなどは原則として共同親権を採用。スペインなどは父母の協議により選択制にしているという。離婚後の共同親権の行使で、元夫婦が対立した場合には、イギリスや米ワシントンD.C.などは裁判所での判断に委ねることが多く、タイは行政機関が助言や勧告するという。
こうした流れを受け、日本では3月から、法相の諮問機関である法制審議会の家族法制部会の討議に、共同親権の是非が入って議論される予定だ。ここまで当事者や有識者、メディアなどの間では、約束が守られないことが多い養育費や面会交流、DVがある場合の対策などの問題が挙げられているが、世論の関心の高まりがどう影響するか、上川法相は今年1月ツイッターで「私自身強い思いをもって臨んできた離婚に伴う子の養育のあり方について、法改正に向けた検討を行って頂くため、#法制審議会 に諮問することとしました。離婚に伴う養育費の不払いや交流の断絶は子の養育に深刻な影響を及ぼします。#チルドレン・ファースト の観点でスピード感ある議論を期待します。」と意欲を見せており、議論の行方が注目される。
妻に連れ去られた子どもに会いたい!フランス人男性が五輪開会式場近くで抗議のハンスト
出典:令和3年7月10日 SPEAKUP OVERSEAS
妻に連れ去られた子どもに会いたい!フランス人男性が五輪開会式場近くで抗議のハンスト
2021年7月10日、梅雨の晴れ間のこの日、東京の都心は最高気温が33度を超え、朝までの雨もあって蒸し風呂のような暑さ。間近に迫った東京オリンピックの開会式場となる国立競技場のすぐ前、JR千駄ヶ谷駅の広場で、抗議のハンガーストライキを始めたフランス人がいた。39歳のヴィンセント・フィショ氏である。
日本人女性と結婚し、2人の子どもと家庭を育んでいたが、3年前に突然、妻に子どもを連れ去られたという。八方手をつくしたが、未だに居場所もわからず、子どもに会えていない。
ハンガーストライキの目的は、オリンピックで来日するフランスのマクロン大統領に「子どもに会いたい」との訴えを届け、日本政府に善処を申し入れてくれることだという。というのは、フィショ氏は2019年にマクロン大統領が来日した際に、事態を重く見たフランス大使のはからいで、大統領に直接会って窮状を訴え、当時の安倍首相に進言してもらった経緯があるからだ。
フランスという国は、たとえ国外であっても、フランス市民でもある子どもの基本的人権を擁護することは国の責務との判例もある。
フランス政府が、日本政府にこの件について申し入れをする根拠となるのは、国連の「児童の権利に関する条約」で、子どもは両方の親と親しい関係を築きながら育つ権利を持つという規定である。この条約は1994年に日本も批准している。フィショ氏は、連れ去った親に一方的に監護権を与え、連れ去られた親を完全に遮断するのは、この条約に違反すると主張している。
ハンガーストライキ「私の子供たちは拉致されています」
「私の子供たちは拉致されています」--日本語で書かれた立て看板。JR千駄ヶ谷駅前の広場には、フィショ氏だけでなく、数人の支援者も集まっていた。フィショ氏と同じように実子をもう一方の親(子の母親)に連れ去られた人たちであった。
日本では、どちらかの親が子どもを連れて行った場合、「犯罪」にはならない。家庭内の問題として扱われるため、警察に居所捜査を依頼しても、よほどの事情がなければ協力してくれない。
監護権の問題は裁判所の判断に委ねるしかないが、欧米では片親の一方的な子どもの連れ去りは、「拉致・誘拐」(abduction)として大きな問題になる。日本では家族間の問題との認識が一般的で、裁判所の判断もこうした状況を反映せざるをえない。だが批准している国際条約との齟齬をどうすればよいのか。
「千駄ヶ谷駅を抗議の場所としたのは、マクロン大統領が国立競技場のオリンピック開会式に出席するからで、子どもに会えるまでここで頑張ります」とフィショ氏は話した。
ハンガーストライキの初日だったので、取材に来るメディアも少なかったが、今回のフィショ氏の抗議行動が、日本国内のメディアにも取り上げられ、国連の「児童の権利に関する条約」や、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(日本も批准している、いわゆるハーグ条約)について一般市民の認知を高め、考えるきっかけになるかもしれない。
一人のフランス人の命がけの戦いの結果として。
櫻井よしこ 「家族」壊す保守政治家
出典:令和3年7月6日 産経新聞
政権中枢の保守政治家に何が起きているのか。次世代の星とされていた人々の意外な言動で家族が壊されつつある。
戦慄の書、『実子誘拐ビジネスの闇』(池田良子、飛鳥新社)によると、卒田譲司氏(仮名)の妻は平成22年、夫の留守中に幼い娘を連れて家を出て、夫婦は離婚した。親権をめぐる裁判で、元妻は卒田氏をドメスティックバイオレンス(家庭内暴力、DV)夫と非難したが、卒田氏は幼い娘の食事の世話、絵本の読み聞かせ、夜、寝かしつけるところまでこまやかな愛情を注いでいた。足かけ6年の審理で千葉家裁松戸支部は卒田氏のDVを認めなかった。元妻の娘に対する単独親権も認めず、娘は両親による共同養育を受けるべしとの判断を下した。共同養育を認めた点で画期的判決だった。
だが、東京高裁で異常事態が起きた。普通の夫婦の離婚話に31人もの左翼系弁護団が元妻擁護で結成されたのだ。高裁も卒田氏のDVは認めなかったが、親権を元妻に認める大逆転判決となった。
※以下、記事PDFを参照ください。
子の連れ去り 規制賛否 現行法 明確な規定なく
出典:令和3年7月5日 北海道新聞
夫婦の一方が同意なく子どもを連れて家を出る「連れ去り」が問題になっている。家庭内暴力(DV)からやむを得ず避難する例がある一方、連れ去られた側からは「欧米の多くの国では誘拐行為。緊急性が高い場合を除き、日本でも違法化すべきだ」との声も上がる。背景には、日本では連れ去りであっても、「子と同居中である」ことが親権を得るのに有利とされる現状がある。当事者の思いや識者の見方を紹介する。
■当事者の女性「共同親権を」
道央の30代女性、慶子さん(仮名)は1年ほど前、西日本に住んでいた時に幼い子どもを義父母と夫に連れ去られた。離婚を拒んでおり親権はあるが子とは月1回、数時間の面会交流でしか会えない。「私に育児放棄や浮気などはないのに、なぜ子どもと一緒に過ごせないのか。毎日がつらい」と話す。
■離婚せず耐える
夫の故郷で結婚・出産。近くに住む義父母は頻繁に訪ねてきた。義母は「(嫁いだのだから)独身時代の家具は捨てて」「子ども用品は一番高くて良い物を実家に買わせて」など干渉が激しかった。要求を拒むたびに非難され、夫は義父母の肩を持った。慶子さんは「子どものために離婚したくない」と耐えていた。
ある日、慶子さんが義母への不満を口にすると、激怒した夫からたたかれた。夫は義父母宅で暮らし始め別居状態に。直後に子どもが無断で連れ去られた。
義父母宅に駆けつけた。「ママ」と呼ぶわが子の前で、義母は「他人の家に入らないで。うちらの孫だ。母親とか関係ない」と怒鳴った。夫は「おまえは必要ない」と言った。罵倒に耐えながら数時間交渉したが、引き返すしかなかった。
その後も子を返すよう求めたが拒否された。連れ去りから数日後、夫から腕をつかまれ、子の親権者を夫とする離婚届に署名するよう強要された。「(拒否するなら)覚悟しとけよ」とすごむ義父。抵抗しきれず署名した。離婚届の不受理を役所に事前に申請していたため、無効となった。
地元の警察にも相談した。「夫らが子の面倒を見てるんでしょ」と相手にされなかった。慶子さんは親戚を頼って道内に避難。子の日常の世話をする「監護者」の指定を求める調停や審判を家裁に申し立てた。録音していた暴言の一部も証拠として提出した。
家裁が監護者に指定したのは夫だった。「妻の意に反し子の監護から切り離された。夫らに非難されるべき点はある」としつつも「違法な連れ去りではない」と結論づけた。高裁まで争ったが「夫らの方法は強引だが身の危険を感じさせる暴力や脅迫はなかった」と決定は覆らなかった。
■正義なんてない
慶子さんは「私は精神・身体的暴力の被害者で夫らの行為は誘拐のはずなのに、裁判所は夫側を守った。正義なんてない」と憤る。
月1回の面会交流は夫側の提案だ。ホテルの一室で手料理を食べさせたり、塗り絵をしたり。「一緒に暮らしていた時と同じようなことをしたい」。夫側は「離婚に同意すれば面会交流時間を延ばす」と持ちかけてきた。慶子さんは応じず、面会交流の回数増を求めて調停を行っている。
自分1人だけで養育したいとは思わない、と慶子さんは言う。日本は離婚後、父母のどちらかが親権者となる単独親権制度の国だ。慶子さんは共同親権なら、夫らが強引に子どもを奪わなかったのではと考える。「両親から愛されるのは子どもの権利で、それを軽視する日本はおかしい」
親に子の奪い合いをさせる単独親権は、もう終わりにしてほしい。切に願っている。
■法規制求め仲間と団体設立へ
SNSで体験発信する元プロ棋士・橋本崇載さん
将棋の元プロ棋士(八段)で4月に引退した橋本崇載(たかのり)さん(38)=東京=は、自身が体験し引退理由にもなった「連れ去り被害」を会員制交流サイト(SNS)で実名で発信している。「同じ目にあう人をなくしたい」と国に法規制を求める団体をつくる考えだ。
2年前の7月、橋本さんが東京での対局を終え滋賀県内の自宅に戻ると、生後4カ月の一人息子と妻の姿がなかった。それ以来、息子とは会えていない。妻が家を出る前日、橋本さんが「自転車で転びケガをした」と連絡したところ妻に「自業自得」と返され、ケンカになっていた。妻に話し合いを呼びかけると、弁護士から離婚や慰謝料を求める書類が届いた。
息子の監護者指定を巡る裁判や審判で、妻は橋本さんから日常的に暴言を受けたと主張。裁判所は妻の監護権を認めた。橋本さんは「暴言も暴力も浮気もない。対局がない時は毎日息子を風呂に入れた。なぜ息子と会えなくなるのか」。いまも離婚はせず親権を争い続ける。
対局では集中力を欠き勝てなくなった。街で親子を見かけると立ちくらみし、鬱(うつ)の診断を受け昨年10月から公式戦を休場していた。
「連れ去り容認の現状はおかしい。世間に問いかけ国と戦おう」と決め、引退直後から動画共有サイトのユーチューブで体験談を配信。短文投稿サイトのツイッターにも投稿した。反響が広がり、ユーチューブは一時2万人以上が登録しツイッターは約1万2千人がフォロー。メディア取材が続き、国会の委員会では議員が、橋本さんの例を挙げ法相の見解を求めた。
投稿動画は20本を超し、同様の体験をした人から相談を受けるようになった。「子どもと会えず絶望して自殺した人もいると聞いた。これは命に関わる問題なんです」と強調する。橋本さんは近く、連れ去りの違法化や共同親権を目指す法人を仲間と設立する。連れ去りの主な理由とされるDV被害については、捜査の義務付けを求めるという。
■調停・審判 10年で倍増 国の責任問う訴訟も
2020年の司法統計(速報)によると、全国の家庭裁判所で新たに受けた子の引き渡しに関する調停は1578件、審判は2462件で、いずれも10年前の約2倍に。昨年2月には、連れ去りを国が規制しないのは違法として、子と別居中の親14人が計約150万円の国家賠償を求める裁判を東京地裁に起こした。14人のうち2人は母親だ。
訴状によると、原告は裁判所が子を連れ去った親に監護権を認めたため子に会えなくなったり、会えても月数時間だったりして、親が子を育てる権利を侵害されたと主張。両親双方から監護を受ける子どもの権利も侵害したとしている。
原告代理人の作花(さっか)知志弁護士は問題点として《1》裁判所は今の育児に支障がないとみなせば同居親に親権を認める《2》日本は連れ去りに刑事・民事とも罰則がなく、別居親が子を連れ戻すと逮捕される《3》面会交流について誰が誰に求めるか規定がない―の3点を挙げる。
作花さんは「父親による連れ去りも約2割あるとされる」とし「日本は、国境を越えて連れ去られた子の返還を定めるハーグ条約に加盟し、国連子どもの権利委員会からハーグ条約に合わせ国内法を改正するよう勧告も出ている。国会には連れ去りを防ぐ立法義務がある」と強調する。
被告側の法務省担当者は取材に「国の主張は裁判の中で尽くしたい」とした。
■DV判断 基準が必要
小田切紀子・東京国際大教授(臨床心理学)
連れ去りは欧米の多くで誘拐とされ刑事罰の対象になる。日本では、まずDVの有無について判断基準を作るべきだ。これがないことが、連れ去りが起きる大きな要因となっている。
私がかかわった事例で、別居中の父親に「絶対会わない」と拒んでいた小学生の男児がいた。心理ケアの一環で一緒に卓球をしたら「やり方はパパに習った。卓球もテニスも上手なんだよ」と話した。本当に嫌いなら、そんな発言はしない。児童心理の専門家が、別居直後に子の気持ちをじっくりと聞く制度が必要だ。
各種研究によると、別居親に会えない子どもは自己肯定感が低い傾向にある。米国のほぼ全ての州は離婚する夫婦に、子への影響を学ぶ研修の受講と、面会交流や養育費について定める養育計画書の作成を義務づけている。日本でも、それらに予算を割くべきだ。
■親権のあり方 柔軟に
清末愛砂・室蘭工大教授(憲法学、家族法)
DVは本当に多いのに、被害者が最終手段として子連れで逃げても「連れ去り」と批判する論調がある。DVの訴えを虚偽とみなす人がいるのは極めて残念。DV被害者にとって「うそ」との主張は言葉の暴力であり、即刻やめるべきだ。
共同親権か単独親権かの二者択一の議論には疑問を感じている。個々のケースに合わせた柔軟な親権のあり方が求められる。
面会交流は子どもの権利で子の意思が最優先。親子の別居後に面会交流を一律前提とする考え方は問題だ。ただ、争いが激しい離婚だと同居親に配慮し本音を言えない子もいる。意思表明を手助けする子どもの手続き代理人制度の充実や、成長とともに変わりうる子の意思を継続的にフォローする仕組みが欠かせない。
そうした議論がない段階で共同親権について考えるのは時期尚早ではないか。
■違法化 DV被害者に命の危険
札幌の支援団体「女のスペース・おん」・山崎菊乃代表理事
「連れ去り」の違法化には反対も根強い。DVの被害女性を支援する札幌のNPO法人「女のスペース・おん」代表理事の山崎菊乃さん(63)は「子どもを置いていけないDV被害者は逃げられず、命の危険にさらされる」と懸念する。
自身も子連れ避難の経験者だ。かつて元夫と埼玉県で暮らしていた。山崎さんが実家からコメをもらうと、「稼ぎが悪いとばかにしてるのか」と殴られた。翌日、元夫は土下座し謝ってきた。その後も暴力は続いたが「母子家庭は大変だから」と離婚しないでいた。
その後、元夫の実家がある旭川へ。ある日、弁当のコロッケ用ソースがなくケチャップにしたら、元夫は「ばかにしてる」と殴ってきた。中学生の娘が元夫に包丁を向け「やめて!」と叫んだ。「私の我慢が子どもを傷つけた」。山崎さんは避難を決意、3人の子と札幌の女性シェルターに入った。元夫は警察に捜索願を出し「妻が子を連れ去った」と主張したと聞いた。
自身の体験やDV被害者の支援を通し山崎さんは「子連れの避難は誰もが必死。子どもの環境を変えてでも逃げざるを得ない理由がある」と確信している。
DVの捜査義務化を求める声について山崎さんは「加害者の報復が怖かったり、子の親を犯罪者にしたくなかったりで、警察に通報せず逃げる人は少なくない」と有効性に疑問を持つ。
DV防止法で加害者への処罰が保護命令違反しかないのは不十分だとも指摘。「加害者の多くは『自分は何もしていない。子と会えない自分こそ被害者』との意識を持ち続ける。諸外国のように、悪いことをしたと気づかせる更生プログラムが必要だ」と訴える。
山崎さんは元夫と子の面会交流を認めていた。元夫は子との会話で住所を絞り込み、山崎さん宅まで来た。ただ、山崎さんが毅然(きぜん)と対応すると高圧的な態度が変わった。「面会交流はDV被害者の恐怖が消えてから始めるべきで、子の意思が最優先。同居親の下で安心できる場を設け、初めて自由に意見を言える。子の思いをくみ取る専門家の育成が重要」と強調する。(編集委員 町田誠)
パパとママ どっちがいい?
出典:令和3年6月9日 NHK
20万8496組…離婚した夫婦の数(2019年)
20万5972人…親の離婚を経験した未成年の子どもの数(2019年)
夫婦の3組に1組が離婚する時代。今、離婚に際し、子どもをめぐって夫婦が争うケースが増えている。背景には社会情勢の変化があるとされ、国の法制審議会でも「親権」について議論が始まることになった。
離婚する夫婦の間で何が起きているのか。当事者の声に耳を傾け、実情を取材した。
(社会部記者 長井孝太、山田宏茂)
ある夫婦のケース
都内に住む40代の会社員の自宅。「家族でのびのび暮らし、ゆくゆくは夫婦のついの住みかに」とローンを組んで買った住宅のリビングは静まり返り、隅には子どものおもちゃが並ぶ。
妻と共働きで家計を支えながら、結婚3年後に長男を授かった。育児や家事を2人で分担することに喜びを感じていた男性。近くに住む両親も育児に協力してくれ、長男を預けて妻と出かけることもあったという。
「こんな状況になるなんて想像もしていませんでした」
男性によると、きっかけは、おととしの口論。子育てや家計のことで意見が食い違ったという。
「いずれ帰ってくるだろう」
妻と幼い長男は、男性も納得のうえで自宅を離れた。しかし、音信不通に。男性は「1か月後、妻の母親から『娘が離婚を望んでいる』と伝えられた」と話す。
長男との再会は別居から3か月余り後。長男の好きな電車を2人で見に行った。「このまま長男を連れ帰ってしまいたい」。そんな考えも浮かんだが思いとどまった。
その後、月2回の面会などを定めた調停が成立したが、去年夏、面会を終えて妻に長男を引き渡す場面でトラブルが起きたという。
男性によると、調停で取り決めた内容に反するとして妻側が審判を申し立て、妻が長男を育てることが認められたという。
男性は今、これを不服として再び裁判所で争う手続きを取っている。「最良の養育環境は私と暮らすこと。親権を取りたい」と話す。
増える子どもをめぐる争い
近年、離婚に際し、子どもをめぐって夫婦が争うケースが増えている。司法統計によると、「子の引き渡し」を求めて家庭裁判所に申し立てが行われるケースは年々増加。去年は4000件と15年前に比べ約3倍に達した。
また、別居中などに子どもと一緒に住んで世話や教育をする「監護者」になることを求める申し立ては去年、5000件に上った。これは15年前の3.3倍で、このほかにも養育費や子どもとの面会をめぐる争いも増えている。
子どもの数は減っているのに申し立ての件数が増えているのはなぜか。専門家は、社会情勢の変化と密接に関係していると分析する。
「共働きが一般化し、男性の育児参加や経済的に自立した女性が増えたことで、離婚後も子育てを望む人が多くなった。少子化によって子どもへの愛着が強まっていることも、争いが激しくなる背景にある」。こう指摘するのは、家族法が専門の早稲田大学法学学術院の棚村政行教授。
また、家族心理学が専門の東京国際大学の小田切紀子教授は「高齢化が進み、祖父母自身が離婚をめぐる話し合いに参加するケースが見られる。少子化に伴い、祖父母の孫への愛着も一層強まっており、3世代を巻き込んだ争いに発展している」と話す。
「親権」って?
「親権」とは、未成年の子どもの身の回りの世話や教育、財産の管理などのために、父母に認められた義務及び権利の総称。
日本では、夫婦は共に親権を持つが、離婚後はどちらか一方が親権者になる「単独親権」制度が採用されている。
親権者を決めることが離婚の実質的要件になっており、話し合いでまとまらない場合は調停や審判を通じて決めることになる。
明治期に民法の法体系が確立した日本。家父長制の影響で戦前は父親だけが親権を持っていたが、戦後、母親にも認められた。
厚生労働省の統計によると、母親が親権者になった割合は、戦後間もない1950年は40%だった。しかし、60年代半ばに父母が逆転。親権者が母親である割合は84%(2019年時点)に達している。
国も議論始める
海外ではどうなのか。去年、法務省が公表した調査では、日本以外の主要20か国(G20)を含む24か国のうち22か国が、離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」制度を採用。
「単独親権」制度だけを採るのはインドとトルコの2か国だった。
ことし2月、「単独親権の規定は法の下の平等を定めた憲法に違反する」と、親権を失った父親が国を訴えた裁判で、東京地裁は「単独親権は、別居後の父と母が養育に関して適切に合意できず、子の利益を損なうことを避けるための規定で、合理的だ。離婚した父と母が共同で親権を持つことを認めるかどうかは国会の裁量に委ねるべきだ」と指摘。「合憲」との判断を示している。
一方、社会情勢の変化を受け、ことし3月、国の法制審議会は、離婚後の親権のあり方など、子どもの養育をめぐる課題の解消に向けた議論をスタートさせた。
同審議会の家族法制部会は、裁判官や心理学の専門家ら20人余りを委員に選出。4月に開かれた第2回会合では、離婚を経験した人などからヒアリングを行った。
今後、共同親権の導入の是非も含め幅広い議論が行われることになっている。
“共同親権”の導入を主張する人たちは
子どもと別れて暮らす親たちでつくる団体「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」の武田典久代表は、共同親権の導入を訴えている。
武田代表
「親権を失った親は、親権を持つ方の言うことに従う形となり、子どもとの面会も制限される。私たちは月1回、2時間、近所の公園で遊ぶだけの親戚のおじさんみたいになりたいわけじゃないんです。うれしいことも悲しいことも含めて育ちに関わりたい。それが親の役割ですから」
武田代表は「単独親権制度の下、親権をめぐる争いが激しくなった結果、一方の親による“子どもの連れ去り”が多発している」と主張する。
最近は、父親だけでなく、母親からの相談も急増していて、母親の会員数も3年前の3倍に上っているという。
「実際に子どもと一緒にいる親の方が親権を取りやすい傾向があるため、“子を連れ去ったらお父さんでも親権を取れる”とネット上で流布されているのも大きい」。武田代表はこう分析している。
裁判所の親権の決め方にも武田代表は注文をつける。
武田代表
「それまで誰が主に子育てを担っていたかは考慮されず、“連れ去り”の追認のような判断が機械的に行われている。単独親権が生み出す『離婚は親子の別れ』という日本の文化を変えるために共同親権が必要だ」
“単独親権”の維持を主張する人たちは
一方、単独親権制度の維持を求める声も根強い。
共同親権下で対立が続けば、子どもが不安定な状況に置かれるうえ、進学や医療など子どもに関する重要な決定のたびに争いが起こる、という立場だ。
そればかりではない。母子家庭を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は、DVや虐待行為への懸念から共同親権の導入に強く反対している。
団体によると、相談を受けたシングルマザーの中には「夫に伝えず子どもを連れて家を出た」と話す人もいて、このうち「夫に伝えれば暴力や精神的暴力などを振るわれると思った」と訴える人が目立ったという。
赤石理事長
「離婚後に、子どもが望み、父母両方と安全な環境で会えるのであれば、それがいい。ただ、共同親権を認めると、相手がDVの加害者でも縁を切れず、被害が継続するおそれがある。争いが続くなか被害が激化する危険性もある」
母親が父親の同意なく子どもと家を出ることについても、次のように主張する。
赤石理事長
「それは“連れ去り”ではなく、子連れ別居という避難です。夫から暴力やハラスメントを受けた妻が、子どもや自分の命を守るために緊急的に身を潜めた結果で、共同親権について議論を進めることは大きな揺り戻しに見える」
“単独か共同か”専門家も意見分かれる
専門家はどう見ているのか。家族法に詳しい立命館大学の二宮周平教授は、1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」に「子はできる限り父母両方の養育を受ける権利がある」と明記されていることに着目する。
二宮教授
「子どもの権利条約は日本も1994年に批准しており、子の権利の保障を最優先に考えるなら、原則、共同親権が望ましい。共同親権を選択できれば、今のように父母が親権を激しく争って勝ち負けを決める場がなくなり、離婚後の子どもの生活をどう支えるか話し合う場に発想を転換できる。国際化に対応した基準を尊重して法制を作り上げるべきだ」
共同親権の導入でDV被害が続くことを懸念する声については、こう話す。
二宮教授
「DVはDVの問題として対応し、親権の問題はあくまで『子どもの利益は何か』という観点で考えるべき。共同親権を採用している国でも、DVや虐待があれば例外として単独親権とする制度が大半だ。日本は、DV被害者の保護や、加害者の矯正・治療プログラムの整備が不十分で、親権の問題とは切り離して制度設計する必要がある」
一方、欧米の家族法制に詳しい大阪経済法科大学の小川富之教授は、海外の先例を教訓に、「日本は四半世紀前に欧米が大失敗し見直してきていることに取り組もうとしている」と警鐘を鳴らし、「現在の単独親権で十分対応できる」と主張する。
例えば、2006年の法改正をきっかけに、離婚後も父母による均等な養育の権利を明記したオーストラリアは、その間に養育の分担をめぐって父母の対立が激化し、子どもの命が奪われる事件にまで発展。
その後、2011年に「共同監護(養育)」より子の安全を優先することを明記する改正が行われた。
小川教授
「現在の日本では協議離婚が88%を占め、争いなく離婚が成立している。親権に固執した議論をするのではなく、諸外国の先例も踏まえ、日本の家族事情に合った子どもの養育環境の整備や、父母の対立が続く場合の国の支援制度の充実を優先すべきだ」
子どもたちの本音は
親の離婚に巻き込まれる子どもたちの本音はどこにあるのか。
法務省は、ことし3月、未成年時に親の別居・離婚を経験した20代~30代の男女1000人を対象にした調査結果を公表した。
それによると、別居前に父母の不仲を「知っていた」「うすうす感じていた」と答えたのは合わせて80.8%に上った。
父母が別居した当時の気持ちを尋ねると、
「悲しかった」が37.4%、
「ショックだった」が29.9%を占めたが、
「ホッとした」(14.3%)、
「状況が変わるのがうれしかった」(11%)と感じた子もいて、
子どもたちの受け止めは決して単純ではない。
では、子どもたちは別居時に自分の考えや本心を伝えることができたのだろうか。
法務省の調査では21.5%が「伝えたいことはあったが、伝えられなかった」と回答した。
自身も両親の離婚を経験し、同じような境遇の子どもたちの支援を続けているNPO法人「ウィーズ」の光本歩 理事長は「子どもの声が置き去りにされている」と指摘する。
光本理事長
法務省は、この調査で「今後、離婚または別居を経験する子どもに望む支援は何か」についても尋ねている。
44.3%が「精神面や健康面をチェックする制度」と答え、42.9%が「身近な相談窓口の設置」、37.4%が「子どもの権利を尊重する法律の整備」と回答した。これらの支援が現在、不十分であることを示している。
議論が始まった国の法制審議会に対して、光本理事長はこう指摘する。
光本理事長
「相談場所や経済支援に関する情報提供など、子どもへの直接の支援を同時に検討すべきだ。子どもが求める支援の形は1人1人異なるので、さまざまな視点で子どもの思いを知ることが大切。大人の意識が変わらないと、子どもが真に望む親子の形は実現しない」
子ども目線の議論を
時代の変化とともに「子どもの人権を重んじるべきだ」という声は大きくなっている。今回の取材を通して、「親権」の問題も“子ども目線”で考えていかねばならないのではという多くの声を聞いた。
ことし2月、民法の家族法制の見直しを議論していた有識者らの研究会は、「親権」を別の用語に置き換えるよう提案し、候補として「(親の)責務」や「責任」を挙げた。
親権の性質を、一方的な権利ではなく“親が子に対し負っているもの”と強調する狙いがある。結論は国の法制審に委ねられた形だが、民法の「親権」という用語が消える日が来るかもしれない。
そのあり方をめぐり大きく意見が分かれる「親権」の問題。名称も含め、どのようなものと位置づけていくのか。子どもにとってあるべき姿とは何か。社会の変容に適した答えを導き出すのは、まさに親世代の「責務」だ。
今後の法制審でも、支援の充実を含め、子どもの存在を真ん中に置いた議論を期待したい。
「子どもに会いたければ正論はダメ」実子誘拐被害者を追い込む、裁判所実務
出典:令和3年5月25日 SAKISIRU
「子どもに会いたければ正論はダメ」実子誘拐被害者を追い込む、裁判所実務
「疎外」された末の残酷な選択とは
牧野 佐千子 ジャーナリスト
(編集部より)注目度が上がっている「実子誘拐」の問題。子どもを連れ去られた親を待ち受けるのは裁判所の理不尽な慣習もあるのだという。今回は司法の狭間で苦境に立つ当事者を直撃する。
一方の配偶者にある日突然子どもを連れ去られ、離婚を申し立てられ、大切に育ててきた子どもとの関係を絶たれてしまう実子の連れ去り問題。現在の日本は「単独親権制度」で、離婚後は父母の「どちらか」が親権者となる。その際に親権獲得に有利になるよう相手方を問題のある親に仕立て上げる「でっちあげDV」が横行していることは前々回の記事で述べたとおり。
2018年夏に連れ去られ、現在5歳になった子どもと会えなくなってしまった父親・吉川弘大さん(仮)は、連れ去られた当時、同じような目に遭った当事者が集まる団体の交流会で、「子どもに会いたければ、どんなに理不尽でも、相手方の言い分に決して反論してはいけない」とアドバイスされたのだそうだ。
おかしいところを指摘したり、「正論」を通そうとすればするほど、「攻撃的で問題のある親」とされて、余計に子どもと会えなくなってしまうからだという。「それでも、おかしいものはおかしい」と主張することにした吉川さんのケースを元に、裁判所の理不尽と言わざるを得ない実務慣習を紹介したい。
「連れ去りは容認、連れ戻しは違法」の裁判所
吉川さんの場合、2018年7月に理不尽な連れ去りにあうも、離婚調停が始まる前までは、お互い連絡を取り合い、仲介役をはさんで子どもに会うことができていた。
母子の別居先である妻の妹の自宅は、台所や風呂場が使用できない状態で、当時1歳半の息子に対して母親側は、食事はほとんどすべてコンビニで済ませ、おでんの汁をそのまま飲ませていたという。また、風呂も2日に1回、部屋の床には猫の毛が溜まっているなどといった不衛生で劣悪な生活環境だった。吉川さんはこれを心配し、「こんなところに子どもを置いていたら大変だ」と指摘すると、それ以降、相手方から「もう会いに来ないでください」と言われてしまった。
離婚後、どちらか一方の親に親権を定める「単独親権制」を取る日本の裁判所では、たとえ連れ去りであっても、子どもと一緒にいるほうの親が、親権を得るのに有利となる「継続性の原則」という慣習がある。
一方で、連れ去られた子どもを取り戻すために、連れ戻しを行う場合、未成年者略取罪などに問われることがあることが、最高裁の判例(2005年12月6日)として示されている。はじめの「連れ去り」は容認し、それを「連れ戻す」行為は違法とするアンバランスな状況なのだ。
このため、子どもと一緒にいる側の親が優位な立場となって、別居親側がその問題を指摘すると、「攻撃的」「言いがかり」などとされ、子どもとの面会にも不利な要素になってしまう。
冒頭の「相手方の言い分に決して反論してはいけない」という当事者交流会の先人のアドバイスに対し、「自分の性格上、おかしいことはおかしいと言わなくては居られない」という通り、吉川さんはこのアドバイスを到底受け入れられず、相手方に対して、「なぜ理由なく子どもに会えないのか」「納得できない」「子どものことが心配だ」と自身の主張を率直に表し続けた。
「もう会いに来ないで」と言われた後も、子どもが心配で別居先に会いに行くと、警察を呼ばれた。離婚は成立しておらず、双方に親権がある状態にもかかわらずだ。その時に、一目でも子どもの姿を確認できればと、外から子どもの名前を大きな声で叫んだことなどから、「危害を加える恐れがある」とされ、母子はDVシェルターに入ることに。吉川さんは、母子の居所もわからなくなってしまった。
ツイッターでの問題提起が裏目に
こうして「問題のある親」とされた別居親が、裁判所を通して子どもと会う「面会交流」の取り決めをした場合、公益社団法人「家庭問題情報センター(通称:エフピック)」を利用することになるケースが多い。
実際に、エフピックを利用する場合、ケースにもよるが、面会交流は第三者の立会いの下「月に1回2~3時間」、費用は「15,000 ~ 25,000円」でたいていは別居親が負担するなど、自然な親子の対面交流とは言い難いものだ(参照:エフピック公式サイト)。
吉川さんの場合も、横浜家裁でエフピックを使っての「月1回2時間」の面会交流が取り決められた。4回目の交流の際に、子どもが父親の顔を見るなりうずくまって泣き出した。その画像をTwitterにアップしたところ、それが「ルール違反」と第三者からエフピックに指摘が入り、相手方に知らされ、それが元で面会交流が停止されてしまった。
画像は、息子の様子がおかしいと気づいた吉川さんが心配し、「片親疎外」の証拠として問題提起のために公開したものだった。片親疎外とは、子どもと同居している親が別居親の誹謗中傷や悪口といったマイナスのイメージを子どもに吹き込むことで、別居親と子どもとの関係が不当に破壊されたり、それによって子どもが情緒不安定になることなどを指す。
「ルール違反なのは認めるが、そこでしか息子に会えないのに、息子に起きた異常事態をどう外部に伝えればいいのか」と吉川さんは訴える。そうした訴えも裁判所の実務ではすべて裏目に出てしまい、今年3月の横浜家裁の審判では、この「ツイッターに画像をアップしたこと」が、「ルール違反をする親」の証拠として、子どもの面会を取り消しする判断が下された。子どもが父親の顔を見て泣き出すという片親疎外については、一切考慮されなかった。
「ツイッターに画像をあげる行為は、完全に子どもに会えなくなるほどの重大なルール違反なのだろうか」と吉川さんが語る通り、実の子に会えなくなる理由としては、あまりにも不釣り合いではないだろうか。この点、相手方の弁護士にも取材を試みるも、応じてもらえなかった。
強いられる酷な選択
はじめの「連れ去り」を容認し、連れ去ってから一緒にいる時間を「継続性の原則」として親権獲得に有利に判断する。起点がそこにあるので、それに対して正当な反論をすればするほど「同居親を非難する攻撃的な別居親」と認定され、子どもと遠ざけられてしまう。正論を通そうとするほど、子どもに会えない。
吉川さんは、同じように連れ去りに遭った人には「正論を言うとどんな目に遭うのか、反面教師として見ていただければ」と苦笑いする。だが、自身は、「このような子どもの利益を最優先にしているとは考えられないおかしな実務がまかり通る裁判所とは、徹底的に戦っていく」と高裁での争いを準備中だ。
子どもに会いたければ正論を言ってはいけない。おかしな状況を「おかしい」と言えば、子どもに会えない。実の子を連れていかれた別居親が、そのどちらかを選択しなければならないとしたら、あまりにも酷な状況ではないだろうか。
日本が参加しない「消えた子供の日」国際デー
出典:令和3年5月24日 NewSphere
5月25日は、国際行方不明児童の日だ。シンボルは「私を忘れないで」の花言葉を持つワスレナグサ。2001年から存在する国際記念日だが、日本ではほとんど語られることがない。
◆レーガン米大統領が最初に提唱
なぜ5月25日なのか。理由は1979年に遡る。この日ニューヨークで起きた6歳の男児誘拐事件は、全米に情報の公開と捜索ネットワークの重要性を認識させた。4年後の1983年、当時のロナルド・レーガン米大統領が「行方不明児童の日」を制定するにあたり、この日を選んだのだのはそのためだ。その後、1998年には、グローバル・ミッシング・チルドレンズ・ネットワーク(GMCN)が立ち上がり、行方不明となった子供たちの捜索に関する支援を始める。この運動に賛同する国はその後増え、いまでは4大陸の31ヶ国が加盟している。アジアの加盟国には韓国や台湾があるが、日本は非加盟である。また、1999年にはベルギー・ブリュッセルに児童失踪・児童虐待国際センター(ICMEC)が公式に設定され、「行方不明児童の日」は、2001年から国際的な記念日となった。
◆世界で年間100万人が行方不明に
では、実際、行方不明になる子供はどのくらいいるのだろうか。ICMECによれば、行方不明となる子供は年間100万人以上に上る。アメリカで約46万人、イギリスで約11万人、ドイツで約10万人、インドで約9万6000人、カナダやロシアでは約4万5千人、オーストラリアとスペインで約2万人、ジャマイカで約2000人という見積もりをICMECは挙げているが、付記にある通り「これは大雑把な把握でしかない。行方不明になった子供の統計データすら手に入らない国は多い」ことも忘れてはならない。
次に、行方不明になる理由はなんだろうか。フランスの「行方不明者の支援と捜索」協会(ARPD)によれば、最も数が多いのは家出だ。ARPDは、EU内では毎年約25万人の子供が行方不明になっていると記すが、家出を理由とするものは、そのうち50%以上を占める。そのほかの理由としては、犯罪に巻き込まれた可能性のほか、親による実子誘拐などが挙げられる。
◆実子誘拐とは?
日本では馴染みの薄い概念だが、実子誘拐とは、文字通り、自分の子供を誘拐(拉致)するケースを指す。一番わかりやすいのが、別離状態にあるカップル間で生ずる問題だ。離婚カップルのケースで説明してみよう。欧州では、大抵の場合、離婚カップルの子供たちは、両親の間を行ったり来たりする生活をしている。週日と週末、あるいは、通学期間中と休暇期間中などのように父親と母親の話し合いで、監護期間をシェアしているわけだ。そういう状況にあって、他方の親に子供を任せるのを拒否したり、自分の監護担当期間を過ぎても子供を留め置いたり、あるいは他方の親に知らせず住所変更を行った場合は「実子誘拐」とみなされる。また、別離前のカップルであっても、他方の親の承諾なく子供を連れ去れば、それは「実子誘拐」となる。
実子誘拐の刑罰は厳しく、フランスでは、5日までの誘拐で1年以下の拘禁刑または1万5000ユーロ(約200万円)以下の罰金、5日を超える実子誘拐および外国への拉致の場合、3年以下の拘禁刑または4万5000ユーロ(約600万円)以下の罰金に処せられる可能性がある。
◆ヨーロッパには子供の失踪無料ホットラインも
フランスの例を続けると、2019年フランス国内で届け出のあった子供の行方不明者は5万1287人。そのうち4万9846件が家出、918件が不穏な失踪、523件が親による誘拐であった。幸い同国では、全体の「3分の1は72時間以内に、もう3分の1も失踪から3ヶ月以内に見つかる。(中略)しかし、残りの3分の1、つまり1万7000人ほどは完全に姿を消してしまう」という。(ウェスト・フランス紙)
ちなみに、ヨーロッパには年中24時間機能する無料相談ダイヤル116 000があり、子供の失踪に関する相談を受け付け、「残された家族への社会的心理的サポート」を行っている(同上)。
◆日本では何人が行方不明に?
では、GMCN非加盟の日本の状況はどうだろうか? 警察庁が昨年7月にまとめた「令和元年における行方不明者の状況」によれば、平成27年から令和元年の5年間で、行方不明者として警察に届け出があった未成年者の数は、毎年平均1万7000人以上を数える。諸外国と比べると少ないかもしれないが、無視できる数ではない。
一方で、日本では、別居時一方の親に無断で子供を連れ去っても、通常実子誘拐とみなされないので、その数は上の統計には入っていない。ちなみに、連れ去られた側の親が子供を連れ戻した場合は、罪に問われることが稀ではない。また、監護権を持つ親が、面会権をもつ他方の親との子供の面会を拒否しても、フランスのように直ちに「実子誘拐」とみなされることはない。これは、日本が、離婚後、父母のいずれか一方にのみ親権を認める単独親権制度をとっていることと無関係ではないだろう。日本以外の先進国では、離婚後も父母双方が共同親権を持つのが通常だ。この日本の「特異さ」は、すでに国際問題にも発展している。国際結婚の破綻にあたり、日本の論理で実子を誘拐する日本人親が絶えないからだ。
◆毎年15万人の子が失う親との縁
だがもちろん、問題は国際離婚に限られるわけではない。厚生労働省がまとめた人口動態統計によれば、2016年の日本の離婚件数は21万6798組。そのうち12万5946組が未成年の子がいる離婚件数であった。親が離婚した未成年の子は、21万8454人を数えた。東京国際大学の小田切紀子教授は、これらの子供のうち「3分の2は、もう連れ去られた側の親と会うことはない」(東洋経済)としており、絆を絶たれた側からみれば、毎年15万人近くの子供が「消えて」いることになる。
5月25日、「消えた」子供たちのさまざまな事情や背景を思い起こし、残された家族をケアする日。日本にも必要ではないだろうか。
親子を断絶する「DV支援措置」謎ルールが生む3つの“バグ”
出典:令和3年5月11日 SAKISIRU
冷蔵庫のプリンを勝手に食べたらDV !?
牧野 佐千子 ジャーナリスト
夫婦の離婚時に子どもと一緒に家を出る「連れ去り別居」で、ある日突然、配偶者と子どもがいなくなる。そこから、相手方から身に覚えのないDVを申し立てられ、行政から住民票の写しなどの交付に制限がかけられ、相手方と子どもの居所がわからなくなってしまう。暴力や不貞などしていないのに、自分の子どもに何年も会えない。数多くある「実子誘拐」のパターンだ。
前回の「『実子誘拐』解決を阻む『でっちあげDV』の深層」でも述べたが、その中で、本来、深刻なDVの被害者を守るため、加害者に被害者の住民票の写しや戸籍の交付を制限する「DV支援措置制度」が、実子誘拐や親子の断絶を支援してしまっている構造がある。
DV支援措置制度では、その「被害」を捜査、検証する仕組みがない。一方的に「加害者」とされた人たちからは、「いくらでも悪用できるザル制度」と指摘されている。その理由といえるいくつかの制度上の疑問点を紹介したい。
被害を受けたと主張すればDVに
東京都内に住む40歳代のKさんは、妻が子どもを連れて別居し、子どもの行方も分からなくなったため、市役所で相手の住民票を請求したが、窓口で「(DV支援措置の)加害者として制限がかけられているため、出すことはできない」と言われた。いつのまにか身に覚えのないDVの加害者にされ、「いったい何を根拠に請求を拒否できるのか」と首をかしげる。
Kさんの離婚訴訟では、相手方の陳述書に「取っておいた冷蔵庫のプリンを許可なく食べた」、「インスタント食品を買ってきて、目の前で『おいしい』と食べた」(自分の手料理はおいしくないと遠回しに伝えている精神的DVに当たるという主張)などと書き込まれていた。
「支援措置がかけられた根拠もこのようなことなのだろう」とKさんは推測する。第三者から見れば「そんなことでDVになるの !?」と驚くようなことも、認められてしまう。
支援措置に携わる、某市の職員によると、今の制度では、本当に被害に遭っている人を緊急で守るために、「自分が被害を受けた」と主張する人を守ることを優先しており、本人の主張が本当であれ嘘であれ、その住民票を守ることになっているという。「被害者」が被害を主張すれば、その真偽が確かめられることなく、相手方を加害者に仕立て上げられるその運用で、「加害者」にされた側にとっては、周囲から犯罪者のような目で見られたり、子どもに会えなくなったりするなどの深刻な「被害」を産んでしまっている。
弁護士に依頼すれば取得できる
さらに、制度の実効性に疑問が生じるおかしな点がある。
総務省の公式ページには、「加害者からの依頼を受けた第三者からの住民票の写し等の交付等の申出に対し交付・閲覧をさせることを防ぐため、請求事由についてもより厳格な審査を行います」とある。
しかし、たとえばKさんの場合、弁護士に依頼して住民票の交付請求を行った場合、弁護士は依頼者の氏名を明らかにしなくても良いことが住民基本台帳法で保障されており、Kさんは弁護士を通じて住民票の写しを入手することができるのだ。
DV支援措置で子どもの居場所が分からなくなるなどした当事者が、支援措置制度の改善を目指して各自治体を訴える訴訟も、約10件が数か月に1件ずつ連続して提訴される予定で、動き出している。
その中でも、弁護士に依頼すれば住民票を取得できるのであれば「行政が住民票を不交付処分にする意味がない」ものとして、この不交付処分自体が住民基本台帳法に違反する違法なものだ、という主張もなされている。この点も、裁判所がどのように判断するのか注目したい。
自分の子どもも「加害者」に
そのDV支援措置訴訟リレーのうち1件では、高校生の女の子も原告となっている。両親の離婚後、少女は母親と一緒に住んでいたが、母親からの心理的な虐待を受けて、父親の元へ逃げた。
母親は、父親の元に逃げた少女に会おうとすることはなく、母親と少女との接点がほとんどないままで2年が過ぎていった。
2年が経過し母親は裁判所に少女との面会交流調停を申し立てたが、皮肉にもその調停の調査報告書や審判書に、母親による虐待的行為が詳細に記載されたことで、母親の虐待行為が裁判所に認められる形となった。
その調停の申立書には、母親の住所が記載されたまま父親と少女の手元に届いた。この時点では、支援措置はかけられていなかったということになるが、その後、父親が別の調停を申し立てるために母親側の住民票を交付を申請したところ、支援措置がかけられていることが判明。同時に、「加害者」として少女にも支援措置がかけられていた。
父親は、「(娘が)主張する虐待行為を裁判所が全面的に認めており、(母親側は)とにかく被害者側になるため支援措置をしたのだろうと思います」という。
もし、母親側がDVからの緊急避難的に、住所を知られないように支援措置をかける必要があるのだとすれば、少なくとももっと早い段階でかけていたはずである。また、「会わせてくれ」と面会交流を申し立てた相手である少女を加害者として支援措置をかけていること自体、「DV被害者を守る」という本来の意味で制度が使われているとは考えられない。
きちんと捜査されたわけではない「加害行為」を根拠に、配偶者だけでなく子どもや祖父母も「加害者」扱いし、役所での住民票交付申請も拒否されてしまうDV等支援措置制度。こうした制度的な“バグ”が放置されたままでは、本当に緊急性のあるDV被害者も救えないのではないか。おかしいと思うのは、「加害者」にされてしまった人だけではないはずだ。
離婚しても一緒に子育て?「共同養育」は子どもの成長にもプラス
出典:令和3年5月6日 Benesse たまひよ
離婚しても一緒に子育て?「共同養育」は子どもの成長にもプラス
パートナーとの離婚を考えたことがありますか?日本の離婚率は35%前後、3組に1組が離婚している現状です。今は幸せでも、ちょっとした気持ちのすれ違いはどの夫婦にも起こりうるもの。でも離婚して子どもを1人で育てるのも心配…。共同養育実践に向けたサポートをする一般社団法人「りむすび」の代表しばはし聡子さんに、離婚後の子育てについて話を聞きました。
別居・離婚をしても子どもが両親の愛情を感じられることが大事
――平成28年度の調査(※1)によると、母子家庭になった(死別以外)ときの一番下の子どもの年齢は、0~2才のときが39.6%と最も多く、出産後から幼児期の親が離婚の危機を迎えやすいようです。離婚は、子どもが小さいうちにはどんな影響があるでしょうか。
しばはしさん(以下敬称略) 産後クライシスやワンオペ育児など、育児に大変な時期はお互いに余裕がなく、夫婦の気持ちのすれ違いから離婚を考えてしまうこともあるでしょう。
0〜2才くらいの小さい子は、パパとママがけんかするなどの夫婦仲の悪さは、不安として五感で受け取ります。3才〜未就学児くらいになると、離婚という言葉もわかりはじめてくる。ママやパパに会えなくなると「自分が悪い子だから離婚しちゃったんだ」と自分を責めてしまう子もいます。だけど、いちばん近くにいるはずの親に、不安な気持ちを話せず、小さな胸を痛めているかもしれません。
――小さな子どもがいる親が離婚を考えるとき、どのようなかかわりを考えればいいでしょうか。
しばはし 離婚は、子どもにとっては必ずダメージになります。それ以上に傷つけないためには、子どもの環境を変えないこと、子どもから親を奪わないことが大事です。
つまり、離婚をして別居しても、きちんと親子が会う時間を作り、親同士として子育てにかかわること。元パートナーの話題をタブーにしないこと。子どもが親の顔色をうかがわずに、なんでも聞ける、話せる状態にしておくことが必要です。このように、離婚をしても親同士として子育てにかかわることを「共同養育」といいます。
離婚後に子どもに会えない人は7割。共同養育は子どもの成長にもプラスに
――日本では離婚したら「ひとり親」というイメージが強い気がします。
しばはし 日本では、離婚後は父母どちらかが親権を持つ単独親権であり、子と離れて暮らす親が交流する「面会交流」の実施率は約3割。離婚後に親に会えない子どもは7割もいます。養育費の不払いやひとり親家庭の貧困も社会問題になっています。
一方、欧米諸国の多くは「共同親権」で離婚後も両親がともに子育てすることが珍しくありません。面会交流やカウンセリングなどの公的な支援機関もあります。離婚後も両親が子どもとかかわることは当然のことであり、子どもは両親からの愛情を受けることで、心身ともに健康に育つとの考え方です。
――「共同養育」するとなると、どのくらいの頻度で交流するのですか?
しばはし 面会交流の頻度は、家族の形態や子どもの年齢によりさまざまです。一般的に裁判所で決められる面会交流は、月1回、2〜3時間が相場ですが、とても少ないですよね。実際に共同養育している例では、平日は同居親と一緒に過ごし、休日は別居親と過ごすパターンが多いですが、曜日交代、1週間交代といったケースなどもあります。
遠方に住んでいる場合は直接会う頻度は減りますが、オンラインでの交流を取り入れるなど多岐に亘ります。
子どもの立場で、親同士としてかかわり続けることが大事
――とはいえ、離婚したいと思う相手と、親同士としてかかわろうと気持ちを切り替えることも難しい気がします。
しばはし そうですよね。私自身も6年前に離婚を経験しましたが、1年間ほどは「子どもを父親に会わせたくない」と後ろ向きな気持ちでいました。元夫から届くメールも自分を責めている気がして、怖くて見られないことも。けれど、そのうち子どもが精神的に不安定になってしまい、その後悔から元夫と前向きにかかわるように。私から元夫に連絡してみたら、みるみる関係がよくなり、子どもの表情も明るくなったんです。
夫婦が別れても「親子」は続きます。自分にとっては嫌いなパートナーでも、子どもにとっては大事な親。離婚を考えるなら、まず子どもの実母・実父はずっと1人だ、ということを知ってほしいです。
相手と縁を切りたいという感情だけで離婚に臨むと、関係が悪化してもめてしまいがち。ですが、共同養育者としてかかわることを前提に離婚を考えるのであれば、円満にとはならずとも、争わずに済むと思います。
もちろん原則として、元パートナーが子どもに暴力や危害を与える可能性がある場合は、先に適切な対応が必要です。
――両親が争っていなければ、子どもへの負担も少なくなるのでしょうか。
しばはし 離れて暮らしていても、両親が争わずに共同養育ができると、子どもは両親の愛情を感じ、自分を責めずに済みます。お友だちにも別居している親の話ができるし、別居している親が保育園行事にも参加すれば「自分にはパパ(ママ)がいない」と悲しい思いをしなくて済みますよね。
子どもの年齢に関係なく、離婚しても親は2人、ということを多くの人に知っておいてほしいと思います。
――共同養育が広まることでひとり親家庭の貧困などにも影響すると考えられますか?
しばはし 現状として、母子家庭で養育費を「継続して受けている」人の割合は24.3%で、平均月額は4万3707円(※1)、ひとり親世帯の貧困率は50%を超えています(※2)。シングルマザーの場合は、元夫と共同養育して親同士の育児分担ができれば、仕事をして収入を上げる機会も増えるでしょう。
また、元夫側も子どもとの交流が増えることで、養育費を支払うモチベーションにもつながります。
離婚はしないに越したことはありませんが、もし離婚するなら、子どもを中心に考え、親同士で分担して育てるほうが、子どもにも親にも社会的にもメリットが大きいと思います。
お話・監修/しばはし聡子さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
パートナーとの関係がうまくいかないとき、感情のままに離婚に踏み切ってしまう前に、一度立ち止まって考えてみましょう。子どもの気持ちや将来などを踏まえ、パートナーと協力して子育てすることが、家族の幸せにつながるのかもしれません。
(※1)厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000190327.pdf
(※2)厚生労働省 国民生活基礎調査(平成28年)の結果から グラフで見る世帯の状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h28_rev2.pdf
諸悪の根源は「単独親権」|三谷英弘
出典:令和3年4月30日 月刊Hanadaプラス
「実子誘拐」は人権侵害だ
月刊『Hanada』2020年5、6月号で報じられたが、国境を越えた「子どもの拉致」(チャイルド・アブダクション)だけではなく、実は日本国内でも「拉致」が行われていることを知っている人は多くはないだろう。
なぜ、私がこの問題に関心を持ったのか。
きっかけは弁護士時代に遡る。
「家に帰ったら誰もいない──」
女性の側に子どもを連れ去られた男性の声を聞いたのがきっかけである。私は企業法務の仕事がメインだったが、クライアントの身内でこのようなことが起こったことを聞いて衝撃を受けた。
日本は単独親権の国であるということすら、当時はあまり意識していなかった。
「子どもを連れて実家に帰らせていただきます」というような話は、日本では当たり前のように耳にする。いわゆる「三行半」という文化だ。だがこのカルチャーは、日本では「常識」かもしれないが、世界では「非常識」なのである。
「実子誘拐」は人権侵害であり、海外から子どもを連れ帰った母親が、国際指名手配を受けている例も少なくない。これは国外だけの問題ではない。実は、国内においてもこのようなケースは数多く存在する。
私が実際にかかわったなかにも、ある日突然、女性が子どもを連れて出て行ってしまった、そんなケースがあった。女性は子どもを連れ去ったあと、ワンルームの部屋を借り母子2人で生活し、飲食店での接客業を行うため、夜は子どもをひとりにして放置。
他方、男性には快適な住居があり、普段から愛情を注いでくれていた祖父母も近くに住んでいる。そして何より、父子の関係は良好そのもの。離婚したあとも、子どもを監護するうえではまったく問題のない環境であった。客観的な状況判断をすると、男性の側で子どもの面倒を見たほうがいいのは火を見るよりも明らかだ。
だが、実際はそうはならなかった。基本的に日本の裁判官は「継続性の原則」「母親優先の原則」で動いており、そこに虚偽のDVが加われば男性に勝ち目はない。
手を上げたことなど一度もないにもかかわらず、妻子に暴力を振るうだとか、インターネットに夢中で家庭を顧みないだとか、母親の勝手な言い分ばかりが通り、結果的に男性から子どもを奪う形となってしまったのだ。
「金だけ出せ」という不義
子どもを育てる資格を奪われたうえに、裁判所に言われたのは「金を出せ」。
つまり、「裕福なあなたがお金を出せば、母親も働かなくて済む。そうすれば、1人でも子どもの面倒はちゃんと見られる」。
しかし男性側から見れば、それはあまりにも納得しかねる結論だった。親権を奪われ、子どもにも会わせてもらえない、そのうえ、金だけ払え。これで納得する父親がいるだろうか。普通に考えれば、いるわけがないだろう。
しかし、家裁がこのような結論を出せば、男性は泣く泣く従うしかないというのが現状だ。父親が戦える場所は、日本にはほとんど残されていないからである。
面会交流を求める調停件数は近年、増加傾向にある。司法統計平成28年度版によると、その調停件数は、全国で1万2,341件にのぼる。この数は氷山の一角であり、おそらくその件数の何十倍もの「実子誘拐」が行われていることは想像に難くない。
常識的に判断をすれば父親の側にいたほうが良いというケースは多々あるのだが、不思議なことに、日本ではそうなるケースは少ない。
「子どもは母親が育てるべき」というカルチャーが、日本には根強く残っているからだろう。先のケースでは、調査官は母親と子どもがどのような関係にあるのかの確認を行ったが、他方で父親と連れ去られた子どもの関係性は確認すら行われなかった。母親と子どもの関係に問題がなければそれでよし、と判断するからだ。
見捨てられた子への虐待
子どもの意見は聞かないのか。
もちろん、裁判の段階で一定の年齢に達していれば子どもの意見を聞くことも多い。しかし、連れ去られた子どもたちは一緒にいる親の顔色を窺う。その子が何歳であろうと、「お父さんはひどい」「お父さんはひどい」と言って育てられると、次第に子どもも「お父さんはひどい」と思うようになる。その結果、不幸なことだが、「お父さんに会いたい?」と訊かれても、「会いたくない」という子どもに育ってしまう。
連れ去られた直後ならば「お父さんに会いたい」という子どももいるだろうが、半年、1年の間、お父さんの悪口を吹き込まれた子どもが「お父さんに会いたい」という気持ちを正直に吐露することなどできるだろうか。これを子どもへの虐待と言わずして何というのだろうか。
先のケースではまだ子どもが小さかったからか、子どもの意見は聞かれなかった。自分の意見を話す能力さえ認められない、そんな小さな子どもが、母親が仕事をしている夜の間、ずっと1人で放置されている。結果として、それを裁判所が追認するのは常識的に考えておかしくないだろうか。
裁判官も弁護士も、子どもの権利など実際には黙殺しているというのがいまの日本の姿だ。
裁判所は機能不全を起こしているといっても過言ではない。裁判官自身もこの手の案件はあまり積極的ではないのか、親子の関係性などの専門的な知見だけではなく、離婚に至る経緯や現在の境遇などについても調査官の報告を鵜呑みにする傾向が強い。事実認定は裁判官の職責であるにもかかわらず、事実上、調査官が行っているのだ。
いろいろ調べていくうちに、多くの方がこの問題で苦しんでいることがわかった。女性が虚偽のDVで男性を訴えるケースも多く、母親の言い分ばかりが通ってしまう。
これでは世の男性たちは報われない。
日本はなぜ単独親権なのか
なぜ、このようなことが罷り通るのか。
単独親権こそが諸悪の根源だ。
現在、先進国で単独親権なのは日本のみ。かつては米国も欧州もすべて単独親権だったが、いずれもここ半世紀の間に共同親権になった。日本だけがおかしかったのではないのだが、いつのまにか、日本だけが世界の潮流から取り残されてしまった。
単独親権から共同親権へ。
この法整備をするにあたっては、いまの日本と同様、どの国も苦労した。だが、子どもの権利をどう守るのかを考えつくし、その結果、共同親権が導入されたのである。
共同親権の導入に反対する人たちは、髪を切る、歯医者に行く、このような些細なことでも共同親権者の許可が必要になると主張している。共同親権では子育てがまったく進まないという理屈であるが、意味不明な主張と言わざるを得ない。
その証拠に、離婚を協議している間はまだ共同親権であるはずだが、実際は子どもを連れ去った側がすべて、子どもの進路すら決定している。先の言い分は、まさにためにする議論だ。
では、単独親権のメリットはどこにあるのか。
「見当たらない」というのが私の正直な感想だ。
単独親権の最大のデメリットは、子どもと一方の親との関係を断ち切ってしまうことにある。法的に親であるということを否定しておきながら、親なんだから養育費だけはしっかり払えというのは、そもそも議論として矛盾していないだろうか。
養育費を支払うということは、親として当然担うべき役割の一部である。そうであるならば、正面から養育費の支払い義務を含め、共同親権という形で親権を認めるべきだ。子どもに会えないだけでなく、支払った養育費が本当に子どものために使われているのか、現状ではそれを確認する機会すら与えられない。これではあまりに不公平だ。
よくある夫婦喧嘩もすべてDV?
2014年、ハーグ条約(国際的な子どもの奪取の民事上の側面に関する条約)に日本も加盟。夫のDVから逃げてきた女性を元の国に戻すのはおかしいといった反対意見も根強くあったが、DVに関しては除外するという項目を国内法に明記したことによって、すべての政党がこの条約に賛成をした。
ハーグ条約の狙いは「連れ去り勝ちを認めない」ということであり、まずは子どもを元の居住国に戻してから裁判をしましょうということなのだが、残念ながら日本では実効性に欠け、現実的に元の居住国に戻すようなことは行われない。
しかも連れ去られたら最後、子どもがどこに住んでいるのかも教えられなければ、子どもに会うチャンスすら認められない。これでは、日本が「子どもの拉致国家」と言われても仕方がないだろう。
DVは絶対に許してはいけないし、DVの被害者を保護することは当然のことだが、問題はこのDVという言葉にある。いまはDVという言葉が独り歩きしているが、DVとはなにか、もっと明確に定義づける必要がある。
たとえば、最近はモラハラがDVと言われることも多い。「きつい言い方をされた」「威圧的な態度を取られた」という理由でDVとして扱われるケースが多々あるが、しかし、本当にそれで良いものだろうか。
ただでさえ、現状においてDVの境界線は曖昧であり、よくある夫婦喧嘩も言い方次第ですべてDVとして認められかねない。夫婦円満でないがゆえに別れるのだから、夫婦間で言い争いが起きるのはむしろ当然だ。第三者の目が行き届かない家庭内においては、あらゆる意味において「DVをしていない」という証明は悪魔の証明以上に困難である。
虚偽のDVなど自分には関係ないと思っている男性も多いが、その被害を受ける可能性がすべての男性に存在することは知っておくべきだ。
さらに、離婚したからといって子どもにもう一方の親と会わせなくていいというのは、親と子の双方にとって極めて残酷である。父親のほうが連れ去るケースもあるが、多くは女性だ。
過去の関係をリセットしたいという女性の気持ちも理解できる。しかし、このままでいいわけはないだろう。「日本では養育費の支払いが少ない、これが問題だ」などと非難される方もいるが、実際のところは、離婚をすれば縁が切れる、相手の顔も見なくて済む、だから養育費も求めない、というケースは極めて多い。
言い換えると、相手の権利をすべて奪える現状の単独親権の制度では、子どもは私が育てるからあなたは一切かかわらないでほしいということになる。だが、そこにはあまりに子どもの視点が欠けていやしないだろうか。
共同親権に変わればどうなるのかといえば、いまと違って、離婚しても相手との関係は切れない。切れないことを前提に、ではどうすればうまく子育てをしていくことができるのか、このような発想に立てば、そもそも養育費が要求すらされないという問題は解消していくことになる。原則を変えれば、子育ての仕方も変わるのである。
共同親権に反対する面々
日本で共同親権の導入に向けた議論は進んでいるのか、いないのか。
残念ながら、ほとんど進んでいない。
どこの党が賛成で、どこの党が反対か。そのような状況ではなく、党内で意見が分かれているというのが現状だ。
では、誰が反対をしているのか。
多くは女性議員である(もちろん、賛成してくれる女性議員もいるが)。
「か弱い女性は守らなければならない」
それ自体を否定するつもりはないが、女性やその支援者からの訴えだけに耳を傾け、他方からの話を聞かないまま「男はひどい」という見方に偏り反対されてしまうと、制度としての議論がなかなか深まらない。
加えて、議員立法では各党、各会派で賛成を得なければならないので、なかなか事が進まないというのが現状である。逆に、立憲民主党であっても賛成する議員は少なからずいるので、イデオロギーの壁は思った以上に高くない。
過去には紆余曲折がありながらも、「親子断絶防止法案」については様々な政党に所属する議員が努力を重ねて各党賛成になった。しかし残念ながら、民主党が解党したことによって各党の議論がゼロベースに戻ってしまったという苦い過去もある。いくら話がまとまっても、野党がバラバラになる、つまり党の名前が変わるたびに議論はゼロに戻ってしまう。
ちなみに、共同親権の導入に対しては、日弁連、特にそのなかでも男女共同参画を推進する弁護士グループが大反対をしている。彼らは、男女共同というよりも女性の権利ばかりを主張しているという印象が強い。
実は、世のなかには男性だけではなく、子どもを奪われた女性も少なからずいる。でも彼らはなぜか、その女性たちにはシンパシーを示さない。男性が悪い、女性を守るためには単独親権しかない、といった不毛な論を展開している。
連れ去り勝ちを生む土壌
「実子誘拐」を飯のタネにしている悪徳弁護士もなかにはいるかもしれないが、個人的には多くの弁護士はそうではないと信じている。
ただ、語弊があるが、有能な弁護士ほど「実子誘拐」に手を貸している状況になっている。離婚を成立させ、なおかつ子どもを確保したいというお客さんの意向を最大限に尊重しようとすれば、「連れ去り勝ち」が最も有効な手段だからである。
わざわざお客さんの意向に反してまで、法制度を変え、共同親権を導入すべきだとまで考える弁護士は少ない。「実子誘拐ビジネス」で儲けようと最初から目論んでいたわけではないだろうが、これでは結果的に「実子誘拐ビジネス」に手を貸していると批判されても仕方がないだろう。
加えて「女性は弱い」、だから守らなければいけないというドグマが、政治家にも、弁護士にも強い。男性が虐げられている状況が広がっているにもかかわらず、DVは男性がするもの、だから女性を守らなければいけないというストーリーのほうがわかりやすく、結果的に男女共同参画を主張する一部の声の大きい弁護士たちに流されてしまっている。
日本の弁護士が見るのは国内法だが、世界からどう見られているかをもっと考えるべきだ。弁護士自身がこういった発想を転換しなければ被害はますます増えてしまう。まずは、弁護士自身が変わっていくことを期待したい。
それにしても、男女共同参画を推し進める人たちは、共同親権をやらない理由はたくさん述べるのだが、単独親権の下で行われている悲劇にはまったく目を向けない。子どもを連れ去った母親が再婚し、元夫の目の届かないところで、子どもが再婚した男性から虐待を受けるケースは少なくない。この点をどう考えているのだろうか。
裁判官と弁護士が癒着しているというのは一般的には考え難いことだが、月刊『Hanada』5月号の「実子誘拐ビジネスの闇 人権派弁護士らのあくどい手口」を読むと、裁判官が母親側の弁護士事務所に「天下り」をしたという。これは司法の外形的な公平性・中立性を損なっており、禁じ手である。自ら担当した大きな事件の一方当事者の法律事務所に就職するなどいままで聞いたことがない。裁判官の倫理としてあってはならないことだ。
いわゆる「人権派」からの猛攻撃
日本国内の「実子誘拐」があまりメディアで報じられないのはなぜかというと、報じると批判が殺到するからである。皆さんが思っている以上に、すごい。
「実子誘拐」に関する問題を取り上げるメディアもあるが、そのたびに当該メディアが、名誉毀損で訴えるといった脅迫まがいの言説で攻撃に晒されていると聞く。現場の記者が熱い想いで取材をし記事にしても、事なかれ主義のメディアであれば、恐れをなして削除に応じてしまう。それでは物事は前に進まない。
私も、とある著名なNPO法人の代表から執拗な落選運動を展開されたことがある。ツイッターの匿名アカウントによる攻撃も多数受けてきた。
このような男は政治家にしてはいけない、女性の敵だ、DV男の味方だといった趣旨の批判をツイッター等で展開、拡散され、ものすごい被害を被った。子どもの利益に繫がる政策を語ることで、なぜ女性の敵だと罵られなければならないのか。
可哀想なことだが、いま最も攻撃されているのは、この問題を国会で追及している日本維新の会の串田誠一衆議院議員だ。執拗な嫌がらせや落選運動を展開されるくらいなら、彼らが望むような形で「か弱き女性」の権利のために活動していたほうがどれだけ楽かわからない。
しかし政治家である以上、自分のことよりも、救うべき人のために不利を覚悟で論陣を張らなければならない。彼を含め、この問題を取り上げる国会議員はみな、子どもを守るために必死である。
それでも、突破口はある!
では、「実子誘拐」を減らす突破口はどこにあるのか。実は、養育費の未払いをゼロにする、というのがひとつの突破口になると考えている。
「金は払わせるが子どもには会わせない」という制度では、養育費の未払いは減らしようがない。法律で支払いを強制することもひとつの手段だが、いくら法的に支払いを強制しても、払いたくない人は様々な方法で法の網をかいくぐる。
より大事なことは、子どもを一方の親が囲い込むのではなく、離婚後も父母双方に子どもとの縁を切らせないこと。離婚した以上はもうあなたの顔なんて見たくないというわがままも、離婚したからこれ以上子どもの面倒なんて見ないというわがままも許されない。
離婚しても親なのだから養育費を払え、ちゃんと子どもの面倒を見ろ、と国および社会が、離婚したあとも親子の交流を継続するように仕向けていくことで、必然的に養育費の未払いは減っていく。
単独から共同へ。制度を変えると同時に、親の意識(カルチャー)そのものを変えること。これがもっとも重要である。
離婚は大人同士の都合であり、親が離婚をしても、双方の親に大切にされていると実感できる境遇を維持することは、子どもの健全な発育にとって極めて重要なことだ。離婚をすることが、一方の親と子どもとの今生の別れであるがごとき原則を変えていく必要がある。
共同養育支援法(旧親子断絶防止法)も重要だが、やはり本丸は共同親権だ。共同親権を認めない限り、日本は永遠に「子どもの拉致国家」との汚名を返上することはできないだろう。
「実子誘拐」解決を阻む「でっちあげDV」の深層
出典:令和3年4月27日 SAKISIRU
「孫に会いたい…」行政の壁、祖父母が大田区相手に訴訟、来月スタート
ジャーナリスト 牧野 佐千子
一方の配偶者にある日突然子どもを連れ去られ、離婚を申し立てられ、大切に育ててきた子どもとの関係を絶たれてしまう実子の連れ去り問題。「実子誘拐」とも呼ばれ、実子誘拐被害者は毎年数万人、増え続けていると言われる。悪化する要因の一つが、裁判所や法曹界、行政やマスコミなどで加害者と“グル”になっている人たちの存在だ。ある被害者らは、彼らについて「実子誘拐ビジネスネットワーク」と呼んでいる。
ただ、ここにきて風向きが変わり始めた。この問題を追い続けているジャーナリスト・池田良子さんによる告発本『実子誘拐ビジネスの闇』(飛鳥新社)が先週出版。さらに先日は、「ハッシー」の愛称で人気のプロ棋士・橋本崇載(たかのり)八段が、子どもの連れ去りを理由に精神的に追い詰められ、今月、将棋界からの引退を表明して将棋ファンに衝撃を与えた。以前は関心を示さなかったメディアでもこの問題が取り上げられるようになり、大きな注目が集まりつつある。
「でっちあげDV」と「継続性の原則」で親権をモノに
現在の日本は「単独親権制度」で、離婚後は父母の「どちらか」が親権者となる。その際に親権獲得に有利になるよう相手方を問題のある親に仕立て上げる「でっちあげDV」が横行し、これも実子誘拐ビジネスの大きな一翼を担っている。
池田さんが同書で指摘しているように、実子誘拐ビジネスで儲ける彼らは、この制度に異議を唱える親たちを徹底的に「問題のある親」「DV加害者」などと印象付け、裁判を有利に進め、世論も誘導してきた。「こんな問題のある親だから、子どもに会えないのは当然でしょ。子どもに悪影響でしょ」といった「雰囲気づくり」である。
また、「どちらか」の親権者を決める際に、裁判所の慣習として「継続性の原則」というルールがあり、たとえ連れ去りであっても、子どもと一緒にいる側の親が親権獲得に有利となる。調停や裁判の手続きが長引くほど、連れ去った側の親と子が一緒にいる時間が長くなり、その「継続性」を覆すことが難しくなってしまう。これが「相手より先に連れ去れ」が成り立つ要因だ。
実子誘拐を “支援”する「DV支援措置制度」
DVなどの被害者を保護することを目的として、加害者に、被害者の住民票の写しや戸籍の交付を制限する「DV支援措置制度」。支援措置に携わる、某市の職員によると、今の制度では、「自分が被害を受けた」と主張する人を守ることを優先しており、本人の主張が本当であれ嘘であれ、その住民票を守ることになっているという。
深刻なDVを受けて安全な場所へ緊急避難した被害者にとっては、居場所が加害者に知られることは恐ろしい。だが、実際の運用では、「被害者」が被害を主張すれば、その真偽が確かめられることなく、相手方を加害者に仕立て上げ、さらに連れ去った子どもの居所を相手方に知られないようにできるのだ。
前出の市職員は、本当に被害に遭っている人を緊急で守るために、「嘘か本当か確かめるのに時間を使うことはできず、今の制度が続いてしまっている」と苦悩を明かす。子どもを連れ去られた別居親で、一方的に身に覚えのないDVの加害者に仕立て上げられ、子どもの居場所が分からず、姿を見ることもできず、手紙を送ることもできない。元気なのか、生きているのか知ることもできないという親も多い。
孫を連れ去られた祖父母が区を訴えた事情
この「でっちあげDV」に加担してしまっている各自治体を、当事者が司法で訴える動きがでてきた。今後全国に展開して、おおきなムーブメントになりそうだ。
そのさきがけとなったのが、わが子のようにかわいがり同居して育てていた孫を、その母親である長男の嫁に突然連れ去られた祖父母、Tさん夫婦。その「連れ去り」を正当化するために、Tさん夫婦は母親によって、一方的にDV加害者に仕立て上げられ、DV支援措置によって孫の住所も知ることができなくなった。
こうした事情を考慮せず、Tさん夫婦が住む東京都・大田区役所の窓口では、「DV支援措置」がかかっているから出せない、と、孫の戸籍の附票を交付しなかった。「戸籍の附票は、孫の居所を知ることができる唯一の手段。最後の望みの綱です。いつまた移動してしまうかわからない。そうなった時に、孫がどこにいるのか、本当にわからなくなってしまう」。
Tさん夫婦は、この大田区の対応を不当な支援措置を根拠とした違法行為だとして、大田区長を相手取り、不交付決定の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。「裁判を起こすのは、この制度によってもう二度と、ほかのひとが同じような目に遭ってほしくないからです」という。
母親は、孫の通う幼稚園の先生に対して「おまえ」と呼びトラブルを起こしたり、孫を抱いたまま家の前の路上でわめき散らしたりなど、問題行動が多かったという。そして2015年8月、サンダル履きのまま、荷物も持たずに孫と一緒にふらっと家から出て行ったまま、行方知れずとなってしまった。
Tさん夫婦は、これまでにも附票の不交付について審査請求を起こし、母親が孫に怪我をさせたことなど、その問題行動の証拠を丹念に集めて提出してきた。証拠書類は分厚いファイルに収められている。だが、裁判や行政の審査ではTさん夫婦の主張は一切採用されることなく、母親が警察に安全相談に行った一方的な話の記録のみを採用。Tさん夫婦は連れ去られてから一度も孫に会えていない。
「実子誘拐」根絶へ、うねりとなるか
Tさん夫婦の代理人の作花知志弁護士は、「DV支援措置により家族との分断を強いられている別居親、祖父母の方々の関係回復のためにも、良い判決を得たいと思う。大きなうねりとなれば…」と話している。第1回口頭弁論は5月19日、東京地裁で開かれる。また、同様にDV支援措置で子どもの居場所が分からなくなるなどした当事者が、「支援措置制度の廃止」を目指して各自治体を訴える訴訟も、今後約10件が数か月に1件ずつ連続して提訴される予定だ。
実子誘拐問題については、論点が非常に多岐にわたる。国会でも各党の議員がこの問題を取り上げるようになってきた。問題意識を持つ人々がそれぞれの場でアクションを起こし、今の大きな流れを引き寄せ、長年多くの親子を苦しめてきた実子誘拐を根絶できるか。引き続き、注視していきたい。
離れた子どもと面会しやすく NPOがネットサービス
出典:令和3年4月20日 産経新聞
養育費の公正証書化、確認追加へ 離婚届見直し、有無をチェック
出典:令和3年4月16日 共同通信
養育費の公正証書化、確認追加へ 離婚届見直し、有無をチェック
上川陽子法相は16日、離婚届の様式を近く見直し、取り決めた子どもの養育費支払いに関する内容を、公正証書にしたかどうかを尋ねるチェック欄を追加すると明らかにした。
離婚後も親には子の養育費を負担する義務があるが、父母間の金額などの取り決め率は低調だ。改善を図るため、離婚届には取り決めの有無を問うチェック欄を設けているが、より確実な支払いに向け、公正証書化の有無についても加える。
離婚に関する情報が掲載されている法務省のホームページにアクセスできるQRコードも記載。「離婚を考える人に必要な情報が届くようにしたい」(担当者)としている。
「共同親権は『子の利益』を第一に、養育費や面会交流の取り決め必要」 二宮周平・立命館大教授
出典:令和3年4月1日 東京新聞
「共同親権は『子の利益』を第一に、養育費や面会交流の取り決め必要」 二宮周平・立命館大教授
法制審議会(法相の諮問機関)は3月30日、家族法制部会の初会合を開いた。今後、離婚後に父母の双方が子の親権を持つ「共同親権」の導入の是非も議論される。共同親権は子に対する責任が明確になるメリットの一方、父母間の対立が長引いたり、進学など子に関する意思決定が難しくなったりするといった指摘もある。家族法に詳しい立命館大の二宮周平教授に親権を巡る論点を聞いた。(木谷孝洋)
―親権に関する法律の規定はどうなっているのか。
「民法では子を監護・教育し、子の財産を管理する親の権利と義務が定められている。子どもには成長、発達する権利があり、それを支えるための親の権利であり、義務という理解だ」
―日本は民法で、離婚した夫婦の一方を子の親権者とする単独親権制度を定めるが、海外の状況は。
「欧米や中国、韓国などの東アジアでは共同親権を原則としたり、選択できるようになっていたりする。日本も1994年に批准した『子どもの権利条約』では、子はできる限り父母の養育を受ける権利があると明記されている。父母の婚姻関係の有無とは関係がないため、多くの国が法改正し、離婚後の共同親権を認めるようになってきた」
―背景にあるのは。
「一つは男女の役割分業の変化だ。女性の職場進出に伴い、男性が家事や育児を積極的に担うケースも増えてきた。子育てに関わる以上、離婚後も子に関わりたいという希望を持つことは当然だ。父親たちの運動もあって海外では共同親権が広がってきたが、日本は男女の役割分業の意識が根強く、単独親権のままだ」
―日本では養育費の支払い率が低く、離婚時に子と別居親の面会交流の取り決めをする割合も少ない。
「無責任な協議離婚制度が原因の一つだ。日本では面会交流や養育費の分担などを相談したり、合意したりしなくても役所に書類を1枚出せば離婚できてしまう。海外では裁判離婚が主流で、子の養育に関する取り決めについて裁判所がチェックする仕組みになっている。日本も共同親権を導入する場合は、父母が子の養育について話し合い、計画を立てる必要がある。家庭裁判所などが当事者にガイダンスや情報提供を行うなど支援も欠かせない」
―共同親権を認めると、相手がドメスティックバイオレンス(DV)加害者でも縁を切れず、被害が継続するなどの指摘もある。
「今の制度だから、DV被害者は自分の生活を守れるという主張はある。だが海外に比べ、日本には被害者の保護や加害者の更生プログラムが乏しいことも原因だ。DVはDVの問題として対応しなくてはいけない。親権の問題は、子どもの利益は何かという観点から考えるべきだ」
◆親の離婚、年間20万人の子が経験親権見直し、法制審が議論開始
共同親権を含む家族法制の見直しは、上川陽子法相が2月に法制審に諮問。親が離婚しても子が健全に成長できる環境を整えるため、養育費の不払い解消など多様な論点が議論される。
厚生労働省の統計によると、2019年の離婚件数は約20万8000件で、親の離婚を経験する子どもは年間約20万6000人だった。当事者同士の話し合いで離婚する協議離婚が88%を占め、母親が親権を持つケースが84%に上る。
離婚後、子と同居しない親が支払う養育費の受給率は母子世帯で24%にとどまり、ひとり親世帯の貧困の要因になっている。また、同居しない親と子の面会交流の取り決めをする割合も低く、父親が疎外感を持つ原因となっている。
法務省が未成年時に両親の離婚・別居を経験した20~30代の1000人を対象とした調査では、40.5%が両親の別居後に経済的に苦しくなったと答えた。
離婚後の子どもの養育めぐる課題解消に向け法制審で議論始まる
出典:令和3年3月30日 NHK
親が離婚したあとの養育費の不払いや親権の在り方など、子どもの養育をめぐる課題の解消に向けて、30日から法制審議会の部会で制度の見直しに向けた議論が始まりました。
離婚後の子どもの養育をめぐって、上川法務大臣は、2月に子どもの利益を図る観点から養育費の不払いや親権の在り方などに関連する制度の見直しを法制審議会に諮問しました。
これを受けて、法制審議会の家族法制部会は30日に初会合を開き、法務省の堂薗幹一郎官房審議官が「離婚に伴う子どもの養育への深刻な影響や養育の在り方の多様化などの社会情勢に鑑み、幅広い観点から検討をお願いしたい」と述べました。
30日の会議には裁判官や心理学の専門家、それに、ひとり親の支援団体の代表など、およそ40人が参加し、ことし1月に法務省が親の離婚や別居を経験した人を対象に行ったアンケート調査の結果や、海外の法制度の実例などが示されました。
部会では今後、養育費を適切に確保するための取り決めや、父親と母親の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入の是非なども含め、離婚したあとの子どもの養育の在り方について幅広く議論される見通しです。
離婚しても子育てに関わりたい 共同親権、議論の行方は
出典:令和3年3月28日 日本経済新聞
配偶者と別れても子育てに関与し続けたい。そう考える親にとって、離婚後は父母のいずれかしか親権が持てない「単独親権」制度が壁となる場合がある。親権者によって面会などが制限され、最近は新型コロナウイルスも影を落とす。一方で「共同親権」には慎重論も根強い。子ども第一の視点でどうあるべきか。国も議論を始めた。(榎本行浩)
「親としての責任を果たさせてください」。2月10日、東京・霞が関の法務省前に全国から約150人が集まり、次々とマイクを握っては離れて暮らす子どもへの思いを訴えた。手には「子どもと会いたい」などと書かれたカード。参加者の大半が離婚などの事情で別居する親たちだった。
4歳と1歳の子どもがいる千葉県の30代女性は1年ほど前に突然、夫から離婚を切り出された。子どもと一緒に住んで養育する「監護者」として、裁判所は義理の両親とともに家事を積極的に担っていた夫を指定した。女性は現在、親権を巡って離婚訴訟中だが、子どもと会えるのは月1回、1時間に限られる。
さらにコロナ下での外出自粛などを理由に、面会中止を告げられることもある。「子どもに自分が忘れられてしまいそうで、気がおかしくなる」。境遇が似た人たちが多数いることをSNS(交流サイト)で知り、集会に参加するようになった。
この日、法務省では法制審議会(法相の諮問機関)の総会が開かれていた。上川陽子法相は、離婚に伴う養育のあり方に関する法制度の見直しについて諮問。「子どもを第一に考える視点で幅広く、実態に即した検討をしてほしい」と求めた。離婚後も父母双方が親権を持つ共同親権導入の是非もテーマに含まれる。
未成年の子どもを育てる親の権利や義務である親権。明治期に民法の法体系が確立した日本では家父長制の影響で戦前は父親に、戦後は父母どちらかに認める単独親権を採用してきた。2011年の民法改正で面会交流は子の利益を最優先する内容が盛り込まれたが、両親の確執から守られないケースも多い。
海外はどうか。かつては単独親権が主流だったが、子育ては父母が平等に担うものとの考え方が浸透し、共同親権が定着するようになった。法務省が20年に公表した調査では主要20カ国(G20)を含む24カ国中22カ国で法的に認めていた。近年は日本の制度への批判も強まっている。
ただ、共同親権下で父母の離婚を巡る対立が続けば子どもが混乱し、不安定になるとの懸念も根強い。共同親権が導入されるかどうかは見通せない。ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待への懸念から、面会交流の促進にも慎重な意見がある。
2月には単独親権は憲法違反として男性が損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁が「父母のうち、より適格な者を親権者に指定する規定に合理性はある」と合憲との判断を示している。
年間約20万人もの未成年の子どもが両親の離婚を経験している。こうした中、離婚前後の家庭を助けるため、面会交流の支援団体が相次ぎ発足している。
自治体が後押しする動きもあり、静岡県藤枝市は20年度から面会交流のために市内の保育園や小中学校で放課後などに部屋を開放した。東京都港区も面会交流の事前面談や日程調整を手掛ける事業を始めた。
家族法制に詳しい立命館大の二宮周平教授は、夫婦が等しく子育てに参画するのが常識となりつつある現状を踏まえ、「制度が社会の変容に対応しきれていない」と話す。
一方で海外では離婚時に養育方針を話し合う制度が充実していると指摘し、「法改正ありきではなく、親の養育を受ける子どもの権利擁護の視点に立った制度設計の検討が大切だ」としている。
養育費受け取ったことなし」56% 困窮するひとり親世帯
家族法制の見直しを巡る議論が動き出した背景には、離婚後に養育費が支払われないために貧困に苦しむひとり親世帯の存在がある。2016年度の厚生労働省の調査によると、離婚後、養育費を受け取っている母子世帯は24%にとどまった。「受けたことがない」のは56%に上っている。
民法は離婚時に養育費などを夫婦の合意で取り決めると規定しているが、強制力はない。厚労省調査では取り決めをしていたのは母子世帯で4割あまり、父子世帯で2割だった。
兵庫県明石市は20年7月、ひとり親家庭の困窮対策として子ども1人につき養育費を1カ月分、5万円を上限に立て替える全国初の制度を始めた。新型コロナウイルス禍で収入面で苦境に立たされたひとり親を支えるのが狙いで、これまで計22件の申し込みがあった。同市は「子ども支援を最優先に、行政としてできることをしたい」(市民相談室)と説明する。
親権をもてなかった母親への冷たい視線――子どもと別居する苦しさと葛藤
出典:令和3年3月27日 Yahoo ニュース!
親権をもてなかった母親への冷たい視線――子どもと別居する苦しさと葛藤
毎年、20万から25万件で推移する離婚件数。子どもの親権はたいてい母親がもつが、父親のケースもある。この場合、親権をもたなかった母親に対してさまざまな憶測が飛び交う。「子どもがなつかなかったのでは」「何か悪いことをしたのでは」……。親権をもたない父親に比べて手厳しい。なぜ「別居母親」は批判的な目で見られがちなのか。2人の当事者から話を聞き、実態を探った。(取材・文:上條まゆみ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「別居母親」は少数派
中部地方に住む西川千佳さん(仮名、47)は、16歳と13歳の娘の母親だ。11年前に離婚し、子どもたちとは別居している。
「本当は子どもの親権をもち、一緒に暮らしたかったのですが、無知と不運が重なって、親権を元夫にとられてしまいました」
厚生労働省の調査によると、令和元年の離婚件数は20万8496組。そのうち未成年の子どもがいるのは11万8664組で、20万5972人の子どもが親の離婚に巻き込まれている。
日本の法律では、離婚後の子どもの親権は父親か母親のどちらかがもつことになるが、調停で母親が親権をとる割合は90%以上。離婚後、ほとんどの子どもが母親に引き取られている。
千佳さんは30歳のとき、社会人サークルで出会った一つ年上の男性と結婚した。おだやかで友だちを大事にしていて、信頼できる人だと感じた。
元夫は、父や妹とともに家族で工場を経営していた。母親は離婚して、家を出ていた。
自営業の家に嫁ぐことに千佳さんはある程度の覚悟をしていたが、実際は想像以上に息苦しかった。
「財布は義父が握っており、私は食費を渡されるだけ。それも月何万とかじゃなく、はい1万、はい3万みたいにその都度もらっていました。『なくなったら言えよ』と言われていましたけど、やっぱり言いにくいんですよね。買い物に行く店も決められていたし、主婦として家庭を切り盛りする自由はまったくありませんでした」
子どもが生まれてからも、義父の支配は続いた。
「今日は散歩に行けとか、いまから公園に行けとかタイムスケジュールまで決めてくる。その一方で、工場の事務の仕事も変わらずこなせ、と。私が子どもを保育園に預けたいと言ったら、『母親失格だ』と責められました」
たまの休みに、どこに遊びに行くかも義父の指示。家族4人、水入らずで出かけたことはほとんどない。「実家と縁を切れ」とも言われた。次女の出産のあと、正月に実家に帰ることも許してくれなかった。
娘を連れて家を出る
義父と離れて家族4人で暮らしたい。元夫に訴えたが、「考えてみるね」と言うだけだった。千佳さんはたまりかねて、実家に子どもを連れて帰った。
「長女の(幼稚園が)春休み中のことでした。家出という強硬手段に出れば、元夫も真剣に向き合ってくれると思ったんです」
しかし、元夫からは何の連絡もない。千佳さんは、新学期の始まりに合わせ、とりあえず子どもだけ家に帰した。次女の入園式には夫婦そろって参列したが、翌日から元夫と連絡がとれなくなった。
メールをしても電話をかけても無反応。焦った千佳さんは、慌てて家に戻った。家の中に入ろうとすると、義父と義妹に「もう帰ってくるな!」と追い返された。元夫は見て見ぬふりをしていた。
千佳さんはしばらく実家で呆然と過ごした。子どもに会えない状況を変えるため、弁護士に相談した。そして、家庭裁判所に夫婦円満調停(夫婦関係調整調停)と、子どもの引き渡しおよび監護者の指定を申し立てた。監護者とは、子どもを引き取り、生活をともにし、身のまわりの世話をする人のことだ。
それらの手続きと並行して仕事を探し、総合病院の事務職として働き始めた。子どもを引き取るつもりだったので、時間に融通のきく職場を選んだ。しかし、千佳さんの思いとは裏腹に、娘2人を引き取ることはできなかった。
知らなかった調停のルール
家庭裁判所が親権者や監護権者を決めるときの基準の一つに「母性優先の原則」がある。その一方で、「監護の継続性の原則」も重視される。これは、これまでに子どもが育ってきた環境を継続したほうがいいという考え方だ。
そのほか、経済状況を含めた監護態勢や、兄弟・姉妹は一緒に育てたほうが子どもにとっては利益があるという事情(兄弟姉妹不分離の原則)も勘案される。
千佳さんが子どもを引き取れなかったのは、「監護の継続性の原則」などが適用されたからだ。2人の娘は祖父、叔母、父親と安定して暮らしている。どちらか1人を千佳さんが引き取るのも望ましくない。
千佳さんは自分が調停を起こすまで、そのような原則があることを知らなかった。
※以下、掲載記事を参照ください。
離婚後の共同親権制度は、子ども独自の人格を認めて子どもを親の付属物と見ない日本に変えるための制度
出典:令和3年3月23日 土井法律事務所ブログ
離婚後の共同親権制度は、子ども独自の人格を認めて子どもを親の付属物と見ない日本に変えるための制度
共同親権反対派の人たちの実質的反対理由として
「離婚後の単独親権制度がDV被害者の防波堤になっている、それにも関わらず共同親権にしたなら防波堤が無くなりDVが継続する。」という論理に触れました。
これが単独親権制度から共同親権制度に変更するか否かの立法論、政策論を議論しているときの理由とはならないのではないかということを検討していきます。
1 防波堤とは何か
2 具体化されず、立証されない「DV」
3 面会交流時の事件が理由となるか
4 封建的な排除を擁護しているに過ぎないこと
5 子ども利益の視点の欠落(子どもは親の所有物ではない)
6 問題の所在をどのように子どもたちのために活かすか。
※以下、土井法律事務所のブログを参照ください。
親が離婚・別居 4割が「金銭面で苦しくなった」法務省調査
出典:令和3年3月12日 NHK
親の離婚や別居を経験した20代と30代の人を対象にした法務省の調査が行われ、4割の人が、親の離婚などによって金銭面で苦しくなったと答えました。
離婚後の子どもの養育をめぐって上川法務大臣は先月、子どもの利益を図る観点から、養育費の不払いや親権の在り方などに関連する制度の見直しを法制審議会に諮問しました。
法務省は、未成年のときに親の離婚や別居を経験した20代と30代の合わせて1000人を対象に、ことし1月に調査を行い、その結果を公表しました。
親が別居したあと、父親と母親のどちらと一緒に暮らしたか聞いたところ、母親が79%、父親が21%でした。
離婚などによる金銭面での影響を聞いたところ、「苦しくなった」が20%、「若干苦しくなった」が20%、「ほとんど変わらなかった」が24%、「むしろ好転した」が7%などとなり、4割の人が苦しくなったと答えました。
同居していた親の再婚をどう感じたか複数回答で聞いたところ、「新しい環境になじめなかった」が34%で最も多く、次いで、「親をとられたような気がした」が17%、「再婚相手と合わなかった」が16%、「家族が増えてうれしかった」「家族が増えて困惑した」「親が自分に気をつかっていた」がいずれも15%でした。
そして、親が離婚したり別居したりしている子どもに必要な支援策を複数回答で聞いたところ、「精神面や健康面をチェックする制度」が44%、「身近な相談窓口の設置」が43%、「子どもの権利を尊重する法律の整備」が37%などとなっています。
上川法相「子どもの目線に立った制度の見直しに大変貴重な資料」
上川法務大臣は、閣議のあとの記者会見で「離婚や別居が子どもの生活や心身に大きな影響を及ぼすことを改めて実感した。子どもの目線に立った制度の見直しを検討するうえで、大変貴重な資料であり、専門家はもちろん、多くの方に活用されることを期待している」と述べました。
【参考:法務省ホームページ】
未成年期に父母の離婚を経験した子の養育に関する実態についての調査・分析業務報告書の公表について
・未成年時に親の別居・離婚を経験した子に対する調査 【簡易版】PDF
• 未成年期に父母の離婚を経験した子の養育に関する実態についての調査・分析業務報告書 PDF
不仲に気づいていたけど…父母の別離問題、抱え込む傾向
出典:令和3年3月12日 朝日新聞
両親の不仲に気づいていながら、両親からは何の説明もなく、周囲にも相談できない――。未成年時に両親の離婚・別居を経験した20~30代の1千人を対象に法務省が実施した調査から、父母の別離の問題を一人で抱え込む傾向が強い実態が浮かんだ。調査では、子どものための身近な相談窓口の設置を求める声が多く上がった。
調査は1月にネット上で行われ、法務省が12日に結果をホームページで公表した。同省は、法制審議会(法相の諮問機関)での離婚後の子どもの養育に関する議論や、今後の政策に生かしたい考えだ。
調査結果によると、両親が別居を始めた年齢は「3歳未満」から「中学卒業後」以降までまんべんなく広がり、母親と同居した人が786人と圧倒的に多かった。ただ、別居した親とも関係は悪くない人が多く、「非常に良い」「良い」「まあまあ良い」「普通」の回答の合計が約7割を占めた。
別居前の家庭内の状況を覚えていると答えたのは672人。このうち、両親の不仲について「知っていた」「薄々気づいていた」のは543人(80.8%)だった。また、235人(35.0%)は両親からの説明が「なかった」といい、周囲に相談したのは63人(9.4%)にとどまっていた。相談しなかった理由は、「人に言いたくなかった」が129人(19.2%)、「相談したかったが適切な人がいなかった」が128人(19.0%)、「相談できる人はいたが自分で抱え込んだ」が56人(8.3%)だった。
両親の離婚・別居が自身の恋愛や結婚にどう影響したかについては、プラスの影響があったとする回答が21・2%、マイナスの影響が24・0%だった。これに対し、自身の子どもとの親子関係に及ぼした影響ではプラスの影響が30・4%で、マイナスの影響の12・5%を大きく上回った。
上川陽子法相は12日の記者会見で「子どもの視点に立って検討を進める観点から子どもの経験の実態把握は重要」とし、「問題の難しさや重要性について認識を新たにした」と語った。(伊藤和也)
令和3年3月5日 中日新聞 「親子面会や親権巡り参加者が意見交換」
中日新聞名古屋本社から第95回定例会の取材を受け、3月5日(金)朝刊に掲載されました。
第95回定例会取材記事pdf
記事に関する意見、お子さまと交流出来ない現状、家族法制度の問題点など中日新聞までお寄せください。
メール送信先>
中日新聞社名古屋本社編集局 読者センター 宛
center@chunichi.co.jp
[[共同養育・共同親権に向けて、超党派で動きが活発に
出典:令和3年3月5日 アゴラ
共同養育・共同親権に向けて、超党派で動きが活発に [#zb6e3628]
親の離婚後の子どもの養育に関する問題の解消に向けて、上川陽子法務大臣は2月10日、法制審議会総会で家族法制の見直しを諮問した(拙稿:「共同親権」導入も議論:離婚後の養育をめぐる課題解消に向け、上川法相が法制審に諮問)。これを受けて3月4日、超党派の国会議員らで構成する「共同養育支援議員連盟」の総会が衆議院第二議員会館で行われ、法制審議会への諮問の報告と、別居している側の親と子の面会交流支援の取り組み状況について、法務省や厚生労働省の担当者が説明。総会は非公開で行われ、各党から20人以上の議員が参加した。
また、議連は、「面会交流」という用語について、「刑事施設等に収容されている者が想起されやすく、親と子が継続的に会うことを表す用語として必ずしもふさわしくない」として、「親子交流」と表すことや、法制審において、養育費の支払い確保だけを検討するのではなく、「車の両輪」である親子交流についても足並みをそろえて検討、答申することなどを盛り込んだ政府に対する緊急提言について検討を行った。
国会でも、予算委員会で立憲民主党の真山勇一参議院議員が3日、共同親権への検討について菅首相に答弁を求めた。真山議員は、離婚の際に、女性が子どもを連れ去る問題があること、最近は男性が子どもを連れ去ることも増えていることなどを指摘。
外務省の24か国を対象にした親権問題に関する調査のデータを示し、単独親権しか選べないのは日本など3か国のみで、「子どもにとっては離婚してもお父さんでありお母さんであり、両親がいるのは大切なこと。共同親権か単独親権かどちらか選べる選択的親権制度があってもいいのでは」と提言した。
菅首相は「(連れ去り問題については)私自身も承知して、憂慮している。今後子どもの利益を始め、幅広い観点から検討したい。まずは法制審の検討を見守りたい」と答弁した。
離婚後の親権問題をめぐっては、国際結婚の増加に伴い、離婚後に自分の子どもに会えない外国人当事者も増えており、昨年7月にEU議会から日本政府に対し、非難決議が出されている(拙稿:EUが日本非難!「子ども連れ去り」を止める法改正を)。また、一方の親のみに親権が付与される単独親権制度による親子の引き離しで精神的苦痛を受けたなどとして国家賠償請求訴訟が起きており(拙稿:親子を引き離す「単独親権制度」を放置:父母6人が国を提訴)、親子の引き離しが起きないような制度の構築に向け、各省連携した抜本的な対応が求められている。
子供の引き渡し、強制執行「成功」は3割 最高裁
出典:令和3年2月22日 産経新聞
離婚や別居に伴う子供の引き渡しをめぐり、裁判所の執行官が司法判断に従わない親から子供を直接連れ戻すために昨年末までの過去5年間で対応した計477件の強制執行のうち、連れ戻しに「成功」したのは約3割にとどまることが22日、最高裁の調べで分かった。昨年4月の法改正で同居中の親が不在でも執行可能となったが、現場では困難も多く、法の実効性が問われている。(桑村朋)
日本では、離婚すると父母の一方しか子供の親権が持てない「単独親権」制度が採用されている。子供を養育する監護権と親権を、父母で分けることも可能だ。婚姻中の父母は別居中でも共同で親権を持つが、裁判所が片方の監護権を認めることもある。
最高裁によると、裁判所の審判や判決で子供の引き渡しが確定したのに片親が従わず、強制執行へ発展した件数は、昨年は計51件だった。これらは強制執行のうち、相手に直接的に義務を履行させる「直接強制」に該当する。強制執行の結果、引き渡しが成功した「完了」は33・3%の17件。実現しなかった「不能」は41・1%の21件で、何らかの理由で執行が中止となった「取下げ」が25・4%の13件だった。
昨年は新型コロナウイルスの影響で、強制執行は例年の半数程度。ただ、昨年末までの過去5年間をみると、強制執行件数は計477件で、このうち「完了」の割合は昨年単年と同水準の32・2%、件数は154件だった。強制執行中に任意で引き渡されることもあり、この場合は「取下げ」に含まれる。
法曹関係者によると、現場では執行官の前で子供本人が泣き叫んだり、親が理由をつけて強硬に拒んだりすることもあり、強制執行できない原因とされる。
昨年4月施行の改正民事執行法では、強制執行の際に同居中の親の立ち合いが不要となり、執行官が学校や保育園で子供をそのまま連れ戻すことも可能となった。それでも同居が長期に及んでいる場合、現地の生活に子供自身が慣れていることも多く、子の福祉の観点からも執行官が無理に連れ帰ることは難しい。
子供の監護の問題に詳しい谷英樹弁護士(大阪弁護士会)は「同居する親との生活に慣れ、長く離れたもう片方の親との新たな生活について不安を抱く子供は多い。面会交流を十分に保障して子供の不安を解消するなど、子の利益を最優先にする工夫をし、改正法の実効性を高めるべきだ」としている。
◇
親同士の関係性が極度に悪化した末、片方の親が黙って子供を連れて家を出る「連れ去り」により、子供の引き渡しが困難となるケースは後を絶たない。裁判資料や関係者への取材から、ある家庭の実情に迫った。
《娘が大泣き。『ママが殺し屋に頼んでパパを殺す話をしてたのを思い出して怖くなった』とのこと》
大阪府の40代女性は昨年秋以降、娘を連れて京都府内で別居する夫のこんなツイッターを見つけた。「小学校低学年だった娘はそんな言葉を知らないはず。娘を装った嘘の投稿だ」と憤る。
別れ話を始めていた平成30年3月、東京出張から戻ると、夫と娘が家からいなくなっていた。夫による連れ去りだった。
女性は、娘の引き渡しを求める審判を家裁に申し立て、令和元年5月に「監護権者は妻」とする判決が大阪高裁で確定。だが夫は従わず、同年9月に確定した1日1万円の支払いを課す間接強制決定にも、「娘は自分の意思で(夫の下に)とどまっている」と支払いを拒み続けている。
執行官による直接強制は2度行われたが、「娘が泣いている」などの夫の訴えでいずれも失敗した。
女性は京都地裁に人身保護請求も行い、娘の引き渡しを命じる判決が出た。今年1月には、ツイッターへの投稿が名誉毀(き)損(そん)罪などに当たるとして告訴したが、状況は好転していない。
女性は「これは誘拐と同じ。監護権者は私なのに。法や仕組みに何か不備があるのでは」とし、「娘の心が離れないうちに連れ戻したい。法的に正しい側が、泣き寝入りしない世の中であってほしい」と願っている。
夫の代理人弁護士は産経新聞の取材に対し、「妻に引き渡すべく努力しているが、妻により強制執行や人身保護請求が繰り返され、娘は加療が必要になった。妻に強い拒否感を抱いており、これは全て妻の行動に起因するものだ」と書面で回答している。
◇
直接強制 民事執行法に基づく強制執行の一つ。判決などで命じられた債務を履行しない相手に対し、強制的に義務を履行させること。地裁の決定に不服がある場合、執行抗告して高裁判断を仰ぐことができる。高裁決定に対する不服申し立てもできる。強制執行には、裁判所が一定の金銭を支払うよう命じることで心理的に圧力をかける間接強制や、債務者以外の第三者が代行する「代替執行」などがある。
「離婚後も子育ては2人で」シンママの声 共同親権・養育の行方はを
出典:令和3年2月22日 AERA
「離婚後も子育ては2人で」シンママの声 共同親権・養育の行方は
離婚した後も父母の双方が子の親権を持つ「共同親権」制度は、日本でも認められるのか。
2月10日、上川陽子法相は親が離婚した子の養育等に関する法制度の見直しを法制審議会に諮問した。議論の焦点の一つが、この共同親権導入の是非だ。父母のどちらかしか親権を持てない現行の「単独親権」制度は、離れて暮らす親(別居親)と子の交流を妨げ、親子の断絶を生むとして、これまで別居親が中心となり導入を求めてきた。しかし今、子どもと同居するシングルマザーからも、共同親権や、父母が子育てに関わり続ける「共同養育」を望む声が出てきている。共同養育や共同親権が子どもや別居親にとってばかりでなく、シングルマザーにとってもプラスが多いとする、その声とは。
「とにかく元夫に娘を会わせたくない、という気持ちが強かった」
面会交流や共同養育をサポートするNPO法人を運営する築城由佳さん(大阪府在住、40代)は、離婚調停を行っていた7年前のことを振り返る。
弁護士に促され、支援を受けながら月1回元夫と当時1歳の娘との面会交流を行っていた。しかし「連れ去られたり悪口を吹き込まれたりしたらどうしよう」と思い悩み、「面会交流に行くまでの間、吐き気やめまいがひどかった」と話す。元夫を父親として認めたくない気持ちも強く、「娘に彼の血が流れているというのも嫌で、その事実を消そうとさえしていました」。
母の思いを察してか、2歳になった娘は元夫と会う際「楽しくない、行きたくない」と泣き、その姿に「行きたくないのに行かされてかわいそう」と胸を痛めた。そんな状態が3年続いた後、大きな転機が訪れた。法人所属の社会保険労務士として仕事と育児に追われるなか、シングルマザーに密着するテレビの取材を受ける。その放送で見た、疲弊した自分の姿にショックを受けたのだ。
「すごくしんどそうで、笑顔がない。これは本来の自分ではないと。会社に『すみません』と言いながら仕事を残して定時で帰って、なんでこんなに謝っているんだろうって……」
やがてシングルマザーを支援する社会保険労務士として独立する、という夢を持つようになり、そのことが築城さんを大きく変えた。
夢の実現に向け自分の気持ちに向き合うなか、元夫への憎しみが心の大きな重しになっていることに気付く。「憎しみを手放すために、まず面会交流に肯定的になってみよう」と決意。娘が元夫に会う際には「楽しかったね」などの言葉をかけるように心掛けた。
すると娘も父と会うことを喜ぶようになり、帰宅後も「今度いつ会えるの?」と笑顔をみせるようになった。
「自分の気持ち=子どもの気持ちだと思っていました。『子どものため』と思っていたけれど、子どもの気持ちをコントロールし、嫌だと思わせながら面会交流をさせていたのではないかと。初めから楽しい時間を過ごせるようお互い努力するべきでした」
東京で離れて暮らす元夫と娘の面会交流も今では宿泊付きとなり、元夫とは直接LINEでやりとりする。娘と元夫が会っている間、築城さんは自分のために時間を使えるようになり、仕事も順調にまわりだした。元夫への憎しみ、怒りは自然とはがれ、「自分自身非常に楽になった」という。養育費も途絶えることなく続いている。
「苦しんでいた時を知るママ友に会うと、『別人だ』と言われますし、面会交流をやめていたら今の私はなかった。面会交流は10年後、20年後の子どもの成長を父母が見守っていくことに必要なこと。だから面会交流や共同養育は大切なのだと。そのことを知っていれば、自分も最初から違っていたはず」。そう痛感する築城さんは2019年にNPO法人「ハッピーシェアリング」を設立。面会交流支援や離婚後の親としての心構えを学ぶ講座などに力を入れている。
「お母さん一人で仕事して、育児して、子どもを養わなくてはいけないという社会構造ができあがっていることも問題で、これはしんどく、貧困に陥ったり子どもがほったらかしになって非行に走ったりなどいろんなことに関わってくると思います。離婚後もお父さんも子育てに関わって、お母さんの負担を解消していくことが社会的文化として当たり前になることも望んでいます」
共同養育を円滑に進め、子どもが安心して育つためには「制度としての共同親権が欠かせない」と強く訴えるシングルマザーもいる。
「離婚届にサインをする時、親権は1人しか持てないことを知って衝撃でした」。そう語るのは東京都在住のA子さん(40代)だ。「『単独親権』って、片方の親の、子どもを養育する義務の放棄じゃないですか。そんな不安定な状態に子どもを置くことを国が強いるなんてありえない」と憤る。
離婚原因は元夫の不倫。元夫から申し立てられた調停は長引き、その間娘(当時10歳)から父を奪ってしまっていいのか悩み続けた。元夫は娘を非常にかわいがり、娘も父を大好きなことはよく分かっていた。仕事が多忙なA子さんには育児を一人で担うことへの戸惑いもあった。
そんななか、「共同養育」の存在を知る。目の前の霧が晴れた瞬間だった。「別れても2人で娘を育てられるんだ」。「羽が生えたように心が軽く」なり、調停もスムーズに。和解調書では共同養育を行うことを明記し、3年半前に離婚が成立した。だがそこで再びショックを受けたのが、親権者を1人に選ばなくてはならない離婚届だった。A子さんが親権を持つことになったものの「なぜ1人に絞らなくてはならないのか」と今も納得できていない。
現在、中学2年生になる娘と元夫は自由に会い、今も非常に仲が良い。娘が元夫宅に行っている間、A子さんは仕事をしたり、趣味に時間を費やしたりと大切な息抜きの時間になっている。
「『親権』は『子どもを養育する親の義務』のこと。単独親権のままでは法的な縛りがなく、親権を持たない親は嫌になったら逃げることができてしまう。不利益をこうむるのは子どもです」とA子さん。DV被害者保護等の観点から共同親権の導入には慎重論が根強いことについて、「DVを受けた人たちも安心できるように制度を整え、そうしたケースは単独親権も選べるようにしつつ原則共同親権にしていくことが大切だと思う」。シングルマザーとして、共同親権を求める活動にも積極的に参加している。
共同養育支援を行う一般社団法人「りむすび」のしばはし聡子代表は、「女性の相談者は以前は『元夫に子どもを会わせたくないが取り決めで会わせなくてはならないから』という方が多かった。ただ、ここ1年は共同養育を希望して相談される方が増えています」と変化を指摘する。
「『共同養育』という言葉が普及し始めて、そんな方法で離婚することができるんだと気付いた層が増えた。夫のことは嫌いだけど子どもと父親を引き離したいわけではなく、育児分担をしたい。仕事もしたいしキャリアも積みたい、という女性たちに共同養育という価値観がマッチしたという印象を受けます。安易に離婚に進みやすくなるのならそれは懸念しますが。」と話す。自身も2015年に離婚後、共同養育を実践中だ。
共同養育は、子育てに関わり続けたい別居親や、両親からの愛情を感じながら成長し続けられるなど、子どもにとってのプラス面が多く指摘されるが、シングルマザーやファーザー(同居親)にとっても利点は多いという。
「何よりワンオペ育児で疲弊することから逃れることができる。自分自身が疲弊しないことで子どもにやさしくできるし、責任分担もできる。元夫や妻の養育費を払うモチベーションも当然上がる。そして自分にもしものことがあった時に命に代えてでも子どもを守ってくれる人がいるというのは大切です」
海外では共同養育や共同親権を採用している国は多いが、日本ではなかなか認識自体が大きく広がらない。その背景には、現行の単独親権制度をバックにした「離婚すると子どもはひとりで育てるもの」という意識が根強く、行政サポートも「ひとり親支援」ばかりであることや、元夫婦間の葛藤を解消し、親同士としてかかわる関係性をつくっていく支援が非常に少ないこと等があると、しばはしさんは指摘する。
今後は「ふたり親支援」という共同養育の視点を持って対応できる体制を行政で築き、国も発信していくこと、葛藤を下げる作業から行えるような協議離婚の制度を作っていくこと等が求められているという。
「原則共同親権とすることで二人で育てる基盤が広がると思いますが、今でもできることとして共同養育を進めていくことが必要だと思います。元夫婦として、親同士として、育児というチームをまた他人として築いていくという発想にそれぞれが変わっていくことが最終的に子どものためになり、自分の時間の確保になる。一方で離婚したら子どもに会わなくていいっていうお父さんがいたとしたら、離婚をしてもきちんと子育てをしなくちゃいけないんだよ、という自覚にもつながるので、離婚をしても共同養育というのがあたり前のように行われていくといいなと思います」
子どもの成長にとって望ましい離婚後の親子、元夫婦のあり方とは何か、幅広い議論が求められている。
◆離婚した親子を取り巻く現状
日本のひとり親世帯の相対的貧困率は5割近くにのぼる(OECD、2016年)。厚生労働省の2016年度調査によると、養育費を受け取っている母子世帯は全体の4分の1以下である一方、別居する親と定期的に面会しているのは母子世帯で29.8%、父子世帯で45.5%に過ぎない。昨年法務省が公表した資料によると、欧州、アジアなど調査した24カ国のうち22カ国が共同親権を採用。日本と同様に単独親権のみの国はインドとトルコだけだったが、日本への共同親権導入に関してはDV被害者保護の観点等から慎重論も根強い。(藤岡敦子)
社説:民法の親子 見直しに弱い立場の声を
出典:令和3年2月21日 京都新聞
連続テレビ小説「おちょやん」は先週、親と子がテーマだった。子にとって親とは、親にとって子とは。
さて、いま法律上の親子をめぐる議論が始まっている。
後を絶たない親による体罰、虐待、離婚後の子をめぐる親権争い、養育費の不払い、母子家庭にみられる子どもの貧困、無戸籍の子…。
社会が向き合い解決すべき問題だが、壁にぶつかることがある。明治期から続く民法の家族規定が、現代に合っていないからだ。
法律の不備が、子や親の幸福への道を阻んでいないか。
ようやく、動きが出てきた。上川陽子法相は今月10日、離婚後の「共同親権」や養育費不払い問題を視野に、家族法制の見直しを法制審議会に諮問した。
その前日、別の法制審議会の部会が、子の父を決める民法の「嫡出推定」を見直し、無戸籍解消の道を開く中間試案をまとめた。試案では、しつけと称する虐待にも目を向け、民法が認める親の「懲戒権」の是非や、体罰禁止の明文化も検討するとした。
国連で1989年に採択された「子どもの権利条約」を、日本は94年に批准している。しかし、日本の改善は遅く、国連から親の「懲戒権」や、子どもに親の選択を強いる「単独親権」を見直すよう勧告されている。
欧米では、離婚した男女が「共同親権」を持ち、同じように子の養育に責任を負う。国際結婚で、親権のない親が海外に子を連れ出す事件が相次いだことから、欧州連合(EU)議会が「共同親権への変更」を日本に求める決議をしている。
一昨年中に離婚した夫婦は、20万組超にもなる。親のトラブルで、子どもたちの未来を暗くしてはいけない。
親権者の80%超が母親だ。母子家庭となり、養育費を受け取っているのはわずか24%、貧困率は50%近くにもなる。子どもの健やかな成長のために、急いで民法を見直し、養育費請求権を明記する必要がある。
子どもが会いたくても、面会を取り決めているのは母子家庭で30%のみ。暴力を振るう前夫から逃れるため、生まれた子を届けられずに無戸籍に。子への暴力を「懲戒権」で正当化する―さまざまな事情があるだろうが、振り回され傷つくのは子どもたちだ。
「いやだったことは、どちらと住むかを選ばされたこと」。民間団体が集めた、親が離婚した子どもたちの声だ。「親に心配かけないように、いい子を演じてきました」
子どもの権利条約は児童の「意見表明権」(12条)をうたっている。条約の児童とは18歳未満とされ、年齢や成熟度に相応して、行政上の手続きでも聴取される機会が与えられるとしている。
民法の見直しという難しい議論だが、専門家や大人の意見だけでなく、子どもたちの声にも耳を傾けてもらいたい。
子どもを守り、育てるのは、親の深い愛だが、地域や社会も子どもたちの成長を見守ることが大切だ。親子をめぐる議論は法律にとどまらない。
離婚後単独親権「規定に合理性」 東京地裁判決
出典:令和3年2月18日 毎日新聞
離婚後に父母の一方を子の親権者とする民法の単独親権の規定は憲法に反するとして、東京都内の男性が国に165万円の賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は17日、男性の請求を棄却した。松本真裁判長は「親権は子のための権利で、憲法が定める人権として保障されていると解することは甚だ困難。規定には合理性がある」と述べた。
男性側は「規定は個人の尊重を定めた憲法に反し、父母間を差別的に取り扱っている」と訴えていた。
松本裁判長は、親には子の養育を通じて自らの人格を発展させる利益があることは認めた。ただ、離婚で親権を失っても親であることに変わりはなく、単独親権によって、その利益が失われることはないと指摘。規定の趣旨は、子の監護や教育について適時適切な判断を可能にする点にあり、立法目的には合理性があると述べた。家族制度の根幹をなす親子のあり方や離婚後の共同親権を認めるかどうかは、国会の裁量に委ねられている段階だとした。
上川陽子法相は今月、父母の離婚に伴う子の養育のあり方に関する法制度の見直しを法制審議会(法相の諮問機関)に諮問しており、共同親権についても議論される。【遠山和宏】
離婚後の単独親権は「合憲」 東京地裁、原告男性が敗訴
出典:令和3年2月17日 産経新聞
裁判上で離婚となる場合に、裁判所が父母の一方を子供の親権者かと定める民法の「単独親権」制度は憲法に違反するとして、東京都に住む50代男性が国に165万円の損害賠償の支払いを求めた訴訟の判決が17日、東京地裁であり、松本真裁判長は「違憲とはいえない」として請求を棄却した。男性の代理人によると、単独親権をめぐる同種訴訟での判決は初めて。
訴状によると、男性は元妻との間の子供2人の親権を争った離婚訴訟で敗訴が確定し、親権を失った。松本裁判長は判決理由で、「親権は子の利益のために行使する特殊な権限で、憲法が定める他の人権とは本質が異なる」と指摘。「より適格性がある者を裁判所が判断し、親権者に指定する規定には合理性がある」として制度を合憲とした。
また、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」制度を国が創設しないのは立法不作為だとした男性の主張については、「親子のあり方と親権の内容をどうとらえるかは、国会の裁量権に委ねる段階にとどまる」と言及した。
主要国の多くでは共同親権が採用されており、今月10日には上川陽子法相が共同親権の是非を含む家族法制の見直しなどを法制審議会に諮問した。代理人の作花知志(さっか・ともし)弁護士は今後控訴する方針とした上で、「今回の判決では親子の養育関係が互いの人格的な利益だと認定されており、法制審での議論の進展にも期待したい」と話した。
離婚後の単独親権「合憲」 賠償請求は棄却、東京地裁
出典:令和3年2月17日 日本経済新聞
離婚すると父母の一方しか子どもの親権が持てない「単独親権」制度は憲法に違反するとして、東京都の男性会社員が国に165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は17日、請求を棄却した。同制度について「合理性が認められ、違憲とは言えない」とし、合憲との判断を示した。
松本真裁判長は、単独親権を定めた民法の規定は離婚した父母が通常別居し、関係が必ずしも良好でないことが前提で「子どもの監護や教育について適時に適切な判断ができるようにする目的がある」と指摘した。
その上で「子の利益を損なう事態を避けるため、父母のうち、より適格な者を親権者に指定する規定に合理性はある」と判断した。
男性は、単独親権について「幸福追求権や法の下の平等に反する」と主張。離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」制度を創設しないのは立法不作為だと訴えたが、判決は「共同親権を認めるか否かは、国会の合理的な裁量権の行使に委ねるべきだ」と退けた。
判決によると、男性は離婚訴訟で敗訴が確定し、元妻との間の子ども2人の親権を失った。
男性の代理人は、単独親権に関する同様の訴訟は複数あり、判決は初めてとしている。
親権制度を巡っては海外主要国の多くが共同親権を認めており、上川陽子法相は10日、家族法制の見直しなどを法制審議会に諮問した。養育費の確保策と並び、共同親権も論点の一つとなる見通しだが、父母の対立が続く場合、子が混乱して不安定になる、と懸念する声も根強くある。〔共同〕
離婚後の単独親権「合憲」と判断 男性の賠償請求棄却、東京地裁
出典:令和3年2月17日 共同通信
離婚後の単独親権「合憲」と判断 男性の賠償請求棄却、東京地裁
離婚すると父母の一方しか子どもの親権が持てない「単独親権」制度は憲法に違反するとして、東京都の50代の男性会社員が国に165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は17日、請求を棄却した。同制度について「合理性が認められ、違憲とは言えない」とし、合憲との判断を示した。
松本真裁判長は「子の利益を損なう事態を避けるため、父母のうち、より適格な者を親権者に指定する規定に合理性はある」と判断した。
男性は、単独親権について「幸福追求権や法の下の平等に反する」と主張。離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」制度を創設しないのは立法不作為だと訴えていた。
離婚後の単独親権「合憲」と判断 男性の賠償請求棄却、東京地裁
出典:令和3年2月17日 東京新聞
離婚後の単独親権「合憲」と判断 男性の賠償請求棄却、東京地裁
離婚すると父母の一方しか子どもの親権が持てない「単独親権」制度は憲法に違反するとして、東京都の50代の男性会社員が国に165万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は17日、請求を棄却した。同制度について「合理性が認められ、違憲とは言えない」とし、合憲との判断を示した。
松本真裁判長は「子の利益を損なう事態を避けるため、父母のうち、より適格な者を親権者に指定する規定に合理性はある」と判断した。
男性は、単独親権について「幸福追求権や法の下の平等に反する」と主張。離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」制度を創設しないのは立法不作為だと訴えていた。
単独親権 憲法に違反せず” 父親の訴え退ける 東京地裁
出典:令和3年2月17日 NHK
夫婦が裁判で離婚した場合に裁判所が父親か母親のどちらか一方を子の親権者と決めるとした民法の規定をめぐって、親権を失った父親が国を訴えた裁判で、東京地方裁判所は規定は憲法に違反しないと判断し訴えを退けました。
都内の50代の男性は裁判で離婚が成立した際、2人の子どもの親権者は元妻とされ、裁判所が父親か母親のどちらか一方を親権者と決めるとした民法の単独親権の規定は法の下の平等を定めた憲法に違反するとして国を訴えました。
判決で、東京地方裁判所の松本真裁判長は「別居後の父と母が子の養育に関して適切に合意できず、子の利益を損なうことを避けるための規定で合理的だ。離婚した父と母が共同で親権を持つことを認めるかどうかは国会の裁量に委ねるべきだ」と指摘して、憲法に違反しないと判断し訴えを退けました。
共同親権を認めるべきかどうかなど離婚した後の子の養育の在り方については今月、上川法務大臣が法制審議会に諮問し今後、幅広く議論が行われる見通しです。
離婚後の単独親権は合憲「親と子であること変わりない」
出典:令和3年2月17日 朝日新聞
離婚したら父母のどちらかしか子どもの親権を持てない民法の「単独親権制度」は、法の下の平等を定める憲法に反するなどとして、東京都の50代男性が165万円の賠償を国に求めた訴訟の判決が17日、東京地裁(松本真裁判長)であった。判決は民法の規定を合憲と判断し、原告の訴えを退けた。原告は2019年の離婚で息子2人の親権を失ったことに精神的苦痛を負ったと訴えていた。
判決は、親子の交流を通じて子どもが成長したり親の人格が発展したりすることについて、「親権を持たないとしても親と子であることに変わりはなく、そうした人格的利益は失われない」と指摘。その上で、単独親権制度は父母関係が良好でない場合も踏まえた合理的なものとし、憲法に反すると言えないとした。
離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を認めるかについては、「国会の裁量権に委ね、その行使を待つ段階」と述べた。
共同親権を含めた離婚後の子どもの養育のあり方をめぐっては、上川陽子法相が10日に法制審議会に諮問し議論が始まるが、結論が出るまでの期間は定まっていない。東京地裁では、共同親権や面会交流制度の整備を国に求める集団訴訟が相次いでいる。(新屋絵理)
単独親権、違憲と認めず 国賠訴訟、原告男性敗訴 東京地裁
出典:令和3年2月17日 時事通信
離婚後は片方の親だけが親権を持つ「単独親権」を定めた民法の規定は憲法違反などとして、親権者になれなかった男性が国を相手取り、165万円の賠償を求めた訴訟の判決が17日、東京地裁であった。
松本真裁判長は「違憲が明白とは言えない」として、請求を棄却した。
松本裁判長は、親権は子どもの利益のために行使しなければならない制約があり、憲法が定める他の人権とは本質が異なると指摘。民法で定めた単独親権の趣旨は、離婚後の父母の関係が良好でないことを前提に、子どもの教育などで適切な判断ができるようになる点にあるとし、「立法目的に合理性が認められる」と判断した。
その上で、父母双方に親権が残る「共同親権」については「国会による合理的な裁量権の行使に委ね、待つ段階にとどまる」と言及し、単独親権は違憲との主張を退けた。
法務省は現在、共同親権導入の可否について検討している。
養育費不払い解消 法整備 法制審に諮問 共同親権も議論へ
出典:令和3年2月11日 産経新聞
上川陽子法相は10日、離婚した親の都合で子の健全な成長が妨げられないよう、家族法制の見直しを法制審議会(会長・内田貴早稲田大特命教授)に諮問した。養育費不払いの解消策をはじめ、親と子の面会交流、共同親権の是非、財産分与の在り方といった離婚後の課題を網羅的に検討する。
法務省の検討会議が昨年12月にまとめた報告書では、母子世帯が離婚した父親から養育費を受け取っている割合は24%。検討会議は、養育費請求権の民法への明記や、離婚届と併せて支払いに関する取り決めを届け出る制度などを提案しており、法制審でも論点となる見直し。
現行法制が親権について定めているのは、離婚協議で父母のどちらかを決める「単独親権」制度。法制審は、主要国の多くが採用する父母双方による「共同親権」の是非を検討する。
また、離れて暮らす親と子の面会交流については、離婚時の計画作成を促進する方策などを議論。財産分与は、婚姻中に夫婦で築いた財産を離婚時に半分ずつに分ける「2分の1ルール」の制度化を検討する。
未成年養子縁組は、再婚相手の子を養子とする際、子供の利益が十分に考慮されない事例があることなどから、対応策を話し合う。
離婚関連規定見直し 諮問 法制審に 養育費不払い問題など
出典:令和3年2月11日 読売新聞
上川法相は10日、法制審議会(法相の諮問機関)の総会で、親が離婚した子供の養育が適切に行われるよう、離婚に関わる民法や民事執行法の規定の見直しを諮問した。養育費の不払い問題や財産分与の明確化などが議論される見直しだ。
養育費については、民法に請求権を明記することや、離婚時に支払いに関する取り決めを交わすことの制度化などが焦点となる。法務省の有識者会議が昨年12月にまとめた報告書によると、養育費を受け取っている母子世帯は24%にとどまり、養育費の不払いによるひとり親家庭の貧困などが社会問題化している。
親と子が円滑に面会交流できるよう離婚時に取り決めることや、父母双方が親権を持つ「共同親権」の導入についても検討する。財産分与に関しては、判例上、夫婦で築いた財産は離婚の際に折半するものと見なされており、このルールを民法に明記することなどが審議される予定だ。
法務省は答申を踏まえ、関連する法律の改正を検討する。上川氏は総会で、「離婚後の養育に関する法制度には、様々な問題点が指摘されている。子供を第一に考え、実態に即した検討をしてほしい」と述べた。
子どもの養育費不払い問題など解消へ 法制審に諮問へ
出典:令和3年2月10日 テレビ朝日
夫婦が離婚した後の子どもの養育費の不払い問題などを解消するため、上川法務大臣は法制審議会に関連する制度の見直しを諮問しました。
10日に法務省で開かれた法制審議会の総会で、上川法務大臣は「女性の社会進出や父親の育児への関与の高まりで養育の在り方や国民意識が多様化している」「子どもを第一に考える視点で幅広く実態に即した検討をお願いしたい」と諮問しました。
夫婦の離婚後に子どもの養育費が支払われないことで生じる貧困問題や離れて暮らす親子の面会交流が適切に行われていないと指摘されていることなどが背景となっています。
法制審議会では離婚する時の取り決めを促進するための方策や離婚後の親権を両親で持つ共同親権制度の是非など、関連する法制度について議論される見通しです。
養育費不払い解消策を法制審に諮問 「共同親権」も議論へ
出典:令和3年2月10日 毎日新聞
上川陽子法相は10日、父母の離婚に伴う子の養育のあり方に関する法制度の見直しを法制審議会に諮問した。約140万とされるひとり親世帯の半数が貧困状態にあり、離婚後の養育費不払いがその要因の一つとなっている実態を踏まえ、養育費不払い解消に向けた方策が主な論点となる。夫婦双方が子の養育に携わる「共同親権」を離婚後も認めるかどうかについても議論される見込み。
離婚後の養育めぐる課題解消に向け制度見直しを諮問 上川法相
出典:令和3年2月10日 NHK
養育費の不払いや、離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が実施されない問題など、親が離婚したあとの子どもの養育をめぐる課題の解消に向けて、上川法務大臣は、法制審議会に対し、関連する制度の見直しを諮問しました。
親が離婚したあとの子どもの養育をめぐっては、養育費の不払いによる母子世帯の貧困や、離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が実施されない問題、それに、父親か母親のどちらか一方しか持つことができない「単独親権」の在り方など、さまざまな課題が指摘されています。
10日、開かれた法制審議会の総会で、上川法務大臣は「女性の社会進出や父親の育児への関与で、養育の在り方や国民意識は多様化しており、子どもの最善の利益をはかる観点から、実態に即した検討をお願いしたい」と述べ、関連する制度の見直しを諮問しました。
法制審議会では、養育費や「面会交流」を適切に確保するための取り決めや、父親と母親の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入の是非なども含め、離婚したあとの子どもの養育の在り方について、幅広く議論される見通しです。
また、相続税の「非課税枠」を増やす目的で孫を養子にするケースがあるとして、未成年の養子制度に目的などを追加することや、夫婦で築いた財産を離婚の際に半分に分けるルールを、法律で規定することなどについても議論される見通しです。
「離婚後の養育費・親権 制度をどうすべき?」(ここに注目!)へ
出典:令和3年2月10日 NHK
「離婚後の養育費・親権 制度をどうすべき?」(ここに注目!)
夫婦が離婚した後の子どもの養育費や親権について、制度の見直しも含めた議論が法制審議会で始まります。
そのポイントを解説します。
【議論のきっかけは】
離婚する夫婦は、養育費の支払いや、親権をどちらが持つのかといった、さまざまな問題を抱えます。
中には制度を変えなければ解決できない問題もあるという声が高まっていて、法改正を検討する法制審議会で議論されることになりました。
【養育費をめぐる論点】
まずは養育費です。
離婚にあたっては、子どもを引き取る方が、相手から毎月いくら受け取るのか決めておくのが望ましいのですが、義務ではありません。
取り決めをしているのは母子世帯の42.9%、父子世帯の20.8%にとどまっています。
取り決めをしていても受け取れないケースが多いのが実状で、収入の少ない母子世帯は、コロナの影響もあって、深刻な状況に追い込まれています。
そこで法制審議会では、取り立てをしやすくする方法などについて議論される見通しです。
【親権をめぐる論点】
親権は、子どもを育てたり教育を受けさせたりする権利や義務のことです。
日本では、離婚後はどちらか片方が親権を持つ形です。
親権を失った親の立場からは、海外のように「共同親権」、つまり双方が親権を持つようにして、子どもと同居していない親も面会したり教育に関わったりできるようにすべきだという声が上がっています。
一方で、反対意見もあります。
DV=ドメスティック・バイオレンスがあったようなケースでは、接点ができて再び被害に遭うおそれがあるといった懸念の声があります。
【議論で大切なことは】
今後の議論では、「親が何を望むのか」という視点で意見を交わすと、対立するおそれがあると思います。
やはり、「子どもに対する責任」をどう果たすべきなのかということを最優先に考えるべきだと思います。
子どもの立場に立って、成長の過程で父親と母親がどう関わるのが一番いいのか、十分に議論してほしいと思います。
(山形 晶 解説委員)
【速報】離婚後の養育費 強制徴収も “不払い”改善 家族法改正諮問
出典:令和3年2月10日 FNNプライムオンライン
【速報】離婚後の養育費 強制徴収も “不払い”改善 家族法改正諮問
「養育費の不払い問題」で、国の議論が始まった。
親が離婚した子どもの養育をめぐっては、養育費の不払いによるひとり親家庭の貧困や、同居していない方の親が面会できないなど、さまざまな問題が浮上し、これまで有識者会議などで議論されてきた。
これを受けて、法務省は、子どもの利益を確実に確保するため、家族法の見直しを法制審議会に諮問。
今後、法制審では、養育費を強制的に徴収する手続きや、同居していない方の親との面会交流を的確に実施する仕組み、そして、離婚したあとでも、父母の両方が子どもの養育に関わる共同親権の在り方などが検討される見通し。
養育費不払い解消へ法制審に諮問
出典:令和3年2月10日 ロイター
上川陽子法相は10日、離婚した親の都合で、子の健全な成長が妨げられないよう、家族法制の見直しを法制審議会(会長・内田貴早稲田大特命教授)に諮問した。養育費不払いの解消策をはじめ、親と子の面会交流、親権制度、財産分与の在り方といった離婚後の課題を網羅的に検討する。
法務省の検討会議が昨年まとめた報告書では、母子世帯が離婚した父親から養育費を受け取っている割合は24%。養育費請求権の民法への明記や、離婚届と併せて支払いに関する取り決めを届け出る制度、不払い時に裁判手続きを取った場合の負担軽減や審理の迅速化などを提案しており、法制審でも論点となる見通し。
【共同通信】
養育費不払い解消へ法制審に諮問 面会交流や共同親権も議論
出典:令和3年2月10日 東京新聞
上川陽子法相は10日、離婚した親の都合で、子の健全な成長が妨げられないよう、家族法制の見直しを法制審議会(会長・内田貴早稲田大特命教授)に諮問した。養育費不払いの解消策をはじめ、親と子の面会交流、親権制度、財産分与の在り方といった離婚後の課題を網羅的に検討する。
法務省の検討会議が昨年まとめた報告書では、母子世帯が離婚した父親から養育費を受け取っている割合は24%。養育費請求権の民法への明記や、離婚届と併せて支払いに関する取り決めを届け出る制度、不払い時に裁判手続きを取った場合の負担軽減や審理の迅速化などを提案しており、法制審でも論点となる見通し。
養育費不払い解消へ法制審に諮問 面会交流や共同親権も議論
出典:令和3年2月10日 共同通信
上川陽子法相は10日、離婚した親の都合で、子の健全な成長が妨げられないよう、家族法制の見直しを法制審議会(会長・内田貴早稲田大特命教授)に諮問した。養育費不払いの解消策をはじめ、親と子の面会交流、親権制度、財産分与の在り方といった離婚後の課題を網羅的に検討する。
法務省の検討会議が昨年まとめた報告書では、母子世帯が離婚した父親から養育費を受け取っている割合は24%。養育費請求権の民法への明記や、離婚届と併せて支払いに関する取り決めを届け出る制度、不払い時に裁判手続きを取った場合の負担軽減や審理の迅速化などを提案しており、法制審でも論点となる見通し。
上川法相、養育費不払い問題で民法改正を法制審に諮問へ
出典:令和3年1月15日 毎日新聞
上川陽子法相は15日、父母の離婚に伴う子の養育の在り方に関する法制度の見直しを2月の法制審議会(法相の諮問機関)に諮問することを明らかにした。子と別居する親による養育費の不払いを解消したり、離婚時の取り決めを促したりするための民法改正などが論点となる見込みだ。
民法は、離婚時に養育費や別居する親子の面会交流などを父母の合意で取り決めると規定。ただし強制力はなく、2016年の厚生労働省の調査によると、養育費の取り決めをしたひとり親世帯は、母子世帯で42・9%、父子世帯で20・8%にとどまる。不払いも横行し、約140万のひとり親世帯のほぼ半数が、相対的貧困状態とされる。
法務省の有識者会議が20年12月にとりまとめた報告書は、養育費に関して民法に請求権を規定するなど、子の権利として明確化することの検討を求めた。離婚届と合わせて養育費の取り決めを届け出れば、メリットとして取り決めに執行力を付与する制度や、強制執行手続きの負担を軽減する措置も検討項目に挙げられており、法制審は議論の参考とする。離婚後も父母双方が養育に関わる共同親権を導入するかどうかなど、親権や監護権の在り方も論点となる見通し。
日本は結婚している間は共同親権で、離婚すると父母いずれかを親権者とする単独親権になるが、欧米では離婚後も共同親権を認める国が多く、日本での導入を求める声がある。一方、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待が理由で離婚した当事者には導入に慎重意見が根強く、専門家の間でも意見が割れている。法制審は、離婚制度全般の見直しなどさまざまな観点を踏まえて検討するとみられる。
上川法相は閣議後の記者会見で「養育費の不払いや親子交流の断絶といった父母の離婚に伴う深刻な影響が指摘され、女性の社会進出、父親の育児関与の高まりなど養育の在り方も多様化している。子の最善の利益を図る観点から、離婚に関する課題を幅広く検討すべき段階だ」と述べた。【村上尊一】
養育費不払い解消を諮問へ 法制審、共同親権も議論
出典:令和3年1月15日 日本経済新聞
上川陽子法相は15日の閣議後記者会見で、離婚後の子の養育に関する問題を解消するため、2月の法制審議会(法相の諮問機関)総会に、家族法制の見直しを諮問すると明らかにした。元夫から養育費が支払われず、母子世帯が貧困に苦しんだり、子が離れて暮らす親と面会できず、成長の上で問題だと指摘する意見が出たりしており、法整備の検討を求める声が強まっていた。
上川氏は「女性の社会進出や父親の育児への関与の高まりから、子の養育の在り方も多様化している」とした上で「チルドレン・ファーストの観点で法改正に向けた検討を行うため、諮問することとした」と述べた。
法務省の検討会議が昨年12月にまとめた報告書では、母子世帯が養育費を受け取っている割合は24%。法制審は、民法で養育費請求権を規定することや、離婚届提出時に養育費の支払いについて届け出た場合にメリットを与える制度の創設などを議論する。
面会交流は、やり方を取り決めている割合が30%を下回っており、離婚時の協議を促す方策を検討する。
離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」制度もテーマの一つに。ただ、父母が対立する場合には子が不安定な立場に置かれるとする懸念もあり、法務省の担当者は「丁寧な議論が必要だ」としている。
〔共同〕
離婚後の養育課題解消へ “法律改正へ来月にも諮問” 法相
出典:令和3年1月15日 NHK
養育費の不払いによる貧困や、離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が困難となる問題など、親が離婚したあとの子どもの養育をめぐる課題の解消に向けて、上川法務大臣は、必要な法律を改正するため、2月にも、法制審議会に諮問することを明らかにしました。
親が離婚したあとの子どもの養育をめぐっては、養育費の不払いによる母子世帯の貧困や、離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が困難となる問題、それに、父親か母親のどちらか一方しか持つことができない「単独親権」の在り方など、さまざまな課題が指摘されています。
上川法務大臣は、記者会見で「父母の離婚で子どもは心身に大きな影響を生じ、親子の交流の断絶など深刻な影響も指摘されている。女性の社会進出や父親の育児への関与の高まりなど、養育の在り方も多様化している」と述べました。
そのうえで「チルドレンファーストの観点で具体的な検討を行っていただきたい」と述べ、民法などの必要な法律を改正するため、来月にも、法制審議会に諮問することを明らかにしました。
法制審議会では、養育費や「面会交流」を適切に確保するための取り決めや、父親と母親の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入の是非なども含め、離婚したあとの子どもの養育の在り方について幅広く議論される見通しです。
また、相続税の「非課税枠」を増やす目的で孫を養子にするケースがあるとして、未成年の養子制度に目的などを追加することや、夫婦で築いた財産を離婚の際に半分に分けるルールを法律で規定することなどについても議論される見通しです。
養育費確保で法制審諮問へ 上川法相―民法への請求権明記を議論
出典:令和3年1月15日 時事通信
養育費確保で法制審諮問へ 上川法相―民法への請求権明記を議論
上川陽子法相は15日の記者会見で、父母の離婚後の子どもの養育費を確保するため、民法などの見直しを法制審議会(法相の諮問機関)に諮問すると発表した。2月に法制審の総会を開き、離婚や子どもの養育に関する法制度について幅広い議論を求める。
離婚時に養育費の取り決めがある母子世帯は4割程度で、父子世帯では2割にとどまる。養育費の不払いは、ひとり親家庭の貧困の要因と指摘されている。法務省の有識者会議は昨年12月にまとめた報告書で、民法に養育費の請求権に関する規定を明文化するよう求めている。
子と離婚した親の適切な面会交流についても、法制審で議論される。面会交流の取り決めは、母子世帯で約25%、父子世帯で約27%となっており、離婚時の取り決めの促進などが論点となる見通しだ。
共同親権や養育費不払いを議論へ 離婚後めぐり法制審
出典:令和3年1月15日 朝日新聞
子の利益を守るため親の離婚後の養育はどうあるべきか、法制審議会で議論されることになった。上川陽子法相は15日、2月の法制審総会で諮問することを明らかにした。父母の双方が親権を持つ「共同親権」や養育費の不払い、面会交流の機会の確保など幅広い論点について、どんな法制が必要か検討してもらい、早期の取りまとめを目指す。
現行の民法は「単独親権」を採用している。母親が子を引き取るケースが圧倒的に多いなか、厚生労働省の調査では、母子世帯の7割以上が養育費を受け取っておらず、子の貧困は深刻な状況にある。離婚時に取り決めをしているのが4割余りと不十分なことが一因に指摘されている。面会交流の取り決めはさらに少なく24%にとどまり、46%で一度も父と子の面会交流が行われていないという。
こうした現状を受けて法制審では、取り決めを促進するための方策や、配偶者からの暴力(DV)がある場合にどう対応するかといった点についても議論する。上川氏は15日の記者会見で、「離婚に伴い養育への深刻な影響が指摘され、女性の社会進出や父親の育児への関与の高まりから養育のあり方も多様化している」と指摘。「喫緊の課題。チルドレンファーストの観点から実態に即した検討がなされることを期待している」と語った。
また、上川氏は会見で、担保法制の見直しも法制審に諮問する考えを示した。融資時の担保に、企業の持つ土地などの有形資産や経営者の個人保証が充てられることが多い現状を改め、商品などの動産や売り掛け債権を対象とする制度の整備を目指す。収益を生み出す事業そのものを対象にできないかも検討課題になる。(伊藤和也)
離婚後養育費不払い解消、諮問へ 面会交流や共同親権も、法制審で
出典:令和3年1月15日 共同通信
離婚後養育費不払い解消、諮問へ 面会交流や共同親権も、法制審で
上川陽子法相は15日の閣議後記者会見で、離婚後の子の養育に関する問題を解消するため、2月の法制審議会(法相の諮問機関)総会に、家族法制の見直しを諮問すると明らかにした。元夫から養育費が支払われず、母子世帯が貧困に苦しんだり、子が離れて暮らす親と面会できず、成長の上で問題だと指摘する意見が出たりしており、法整備の検討を求める声が強まっていた。
法務省の検討会がまとめた報告書では、母子世帯が養育費を受け取っている割合は24%。法制審は、民法で養育費請求権を規定することや、離婚届提出時に養育費の支払いを届け出た場合にメリットを与える制度の創設などを議論する。
離婚後養育費不払い解消、諮問へ 面会交流や共同親権も、法制審で
出典:令和3年1月15日 東京新聞
離婚後養育費不払い解消、諮問へ 面会交流や共同親権も、法制審で
上川陽子法相は15日の閣議後記者会見で、離婚後の子の養育に関する問題を解消するため、2月の法制審議会(法相の諮問機関)総会に、家族法制の見直しを諮問すると明らかにした。元夫から養育費が支払われず、母子世帯が貧困に苦しんだり、子が離れて暮らす親と面会できず、成長の上で問題だと指摘する意見が出たりしており、法整備の検討を求める声が強まっていた。
法務省の検討会がまとめた報告書では、母子世帯が養育費を受け取っている割合は24%。法制審は、民法で養育費請求権を規定することや、離婚届提出時に養育費の支払いを届け出た場合にメリットを与える制度の創設などを議論する。
共同親権になっても別居親は「子どもに会えない」? 共同養育ができる親の“資質”とは
出典:令和2年12月27日 AERA.dot
共同親権になっても別居親は「子どもに会えない」? 共同養育ができる親の“資質”とは
近年、離婚をしたら父母のどちらかしか子の親権を持てない民法の単独親権制度の見直しを求める声が強まっている。離婚後の単独親権は親の子育ての権利を侵害しているとして、最近は違憲性を問う国家賠償訴訟が続いている。現在進行中の訴訟だけでも6件、今秋には、子どもが原告となって国を提訴したことも話題となった。
世界の先進国のなかで、離婚後の単独親権制度をとっているのは日本だけ。これに対して、最近は諸外国からも非難の声が上がっている。2月には、国連の「子どもの権利委員会」が日本政府に対し、外国籍の親も含め離婚後の共同養育を認める法改正や別居親との接触を続ける方策を実現するよう求めた。
こうした動きもあり、共同親権の法制度化の機運は高まりつつある。なかでも、離婚・別居後の面会交流が遂行されず、「子どもに会えない」と嘆く別居親たちの期待は大きい。
「共同親権制度にさえなれば、子どもに会えるようになる!」
との声はよく聞かれる。
しかし、家族間の紛争を多く手がける弁護士の土井浩之氏は、「共同親権制度に過度な期待は禁物だ」と警鐘を鳴らす。
「外圧をかわすためのトリックとして、たとえば“選択的”共同親権といった骨抜きの制度になってしまうのがいちばん心配です。これだと夫婦間の同意がなければ共同親権にならないわけなので、いまよりむしろ係争が増えてしまう可能性もある。離婚・別居後も両親が子育てに関わるためには、原則的共同親権でなければ意味がない。当事者は、子どもの健全な成長のために実効性のある法律ができるよう、しっかりと声をあげていくべきでしょう」
■共同親権=共同養育ではない
そもそも、共同親権制度が実現すれば、別居親が「子どもに会えない」状況がすぐに解消されるわけではない。なぜなら、まだ離婚していない、つまり子どもの親権をもっている別居親であっても、同居親によって子どもに会わせてもらえないケースは多いからだ。
「子どもの連れ去りの目的が親権獲得であるとしたら、離婚後の単独親権というゴールがなくなることには大きな意味があると思います。でも、子どもを連れて逃げる親は、とにかく相手から離れたいという切羽詰まった気持ちであることも多いので、法律が変わったからといって『そうですか、では一緒に子育てしましょう』とはならないでしょうね」(土井氏)
「離婚しても親はふたり」というスローガンを掲げ、離婚・別居後も両親が子育てにかかわる共同養育サポートを行う一般社団法人りむすび代表のしばはし聡子氏も「共同親権=共同養育ではない」と言う。
「もちろん共同親権になることで、離婚後も両親が子どもを育てることが当たり前だという意識が世の中に浸透していけば、共同養育のキックオフがスムーズになるというメリットはあると思います。しかし、法律だけで人の心を動かすことはできません。子どもが親の顔色を見ずに自由に行き来でいるような共同養育を実践するためには、計画書をつくるだけではなく、破綻した夫婦が親同士として関係を再構築していくための努力が必要です」
■争うより歩み寄り
では、破綻した夫婦が、夫婦としてではなく、親同士として関係を再構築していくにはどうしたらいいのだろうか。離婚する夫婦の1割が調停離婚だと言われているが、土井氏は安易な調停の利用に懸念を示す。
「昔の日本では、親戚や近所の人、職場の上司など身近な人たちが、夫婦がうまくやるための知恵をつけてくれたり、もめごとの仲裁をしてくれたりしていました。今はそれがなくなり、夫婦のいさかいがいきなり調停の場に移ってしまうこともある。調停は本来、第三者の立ち会いのもとで夫婦間の冷静な話し合いを持つための場です。でも実際には、離婚したいかしたくないか、離婚するなら慰謝料や養育費はどうするかという現実的な話し合いが始まり、少しでもよい条件を得るために相手を攻撃し合う場になってしまっている。これでは、むしろ夫婦の葛藤は上がってしまいます」
しばはし氏は、土井氏の意見に同意したうえで、こう続ける。
「調停中に対立構造が深まり、別居前よりも関係が悪化しているケースは多くあります。関係を再構築をするためには、相手に正論をぶつけて責めたり追い詰めたりせず、お互いの気持ちを尊重する作業も大切。拳を下げれば相手の態度は次第に軟化するでしょう。たとえば、妻が離婚したい意向が固いにもかかわらず、自分は悪くないから絶対に応じないとかたくなに粘っている間は、妻の心は離れていくばかり。いったん『離婚したいという気持ちはわかったよ』と受け止めると、妻は『初めて私の言うことを理解してくれた』と思えて、心を開き始めることもあるのです。一方で同居親は、子どものために自分の感情と親子関係を切り分けることが必要。共同養育に前向きな姿勢を見せることで相手も穏やかになっていくでしょう」
■「ありがとう」「わかった」を意識して
しばはし氏によれば、歩み寄りに必要なのは、“感謝”と“尊重”のコミュニケーションだ。
「夫婦の感覚を引きずっていると、つい言い返したり思い通りにしようとしてしまいがちですが、否定せずにまずは『わかった』『ありがとう』と受け止めること。そして、相手を変えようと説得するのではなく、自分自身が共同養育しやすい相手に変わることが結果して共同養育への近道になるのです」(しばはし氏)
特に男性は「譲歩すること=負け」と捉えがちだが、裁判では関係ないという。
「謝ると調停や裁判で不利になると思い込んで、絶対に謝らない人もいますが、そんなことはないんですよ。虚偽DVなどを主張され、自分にはまったく非がないと思える場合でも『個別の出来事について、相手の言い分を認められなくても、その時の相手の気持ちがそういうものだったかもしれない』などと言い方を工夫すれば、いくらでも謝ることはできると思います」(土井氏)
子どもがいて離婚する場合、相手に勝つことを目的にしてはいけない。正論を振りかざし、たとえ相手をこてんぱんにやっつけることができたとしても、相手は子どもの親なのだ。子どもの親同士として最低限かかわれる関係性を保つことが結局は、自分も子どもも幸せにする。
共同親権制度が、共同養育の土台になることは間違いない。しかしそこには、制度だけでは解決できない心の問題が厳然としてある。離婚・別居後の子どもの幸せのために、私たちにできることは何なのだろうか。(取材・文=上條まゆみ)
離婚しても両親で子育て
出典:令和2年12月25日 日本経済新聞
離婚しても両親で子育て 共同養育を推進、「りむすび」しばはし代表に聞く 「夫婦の感情と切り分けて」
離婚をすると一人で子育てをする親が多い。別居した親と子供の「面会交流」をしていない世帯も半数以上にのぼる。離婚した夫婦双方が子供の養育に関わる「共同養育」を推進している、りむすび(東京・世田谷)のしばはし聡子代表に現状や課題を聞いた。
――自身の離婚の経験が活動の原点となっている。
「息子が小学校4年生のとき、夫へのわだかまりが残ったまま調停離婚をした。息子と夫の面会交流の実施は取り決めたが、夫に...
以下、紙面を参照ください。
身の毛もよだつ写真に絶句……浪費と浮気の果てに夫に子供を連れ去られた妻の後悔
出典:令和2年12月18日 デイリー新潮
身の毛もよだつ写真に絶句……浪費と浮気の果てに夫に子供を連れ去られた妻の後悔
■連れ去り 我が子に会えない親たちの告白3
ある日突然、妻や夫が子供を連れて家を出てしまう。その日から“制度の壁”が立ちはだかり、我が子に会えなくなる。日本で横行している「連れ去り」の“被害者”は夫ばかりではない。今回は、子供たちを連れて家を出ようとしたものの、夫に見つかってしまい、逆に子供たちを連れ去られてしまった妻の話を紹介する。
■中指を立てた写真
異様な子供の様子を収めたアルバムがある。
上から順に、小学6年生の女児、5年生の男児、3年生の女児。彼らの3年間に及ぶ成長の記録だ。アルバムの中には“笑顔”がない。そればかりか、そっぽを向いたり、後ろ姿だったり、顔が見切れたりする写真ばかり目立つのだ。ページをめくっていくと衝撃的な写真に行きつく。
長男が中指を突き立てて挑発的な目で睨みつけている。隣に立つ次女とともに手に持っているのは、幼い筆致で文字が書かれたメモ用紙だ。目を凝らして文面を確かめると、思わず身の毛がよだつ。
〈死ねくそばばあ しね〉
〈くそあほバー〉
これらの写真は、3人の子供を連れ去った夫が妻に送ってきたものだ。つまり、この恐ろしいメッセージは、幼い子らが実の母親に向けて送ったものなのである。
妻は家庭裁判所に子供たちとの面会交流を求めたが認められなかった。代わりに家裁が提案したのが、月に1度、妻が子供らに手紙を送り、夫が子供らの写真を妻に送るという「間接交流」だった。家裁が「子の福祉」を優先して考え、斡旋した結果が、この写真だというのである。
写真を送られた山中亜希子(30代・仮名)が語る。彼女は3年以上子供に会えていない連れ去り”被害者”だ。
「中指の写真を見た時はショックで思わず仰け反りました。久しぶりに子供たちと“逢える”と、ときめきながら封を開き、出てきたのがこの写真だったので……。悲しみの後、湧いたのが、憤りと不安でした。あの子たちが自発的にこんなメッセージを書くわけがありません。どうしてこんな残酷なことを子供たちにさせるのだろうか。子供たちが心配でなりませんでした」
■できちゃった婚で入籍
亜希子が夫の龍太(30代・仮名)と出会ったのは、15年前に遡る。関東地方の地方都市で生まれ育った彼女は、地元の高校を卒業後、大手住宅設備機器メーカーに勤務していた。
「夫とは、地元の先輩の紹介で知り合いました。しばらくは友達としてグループ交際していましたが、4年ほど経った頃、男女として付き合うように。私は優柔不断なタイプなんですが、グイグイ引っ張ってくれる彼に惹かれました」
交際から1年ほどで、妊娠が判明。2007年12月に、新居も定まらないまま新婚生活がスタートした。
「当時は、帰宅が深夜にさしかかるほど仕事が忙しかったので、ちゃんとデートしたことは数えるくらいしかありませんでした。一緒に住んだこともなかったので、よく彼のことを知らないまま結婚してしまったのです。入籍して2ヶ月後に同居するようになって、すぐに彼の問題点に気づきました。まず、ひどかったのは金遣いの荒さでした」
■欲しいものは何でもカードで
夫はトラックの運転手で、月給は手取りで30万円ほどだったというが、
「貯金はゼロ。車好きで、結婚前から乗っていた『アルファード』の月々7万円のローンが、2年も残っている状態だった。にもかかわらず、『結婚して子供も産まれるんだから新車を購入したい』と言うのです。そして600万円もする『ヴェルファイア』を、ローンを組み直して買ってしまった。一方の私は、どちらかというと倹約家で、貯金は300万円くらいありました。だから、『まあ何とかなるか』と甘やかして買ってしまったのです」
それだけでなく、買い食いなどの浪費癖もひどく、
「弁当と水筒を持たせても、それでは足りないとコンビニでお菓子やらジュースやらタバコやらと、じゃんじゃん1日2000円くらい使ってしまい、小遣いが足らなくなる。さらに欲しいものは、カードで歯止めなく買う始末。新居に越した際の電気製品や家具などもすべて私の貯金から買い揃えました。出産前に私が会社を辞めて収入が途絶えてしまうと、あれよこれよと、ついには2年ほどで蓄えも尽きてしまいました」
■“裸で待っていてね”浮気相手に送ったメール
さらに亜希子を悩ませたのが、女癖の悪さであった。
「出産前からすでに、女性の影がありました。夜、電話しながら帰ってくるので、誰だろうと思って、風呂に入っている間に、携帯を盗み見ると、女性と『会いたい』などとメールをしているのです。最初は、子供が生まれて自覚が出れば治るだろう、くらいに思って見過ごしていたのですが、出産日も外泊しようとしたことに気づき、私もブチ切れた。その時、彼は泣きながら土下座し、『もうしません、許してください』と謝ったのです」
ただ、それはポーズだけで、次の日も同じ女性に連絡していたという。
「その後も『裸で待っていてね』とか、気持ちの悪いメールを送っていました。やがて、私は第二子の長男を妊娠するのですが、まだ浮気が止まらなかったので、その女性に直接電話して『既婚者だから二度と夫と連絡しないでください』と訴えました。でも、一時的に鳴りを潜めても、すぐに浮気を再開。さらに、別の女性とも密会していることまで発覚してしまった」
■義母は言った「避妊手術をしなさい」
だが、亜希子はひたすら耐え抜こうとした。
「結局のところ、デタラメな夫を受け入れてしまった私も悪かったと思っています。結婚して間もなく最愛の母を亡くしてしまった私は、家庭を守っていきたいという思いが強かった。また私が生来、我慢強い性格だったのも夫を増長させたのかもしれません。私自身は小遣いが月に5000円くらいしかなくても平気で、外に出て働くことも苦ではありませんから」
長男を出産後、生命保険会社で正社員として働くようになると、
「私が家を開けることをいいことに、彼はどんどん浮気を重ねていきました。金遣いもどんどんひどくなり、クレジットカードの利用額が7万円にも達するように。私が働いても足りないので、夫の実家に無心しなければやっていけないのですが、彼はそれを私にやらせるのです。義母からはやりくりできない私が悪いくらいの言い方をされました。その後、第三子となる次女を身ごもったのですが、義母からは『子供ができないように避妊手術をしなさい』とまで言われました」
■スナックで働き出すと逆に夫が浮気を疑い出した
11年に次女を出産した時には家計は火の車で、亜希子は日中働いた後、午後10時からスナックでアルバイトをしなければならなくなった。
「夫は時給が2000円と聞くと、『いいじゃないか』と賛成した。義母も『若いうちにしかできない仕事だから頑張りなさい』と反対しなかった」
この頃、亜希子は生命保険会社を辞め、不動産会社に転職していた。
「この頃の私は、完全にうつ状態になっていました。昼の仕事から夕方、家に戻り、子供たちの食事、入浴を済ませてからの夜のバイトです。一方で、夫の浮気はどんどんエスカレートしていく。昼の仕事が長引いたりすると、夫は子供たちを連れて、浮気相手とその子供たちと一緒に食事するなど、やりたい放題でした。次第に私は家庭に居場所を見出せなくなり、朝食の準備や保育園の送りはやり通しましたが、夜は夫と夫の実家に任せてしまうようになった。すると……」
今度は夫が亜希子の浮気を疑い出したのである。
「相談相手だった職場の男性と一緒に、夫の浮気現場を抑えようと、夫の跡をつけたことがあったのですが、夫がその人との関係を勘ぐったのです。その人と私が会っていたことを知った夫が、烈火のごとく怒り出して、私を玄関の外に投げ飛ばすという暴力沙汰も起きた」
■連れ去りを決行したが、逆に連れ去られてしまった
もう離婚しかないと思った亜希子は、16年11月に、夫と同居しながら、家庭裁判所に離婚調停を申し立てた。
「『別居もしないで離婚調停ですか?』と驚かれたくらいレアなケースだったようです。そのくらい私は、この問題について無知でした。子供たちは夫に懐いていましたし、ちゃんと家族が話し合って納得するかたちで離婚したいと、バカ正直に考えていたんです」
離婚調停が不調に終わって間もなく、亜希子は子供を連れて家を出る決心を固める。だが、計画は準備不足で失敗に終わってしまう。
「荷物をまとめている途中、夫にバレてしまった。そして、一番下の次女が預けられていた保育園に2人が駆け込んで子供を奪い合う事態になったのです。警察を呼んで、すったもんだした挙句、次女は夫の実家に連れて行かれました。その後、小学1年生だった長男も連れ去られ、唯一、小学2年生だった長女だけが『ママといたい』と私についたので、私と長女だけがアパートに別居することになりました」
本連載を読んできた読者ならば、彼女が明らかに戦略に欠いていたことがお分かりであろう。是非は置いて、彼女にはほぼ確実に子供を奪われずに別居・離婚ができる方法があった。
まず女性相談所に駆け込み、夫のDVを訴え、シェルターを確保すべきだった。そうすれば、夫がいくら役所で騒ごうとも住民票が閲覧できなくなり、所在がつかめなくなる。そのままひっそり別居生活を積み重ねることで、子供の「監護者」としての権利を勝ち取れる実態が、日本の法制度の中に存在することを彼女は知らなかったのだ。
もっともこのような「連れ去り」勝ちな現実があるからこそ、日本社会において、子と親が断絶してしまう悲劇が蔓延しているのであり、深刻なDV被害で逼迫している状況でない限り、このような「連れ去り」は間違っている。とはいえ、いま現実として連れ去られた側に立たされた彼女は、中途半端な連れ去りをしてしまったことを後悔しないでいられないのだ。
「実は、当時私は女性相談所にも相談済みで、相談員からシェルターに入ることも勧められていました。けれど、子供たちが友人たちと離れたがっていない様子を知り、思いとどまっていたのです。シェルターに入れば、子供たちは転校を余儀なくされます。長女は保育園時代に仲がよかった友達と中学校で再会することを楽しみにしていました。次女も保育園の友達とずっと離れたくないと言っていましたので……」
■次女が楽しみにしていた遠足
そうして、夫婦のみならず兄妹までも別々に暮らす新たな生活が始まった。亜希子は毎日のように夫の実家に通い詰めて、2人の子供を返して欲しいと訴え続けたが、まったく取り合ってもらえなかった。次女は『パパに殴られる。ママと一緒に帰りたい』と泣き出したことがあったというが、
「この時も私は強引に連れ戻すことはしませんでした。次女が楽しみにしていた保育園行事の遠足が控えていたからです。それまでは穏便に話し合いを継続していこうと考えました」
結局、事態が一向に進展しなかったため、17年5月に亜希子は、長男と次女の引き渡しを求める審判と、3人の子供の監護者を自分と定めるよう求める審判を家庭裁判所に申し立てた。同時に2人への面会調停も申し立てた。
■長女までも夫に連れ去られてしまった
ところが、この頃、新たな問題が発生してしまう。唯一、同居していた長女が学校で授業中にトイレにこもるなどの問題行動を繰り返すようになってしまったのだ。
「かわいそうなことに、長女は、大好きだった弟と妹と会えなくなってしまい、精神的に不安定になってしまったのです。そして、別居から3ヶ月ほど経った7月、彼女はかつて同居していた自宅に1人戻ったところを夫に見つかり、実家に連れ去られてしまいました」
こうして最後の長女までをも失い、亜希子は独りになってしまったのである。以来、彼女は3年以上、3人の子供たちに会わせてもらっていない。
「長女には私たち夫婦の問題に巻き込んでしまい、申し訳なかったと思っています。兄弟が再び一緒になれたこと自体は良かったのかもしれません。ただ、その後、調べると、子供たち3人は義母の実家で義母が育て、私がこれまで住んでいた家で、夫は浮気相手とその連れ子たちと同棲していることがわかった。つまり、夫は連れ去りをしておきながら、子供たちと暮らしていなかったのです」
■パパに話すように頼まれたことがある
亜希子は家裁にこのような夫の生活実態も訴えたが、結局、翌18年3月、3人とも監護者を夫とし、引き渡しを却下する審判が下った。亜希子は即時抗告して高裁で争ったが、覆ることはなかった。
「どうして母親なのに監護者になれないの、とよく聞かれるのですが、結局、離婚後は単独親権制度しか認められていない日本では、別居してどちらかを監護者として選ばなければならなくなった際、父母に関係なく、連れ去った者が優位になる仕組みが出来上がっているのです」
この間に、家裁の調査員調査が入り、子供の聴取も行われたが、
「子供たちは『パパがいい』『ママが嫌いになってきた』などと答えています。ただ、これは彼らの本心ではないのです。それは誰よりも、彼らと暮らしてきた私自身がよくわかっています。彼らは同居している夫や義母の顔色をどうしても伺い、そう言わされているに違いありません」
調査員がまとめた調査報告書には、このような記述がある。
〈長男は「お話しできたら、パパがトイザらスで玩具を買ってくれる。」と答えた。「パパに話すよう頼まれたことがあるのかな。」と聞くと、ある、と言うので、長男に「パパに話すよう頼まれたことを話して。」と伝えると、長男は「●●(地名)のうちにいるときにママからちょっとしたことで髪を引っ張られたり、パンチされたりした。」、「宿題するのが遅いと言って、げんこつされた。」と話した〉
■浮気は監護者の適性には関係ないと指摘した裁判所
亜希子は語気を強める。
「夫がおもちゃで子供を釣って、母親を悪く言うよう仕向けているのは明白です。明らかな片親疎外(※同居親が子供に不適切な言動などを取ることで、別居親との関係が破壊されること)が起きているにもかかわらず、裁判所はそこに一切注目せず、監護者を変更すると、子供たちの心身の安定が損なわれると言うのです」
争点の一つである夫の浮気については、家裁では認められなかったが、高裁では認められた。だが、判決文にはこうある。
〈(不倫が)不適切な行為であることは当然であるが、このことにより直ちに相手方が未成年者らの監護者として不相応となるわけではない〉
この指摘についても、
「到底納得できません。いま彼は、子供たちと事実上、別居しており、不倫女性と同居生活を続けているんです。そんな父親が本当に正当な監護者と言えるのでしょうか。子供たちは母だけでなく、父も共に失っているような状況にありながらも、裁判所は問題ないと言っているのです」
■破り捨てられた手作りの手紙
この間、平行して行っていた面会交流調停では、18年5月に、手紙や写真を送り合う「間接交流」で暫定的に合意した。
毎月1度、亜希子が手紙を書いて送り、夫も子供たちの写真を送るという取り決めだ。だが、冒頭で紹介した通り、送られてきた写真は、母を拒み、憎むような仕草をばかりした子供たちの姿だった。
「こういう写真を送りつけられることで私がショックを受けるのを狙った、夫の嫌がらせなのでしょう。送られてきた写真の中には、私が送った手作りの手紙を子供たちが手で引き裂いたり、ハサミで切り刻んでいる様子が写ったものもあります」
このような行為をさせていることが、「子供の福祉」に反しているのは言うまでもあるまい。亜希子は昨年、2回目の面会交流調停を申し立てた際に、この写真についても訴えたが、
「逆に裁判所は、このような間接交流は良くないといって、写真を2ヶ月に1回に減らしてしまったのです。明らかな『片親疎外』が起きているのですから、すぐにでも面会交流を行い、母子関係を修復すべきでしょう。日本の家庭裁判所は目が曇っているとしか言いようがありません」
■連れ去りは残酷な行為です
子供らと会えなくなって3年以上になるが、いまも彼女は毎月、欠かさず子供たちへ手紙を書き続けている。離婚はできない。なぜなら、離婚後は単独親権制度となっている日本では、離婚と同時に親権も失ってしまい、法廷闘争で不利な立場に立たされてしまうからだ。
いま亜希子は再度、面会交流調停を申し立てる準備に入っている。また昨年から今年にかけて、同じような連れ去り被害に遭っている父母らとともに、国の不作為を問う国家賠償請求訴訟を2件起こした。
「絶望的な状況ではありますが、ここであきらめてしまえば子供たちとのつながりが切れてしまう。あの子たちのためにも、やれることは全てやろうと思います。おそらく子供たちは、夫から相当なことを吹き込まれ続けているでしょうから、私を憎んでいるかもしれません。でも、彼らは何があっても私にとって大切な子供たちです」
亜希子が返す返すも後悔するのは、用意周到に「連れ去り」を決行しなかったことである。
「子供を第一に考え過ぎた結果、こうなってしまいました。子供たちには夫婦の争いに巻き込んでしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。ただ誓って言えるのは、もし私の連れ去りが成功していたとしても、子供たちを夫や義母に自由に会わせていたと思います」
なぜなら、と亜希子は言葉を継ぐ。
「私にとって最悪な夫ではありましたが、彼らにとっては父親に違いないからです。私がいま、身をもって経験していますが、子供と親を引き裂く連れ去りは本当に残酷なことです。人間である限り、夫婦の仲が壊れることはいつ何時でも起こりえる。このような悲劇が起きない社会になってほしいと切に願っています」
週刊新潮WEB取材班
「お父さん、次はいつ会える?」 自由な面会求め、子どもが国を提訴
出典:令和2年12月16日 47NEWS
「お父さん、次はいつ会える?」 自由な面会求め、子どもが国を提訴
夫婦の離婚などで一緒に住めなくなった親子をつなぐ「面会交流」。2020年11月、別居中の親子ら17人が「法の不備で自由に面会交流できないのは憲法違反だ」と、東京地裁に国家賠償請求訴訟を起こした。これまでも同種の訴訟はあったが、子どもが原告に加わるのは初めて。「お父さん、次はいつ会える?」。原告たちは取材に、幼い頃に家族がばらばらになり、心に負った深い傷を明かしてくれた。背景には親の立場を重視し、片方にしか親権を認めない「単独親権」という法的枠組みがあり、国は見直しに慎重だ。他方、子どもの権利を尊重し、先んじて面会交流支援に乗り出した自治体もある。(共同通信=寺田佳代)
▽離れ離れの生活がフラッシュバック
「もっと面会交流が多く実施されていれば、ここまで苦しまなかったかも」。原告の一人の千葉県の男性(20)は提訴後に記者会見し、家族と会いたくても会えなかった過去を振り返り、せきを切ったように話した。
2011年、両親が不仲となり、男性は弟と一緒に千葉県の自宅から母の実家がある北海道へ連れて行かれた。当初は新生活にわくわくしていたが、やがて千葉にいる父や友人を思い出し「今はどうしているのか」と不安が募った。中学進学後、気づけば学校に通えなくなっていた。独りで千葉の父親の元へ戻ったが、母側代理人から面会を拒絶され、今度は弟とも会えなくなった。
中学3年の時に再び北海道に戻ると、母は知らない男性と一緒に住んでいた。母は外泊も多く、弟が家で1人の日も多かったという。 現在は父側に親権が認められ、父と弟と3人で暮らす。だが家族が離れ離れだった昔の生活のフラッシュバックに苦しみ、動悸(どうき)も激しくなるという。弟も育児放棄などによる精神的ダメージを受けたとみられ、今年9月に兄弟ともに心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
男性は「当時は、『父に会いたい』と言うことが、母の負担になるのではないか、と思っていた」と話す。「自由に面会できれば素直に本音がさらけ出せたかもしれない。離れていても、家族に気持ちを伝えたい瞬間はあるはず」と訴えた。
▽離婚、次第に会えなくなり…
12歳の中学1年の男子生徒も、提訴前に取材に応じてくれた。原告最年少だ。10年前に両親が離婚し母親に引き取られたが、父親とは月1回会っていた。朝、生徒の家の最寄り駅に待ち合わせ、街をぶらぶらしながら夕方に別れるのがいつものコースだった。
ところが小学5年のころから「次はいつ会える?」と聞いてもはっきりと返事がなく、その後面会を断られることが増えた。「お父さんは信頼できる存在。面会交流の日は毎回、次も会えると思っていた」と話す。
母親によると、元夫は別の女性と再婚し、養育費の減額も求めてきたという。母親は「親の感情や状況の変化で、面会が不安定になるのは良くない。安定して会える基準がほしい」と話す。「本当はもっと会える回数を増やしたい」。生徒は心の内を漏らした。
▽世界の主流は、離婚後も双方に親権
「面会交流の頻度で1番影響を受けるのは子どもなのに、日本の法制度は、子を個人として見ておらず、意見が尊重されない」と原告側代理人の作花知志弁護士は訴える。日本の民法は、離婚すると父母の一方しか子の親権を持てない「単独親権」を採用。親権がない親は子育てに関われず、面会も十分にできないケースがよくある。
一方、海外は離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」が主流だ。法務省の調査では、欧米やアジアなどの24カ国中、日本と同様に単独親権のみの国はインドとトルコだけだった。
「離婚で親権を失い子育てに関われなくなった」、「国は共同親権制度の立法を怠った責任がある」。近年、離婚した親らが、単独親権は法の下の平等などを定めた憲法に反するとし、国に損害賠償を求める訴訟が相次いで起こされている。
共同親権導入に向け活動する「子育て改革のための共同親権プロジェクト」発起人の松村直人さん(48)は、離婚後は母側に親権が渡り女性が子育てをするケースが多いとし、「単独親権が男女不平等を招き、男性の育休取得推進や女性の活躍をうたう、時代の流れと矛盾している」と主張する。
▽「子どもに悪影響」と慎重論も
国も重い腰をあげた。2019年11月から法務省は、共同親権導入の是非について、各省庁担当者や有識者らによる「家族法研究会」を発足させ、議論を重ねている。ただ、共同親権は父母の対立や虐待、ドメスティックバイオレンス(DV)などがあった場合、問題が離婚後も持ち越されて子どもに悪影響が生じる恐れがあるとして慎重意見も根強い。
一般社団法人「ひとり親支援協会」(大阪市)の今井智洋代表理事もその一人。「元配偶者のDVやモラルハラスメントに悩み、子どもに波及することを心配するシングルマザーは多い。共同親権の導入を議論するにしても、そうしたケースへの配慮は絶対に必要だ」と話す。一方で「離婚後も父母がともに子育てにかかわる『共同養育』がうまく行くケースもある。子どもの権利である養育費の確保は大前提の上、離婚前後の状況によって面会交流を個々に検討できる仕組み作りが大切」と指摘する。
▽自治体が面会支援に汗
直接の話し合いが難しい両親の間に入る形で面会交流を支援しようと、新たな取り組みを始めた自治体がある。兵庫県明石市は市内の中学生以下の子どもを対象に、別居の親との面会交流を深める場として、市立天文科学館を無料で観覧できる事業を実施。また親子交流支援アドバイザーらが面会の日程調整などを助け、2017年以降、17組の親子が170回以上面会したという。
厚生労働省も自治体による面会場所のあっせんや付き添いなどの支援事業費を補助。18年は9自治体が利用した。明石市の担当者は「なかなか他の自治体が後に続いていないのが実情。子どもが精神的にも経済的にも影響を受けないよう、国や県はもっと体制づくりをしてほしい」と話す。
早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、親同士の対立から子を守る視点で、支援者の養成や行政の助成が必要だと指摘。親の立場を基に、親権制度を発想している日本の実情を踏まえ「単独親権と共同親権の選択制が適しているのではないか」と話している。(おわり)
「わが子に会えぬ」悲痛な訴え 新型コロナ、別居親子の「面会交流」に影響 「感染防止」理由に拒否も
出典:令和2年12月15日 千葉日報
「わが子に会えぬ」悲痛な訴え 新型コロナ、別居親子の「面会交流」に影響 「感染防止」理由に拒否も
収束のめどが立たない新型コロナウイルスは、離婚などにより別居する親子らが定期的に会う「面会交流」にも影響を及ぼしている。感染防止を理由に子どもと同居する配偶者から面会を拒否されるケースが多く、オンラインでの交流ができなくなっている人もいる。「わが子がどのような環境に置かれているのか分からない」と親からは悲痛な声が上がっている。
13日、千葉市中央区のJR千葉駅前。オレンジ色のジャンパーやズボン、マスクを身に着けた県内外の約20人が集まり、離婚後も両親がともに子どもの親権者となる「共同親権制度」の導入を街頭で呼び掛けた。
会場には夫や妻との離婚は成立していないものの別居中で、子どもとの面会交流が途絶えている人の姿も。市原市内の実家に身を寄せている30代女性は、会員制交流サイト(SNS)で街頭活動を知り母親と参加した。
女性は東京都内で夫と子ども2人の4人で暮らしていたが、今年1月に子どもたちと引き離された。弁護士を依頼し夫側と協議した結果、2、3月に子どもたちと面会できた。だが、4、5月は新型コロナを理由に会わせてもらえなかった。
6月以降は直接会ったりテレビ電話で子どもたちの様子を知ることができたが、11月中旬の面会を最後にテレビ電話での交流も一方的に打ち切られてしまった。女性は「長男とは生後3カ月で別れた。2人の誕生日を祝うこともできず、今はどのような状況にいるのか全く分からない」と苦しい胸の内を明かした。
茨城県から駆け付けた40代男性も長女と交流できない状態が続いている。長女とは今年3月まで定期的に面会してきた。4月に入ると新型コロナの感染拡大に伴う緊急事態宣言が出され、妻側は宣言発令などを理由に面会を拒否してきた。
男性は長女とのオンラインでの面会交流や携帯電話での会話を求めたものの、実現していないという。11月、別居中の親子らが法の不備で自由に面会交流できないのは違憲として、国家賠償請求訴訟を起こした。男性は訴訟の原告の一人で「コロナの感染拡大を機に子どもとの交流を断絶させられている人は多い」と指摘する。
千葉県内の40代男性は4年前から3人の子どもと別居している。子どもたちとは1カ月に2回の面会交流が決まっていたが、今は自由に会えていないという。
子どもたちは近くに住んでおり、公共交通機関は使わず自分の車で送迎するなど感染対策には注意を払ってきた。それでも、妻は感染防止を理由に子どもに会わせるのを拒否。男性はオンラインでの面会交流も検討したというが「1回でもオンラインで面会すれば、そのまま会う機会がなくなり、ビデオ通話だけで済まされてしまうかもしれない」と不安を口にした。
離婚後も親子が会える「共同親権社会」の実現を、「プペル」で支援しよう
出典:令和2年11月16日 アゴラ
離婚後も親子が会える「共同親権社会」の実現を、「プペル」で支援しよう
牧野 佐千子 ジャーナリスト
夫婦が離婚したあとも、子どもに対して父親と母親の両方が親権を持つ「共同親権」化への法改正に向けて、全国各地でイベントや街宣活動等が行われ、国家賠償訴訟も次々と提訴されている。離婚後も親子が当たり前に会える共同親権社会の実現に向けて、今、大きな「うねり」が起きている(拙稿:親子を引き離す「単独親権制度」を放置:父母6人が国を提訴参照)。
日本ではこれまで、離婚すると夫婦のどちらかだけが親権を持つことになる「単独親権」制度のもと、離婚後に子どもが一方の親と会えなくなったり、一方の親が親権を取るために無理やり子どもを連れ去るなど、子どもの人権を無視した制度が問題となっていた。EUやアメリカ、オーストラリアからも、親と引き離されない権利などを謳った「子どもの権利条約」等に反すると日本政府に非難の声があがっている。(EUが日本非難!「子ども連れ去り」を止める法改正を)
これまでは、子どもに会えなくなった別居親に対して「家庭内暴力(DV)など、問題がある親」だから会えなくしているとの誤解が多く広まっており、共同親権を推進する別居親らの当事者団体の活動も、多くは「DV親が子どもと逃げた母親を脅している」などと中傷されてきた。(被害を訴えたもの勝ち?DV支援措置は「不貞がバレない」欠陥制度か)
そこに立ち上がったのは、離婚しても夫婦の関係は子どもに持ち込まず、協力して子どもを育てたいという「シングルマザー」や「別居親の母」たちだった。(新法務大臣・上川氏は、親子引き離し当事者の声に答えられるか)
このほど、「離婚後も協力して子どもを育てたい」との想いを共有するシングルマザー団体と別居親団体が協力し、5400人のひとり親家庭の子どもに、一冊ずつ絵本『えんとつ町のプペル』を贈るクラウドファンディング・プロジェクト「I’m poupelle project」を立ち上げた。
なぜこの絵本なのかというと、プペルの物語は「父を失い母と二人で暮らす少年が、父の魂に出会える物語だから」だという。吉本興業発のクラウドファンディング『シルクハット』上で絵本を贈る資金を募る。支援は、2500円から30万円までリターンに応じて選ぶことができる。12月25日までで、目標金額は13,500,000円。
絵本はこちらのサイトで全編公開されている。
プロジェクト立案者の尾崎さんは、一般社団法人「ハートフルファミリー」のボランティアスタッフとしてシングルマザーの自立支援の仕事をしており、プロジェクトは同団体の協力を得て企画されたもの。
同団体代表理事の藤澤哲也さんは、自身も幼少期に両親が離婚。会いたいと願いつつも父親に会えず、大人になってからようやく父親と再会できた経験がある。プロジェクトの話を聞き、「子どもは父親に会いたいと思ってる。父親が会いたいと思い続けていれば、それは子どもに必ず伝わるはず」と、協力を快諾した。
尾崎さんは、「『えんとつ町のプペル』を子ども達や大人が読む事で、世の中がもっと優しくなれると信じています。会えなくても子どもを思うパパがいること、パパに会いたいのに会えない子どもたちがいることを、このプロジェクトを通じて多くのひとに知って頂ければと願っています」と話す。
引き離されて、それでも会いたい多くの父と母、子どもたちの想いを乗せて、共同親権の社会は、もう目の前に来ている。
離婚と面会交流 子の権利、より重視を
出典:令和2年11月16日 茨城新聞
離婚で離れ離れになった親と子、祖父母と孫が、法の不備により自由に会えなくなり精神的苦痛を受けたとして、東京や静岡、京都などの男女17人が国に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。面会交流は幸福追求権を定める憲法13条で保障された基本的人権とし、それを不当に制限されるのは重大な人権侵害で違憲と主張している。
離婚後も父母が共に子の親権を持つ共同親権制度が主流の欧米とは異なり、日本は、どちらか一方が親権者となる単独親権制度をとっている。年間約20万組以上の離婚の9割を占める協議離婚では、夫婦が話し合いによって親権者を定め、面会交流や養育費の分担について取り決めをする。
夫婦間で話がまとまらないときは家庭裁判所が調停・審判で判断することになる。しかし、そうやって面会交流の頻度や方法などで合意しても、親権を持ち、子と同居する親が一方的に、ほごにしてしまうことも多いとされ、近年、単独親権制度は法の下の平等を定める憲法に反するなどとして国家賠償請求訴訟が相次いで提起されている。そうした中、面会交流は親同士の問題ととらえられがちだが、子にとっても、かけがえのない権利だ。法務省は有識者や関係省庁の担当者らの「家族法研究会」で共同親権導入や面会交流の促進について議論を重ねている。子の権利をより重視した仕組みにつなげていくことが求められよう。
訴状などによると、原告の40代父親の場合、2018年3月に妻が子を連れて実家に戻り、その年10月の調停による合意を経て今年3月まで月1回、7時間の面会をした。だが4月以降は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に拒否され、会えていない。家裁に面会交流の履行勧告を出すよう申し立て認められたが、無視され続けている。
やはりコロナ禍を理由に元妻から2人の子との面会を拒否されている40代父親は「面会交流に強制力はなく事実上、同居親の自由裁量になっている」と批判している。
子の立場で原告に加わった20歳と16歳の兄弟は11年に両親が不仲になり、母親の実家に。兄はその後、不登校となり、父親の元に戻ったが、母親側から2年余りも弟との面会を拒絶された。一方、弟は母親が交際相手と同棲(どうせい)するなど育児放棄に遭い、父親とは約5年間会えなかった。兄弟は現在、父親と暮らすが、今年9月に2人とも心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
では、どうすれば、子の人生にも大きな影響を及ぼす面会交流をスムーズに行えるか。家族法研究会では、共同親権導入の是非が焦点になっている。法務省が調べたところ、欧米やアジアなどの24カ国のうち、日本と同じ単独親権のみはインドとトルコだけだった。
ただ離婚した父母が共同で親権を行使する場合には、進学など子に関する意思決定がしにくくなったり、ドメスティックバイオレンス(DV)など夫婦間の対立が離婚後に持ち越されたりする恐れも指摘されており、慎重意見は根強い。単独か共同かを選択できるようにする案も出ている。
また面会交流の義務付けを求める親も多い。家庭内に国がどこまで介入するかという問題はあるが、少なくとも子が望むなら、その機会を万難を排して確保する道筋を見いだす必要があろう。
面会交流のルールを法制化しない国を子や親族が訴えた!
出典:令和2年11月15日 日刊ゲンダイ
面会交流のルールを法制化しない国を子や親族が訴えた!【「表と裏」の法律知識】
親が離婚した後に、離れ離れになった親と会えないのは国が法整備を怠ったからだと、面会交流ができなかった子どもやその親族が国を訴えました。
親権者をどちらにするかだけでなく、別居親と子どもとの面会問題は、離婚事案で争いになることが本当に多いです。
「○○してくれないなら、子との面会を拒否したい」と子どもとの面会を交渉カードにしようとする同居親を何度も目の当たりにしています。
子どものいる夫婦が離婚しようとするとき、多くの場合どちらかが子どもを連れて家を出て別居状態になります。例えば妻が子どもを連れて家を出る場合、妻の夫に対する嫌悪感などから、夫が子どもとの面会要求をしても、これに直ちに応じないことがままあります。その場合の拒否の理由として、家庭内暴力(DV)があったこと、面会時に子どもを連れ去られてしまう危険があることのほか、子どもが面会を望んでいないなどと主張する妻もいます。
妻が、子どもとの面会に応じさせない場合、夫は調停や審判がまとまるまで、相当長期にわたり、子どもと会うことがかなわない事態に陥ってしまいます。
さらに、離婚後の親権・監護権について、家庭裁判所は、(さまざまな考慮要素がありますが)子どもの別居後の生活環境を変えない方が子どもの福祉に適することを重視して、子どもと一緒の親側に親権・監護権を認める判断をする傾向もあります。
また、面会交流のルールをせっかく定めても、「急な予定が入った」「子どもの体調が悪い」「面会をすると子どもが夜寝なくなる」などの理由で、一方的に面会を拒否するケースもみられます。
これが海外でも批判される日本の「連れ去り勝ち」の現状です。
両親との関わり合いは、子どもの心身の発達にとても重要であることはいうまでもありません。しかし日本の法律では、別居親と子どもとの面会についての義務やルールが明確に定められていないため、別居親が子どもに全く会えない極めて理不尽な状態に陥っている場合も多いです。
今回「面会交流をさせてもらえなかった子どもたち」が立ち上がったことは、今の日本の法律や家裁の判断に一石を投じる、重要な意味を持つでしょう。
(髙橋裕樹/弁護士)
別居親との「面会交流権」制定を 子が初の原告、国を提訴 東京地裁
出典:令和2年11月12日 毎日新聞
別居親との「面会交流権」制定を 子が初の原告、国を提訴 東京地裁
離婚や別居によって親に会えなくなったのは、国が親子の面会交流権を定める立法を怠ったからだとして、父母の別居時に未成年だった子3人が11日、1人当たり10万円の国家賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。代理人によると、父母が原告となる同種訴訟はこれまでもあったが、子が原告になるのは初めてという。
訴状によると、原告は0~10歳だった2008~11年、父母の事情によって片方の親と別居するようになった。当初は別居する親と面会できていた子もいたが、同居する親の妨害や別居する親の再婚によって、別居する親と面会ができなくなったとしている。いずれの家庭も父母は離婚したという。
民法は父母が協議離婚する際、子の利益を考慮して別居する親との面会交流の仕方を取り決めるよう求めているが、具体的な権利や義務の規定はない。
原告側は、親子が触れ合いの時間を持つことは、当然に求められる人権だと主張。子が別居する親との面会を希望しても、同居する親の同意がなければ自由な面会交流が実現できない状況が続いているとして、立法の必要性を訴えている。訴訟には、別の家庭の親や祖父母ら14人も原告に加わっている。
10歳の時に母の実家に連れられ、父と別居した千葉県の原告男性(20)は提訴後に記者会見。父との面会は途絶え、不登校になった際も相談できなかったとし、「同居する母に気を使っていた面があったが、父に会えていれば気が楽になっていたと思う」と語った。
法務省民事局参事官室は「訴状が届いていないのでコメントは差し控える」とした。【遠山和宏】
別居親子の面会困難「人権侵害」 子どもらが国提訴、法整備求める
出典:令和2年11月12日 東京新聞
別居親子の面会困難「人権侵害」 子どもらが国提訴、法整備求める
離婚などで別居した親子らの面会交流について、法の不備で不自由を強いられ、憲法が保障する基本的人権を侵害されたとして、10~20代の子ども3人を含む男女17人が11日、国に1人10万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。原告側によると、面会交流を巡る訴訟は各地で起こされているが、子どもが原告となるのは初めて。
民法では父母が協議離婚する場合、一方を親権者に定めなければならないと規定。2011年の法改正で、子どもとの面会交流は、子の利益を最も考慮して決めることが盛り込まれた。だが、実際には取り決めが守られないケースもある。
※以下、紙面を参照ください。
別居の親子いつ会える 離婚後の面会交流「不十分」提訴
出典:令和2年11月11日 朝日新聞
離婚などで別居した子どもと親らが定期的に会える「面会交流の制度」が不十分だとして、男女17人が11日、国に計170万円の賠償を求めて東京地裁に提訴した。子どもと会えなくなった親による同様の訴えは過去にも例があるが、この訴訟では子ども3人が初めて原告に加わった。
面会交流をめぐっては東京高裁が8月、子どもの権利条約について「子の面会交流の権利を尊重する規定だが、親の権利を保障したものとはいえない」と判断し、親が原告となった訴えを退けた。今回は子どもが原告に参加しており、「新しい司法判断が出るかもしれない」(原告代理人の作花知志弁護士)という。
原告側は訴状で、親子らの面会ができないのは憲法が保障する「基本的人権」を侵害するとし、離婚後の親子面会の必要性を主張した。その上で、法務省や学者らでつくる「家族法研究会」が、別居中や離婚後の子どもの養育のあり方を議論していることをふまえ、新たな面会交流の制度について「国会が立法義務を負うべきだ」と訴えている。
提訴後の会見には、10歳のときから母の実家で過ごし、父と会えない時期があったという千葉県の男性(20)が原告の一人として参加。母に迷惑をかけたくない気持ちから父に会いたくないと思い込んでいた当時を振り返り、「別居中かどうかに関わらず、父母に甘えたい、頼りたい瞬間はある。面会制度など法律がしっかりあれば、子どもも本音を話しやすい」と話した。
被告側の法務省は「コメントは差し控える」としている。(新屋絵理)
会えぬ父に募る不安「できるなら、毎週末、会いたい」
原告の一人で、都内に住む男子中学生のコメント(要旨)
◇
僕のお母さんとお父さんは離婚して、お母さんと一緒に暮らしています。お父さんとは月に1回、会っていました。僕はお父さんのことが大好きです。会っているときは楽しいです。ゲームの話をしたり、一緒に映画を見たり、お母さんとはしない遊びをして過ごすからです。
小学5年生の時からお父さんと会えないことが増えました。電話やメールで次に会える日を尋ねても、返事が1カ月くらいもらえないこともよくあります。会いたい、もっと会いたいと言って、会う回数が減ったら嫌だなと思い直接言ったことはありません。次はいつ会えるのか、とても気になります。
それだけではなく、本当は、もっと会える回数を増やしたいです。裁判所の調査官の報告書には、お父さんが面会交流に消極的だから、現状を変える必要はない、と書かれていました。
できるなら、毎週末、会いたいです。お父さんと会えるなら、他の予定より優先します。
もっとたくさん会いたい。今は不安がいっぱいです。
相談にも乗れず「親として当たり前のことすらできない」
原告で、3人の子どもと離れて暮らす千葉県の女性(38)のコメント(要旨)
◇
夫の不貞が原因で、子どもを連れて別居することを決めました。しかし夫は、次女、長男、長女と次々に私の同意なく連れ去り、3年以上会うことも、声を聞くこともできません。
夫が承諾したのは手紙の送付のみでした。
子どもたちへ「大好き」を伝えるために、毎月手作りのカードを作って送っていました。
新型コロナウイルスの影響でマスク不足のなか、面倒を見てくれている夫の実家家族にマスクを届けたときは、「曽祖母と連絡をとるな」という連絡とマスクが着払いで送り返されてきました。
マスクを届けた際に曽祖母から、夫は不貞相手と不貞相手の連れ子と同居していること、長男が不貞相手の子どもたちにいじめられているとも聞きました。
母親として子どもたちの成長を見守りたい、日常や学校での様子を知りたい、困ったとき悩んでいるときに相談に乗りたい、力になりたい。そんな親として当たり前のことすらできません。離れて暮らしていても何の制限もなく子どもと会い、子どもたちに直接愛を伝えることを、当たり前のことと認めていただきたいです。
別居後の親子面会困難は「人権侵害」 子らが国提訴
出典:令和2年11月11日 日本経済新聞
離婚などで別居した親子らの面会交流について、法の不備で不自由を強いられ、憲法が保障する基本的人権を侵害されたとして、10~20代の子ども3人を含む男女17人が11日、国に1人10万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。原告側によると、面会交流を巡る訴訟は各地で起こされているが、子どもが原告となるのは初めて。
面会交流の権利が侵害されているとして国を提訴後、記者会見する原告側(11日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ)=共同
民法では父母が協議離婚する場合、一方を親権者に定めなければならないと規定。2011年の法改正で、子どもとの面会交流は子の利益を最も考慮して決めることが盛り込まれた。だが、実際には取り決めが守られないケースもある。
訴状では、両親が別居しても「親と子、祖父母と孫が触れ合いの時間を持つことは基本的人権だ」と指摘。欧米と異なり、面会交流についての権利義務関係の具体的な規定がないとし「長期間放置している国の立法不作為で違憲だ」と主張している。
原告側代理人の作花知志弁護士は「一番影響を受けるのは子どもなのに、親の都合で面会の権利を奪われている。早急な法整備を求めたい」と話した。
幼少期に両親が離婚し、母親と暮らす原告の男子中学生は父親と半年以上会えない状態が続く。提訴後、東京都内で開かれた記者会見で「次はいつお父さんに会えるのか、日にちと時間をしっかり決めてほしい」とのコメントを出した。
〔共同〕
「離婚後の面会交流」法整備求め子らが提訴
出典:令和2年11月11日 NHK
親が離婚した後に離れて暮らす親と会えなくなったのは国が「面会交流」についての法整備を怠っているためだとして、面会交流ができない子どもや親が国に賠償を求める訴えを起こしました。
平成23年の民法の改正で、子どものいる夫婦が離婚する場合には、親子が定期的に会う「面会交流」について、子どもの利益を最優先に考えて取り決めをするよう求めていますが、義務とはされていません。
東京に住む中学生など、親の離婚後に親と会えなくなった子どもや、子どもと会えなくなった親など17人は、国が面会交流の法整備を怠り、具体的な権利や義務を決めていないため面会が実現しなかったとして、国に対し1人あたり10万円の慰謝料を求める訴えを東京地方裁判所に起こしました。
弁護団によりますと、面会交流をめぐって子どもが国を訴える裁判は初めてだということです。
子どもの立場で訴えを起こした20代の男性は会見で「離れて暮らす親の様子が分かるように面会交流ができていればここまで苦しむことはなかった。同じ体験をする子どもを増やしたくない」と話していました。
また、訴えを起こした男子中学生は「僕はお父さんのことが大好きです。いつ会えるのか、会える日にちと時間をしっかりと決めてほしいです」などとするコメントを出しました。
原告の代理人の作花知志弁護士は「面会交流に関して、日本は諸外国と比べて大きく遅れているので、この裁判で新しい判断を示してほしい」と話しています。
別居親子の面会困難「人権侵害」 子どもらが国提訴、法整備求める
出典:令和2年11月11日 共同通信
別居親子の面会困難「人権侵害」 子どもらが国提訴、法整備求める
離婚などで別居した親子らの面会交流について、法の不備で不自由を強いられ、憲法が保障する基本的人権を侵害されたとして、10~20代の子ども3人を含む男女17人が11日、国に1人10万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。原告側によると、面会交流を巡る訴訟は各地で起こされているが、子どもが原告となるのは初めて。
民法では父母が協議離婚する場合、一方を親権者に定めなければならないと規定。2011年の法改正で、子どもとの面会交流は、子の利益を最も考慮して決めることが盛り込まれた。だが、実際には取り決めが守られないケースもある。
面会交流の法整備求め離婚、別居した親、子、祖父母らが国家賠償提訴へ
出典:令和2年11月2日 東京新聞
面会交流の法整備求め離婚、別居した親、子、祖父母らが国家賠償提訴へ
離婚などによって別居することになった親と子の面会交流が、当初の取り決め通り果たされないケースが後を絶たない。民法に実行させる規定がないためで、面会を拒否され子と会えなくなった別居親たちが、法の整備を怠った国の責任を問うため今月、国家賠償を求める訴えを東京地裁に起こす。親子のつながりを保てる法の整備も促す。(佐藤直子)
※以下、紙面を参照ください。
親子を引き離す「単独親権制度」を放置:父母6人が国を提訴
出典:令和2年10月22日 アゴラ
牧野 佐千子 ジャーナリスト
夫婦が離婚する時に子どもの親権がどちらか一方にだけとなる「単独親権制度」によって、子どもと会えなくなるなどして精神的なダメージを受けたとして、子どもと引き離された経験を持つ父母6人が、こうした制度を存続させている国を相手取り、21日、慰謝料として150万円ずつ計900万円を求めた国家賠償請求訴訟を東京地裁で起こした。
離婚時の親子の引き離しや共同親権に関する国家賠償請求訴訟の動きは、2018年から沸き起こり、これで5件目。同様の訴えの動きは全国に広がっており、今後の国賠訴訟の連鎖が続きそうだ。
提訴後の記者会見では、離婚後に娘に会えなくなった原告の女性が「子どもがどんなふうに成長しているのか全然わからない。娘がどうなっているのか本当に心配。このような問題をみなさんに知ってもらいたい」と訴えた。
原告側の平岡雄一弁護士は、「憲法13条の幸福追求権には、両親が離婚しても、親子は親子であるというごく自然な『自然親子権』が保障されているはず」と主張。日本も批准している「子どもの権利条約」でも、子どもがその父母の意思に反して父母から分離されないことを確保するとしている。
だが、日本では民法819条によって夫婦のどちらか一方に親権を決める「単独親権制度」によって、離婚時に親権が一方だけに付与され、もう一方の親は、子どもと会えなくなり、連絡も取れなくなるなど、「親子の引き離し」が通例となっている。
原告側の小嶋勇弁護士は、単独親権制度は「憲法や、条約に違反する状態が続いており、この状態を放置し現在に至っている国会の立法不作為の違憲性・違法性を指摘したい」とこの訴えの意義について述べた。
近年、国際結婚の増加に伴い、日本人の配偶者に子どもを引き離される外国人当事者も増加。今年7月には、EU議会がこれについて非難決議を可決するなど、国際問題化している。
関連拙稿:「EUが日本非難!『子ども連れ去り』を止める法改正を」
実の親であっても、子どもを連れ去りもう一方の親と引き離すことは明確に違法とし、離婚後の共同養育計画書の提出を義務付けるなど、法改正を含めた早急な対策が求められている。
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これまでの共同親権 / 子の連れ去り関連集団訴訟は以下の通り。(参考:作花共同親権訴訟)
1. 面会交流違憲立法不作為集団訴訟
【経過】2018年3月8日東京地裁提訴、2019年11月22日棄却(前澤達朗裁判長)、2020年8月13日東京高裁棄却(白石史子裁判長)【代理人】上野晃弁護士【原告】14名
2. 共同親権訴訟(離婚後単独親権違憲訴訟)
【経過】2019年3月東京地裁提訴【代理人】作花知志弁護士 【原告】1名【次回期日】2020年11月11日(水)午前11時~ 東京地裁526号法廷
3. 養育権侵害国家賠償請求集団訴訟
【経過】2019年11月東京地裁提訴【代理人】稲坂将成弁護士・古賀礼子弁護士・富田隼弁護士【原告】12名【次回期日】2020年12月10日(木)午前10時~東京地裁803号法廷
4.【作花家族法訴訟②】子の連れ去り違憲集団訴訟
【経過】2020年2月東京地裁提訴【代理人】作花知志弁護士・大村珠代弁護士 【原告】14名【次回期日】2020年11月18日(水)午後1時30分~東京地裁626号法廷
5. 共同親権国家賠償請求集団訴訟
【経過】2020年10月21日東京地裁提訴予定【代理人】小嶋勇弁護士 ・佐田理恵弁護士・平岡雄一弁護士【原告】6名
6. 自由面会交流集団訴訟
【経過】2020年11月11日提訴予定【代理人】作花知志弁護士 【原告】十数名
離婚後の単独親権「違憲」と提訴 幸福追求権の侵害訴え
出典:令和2年10月22日 朝日新聞
離婚後は子どもの親権を父母の片方しか持てない単独親権制度は、幸福追求権を定めた憲法13条などに違反しているとして、東京などに住む30~50代の男女6人が21日、国を相手取り、総額900万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
東京地裁では一昨年以降、離婚後の共同親権や面会交流を求める集団訴訟が相次ぎ、国側は「親権は憲法上の人権ではない」などと反論している。
弁護団によると、今回の訴訟では、両親が離婚しても親子は親子であるという「自然的親子権」が、憲法13条で保障されていると主張する。
都内で21日に記者会見した原告女性らは、「離婚後も子どもの養育に関わりたい」と訴えた。
都内の50代の原告女性は離婚して6年間、娘の親権者だった。学校のPTA活動にも積極的に参加。子どもの成長には父親も必要だと考え、旅行や学校行事を通じて元夫と娘を交流させてきたという。
だが、小6になった娘を一時的に元夫に預けた際に連絡を絶たれ、親権者も元夫に変更された。高校生になった娘には今も会えないままだ。「単独親権では、別居した親と交流させるかどうかは親権者の考え一つ。同じように苦しんでいる人がたくさんいることを知ってほしい」と話す。
神奈川県の40代の原告女性は、小学生の息子2人と会えなくなっている。元夫が親権者になり、学校行事も含めて交流させると約束して離婚したのに、幼稚園からは元夫が交流を拒否しているという手紙が送られてきた。「子どもは、離婚してもパパとママの両方と過ごせることを望んでいたのに」と嘆く。
代理人の平岡雄一弁護士は、「単独親権制度は、父母の親権争いに子どもを巻き込んでいる。国がこれを放置してきた立法不作為を訴えたい」と話した。(杉原里美)
離婚後の単独親権「違憲」 男女6人が国提訴
出典:令和2年10月21日 産経新聞
離婚すると父母の一方だけが親権を持つとする単独親権制度は、憲法が定める法の下の平等や、幸福追求権に反するなどとして東京都と群馬、神奈川、山梨3県の30~50代の男女6人が21日、国に1人当たり150万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
弁護団によると、6人は離婚後、元配偶者による強制的な連れ去りやドメスティックバイオレンス(DV)などが原因で子どもと離れ離れになり、親権を失った。
原告側は「虐待などの特殊なケースを除き、離婚後も両親が共同で子どもの成長を見守るべきだ」と指摘。多くの諸外国は離婚後も共同親権とする制度を導入しているとして、単独親権を規定する民法を改正しないのは「国の立法不作為だ」と訴えている。
離婚後の単独親権は「違憲」 男女6人が国提訴、東京地裁
出典:令和2年10月21日 東京新聞
離婚すると父母の一方だけが親権を持つとする単独親権制度は、憲法が定める法の下の平等や、幸福追求権に反するなどとして東京都と群馬、神奈川、山梨3県の30~50代の男女6人が21日、国に1人当たり150万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
弁護団によると、6人は離婚後、元配偶者による強制的な連れ去りやドメスティックバイオレンス(DV)などが原因で子どもと離れ離れになり、親権を失った。
原告側は「虐待などの特殊なケースを除き、離婚後も両親が共同で子どもの成長を見守るべきだ」と指摘。多くの諸外国は離婚後も共同親権とする制度を導入しているとした。
結婚が破綻したとき…そこに潜む法律の“罠” 子供の連れ去り
出典:令和2年10月21日 SankeiBiz
結婚-。会社の同僚や後輩から、この言葉が出た時、私たちが発する言葉は決まっています。
「おめでとう!」
恋愛ドラマであれば、ここでエンドロールが入ってめでたしめでたしといったところでしょうが、現実はここからが本番です。1年後、子供が生まれ、子育てに奔走する二人。抱っこをしていると、クンクン…ん? またウンチ? さっきおむつを替えたばかりなのに…。ため息をつきながらおむつを替えるその傍らで、黙々とスマホをいじる夫。「ふざけんな!」と怒り心頭の妻ですが、実は夫は取引先の急な要望に急いで返信をしていたのだとか。そんなすれ違いが積もり積もった結果、ある日、帰宅すると妻が子供を連れて家を出て行ってしまっていた。
こんな話、聞いたことありませんか? 身近にこんな経験をした方、いませんか? 仕方ないな、元気出せよ。居酒屋のカウンターでそんな感じに励ます風景が浮かんできそうですが、実はこのいわゆる「子連れ別居」なるものが、今、国際的な大問題となっているってご存じでしょうか?
日本と海外との認識のギャップ
今年の7月8日、EU議会は、日本国籍とEU籍の両方を持つ子供を日本人の親が連れ去ることを禁止するよう求める決議を採択しました。なんと、賛成686、反対・棄権9という圧倒的賛成多数で。このEU議会の決議について、日本ではあまり報道されていないようです。なので、多くの人が知らないのではないでしょうか。「子連れ別居」ならぬ「子供の連れ去り」。英語ではabductionと言って、「拉致」とか「誘拐」といったもっと刺激的な言葉になります。そう、欧米では他方配偶者に内緒で子供を連れて家を出ていくことは、犯罪として警察が動く事案なのです。
この認識のギャップは、あまりにも大きく、日本の報道があまり熱心でないことも相まって、そのギャップは埋まるどころか開く一方に見えます。そして、国際結婚が破綻したとき、日本と海外との間のこの認識のギャップが一気に露呈することになるのです。EUの非難決議は、こうした日本と海外の「子連れ別居」に関する認識のギャップがもたらす悲劇なのです。
このEUの非難決議に対して、日本政府の反応は冷ややかでした。茂木敏充外務大臣は、「決議にある『国際規約を順守していない』という指摘はまったく当たらない」とコメントし、日本が別居離婚に伴う子供の問題において、「何ら非難を受ける筋合いはない」と開き直りました。このコメントにも、その底流において、「ただの子連れ別居じゃん」という日本特有の認識が垣間見えます。たかが子連れ別居、されど子連れ別居。日本特有の慣習と言ってしまえばそれまでですが、それでもこの問題、そう一刀両断に片付けてしまってはいけない問題だと思います。なぜって、子供が関わっているから。文化とか慣習とかといった理屈抜きの言葉で押し切ってしまって、子供の本当の幸せについて考えないままで良いはずがありません。そもそも何で世界が「子連れ別居」にNO! を突き付けているのか、そのことを冷静に検討しなければなりません。もちろん、子供の視点に立って…。
「子連れ別居」という常識を疑うこと
「子どもの権利条約」というのがあります。1989年に国連で採択され、1990年に発効、日本は、1994年に批准しています。この「子どもの権利条約」の第9条1項には、こんな規定があります。「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する」。これが連れ去り禁止の法的な根拠です。別居などやむを得ない場合であっても、親と子が離れ離れになるためには、きちんと裁判所等で決められてからでなければなりません。「子どもの権利条約」はそのことを明記しています。
この規定は、一貫して子供目線です。つまり、両親が離婚しようが、子供にとって親は親なのです。不条理に引き離される理由などないのです。両親が仲違いしようとも、お父さんお母さん両方の愛情に育まれながら育つことを保障してあげましょう。これが「子どもの権利条約」の意図するところです。この「子どもの権利条約」の理念が、日本では反映されていません。「子連れ別居」の名の下に。
夫婦関係が悪くなった時、日本では、子連れ別居は非常によくある出来事です。夫が仕事に行っている間に、妻が子供を連れて実家に帰ってしまうなんて、半径3メートル以内に一例くらいはあるんじゃないかというくらい頻繁に耳にします。私は弁護士という仕事柄、こうした相談を多く耳にしますが、仕事から一歩外に出ても、こうした話はたくさん聞こえてきます。夫婦仲が非常に悪くなっていたとはいえ、突然こんな仕打ち、あんまりじゃないかと思うのですが、この子連れ別居は、いわば日本の常識となっています。
しかし、この常識、このままで本当に良いのでしょうか。EU議会で非難決議がなされてもなお、やかましい! ここは日本だ! と言って拒絶すればよい問題なのでしょうか。「子どもの権利条約」違反だと指摘されても、だったらそんなもの脱退すればいいじゃん! なんて開き直ってしまえばよいのでしょうか。私は違うと思います。日本人は、「常識」に弱いです。「常識」と言われると、それを拒否することは「非常識」であり、社会の枠から外れてしまうのではという不安を覚えるのでしょうか。その気持ちも分からなくもないですが、時に常識を疑うということがとても重要になることもあります。特にある常識が、非常に長い時間通用している場合、その常識が、今の社会の他の常識と並べて、果たして説得力を維持できているのか、あるいは実はすでにかつての説得力を失っているのではないか、そういった検証が必要です。
そもそもこの子連れ別居という名の常識、一体どこからやってきてどうして常識として日本全体に認められるようになったのでしょう? 実は、そこには親権争いをめぐる男女の歴史的なドラマが潜んでいるのです。
次回のコラムでは、この点について、より突っ込んで検証してみたいと思います。
上野晃(うえの・あきら)
弁護士
神奈川県出身。早稲田大学卒。2007年に弁護士登録。弁護士法人日本橋さくら法律事務所代表弁護士。夫婦の別れを親子の別れとさせてはならないとの思いから離別親子の交流促進に取り組む。賃貸不動産オーナー対象のセミナー講師を務めるほか、共著に「離婚と面会交流」(金剛出版)、「弁護士からの提言債権法改正を考える」(第一法規)、監修として「いちばんわかりやすい相続・贈与の本」(成美堂出版)。那須塩原市子どもの権利委員会委員。
子どもの前で別居親の悪口は控えて――別居親を拒絶する「片親疎外」から子どもを守るには
出典:令和2年10月19日 Yahoo!ニュース
子どもの前で別居親の悪口は控えて――別居親を拒絶する「片親疎外」から子どもを守るには
日本では毎年約20万組が離婚し、そのうちの約6割に未成年の子どもがいる。別れた後の夫婦間のトラブルが、子どもの心身の発達に影響することも少なくない。離婚後の親子問題の一つに、「片親疎外」と呼ばれるものがある。子どもが同居親の影響を受けて、別居親を激しく拒絶する状態のことだ。かつて片親疎外になったとみられるきょうだいと母親に話を聞き、実態を探った。(取材・文:上條まゆみ/撮影:長谷川美祈/Yahoo!ニュース 特集編集部)
突然、両親が離婚
神奈川県に住む斉藤浩太さん(仮名、25歳)は、9歳のとき、両親の離婚を経験した。
浩太さんの記憶はこうだ。ある朝突然、父親の号令で、家族全員が食卓に集められた。その席で父親から、「パパとママは離婚します。ママがこの家から出ていきます」と宣言された。離婚の意味ははっきりとはわからなかったが、母親がいなくなることだけは理解した。
「母親が出ていってすぐに父方のおばあちゃんが来てくれて、家事をやってくれたし、きょうだい3人いたから特に寂しいということはなかった。数カ月も経たないうちに父親が女性を連れてきて、その人には子どもが3人いたから、家の中に子どもが6人。合宿みたいでにぎやかで、それなりに楽しく過ごしていたような気がします」
出ていった母親とは月に一度、12時間を一緒に過ごした。妹と弟も一緒で、公園に行ったり、テーマパークに行ったり。2年間は順調に面会交流が続いた。ところが、ある日を境に母親と会えなくなった。
「それから約2年間、母親とは没交渉でした。父親が母親のことを『嘘つきで浮気者』と言っていたし、僕らは捨てられたと思っていました。そのころは母親のことがはっきりと嫌いでしたね」
しかし、会えなくなる前は、月に一度の面会交流は嫌ではなかった。浩太さんに「お母さんとはなぜ突然、会えなくなったんですか」と聞くと、「よく覚えていないんです」と答えた。
浩太さんが母親と会えなくなったとき、妹の秋穂さん(仮名、22歳)は8歳だった。じつはその日、面会を禁止されたのは浩太さんだけだった。宿題をサボったことで、父親が罰として浩太さんを面会に行かせなかったのだ。
弟と2人で母親に会った秋穂さんは、母親から兄宛ての手紙を託された。母親は「(父親に)内緒で渡せたら、渡してね」と言った。秋穂さんは、父親に内緒でその手紙を兄に渡した。しかし、その手紙の存在が父親にばれた。
父親はすぐに母親に電話をして、「子どもに嘘をつかせるような母親には、今後一切、面会させることはできません」と宣告した。母親は思わず「私が嘘をつかせたわけではない」と反論した。
父親は秋穂さんに向かって、「ママがお前を嘘つきだと言ってるぞ」と言った。秋穂さんは「そんなママなら会わなくていい」と答えた。
「その事件の少し前に、父親に『会っているとき、ママはずっと携帯をいじっている』と言ったことがあるんです。特に悪気はありませんでした。そのとき、父親と新しいお母さんが、『母親の弱みを見つけた』とばかりに喜んじゃって。その姿を見て、私もうれしかったんです。新しいお母さんは躾にとても厳しくて、私はいつも叱られていました。それがこのときは褒められた。だから、手紙のときも『母親に会いたくない』と言えば、父親と新しいお母さんに褒められると思ったんです。それ以来、母親に会いたいとは全く思わなくなりました」
この“事件”を境に、秋穂さんも弟も、母親に会わなくなった。
「片親疎外」とは
父母が離婚したあと、子どもが同居親の思いと病的に同一化し、虐待を受けていたなどの大きな理由がないのに別居親を拒絶する状態は、「片親疎外」と言われている。臨床心理士で大正大学教授の青木聡さんによると、「片親疎外」となる子どもの年齢は9歳(小学3年生)から15歳(中学3年生)がほとんどだという。
青木教授は、浩太さんと秋穂さんのケースについて、「軽度の『片親疎外』とみられます」と指摘する。
「ほんの数カ月前までは親のことを大好きだった子どもが、離婚後に、別居親に対して強い拒絶反応を示すようになるんです」
拒否する程度は子どもによってさまざまだ。ただ「嫌い」「会いたくない」という場合もあれば、激しく攻撃的になる場合もある。なぜそのような心理状態におちいるのだろうか。
「これまでの研究でわかっているのは、主に同居親が別居親の悪口を聞かせたり、別居親の話題を禁止したり、別居親と交流するときに悪意のある伝言を届けさせたり……といったように、子どもが相手を嫌いになるように仕向けるのが原因だと言われています」
「ただし、同居親に悪意がないケースもあります。いけないとわかっていてもついついやってしまう方、子ども相手に無意識に愚痴を言ってしまう方もいます。また、子どもの発達段階や性格特性、周囲の大人たち(別居親、祖父母、親族、離婚問題に関与する専門家など)の態度や何気ない一言も、片親疎外の悪化の要因となることがわかっています」
子どもが凶暴化することも
子どもが同調するのに気をよくして別居親の悪口を言っていたら、想像を超えるような攻撃性を見せるようになる例もあるという。
「偶然、まちなかで別居親を見かけただけで、わざわざ走っていって蹴飛ばし、『なんでここにいるんだ、ストーカーか、警察を呼ぶぞ』と騒いだ子どももいました。同居親も、『まさか子どもがここまでに(攻撃的に)なるとは思っていなかった』と」
「殺す」「死ね」などと書き連ねた手紙やメールを、別居親に送った子どももいる。
両親が離婚して不安になっている子どもは、生存を脅かされないために、同居親の歓心を得ようとする傾向にある。そこに別居親への悪口や愚痴が加わる。父母のあいだで板挟みになって苦しむ「忠誠葛藤」とは異なり、洗脳に近い状態だと青木教授は言う。
「『片親疎外』のさなかの子どもの思い込みを解くのはかなり難しいですね。年齢とともに、ものごとを多面的に見られるようになるなど、心理的な成長によって解かれることもあります。ただ、そうなると今度は、なぜ父親を、あるいは母親を、あんなに拒絶したんだろうと後悔して、苦しむ方もいます」
欧米でも片親疎外が問題に
欧米諸国では、1970年代に離婚件数が急増した際、両親の別居後や離婚後に、子どもが同居親の感情と病的に同一化して、別居親を拒絶する事例が多数の心理臨床家によって報告され、「片親疎外」と名づけられて大きな問題になった。
しかし、この「片親疎外」の概念は、監護権や面会交流をめぐる離婚紛争の法廷で濫用されることにもなった。その後、「子どもを離婚紛争の犠牲にしてはならない」という反省のもと、「子どもの最善の利益」(「子どもの権利条約」1989年採択)を中心に据え、離婚後も両親が共同で養育する制度が整備されていった。離婚する際に、子どもの発達や元配偶者と協力して子育てするためのスキルなどを学ぶ親教育プログラムの受講や、養育プランの提出を義務づけている国も少なくない。
毎年、約20万組が離婚する日本でも、片親疎外の被害は出ているが、欧米のような親教育が行われていないと青木教授は指摘する。
片親疎外が子どもに与える影響
片親疎外によって、不登校になる子が少なくない。あるいは、表面的には優等生でも、別居親のことになると目の色が変わったり、SNSの裏アカで暴言を吐いたりするなど、二面性がある場合も多い。
「片方の親を否定することは、自分の半分を自分で黒塗りにしているようなものです。そうすると、アイデンティティーの確立が難しい。寄る辺なさを抱えたり、進路で悩んだりする子が多いと思います」
自己肯定感や基本的信頼感の低さから、対人関係がうまくいきにくかったり、抑うつ傾向や依存傾向が見られたりするなど、その後の人生で生きづらさを抱えてしまうこともある。
「そうなってからでは、専門的な知識がないと対処できません。だからこそ、一次予防を目的とした離婚時の親教育が非常に重要な意味を持つのですが、日本ではそこが全然足りていない。『子どもの前だから相手の悪口は控えよう』というブレーキすらかけていない方が多いですね」
子どもたちの現在
浩太さんと秋穂さんは、現在、母親の良子さん(仮名、48歳)と共に暮らしている。
秋穂さんは、小学6年生のある日、父親と大げんかをして家出をした。
「新しいお母さんは面倒見のよい人だったけど、異常に厳しくて、私は毎日勉強づけでした。あまりに居心地が悪くて、逃げ出したんです」
浩太さんは、家を出ていく妹に「裏切り者」という言葉を投げつけた。
その浩太さんも、2年後、やはり父親とのけんかをきっかけに、母親の元にやってきた。当時をこう振り返る。
「実はそのころ、まだ母親のことは嫌いでした。でもほかに行くところもなかったし、悪い言い方をすれば、利用してやろうという気持ちもありました」
良子さんと暮らし始めた浩太さんは、ことあるごとにキレて罵倒した。
「おまえなんか俺を捨てたくせに!」
良子さんはただひたすら受け止めた。そのうちに、浩太さんの内面に変化が生じた。
「あるとき、母親の涙を見て、『こんなこと言っちゃいけない』と気づきました。母親に悪いというより、その言葉が自分自身を傷つけているような気がしたんです」
そのうち、親が何をしようと、どんな人間だろうと、自分には関係ないことだと思えるようになった。20歳になる前のことだった。
「母親と暮らすなかで、当時の話をいろいろ聞いて、僕らを捨てたわけじゃないことは理解できました。でも、離婚の原因については正直、どっちも悪いだろって思っています。『子どもに会えなくて苦しかった』と言われても、自業自得だろって」
浩太さんは今、建設関連の仕事をしている。社会人6年目、施工主と職人に挟まれて、現場をまわしていかなければいけない。肉体的にも精神的にも疲れる仕事だ。
「たくさんつらいことがあったけど、おかげで強くなれました。なんだかんだ、この両親のもとに生まれてよかったと思っています。もし両親がそろった家でのんびり育っていたら、絶対、心が折れて仕事辞めてますもん」
その横で、秋穂さんもこう言った。
「私はまだ、この環境で育ってよかったとまでは思えない。でも、たしかにメンタルは強くなったかも」
別居親の視点
良子さんは、子どもたちの片親疎外にどのように対応したのだろうか。良子さんの視点で、離婚からここまでの経緯を振り返ってもらった。
父親の号令で家族全員が食卓に集められて離婚が宣言されたとき、良子さん自身も寝耳に水だった。
「いきなりの離婚宣告に衝撃を受けながらも、仕事があるので、とりあえずその日は私も元夫も出勤し、翌日、離婚届を突きつけられました。私が近所の男性と浮気をしていると決めつけてのことでした」
良子さんに不貞行為はなかったが、2人きりで会って話をしたことがあり、それを元夫に目撃されていた。
「男性と2人で話をしていたことイコール不貞だと言われ、私が悪いんだと思ってしまい……。元夫はすぐ手が出る人で恐ろしかったこともあり、子どもにはいつでも会わせるからと言われて、元夫を親権者とする離婚届に判を押してしまったんです。あまりにも無知でした」
その後2年間は、3人の子どもと順調に面会交流ができていた。ところがある日、浩太さんだけが来なかった。良子さんは浩太さん宛ての手紙を書いて、秋穂さんに持たせた。
「私が『内緒で渡せたら、渡してね』と余計なことを言ってしまった。大人にそう言われたら子どもは『内緒にしなきゃ』と思いますよね」
結果として、元夫は激怒し、「今後一切、面会させることはできない」と宣告された。先述の“手紙事件”だ。それ以来、面会交流は途絶えた。
数カ月後、良子さんは親権者変更と面会交流を求めて家庭裁判所に調停を申し立てたが、不首尾に終わった。
良子さんは、同じ経験をした親の集まりに出かけていくようになった。自分から子どもたちに会いに行かなければと思い、小学校や中学校の校門の前や通学路に立ち、姿が見えるのを待った。
秋穂さんは、はじめのうちはそっけなかったが、少しずつわだかまりが解けていった。思春期を迎え、自分の意思が出てきた秋穂さんは、母親とときどき顔を合わせるなかで、やさしいお母さんが好きだったことを思い出した。
良子さんの場合は、苦しみながらもアプローチを続けたことが同居につながった。
青木教授は、離婚時の親教育の重要性を強調する。
「片親疎外に当たる事例は本当に難しくて、子どもは傷ついているのに、『傷ついていない』と思ってしまっていることが問題なんです。傷ついていることにあとでしか気づけない。片親疎外を避けられるかどうかは、親の態度にかかっています。絶対に、相手の悪口を子どもに言わないでください。そういう、子どもを守るための基本的な親の態度を学ぶために、離婚時の親教育が必要なのですが、協議離婚(家裁の手続きを経ない離婚)が9割の日本では、ほとんど野放しです。ここを制度として整備していくと同時に、裁判所をはじめ、国や地方自治体の担当者など、離婚後の子育てにかかわる各種専門家は、親子関係に何が起きているのかをより注意深く見ていく必要があると思います」
上條まゆみ(かみじょう・まゆみ)
1966年、東京都生まれ。教育・保育・女性のライフスタイルなど、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。近年は、離婚や再婚、ステップファミリーなど「家族」の問題を追求している。
In Japan, divorce can mean losing access to children. Many parents want that to change.
出典:令和2年10月19日 The Washington Post
In Japan, divorce can mean losing access to children. Many parents want that to change.
By
Simon Denyer and
Akiko Kashiwagi
Oct. 19, 2020 at 6:00 p.m. GMT+9
TOKYO — When Izumi finally tired of her husband's multiple affairs, she decided it was time to separate and made plans to take their three young children with her.
被害を訴えたもの勝ち?DV支援措置は「不貞がバレない」欠陥制度か
出典:令和2年10月16日 アゴラ
被害を訴えたもの勝ち?DV支援措置は「不貞がバレない」欠陥制度か
牧野 佐千子 ジャーナリスト
「DV被害」を受けていた女性の住所などが載った書類を、誤って「DV加害者」に送付したとして、札幌市が13日に会見し、謝罪した。メディア各社も市の会見に基づき報道。ネット上では、「下手したら命の危険性に関わる」「ミスで済まされない」と市の対応を非難する声とともに、「DV加害者」と報道されたK氏に対して「市にわざと情報漏洩されたテロリストのストーカー」などといった誹謗中傷の声もあふれている。だが、実際の経緯を詳しく聞くと、事情は異なるようだ。
札幌市の発表によると、女性Aさんは、去年12月に夫Kさんからの暴力などの被害を防ぐため、別居先の住所などが載った戸籍の附票をKさんに交付しないように、市に求めた。Kさんがその措置を不服とし審査請求をしたため、戸籍住民課の40代の女性職員が必要書類を送った際、誤って被害女性Aさんの住所などが書かれた書類を同封した、とのこと。
このニュースで、多くの一般の人が抱くイメージは、「DV夫に被害女性の情報を流した市の取り返しのつかないミス!」だろう。
だが、渦中のKさん本人に経緯を聞いてみると、状況は異なる。
夫Kさんと妻Aさんは、2018年6月に別居。翌年7月にAさんが、別居しているはずのKさんの世帯と住所を使って国保に加入しようとし、その際に住民票を異動してないことが区役所に知られ、区役所がAさんに住民票の異動を指導。
このあとAさんは、行政の配偶者暴力相談支援センターにKさんによるDVの相談をしに行き、「DV」などの「加害者」に住民票の写しや戸籍の交付を制限する「支援措置」の申出書を提出。
Aさんは別居時に不貞をしていたとして、Kさんはその事実を確認するために探偵に依頼し、今年1月の段階では、不貞の事実とAさんらの居所を知っていたという。
つまり、「妻の居所をさがすDV夫に、市が誤って妻の住所を交付してしまった」わけではないのだ。Kさんはすでに、Aさんの住所を知っていたのだから。
Kさんは「札幌市は最悪の問題解決手法を取った。そもそも、妻はDV支援措置の被害者でなく、僕は支援措置の加害者に該当しない。けれど、大した検討もせずに申出書を受ければ被害者と加害者を市町村役場が設定すること自体が間違っている。DV支援措置ではなく不貞の支援措置になっている」と憤る。
ある法律の専門家は、「加害者」とされている者に住所が知られるのを支援措置で防ぐ場合、その「加害者」がすでに住所を知っている時は、「探索目的がないので支援対象情報にする必要性がない」という。当該の札幌市の支援措置届出書にも「加害者が、その住所を探索する目的で」との記載がある。
そのうえで、「もともと情報漏洩がないので札幌市は謝罪は不要だった。また、報道機関もこんな報道をした効果は、名誉侵害だ」と指摘。Kさんは、札幌市の対応について、国家賠償請求の訴訟を起こすことも視野に入れている。
神奈川県に住む別の男性は、妻からの暴力を訴えてきたが「男性のDV被害の相談件数が少ないからか、神奈川では市区町村で支援措置は受け付けないです。県で1か所。それでも数年前よりはマシです」と話す。
支援措置の決定の際の、DVがあったかどうかの事実確認も「相手方の裏どりは全くなく、私の主張は通りました」と、「被害を訴えたもの勝ち」となっていて、十分な確認をしない制度を疑問視している。
ある市の支援措置に携わる担当者は、「今の制度では、被害者と主張する方を守ることを優先しており、その方の主張が本当であれ嘘であれ、その方の住民票を守ることになっています」と語る。本当に被害に遭っている人を緊急で守るために、「嘘か本当か確かめるのに時間を使うことはできず、今の制度が続いてしまっている」という。
深刻なDVを受けて安全な場所へ緊急避難した被害者にとっては、居場所が加害者に知られることは恐ろしい。そのような被害者を守るためにある支援制度には、自身の不貞行為を隠すために利用できる「欠陥」があることがわかった。そして、嘘か本当か確かめる時間もないままに、行政やメディアから「加害者」と決めつけられた人の深刻な人権侵害が起きているのも事実だ。
このまま欠陥を放置してしまっては、制度自体の信用性がなくなり、本当のDV被害者も救われないのではないだろうか。
別居で面会が不自由は「違憲」 離婚の十数人ら国賠提訴へ
出典:令和2年10月10日 共同通信
別居で面会が不自由は「違憲」離婚の十数人ら国賠提訴へ [#if378fd7]
離婚などで別居する親子や祖父母と孫の面会交流について、具体的な権利義務規定がないため不自由さを強いられるのは基本的人権の侵害で違憲だとして、10~70代の男女十数人が国に1人当たり10万円の損害賠償を求めて来月にも東京地裁に提訴することが10日、分かった。
民法では、父母が協議離婚をする場合、一方を子の親権者に定めなければならず、面会交流の条件も父母が話し合って決めるとしている。面会交流を巡る同種訴訟は他にも係争中だが、原告側によると、子ども側も原告に加わるのは初。
代理人の作花知志弁護士は「子の健全な成長のため国は法整備を進めるべき」と話している。
※下記は、10月10日の北海道新聞 夕刊に経済された記事です。
離婚後の養育、子どもの目線で 面会交流を求めて、母親ら訴え
出典:令和2年10月7日 朝日新聞
結婚が破綻(はたん)した夫婦の子どもの養育について、法務省も参加する研究会が議論をしています。父母の一方が子どもを連れて別居すると、もう片方の親と子どもが会えなくなったり、養育費が支払われなかったりすることが問題になっているためです。子どもにとって望ましい離婚後の養育制度について探りました。(杉原里美)
■親権争いで連れ去りも「精神的な虐待では」
「ママにも会わせて」
「我が子に会いたい」
9月半ば、子どもと別れて暮らしている親らでつくる「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」(親子ネット、会員512人)が、都内で記者会見を開いた。夫婦の離婚や別居で子どもと引き離された母親ら23人が参加。子どもとの面会を訴えるプラカードを掲げ、苦しい胸の内を語った。
3年間、3人の子と会えていない30代の母親は、子連れで夫と別居しようとした日に、夫と義母が子どもを実家に囲い込み、引き離された。
家庭裁判所に申し立てたが、家裁は「現在子どもは問題なく生活している」と現状を認め、別居中に子どもを監護するのは夫と指定した。
女性は面会交流が認められず、手紙や写真の交流だけに。夫から送られてきた写真には、子どもが母親からの手紙を破っていたり、「しね」「ババア」などと書かれた紙を持っていたりする姿が写っていた。学校に相談しようとしたが、子どもと同居していないため、離婚の成立前なのに保護者と認めてもらえず、話も聞いてもらえなかった。「子どもへの精神的な虐待ではないか」と児童相談所に調査を依頼したが、「身体的な虐待ではない」と対応してもらえなかったという。
別の30代の母親は、離婚協議中だった7年前、夫と義父母、義兄夫婦によって、当時5歳と2歳だった子どもを義兄の運転する車に押し込められて連れ去られた。夫から「有利な離婚の仕方を知っているから」と言われたことを思い出し、「このことだったのか」と気づいたという。
彼女の場合は連れ去りが悪質だとして、家裁の審判で1年後に子どもが引き渡されたが、これは異例なことだ。
日本では1960年代半ば以降、親権を母親が持つ離婚が増え、9割にのぼる。そのため、親子ネットは従来、子どもと会えない父親会員が主流だった。だが近年、母親会員が急増し、約3割いる。アンケートに協力した母親50人のうち、離婚や別居前に主な養育者だった人は90%、夫から暴力を受けていた人は76%にのぼる。家裁の手続きなどで子どもの引き渡しを求めたのは42人、そのうち引き渡された人は3人に過ぎない。
武田典久代表(52)は、「子どもを手元に確保すれば、監護の継続性で親権や監護権の獲得に有利になるという情報が知られるようになり、父親による連れ去りも増えたのではないか」と話す。
日本では、離婚届で親権者を決めて提出するだけの協議離婚が9割弱を占める。民法では、離婚時に父母との面会や交流、養育費の分担を協議すると定められているが強制力はなく、家裁の調停や審判で取り決める人はわずかだ。
■会う日程など書面義務化、子の心理状態を親に教育 韓国
日本と同じように、離婚届を出すだけの協議離婚制度がある韓国では、2008年から、子どものいる夫婦については、離婚届と同時に、養育費の金額や受取口座、面会交流のスケジュールを決めて記入した養育協議書を家庭法院(家庭裁判所)に提出することが義務づけられた。
父母の取り決めを実行させるための後押しもある。養育費には、養育費履行管理院という徴収機関が設置されている。ソウルなど8カ所にある家庭法院のうち3カ所には「面会交流センター」が併設され、月2回、最長1年まで無料で利用できる。今秋には、同センターのホームページを開設し、今後5年間で地方法院(地方裁判所)も含め12カ所に設置する計画だ。
離婚届を提出する際には、家庭法院で子どもの心に寄り添うための親教育を受けなければならず、離婚相談も法院内で受けられる。面会交流センターを持つ仁川家庭法院のチェ・ボッキュ前院長は、「子どもの心理状態を教育することで、夫婦の葛藤が緩和され、子ども目線で考えられるようになる」と話す。
仁川家庭法院では、年間約200件の面会交流を実施しているという。
日本では、厚生労働省が面会交流を支援する事業を行う自治体に補助する制度があるが、利用は東京都、沖縄県、北九州市など9自治体にとどまる。親子ネットは、「養育費に比べて、面会交流の議論が進んでいない」として、支援の拡充を求めている。
法務省や学者、弁護士らが参加する「家族法研究会」が、別居中や離婚後の子どもの養育のあり方について議論を始めたのは昨年11月だ。
立命館大の二宮周平教授(家族法)は、「日本の協議離婚は、当事者の協議にゆだねることになっているが、実際には話し合いはできていない」と指摘。「家裁が、離婚が子どもに与える影響や基礎的な情報を父母に提供し、自治体が離婚相談に対応する仕組みを作れば、韓国のような制度は導入可能だ」と話す。
菅政権に期待できるのか? EUが自問する「日本の子供拉致」問題
出典:令和2年10月7日 NewsPhere
菅政権に期待できるのか? EUが自問する「日本の子供拉致」問題
◆日欧間だけではない子供の拉致
子供の拉致問題は、日欧カップルだけの問題ではない。国際離婚で起こりやすい問題を挙げる『ル・フランセ・プレス』は、同じ欧州内においても、片方の親がドイツ人であるとき、監護権の問題が発生しやすいことなどを指摘している。
また、日本国内における日本人同士の離婚でも、上に挙げた単独親権が原因で、子供とのつながりを絶たれる親は多い。「日本では6人に1人の子供が片方の親とのコンタクトを完全に失う結果」(フランス2)となっている。フランス2のドキュメンタリーは、そうした日本の親を支援するNGO団体の様子もレポートしている。
◆守るべきは子供の利益
子供と引き離された親の嘆きには身につまされるものがあるが、ハーグ条約および児童の権利条約に立ち返り、諸々の判断の根拠としなければならないのは、子供の利益、不利益である。
たとえば2、3歳で日本に連れ去られた子供を例に考えてみよう。その子供は、どんな不利益を被り、何を失うのか? まず、生活環境が急激に変わることで起こる諸々の負担。失うものはさらに多い。会えなくなった親や親戚から注がれるはずだった愛情を直接感じる機会を失くす。元にいた国の友人との交流、そこから得られるはずだったものすべて。獲得するはずだった言語、文化、風習、価値観、経験、そのすべてを失うことになる。言ってみれば、自分のなかにあるもう一つの国の人間というアイデンティティそのものを失くす恐れがあるのだ。
ハーグ条約が守ろうとしているのは、子供の権利なのである。親の都合ではなく子供の利益を優先させること。これを国際条約で定めた意義は大きい。その根底を忘れてはならない。
◆国際的な枠組みの取り決め
これを重視し、国境を越えた子供の不法な連れ去りや留置をめぐる紛争に対応するための国際的な枠組みとして定められたのが、1980年に採択された「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」だ。同条約締結国はいまでは約100ヶ国に上る。日本はG8諸国のうちでは最も遅かったが、2014年に正式な締結国となった。
ハーグ条約は、連れ去られることで起こりうる有害な影響から子供を守ることを目的に、「原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みや国境を越えた親子の面会交流の実現のための協力について定めて」いる(外務省ホームページ)。
また日本はハーグ条約締結に先立ち、1989年第44回国連総会において採択された「児童の権利に関する条約」も1994年に批准している。この「児童の権利条約」8条には、「締約国は、児童が法律によって認められた国籍、氏名及び家族関係を含むその身元関係事項について不法に干渉されることなく保持する権利を尊重することを約束する」ことが、また9条3項には「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」ことが明記されている。
◆日本の不履行
つまり、もしも国際結婚をして国外に住んでいた日本人親が、外国人親の了解を得ずに子供を日本に連れ去ってしまった場合、日本はその子を元の居住国へ戻すための「すべての適当な措置をとる」立場にあることになる。
ところが、実際には、日本はこの義務を果たしていない。少なくとも諸外国はそう見ている。たとえば、ディディエ欧州議員は、「二国間カップルの別れに際し(中略)日本の当局は必ず子供の監護を日本人親にゆだねる」(ル・ポワン誌、9/25)と、欧州議会に報告している。同誌はさらに、「外国人親に子供を訪れる権利が付与されることは決してない。ヨーロッパの裁判官による決定が下されたときも、日本の裁判所はこれを強制することがない。ひどい例としては、日本人の親の家の前に現れたヨーロッパ人の親が、警察に逮捕されたこともある」(同)現状を報道している。これは明らかに日本が批准した条約に反するというのが、ディディエ議員の訴えだ。
フランス2テレビ局は2019年、日本人親による子供の拉致問題のドキュメンタリーを放映した。元妻が連れ去った子供に一目会いたいと、限りある予算と時間のなかで言葉の不自由な異国で奮闘し絶望する父親たちの姿は、連れ去り側の親が拒否すれば、連れ去られた側の親は、子供に近づくすべを持たないという日本の実情をよく表しており、大きな反響を呼んだ。
◆欧州議会による対日決議
批准した条約内容を守らない日本に業を煮やした欧州議会は今年7月8日、日本に対する厳しい決議を採択した。内訳は、賛成686票、反対1票、棄権8票という圧倒的多数による決議だ。その主張は次の通り。まず、欧州議会は、「日本の親による実子の拉致増加に危惧の念を抱く」。そうして、日本は「子供の拉致について国際ルールを遵守していない」と考え、日本に「連れ去られた側の親が(中略)子供たちに近づき訪問する権利について裁判所が下した決定を効果的に執行するよう強く要請する」。さらに、「日本の欧州連合国民である子供たちは、彼らの権利を保障する国際協定が提供する保護の恩恵を受けなければならない」ことを強調する。
かなり厳しい表現で書かれたこの決議について、茂木敏充外務相は7月14日に記者質問に答える形で、「日本としてはハーグ条約の対象となる事案については、(中略)一貫して適切に対応してきている」と発言したのみだ。つまり、日本が国際規約を遵守していないという指摘は正しくないという認識を示した形だ。
◆共同親権と単独親権の違い
この双方かみ合わない主張の根っこには、離婚後の親権制度の違いがある。日本以外の先進国では、離婚後も父母双方が共同親権を持つのが通常なのに対し、日本では離婚後は一方の親にだけ親権を認める単独親権制度をとっている。そのため、ほかの国では、到底あってはならない「拉致」を実行する親が、日本では罪に問われることすらない。フランス2の番組内でインタビューを受けた日本の法学者、山本和彦教授は、「子供の連れ去りを推奨しているわけではないが(中略)、これは我々の法制度の派生と言える」問題だと認めている。同教授の言葉は、日本の一般的な空気を良く表している。曰く「日本では母親による子供の連れ去りは誘拐とは見なされません。深刻な犯罪とは見られないのです。日本では「誘拐」とは呼ばず「遠ざけ」と呼ばれます。良いことではありませんが、犯罪でもないのです」というものだ。「法律の改正も必要だが、人々の意識を変えるのが先決だ」とも言えよう。
実は、日本でも父母の離婚後の子供の養育のあり方を検討する動きはある。その証拠に、今年4月には「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果」が法務省民事局から発表されている。ただ、その動きは速いとはいえず、法の改正を待っていては、現在連れ去られている子供たちは成人してしまうのではないかと思える。
◆日欧間だけではない子供の拉致
子供の拉致問題は、日欧カップルだけの問題ではない。国際離婚で起こりやすい問題を挙げる『ル・フランセ・プレス』は、同じ欧州内においても、片方の親がドイツ人であるとき、監護権の問題が発生しやすいことなどを指摘している。
また、日本国内における日本人同士の離婚でも、上に挙げた単独親権が原因で、子供とのつながりを絶たれる親は多い。「日本では6人に1人の子供が片方の親とのコンタクトを完全に失う結果」(フランス2)となっている。フランス2のドキュメンタリーは、そうした日本の親を支援するNGO団体の様子もレポートしている。
◆守るべきは子供の利益
子供と引き離された親の嘆きには身につまされるものがあるが、ハーグ条約および児童の権利条約に立ち返り、諸々の判断の根拠としなければならないのは、子供の利益、不利益である。
たとえば2、3歳で日本に連れ去られた子供を例に考えてみよう。その子供は、どんな不利益を被り、何を失うのか? まず、生活環境が急激に変わることで起こる諸々の負担。失うものはさらに多い。会えなくなった親や親戚から注がれるはずだった愛情を直接感じる機会を失くす。元にいた国の友人との交流、そこから得られるはずだったものすべて。獲得するはずだった言語、文化、風習、価値観、経験、そのすべてを失うことになる。言ってみれば、自分のなかにあるもう一つの国の人間というアイデンティティそのものを失くす恐れがあるのだ。
ハーグ条約が守ろうとしているのは、子供の権利なのである。親の都合ではなく子供の利益を優先させること。これを国際条約で定めた意義は大きい。その根底を忘れてはならない。
揺らぐ”親権制度” 届かなかったSOS 娘を失った男性の思い
出典:令和2年9月29日 テレビ新広島
揺らぐ”親権制度” 届かなかったSOS 娘を失った男性の思い
特集は子どもの「親権問題」について考えます。日本では夫婦が離婚した場合、片方の親を「親権者」として定める「単独親権制度」をとっていて、実は近年、離婚後に我が子に会えなくなり、悩みを抱える親が急増しています。「親権制度」に翻弄される1人の男性を取材しました。
江邑幸一さん、47歳。江邑さんには月に1度、必ず訪れる場所があります。そこに眠っているのは、16歳の若さで亡くなった長女の寛世さん。6年前、自ら命を絶ちました。
【江邑さん】
「いつもここでこうやって。ごめんなさいということで」
江邑さんは2006年に元妻との間で離婚が成立。娘2人の「親権」を失い、当時、寛世さんとは離れて暮らしていました。
【江邑さん】
「『ゴメンね』しかないですね。『ゴメンね』というのと。助けることができなかった」
深く刻まれた「後悔」と「自責」の念。江邑さんには、当時も今も「親権」の壁が立ちはだかっています。離れて暮らすようになってから、寛世さんの身に何が起きていたのか? 娘が死にいたった経緯について、語ってくれました。
【江邑さん】
「お父さん子のままで行ったので、お母さんの言うことをまず聞かない。だんだん会話もしなくなり、そういうささいなことが年月を重ねることで追い込まれていったと思う」
次第に家庭内でも孤立していったという寛世さん。中学生になる頃には児童相談所の支援を受け、児童養護施設で暮らすようになっていました。
【江邑さん】
「面会交流で月1回と決まっていたので、月1回で会ってました。その時は全然、普通の親子喧嘩というか。児相に引き取られたくらいにしか思ってなかった」
この時、江邑さんは、娘を引き取るため「親権変更」の調停を申し立てましたが、一度、失った「親権」を取り戻すことはできませんでした。
【江邑さん】
「親子関係が崩れている証拠だし、私の方に変えてくださいとしましたけど、調停員は児相で元気にしてますよと。変える必要はありませんと言われました。何で子供の意見を聞いてくれないんだろうと」
その後も母親との関係は悪化。一時保護や里親の下での暮らしを余儀なくされた寛世さんは、当時の苦しい胸の内を日記に記していました。
【日記吹き替え】
「こっちはたぶん期待してたんだ。誰かが家に帰らなくてもいい何かを提案してくれることを。信じてたのに」
【日記吹き替え】
「私は親との摩擦に心底、疲れました。もう消えてしまいたい。」
寛世さんから確かに発せられていたSOS。しかし、その情報が親権のない江邑さんのもとへ届くことはありませんでした。そして、2014年児童相談所は親元へ戻す「家庭引き取り」を決定し、寛世さんはその2ヵ月後、帰らぬ人となりました。
【江邑さん】
「まさかね…亡くなるとは…。一番は何でそうしたのとは思いますけど、逃げたかったところを逃がしてあげられなかった。子供がコチラに来るようにいろんなことを考えてできなかったかなとか」
死の2カ月後、娘の生前の記録や死の原因を知るため、児童相談所を訪ねた江邑さんでしたが…
【江邑さん】
「児相として「やることはやりました」と。「お父さんには親権がないのでそれ以上は教えられません」と。」
さらに児童相談所を所管する山口県にも情報公開を求めましたが、ここでも寛世さんの個人情報に対する「相続権」がないことなどを理由に却下され、かろうじて公開された文書は、重要な部分がほとんど黒く塗り潰されていました。悩んだ末に江邑さんは、今年3月、原因の究明などを求めて広島地裁への提訴に踏み切りました。
【江邑さん】
「事実を知りたい。子供がどうやって、どういう判断でどういう対応をされて、亡くなっていったのか。二番目は名誉回復は必ずしたい。原因が子供じゃないと。それだけを言って欲しいだけなんだと自分では思ってます」
ある日、江邑さんが訪れたのは、福山市で開かれた「交流会」。参加者はみな、離婚後に「親権」を失い、子どもとの面会が思うようにできなくなった親たちです。
【参加者】
「1年経った後に元の奥さんが再婚したんですね。再婚してそれで会わないでくれと」
【参加者】
「子供が生まれてすぐに連れ去られて全く会わせないという風に向こうがした。私と子供の時間はもう帰ってこないしなぜ何も悪いことをしていない私と子供がこのように引き離されないといけないのか」
【江邑さん】
「親権がなければ何もない。死んだ後でもこんなに冷たい仕打ち。悔しくて悔しくて」
司法統計によると、2018年度に申し立てられた子どもの「面会交流」に関する調停の数はおよそ1万3千件にのぼり、20年前の5倍以上に増加。そのため国は現在、離婚後も両親が子供の養育に関わっていく「共同親権」の導入について、研究会を立ち上げて議論を進めています。
【江邑さん】
「自由に子供が自分の意志で行ったり来たりできれば、共同親権があればこの子は助かってましたとそれは確実に言えることだと私は思っています」
2019年度の婚姻件数は約59万件。離婚件数は約21万件。夫婦の3組に1組が離婚するといわれる時代、「親権問題」は誰の身にも起こりえます。
(スタジオ)
VTRにも出てきた離婚後も両親が親権を持つ「共同親権」ですが、実は欧米諸国では主流の考え方となっています。一方、国内ではこの「共同親権」の導入には慎重な意見もあり、特に家庭内暴力などを背景に離婚した場合の安全対策などに強い懸念が示されています。
まだまだ議論は必要ですが、江邑さんと寛世さんのような悲劇を繰り返さないためにも、いま一度、子どもの視点に立ち返って、制度を見直していく必要があるのではないでしょうか。
別居・離婚で配偶者に子ども連れ去られ、会えなくなるなんて…
出典:令和2年9月28日 東京新聞 特報Web
(2020年9月27日東京新聞に掲載)
夫婦の別居や離婚に際して、同意なく子どもを連れ去られ、一方の親が子どもと会えなくなるケースが増える中、子どもと引き離された父母が、連れ去りを防ぐための立法を怠った国の不作為を違憲だと主張し、前例のない国家賠償請求訴訟を起こした。憲法13条(幸福追求権)などを根拠に、子どもと生き別れにならない法の整備を国に求める。(佐藤直子)
夫が不倫、暴力…そして3人の子どもたちを
「今は3人の子と離れて暮らしています。なぜ母親の私が子どもたちと会えないのでしょうか」。長女(12)、長男(11)、次女(8つ)の母である原告の会社員ユカリさん(38)=仮名=が法廷で訴えた。7月下旬、東京地裁で開かれた第1回口頭弁論では、30~50代の原告14人のうち、2人の女性が裁判への思いを語った。
ユカリさんは夫に子どもたちを連れ去られ、3年以上会えていない。きっかけは不倫を重ねる夫に離婚を切り出したことだった。夫は給与を家計に入れず暴力もふるった。ある日交際女性に子どもを会わせ、一緒に遊びに行っていたことが発覚。ユカリさんは同居のまま家裁に離婚調停を申し立てた。4年前のことだ。
だが、夫は離婚を拒否。調停員はユカリさんに「別居もせず離婚は本気か」と疑問を投げかけ、調停は不成立に。ユカリさんが別居準備を始めた時に、夫は3人の子を強引に義母の家に連れて行ってしまった。
ユカリさんは、夫が自分の母親に子どもたちを預けて交際相手と生活している証拠を、監護者(子どもと生活をともにし、世話や教育をする人)の指定を争う調停に提出。子どもを連れ戻そうとしたが、「子らは問題なく生活している」「不倫は子の福祉に影響しない」と判断され、子の監護者は夫に指定されてしまった。
「ママだいきらい」の手紙はだれが
それだけではなかった。裁判所は母と子の面会交流も認めず、月1回の手紙のやりとりを許可しただけ。夫から送られてきた手紙には「ママだいきらい」と書かれ、同封の写真には、ユカリさんが送った手紙を子どもが破る姿、「しね」「ばばあ」と書いたメモを持っている姿が写っていた。
父親が仕向けたのなら心理的虐待だ。離婚は成立しておらずユカリさんは今も親権者。だが、子どもの様子を知りたくて学校に相談しても「同居親ではない」との理由で何も話してもらえず、児童相談所に調査を訴えても「虐待には当たらない」と放置されたという。
親が連れて行ったから」警察にも相手にされず
もう1人の女性原告は、オーストラリア出身の高校教師キャサリンさん(50)。17年前に来日して日本人の夫と結婚。夫婦、長女(16)と長男(11)の4人で暮らしていたが、3年前、結婚15年のお祝いの場で夫から突然離婚を切り出された。キャサリンさんが拒むと夫は単身別居を始め、2カ月後に戻ってくると離婚訴訟を提訴。昨春、キャサリンさんが仕事で不在の間に子どもたちを連れ去った。
キャサリンさんもまた今も親権者だが、以来、子どもに一度も会えていない。警察に訴えても「親が連れて行ったんでしょ」と相手にされない。「連れ去りという手段があるなんて知らなかった。母国オーストラリアには連れ去りを防ぐ法や仕組みがあるから、離婚で子どもと引き離されるなんて私には理解できない」と怒りと悲しみを語った。
背景に単独親権制
「同意なき連れ去り」は深刻化している。実数は不明だが、厚生労働省の調査では、年間20万件の離婚のうち子どもがいるケースは12万件。離婚や別居後に離れて暮らす子と定期的に会えている親は3割しかいない。原告らも「仕事から帰ったら家がもぬけの殻」「妻(または夫)が子どもを連れて出たきり戻ってこない」と不意打ちのように子と引き離されている。
なぜこのような連れ去りが横行するのか。訴訟代理人の作花知志弁護士は「根底には離婚後、単独親権しか選べない日本の民法の問題がある」と指摘する。
民法は、婚姻中は両親が共同で親権を持つが、離婚後は父母どちらかしか持てないと定める。離婚後も父母ともに親権を持つ「共同親権制度」が主流の欧米やアジア各国とは違う。」だから共同で親権を持つ婚姻中に子どもを配偶者から引き離し、別居した家庭で先に同居を始め、監護者や親権の指定を有利に得ようとする親が多い」
家裁は「連れ去った者勝ち」の傾向
事実、「子育ての継続性」を重視する家裁は連れ去りを追認するように、子と同居中の親の方を監護者や親権者に決める傾向が強い。多くの離婚案件にかかわってきた作花氏は「連れ去った者勝ち」を肌で感じてきた。「同業の弁護士には、相談者に『子どもと暮らしたいなら先に子を連れて別居を』と助言する人もいる。だが、連れ去った者勝ちは不正義だ」
さらに刑法上の問題もある。他人が子どもを連れ去った場合、未成年者略取・誘拐罪が適用されるが、親による連れ去りには適用されない。原告たちが警察に訴えても相手にされなかったのはそのためだ。
作花氏によると、欧米などでは子どもから一方の親を引き離すのは虐待とみなされ、連れ去り防止のために ①連れ去った親に刑事罰を科す ②連れ去った親を後の監護者指定で不利にする ③両親の意見が対立した際の解決ルールを設ける―などの方策が国によって定められているという。
国際結婚した夫婦が離婚の時に子を連れ去る問題も起きて、日本は2013年、国境を越えた子の奪取を禁じた「ハーグ条約」を批准した。しかし政府は国内での連れ去りには「違法ではない」との立場を取ってきたため欧州連合(EU)から解決を迫られ、昨年から共同親権制度導入についての検討を始めた。
※以下、紙面参照
収束まで子どもに会えない離婚親の悲痛な叫び
離婚後の子の不幸は同居親への遠慮から生じる
出典:令和2年9月28日 東洋経済ONLINE
新型コロナウイルスは、家族関係にも大きな影響を及ぼしているようだ。外出自粛で家族が顔をつき合わせることが増え、それまで外で息を抜くことで保っていた関係が一気に煮詰まり、家族トラブルが深刻化。当初は、それこそ「コロナ離婚」が増えるのではないかと懸念された。
ただ実際には、離婚件数はむしろ減っている。厚生労働省の調査によれば、今年1〜6月に離婚した夫婦は10万122組で、昨年同期比で1万923組少なかった。これについては、コロナ禍により夫婦の絆が強まったわけではなく、家裁調停が停止するなど社会全体が活動を自粛しているため、決断を先延ばしにしている夫婦が多いからだという見方もある。
いま目に見えて進行しているのは、親子関係の「コロナ断絶」だ。別居・離婚後の親子がなかなか会えない。家裁での面会交流調停が滞っているほか、コロナを理由に面会交流が実施されないケースは多い。
首都圏在住の小西貴之さん(仮名、50歳)は、1年半前に離婚。元妻は、当時10歳と8歳の子どもを引き取り、四国の実家に連れて帰った。そこには高齢の両親がいる。
「人生観の違いから、互いに納得して別れました。養育費は1人月3万円ずつ、面会交流は好きなときにいつでもと、2人で話し合って決めました」
どちらが悪いというわけではない、性格の不一致による離婚。小西さんは心機一転、それまで住んでいた東海地方から首都圏に引っ越し、仕事も変えた。子どもが暮らす四国とは遠く離れているので、しょっちゅう会うことはできないが、その分、会ったときには思いきり交流を深めようと思った。
それなのに。コロナ以降、小西さんは子どもにまったく会えていない。
「4月、まだ緊急事態宣言が発令される前のこと。休みが取れたので、久しぶりに子どもたちに会いに行こうと思い、元妻に連絡したんです。そうしたら『父親が来るなと言っているので、やめてくれ』と。元妻の父親には糖尿の持病があるので、万が一にでも私から子どもを通じて感染したら困る、というわけです。もう航空券も取ってしまっていたので、相当頭にきましたが、そのときは泣く泣く諦めました」
子どもたちとは、週1回ほどスカイプを通じて交流していた。しかし、生身の交流とは違う。膝に乗せたり、プロレスごっこをしたりは、オンラインではできない。子どもたちに会いたい! 緊急事態宣言も解除された7月、小西さんは再び元妻に連絡をとった。
「そろそろ会いに行こうと思うんだけど」
元妻の返事は、「NO!」だった。
「いつになったらいいのかと聞いたら、ワクチンができたら、と言われて絶句しました。そんなに待てませんよ! 語弊があるかもしれないが、田舎でテレビばっかり見ているせいで、必要以上にコロナを恐れている年寄りの意見を聞いていたら、永遠に子どもに会えなくなってしまう」
どんなに小西さんが頼んでも、元妻は面会を許してくれない。コロナ前には当たり前のように行われていた別居・離婚後の親子の面会交流だが、同居親の感情次第で簡単に絶たれてしまう。小西さんは、やり場のない怒りに苦しんでいる。
■ 子どもに会えない苦痛で精神科通い
離婚後、離れて暮らす親(別居親)と子どもが面会することに消極的な同居親は少なくない。関西地方在住の古川正樹さん(仮名、40歳)は、6歳の子どもの父親で、2年前に離婚した。夫婦どちらにも借金や暴力、浮気などの非はなく、離婚の理由は、性格の不一致。
「当時、息子は4歳でかわいい盛り。離れて暮らすことは耐えがたかったのですが、すでに夫婦仲は修復不可能なほどギクシャクしており、息子にも悪影響が出始めていたので、いったん私が家を出ることにしました」
別居前の話し合いでは、子どもにはいつでも会える、ということで合意していた。ところが、古川さんが家を出た途端、妻は家の鍵を閉め、電話にも出なくなった。まだ幼く、完全に同居親の監護下に置かれている子どもと別居親がつながる手段はない。古川さんは、子どもに会えなくなった。
夫婦間の葛藤が強い場合、同居親が子どもと自分を同一視し、「自分が相手に会いたくないのだから、子どもも会いたくないはず」と思ったり、自分がいやな思いをさせられている相手に子どもが懐くことを嫌がったりすることはよくある。子どもに会えるも会えないも、同居親の一存で決まってしまう。古川さんは別居親になって初めて、この現実に直面した。
「気が狂いそうになり、精神科にもカウンセリングにも通いました。その後、調停を経て正式に面会交流が決まり、いまは定期的に子どもに会えています。でも、子どもと会えないと気づいたときの恐怖感からは、2年経ついまも抜け出せていません」
離婚の際、子どもの親権が争われることがある。日本では婚姻時は父母による「共同親権」だが、離婚後は、片方の親による「単独親権」だからだ。親権を得た親は、子どもを「自分のもの」だと勘違いしてしまうことがある。「ひとり親」という言葉が、それを助長している。
しかし、死別ではない限り、離婚をしても子どもにとって親は2人。もちろん、虐待やDVなどがある場合はまた別の議論が必要だが、原則、離婚後も子どもは両方の親から経済的・精神的支援を受けて育つ権利がある。同居親の「感情」でそれを奪った場合、親子の断絶は子どもの人生に長く尾をひくこともある。
都内在住の杉山真帆さん(仮名、48歳)は、小学生のころに両親が離婚。母親のもとで育った。昭和の時代、面会交流などは一般的でなく、父親とは会わずに過ごした。しかし高校生になり、父親に会ってみたくなって母親に相談。母親は渋りながらも連絡をとってくれ、父親との再会を果たした。
「父はすでに別の家庭をもっていましたが、私はそんなに気になりませんでした。本をたくさん読んでいて大人びた子どもだったせいか、私って小説のヒロインみたい、と思ったくらい(笑)」
会ってみたいと思ったのは、どんな人だか自分の目で確かめたかったから。母親から聞く父親像は、「わがままで自分勝手で見えっ張り」。でも、本当はどうなのか。思春期に入り、母親に対し、女同士だからこその反発心も芽生えていた。
「母親の言葉だけを鵜呑みにするわけにはいかないと思ったんですよね」
実際の父親は、極悪人ではなく、悪いところもあればいいところもある普通の人だった。「確かに母親とは合わないな」ということだけは、よくわかった。それで真帆さんは、なんとなく納得した。
細々と交流が続き、父親は10年ほど前に亡くなった。
「亡くなって思うのは、もっと頻繁に会っていればよかった、ということ。どうしても母親に遠慮する気持ちがあって、会うのを控えてしまっていました。大人なんだから、会っても報告する義務なんてないのに、なぜか正直に言わなきゃと思い込んでいた。子どもって、同居親の気持ちを過剰におもんぱかるところがあります」
■ 子どもへの甘え、その先に虐待も
幼い子どもは全身で親を求めてくれるから、つい親は子どもの愛に甘えてしまう。他人にはとても言えないような言葉や態度で子どもを叱ってしまうのも、こんなにしても子どもは親を好きでいてくれる、と思っているから。愛していれば何をしてもいい、子どもは私の気持ちをわかってくれるはずだ。その甘えの先に、虐待があることもある。
子どもが会いたいと言わないからそれでいい、としている同居親は多い。しかし、「子どもの本当の気持ちに気づいてほしい」と真帆さんは言う。会いたいけれど、言えないのかも。会いたいと思ってしまう自分を責めて、口をつぐんでいるのかも。嫌いになれば、自分も同居親も楽だから、無意識にそうしているのかも……。
「もちろん、子どもは会いたくても、別居親のほうに子どもへの愛情が欠けているケースもあります。でも、その事実も踏まえたうえで、子どもは自分で親への思いに決着をつけたほうがいいと思うんです。不自然に妨げられると渇望だけが募り、子どもはなかなか親から卒業できません」
親子の「コロナ断絶」で不幸になる子どもが1人でも少なくなるように。真帆さんは心から願っている。
親による「連れ去り」の当事者が語る 片親から引き離れた現実と共同親権議論の“問題点”
出典:令和2年8月23日 AERAdot.
親による「連れ去り」の当事者が語る 片親から引き離れた現実と共同親権議論の“問題点”
今、別居に際して一方の親が子どもを“連れ去る”行為が問題となっている。国内では14人の原告による国への集団訴訟に発展し、EUからは「子どもへの虐待だ」として対日決議が出されるなど、国内外で波紋を呼んでいる。本サイトでも「親による『子の連れ去り』が集団訴訟に発展 海外からは“虐待”と非難される実態とは」の記事で取り上げた。問題の根は深く、一方の親が「これは連れ去りで、実子誘拐だ」といえば、もう片方の親は「DVを受けていた。逃れるために仕方なかった」など、通常は親同士が激しく主張をぶつけ合っている。では、当の「子ども」はどう感じているのだろうか。自らを「連れ去りの当事者だった」と語る男性に話を聞いた。
* * *
家庭裁判所が親権者や監護者、または面会交流について決める際、最優先に考えるのは「子の福祉」だとされている。2012年には民法が改正され、「子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない(766条1項)」と定められた。つまり、子の監護者は、親の都合や感情ではなく、子の福祉(利益)を最優先に考えられる人物であることが法的にも求められている。これまでの“連れ去り”をめぐる裁判でも「子の福祉」は大きなテーマとなってきた。
では、実際の「子」の立場からは、突然に一方の親と会えなくなる現実はどう映っているのだろうか。
都内に住む30代男性・Aさんは小学6年の3月に、母親から突然こう言われた。
「中学の制服は買わなくていい。みんなと同じ中学には行けないからね」
当時、Aさんは生まれ育った北陸地方に家族で住んでいた。当然のように友達と一緒に地元の中学に行くものだと思っていたので面食らったという。理由を聞くと、
「お父さんはもう帰ってこない。違う町に引っ越すから。お前もついて来なきゃいけない」
母親のこの言葉にますます混乱した。確かに、単身赴任中だった父親があまり帰ってこなくなったとは感じていたが、なぜいきなり引っ越すのか。父が帰ってこないのなら、どこに行って、誰と住むことになるのか。Aさんは理解ができずに「何で?」と繰り返した。すると、母親は激高してこう言ったという。
「もし来ないなら、お前を警察に突き出すからな! そうしたら牢屋に入れられるぞ!」
まだ12歳だったAさんは母親の言葉が現実になるのではないかとおびえ、母親に付いていくことに決めたという。というより、まだ1人で生きていく術を持たないAさんは、母親に従うしかなかった。
一方で、父親に会えなくなることには納得できなかった。単身赴任で九州の大学に勤めていた父親は、博学でいろいろな話をしてくれた。おおらかで包容力のある父親がAさんは大好きだったという。両親がけんかをしている記憶もほとんどなく、なぜ突然父親に会えなくなるのか、まったく理解できなかった。
「子の意思とは関係なく、母の都合だけで父と会えなくなり、環境が一変してしまう。僕は、今問題になっている『連れ去り』の当事者だったのだと、後で気づきました」(Aさん)
Aさんは3歳下の弟を連れて母親と一緒に関東地方に移住することになった。待っていたのは「新しい家族」だった。
義父となる男性にはAさんより年上の姉弟の子どもがいた。義父、実母、義姉、義兄、実弟、Aさんの6人がいきなりひとつ屋根の下で暮らすことになった。そんな状況で心を開けるわけもなく、Aさんは「新しい家族」を避けながら生活していたという。
「基本的に義父とは一言も話さずに生活していたし、義兄もすでに大学生で年が離れていたので関係は希薄でした。義父の方針で家族全員で夕食を取ることは決められていましたが、無言の食卓でしたね。家に居場所はありませんでした」(Aさん)
ほどなくして、夫婦関係も破綻し始める。同居から4カ月後には、義父と実母が頻繁に言い争うようになり、義父は手当たり次第にモノを投げて暴れ始めた。気の強い実母が義父に抗議をすると、今度は手を出して殴る。それをAさんがとがめると、義父はAさんのことも殴った。
「もちろん義父のことは嫌でしたが、無理やりこんな家に連れてきた母にも嫌悪感があったので、僕はどちらの味方もしませんでした。でも、けんかを止めないと安心して寝られないし、命に関わる場面もあったので、仲裁役に回ることにしました。双方の主張を聞くと、けんかの原因は僕の養育費だとわかったのです」(Aさん)
夫婦げんかではAさんが“伝達役”にされた。義父から呼ばれると「お前にいくら金がかかると思っているんだ。もう出せる金など1円もないと(実母に)言っておけ!」と言われる。それを実母に伝えにいくと「そんなお金でやっていけるわけないでしょ! 養育費だってそんなにもらってないのに」と反論される。Aさんは義父と実母の両方から「お前のせいだ」と言われているように感じたという。
「居場所どころか、自分の存在価値まで否定された気持ちでした。僕は望んで母についてきたわけじゃないのに、なんでこんな目にあわなきゃいけないのかと。毎日が地獄のようでした」(Aさん)
そして同居から10カ月がたった中学1年の冬、またしても家を出ることになった。ある日、母親から段ボールを渡されて「大事なものを入れろ」と命じられた。訳もわからずに段ボールに詰めると、それを運送会社に持っていかれ、そこで母親からは「もうここには戻らないから」と告げられたという。だが、せっかく新しい中学校の生活に慣れてきた時期に再び何の相談もされずに引っ越しをさせられることに、Aさんは強く反発した。親の都合で何度も環境を変えられることに、心底うんざりしていたという。
「自分は1人になっても中学1年の終業式には出る、と強硬に母に主張しました。それだけは納得してくれたようで、終業式までの3カ月間は家族3人で4畳一間の旅館のようなところを転々として、そこから学校に通いました。『最寄り駅だと義父に見つかる』と言うので、学校から離れた駅の宿に泊まって、午前4時に起きて通学していました」(Aさん)
念願の終業式に出たAさんは、中学2年の春に再び北陸地方に戻り、祖母と4人で暮らすことになった。そこから地元の高校、東京の大学へと進学した。母親は専業主婦だったので、学費は高校は祖母が、大学は離れて暮らす実兄が用立てしてくれたという。
そして社会人になった27歳のとき。ついに実父と会う機会を得た。ネットで名前を検索すると、タウン誌に同姓同名が掲載されていることがわかった。実兄の妻が連絡を取ったところ、本人であることがわかり、再会が実現したという。その時の様子をAさんはこう振り返る。
「両親は、僕が10歳のときにはすでに離婚が成立していたみたいです。でも、父は『子どものことは忘れたことはない』と言って、小さい頃の写真も持ってきてくれました。僕は平静を装っていましたが、泣きそうなくらいうれしかった。離婚の原因は、母の実家との確執であることもわかりました。実は弟には知的障害があるのですが、そうした子が生まれたのは父の家系のせいだと、祖母からずっと責められ続けていたようです。閉鎖的な土地柄なので、このまま一緒にいたら子どもたちにも悪い影響が及ぶかもしれないと離婚を決意したと。僕は母から『お父さんは浮気をした』と聞かされていたので驚きました。父もすでに新しい家庭を築いていて、僕にとっては妹になる女の子もいる。義母もすごくよくしてくれて、1年に1度は父の家に遊びにいく関係になりました」(Aさん)
その一方で、実父に会いにいったことを知った母親は激怒したという。「二度とこっち(北陸地方)には帰ってくるな!」「おまえは家に入れない!」と罵倒された。だが、すでに自立しているAさんは「母も子どもの気持ちを引き留めたくて必死なんだと思います」と語るように、親と距離を置いて関係性を考えられるようになった。
Aさんは自身の経験を踏まえて、共同親権をめぐる今の動きに対してこう話す。
「僕は共同親権の導入には賛成の立場です。一度目は同意のない『連れ去り』だと思っていて、結果的にDVまで受けることになった。二度目はDVから子どもを守るための『連れ去り』に近いと思いますが、僕の同意なく環境を変えられたことには変わりありません。何よりも15年以上も一方的に父との関係を遮断されたことは、精神的な虐待でさえあると思っています。子どもの同意なく『連れ去る』ことは心理的な虐待につながることもわかってほしいです。ただ、今の共同親権の論争については、推進派も反対派も政治闘争になっている側面があり、本質的な『子の視点』からずれてしまっているように感じます。先の集団訴訟は世間の関心を喚起するアクションだとは思いますが、子が巻き込まれる過酷な現状にまで目が向いていないのは残念です。議論から子どもを切り離さず、親からの視点ではない、本質的な『子の福祉』を考えてほしいと思っています」
壮絶な体験をしながらも、今の共同親権の議論にも問題提起をするAさん。「賛成派」「反対派」という立場で議論を分断すべきでない、というAさんの言葉はとても重い。(取材・文=AERAdot.編集部・作田裕史)
離婚時にやめて欲しいこと!子どもの苦しみに気付いてますか?「片親サバイバー」の声。
出典:令和2年8月22日 Yahoo!ニュース
離婚時にやめて欲しいこと!子どもの苦しみに気付いてますか?「片親サバイバー」の声。
明智カイト 『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
片親サバイバーとして子どもたちをサポートしているランさんに引き続きお話を伺いました。
離婚、再婚、連れ去り被害の経験から片親に苦しむ子どもをサポートする「片親サバイバー」とは?(明智カイト)
「片親サバイバー」とは?
ランさんは「片親サバイバー」と名乗り、片親に苦しむ子どものサポートや、「不都合な片親」だった場合に子どもがどれほど理不尽で苦しい状態に立たされているのかを伝える活動をしています。また、片親サバイバーを生み出す原因となっている「離婚後単独親権制度」の弊害や、「連れ去り別居(実子誘拐)」という違法行為についての認知普及活動など、健全で幸せな親子関係構築のお手伝いをしています。
子どもの運命も左右する第三者の存在
ランさんが大人になってから、子の連れ去りの裏には多くの場合に「第三者」が介入していることがわかってきました。たとえば友人や職場の同僚、信頼できる知人、役所の相談員や弁護士などなど、夫婦関係のことを誰に相談するかによって子どもは幸せになるか、不幸になるかが大きく変わってしまいます。少なくともランさんが子ども時代に経験してきた虐待や差別偏見を伴った「片親環境」は、適切な第三者が介入していれば生まれなかったのに、と思います。
もっと具体的に説明すると、相談する第三者が「一方の親の幸せ」を考えるのか、それとも「子どもの幸せ」を考えるのか、その視点の置き方によって子どもたちの「片親環境」は大きく左右されるのです。
気を付ける必要があるのは離婚弁護士に相談するケースです。なぜなら弁護士は客観的に見えますが「一方の親の利益」を考える存在であり、決して「子どもの利益」を優先する存在ではないからです。そして多くのケースにおいて「一方の親の利益=親権」なのです。そのため、子どもがその後どれだけ過酷な「片親環境」に置かれるかも知らず、子の連れ去りを指示するケースが後を絶ちません。子どもの幸せがないのに、幸せになる家庭などありません。
子の連れ去りは「一方の親の幸せ」に基づいた行為
『連れ去られる時に「なんで黙って出て行かなきゃいけないの?」と思っても、声に出せば母親から叩かれ、子どもながらに「不誠実な何か」をしている感覚が強くありました。「相手に見つかったらどうなるの?」「なんで誰にも言わずに出て行くの?」と真っ暗な道をあてもなく歩いているような感覚です。その闇に飲み込まれて自分がどす黒くなっているように思えて、とても恐ろしかったのを今でも覚えています。平たく言えば、犯罪者になった気分でした。』と、当時の出来事をランさんは振り返ります。
連れ去り後の片親環境は本当に過酷です。犯罪者のような思いを抱えながら生きて行くだけで、いつ心が潰れてもおかしくはありません。そのような環境下で、子どもにとって親は2人なのに、まるで1人しかいないかのように育てられます。事実、ランさんの家では「父親」の話はタブーでした。口にすれば「そんなに父親がいいならもうお前を育てない!出て行け!」「自分で金を稼げ!」「産まなきゃよかった!」「一切、ごはんを作ってやらないからな!」などと言われたそうです。実際に食事がなく、お腹を空かせたことも幾度となくありました。両親が別れるのは仕方ない…、子ども心にもそれくらいはわかります。しかし、もう一方の親に会えない理由は何度考えても答えが見つかりませんでした。
ランさんは「私の声を聞いてくれる人はいないのかな…」とよく思ったそうですが、子ども寄りの第三者がサポートしてくれていればこれほど過酷な「片親環境」もなく、親子の交流も絶たれることはなかったと言います。両親との健全な交流があるだけで子どもは後ろめたさを感じず家庭の話を友人たちにできるようになり、ずっと生きやすくなります。しかし、弁護士が介入している場合は、ほぼ親子の交流は断絶してしまいます。一方の親と別れたからもう会いたくない、そんな子どもは基本的にはいません。むしろ別れたからこそ、子どもは親に「会いたい」と思うものです。
もちろんすべての弁護士が悪いわけではなく、多角的にアドバイスをする人もいるでしょう。しかし、ランさんの知るケースでは、夫婦仲に問題がなくても強引に離婚させられたり、依頼人の意向を無視して弁護士が調停や裁判を起こしたりすることもありました。「やめたほうがいいよ」と連絡を入れる友人や知人に対して、弁護士が直接「連絡とったら訴えるぞ!」という主旨の脅迫めいたメールを送って夫婦仲が回復しないよう第三者にまで圧力をかけるケースもあります。果たしてそのようなことが行われていて、その後の家庭が幸せになるでしょうか。
無理な別れ方をすればその家庭に次の幸せは訪れない
たとえば再婚を考えている相手のことを「この人のこと、どう思う?」と、子どもに聞く親がいます。ランさんの場合は再婚相手の家に住むことになってから尋ねられましたが、「えっ、それを聞く前に、離婚の仕方に納得しているのかをなんで聞いてくれないの?」と、順番逆でしょ!と訝しく思ったそうです。
子どもにとって納得した「別れ方」ができていないのに、再婚したところで義理の親子がうまくなんていきません。むしろ険悪になります。ここでつまずいていることが、昨今のような虐待死の事件を引き起こす一因になっているとランさんは感じていました。
『夫婦の問題を解決する際、「子どもの幸せ」を中心に考えるかどうかで、子どもの幸せはもちろんその後の「片親環境」は大きく左右されてしまいます。とくに調停や裁判などは、書面上の争いが激化し、子どもにとっては「最もしんどい」環境です。その場合は弁護士だけではなく心理や児童の専門家も必ず間に入るように制度化するなど、「依頼人の幸せ」ではなく「子どもの幸せ」を中心に考える第三者が必要だと実体験も含めてつくづく思います。それが結局、家庭の幸せになるからです。間違っても、私のように「お前はどっちの親がいいんだ!」などと問われることがない環境を子どもに用意してほしいと思います。』と、ランさんは訴えていました。
親による「子の連れ去り」が集団訴訟に発展 海外からは“虐待”と非難される実態とは
出典:令和2年8月22日 AERAdot.
親による「子の連れ去り」が集団訴訟に発展 海外からは“虐待”と非難される実態とは
―別居した夫婦の子どもが一方の親に連れ去られた状態のまま放置されているのは、法の未整備が原因――こう訴える別居中の親ら14人が、国に対して原告1人あたり11万円の国家賠償を求める集団訴訟が7月29日、東京地裁で始まった。原告側は、「片方の親がもう片方の親から一方的に子どもを引き離す子の連れ去りを禁止する法規定がないのは、子を産み育てる幸福追求権を保証した憲法13条に違反し、連れ去られた子の人権も侵害している」と主張。一方、被告の国は、請求棄却を求めて争う姿勢を示している。離婚後は父母のどちらかを親権者とする「単独親権」の問題はこれまでも議論されてきたが、集団訴訟にまで発展した背景には何があるのか。
* * *
「法治国家なのに連れ去った者勝ちというのは、理屈からしたらおかしい。先に引き離してしまえば、親権を得るうえで断然有利になる。この状況を放置しているのは、先進国で日本だけです」
今回の訴訟で原告側代理人を務める作花(さっか)知志弁護士は、日本の「立法の不備」を指摘する。ここでいう「連れ去り」とは配偶者の同意なく、一方的に子どもを連れて別居し、片方の親との関係を(一時的に)断ち切ることを指す。作花氏によれば、国が「連れ去り」を禁止する刑法や民法、手続法を定めていないため、子どもを「連れ去った親」に目立った問題がなければ、裁判所がそれを追認するケースがほとんどだという。
「『法がおかしい』というよりも、『法がない』と表現するのが適切です」(同)
こうした状況下では、別居中の親が「子どもに会えない」と訴えるケースは後を絶たない。作花氏は、その原因の一つが「離婚後の単独親権制度」にあると指摘する。民法では、離婚時に一方の親にしか親権が与えられないと規定されている。ひとり親世帯のうち、別居親と子の面会交流は44・3%しか実現していない(厚労省・2016年度「全国ひとり親世帯等調査結果」)。面会交流の取り決めをしていない理由については、「相手と関わり合いたくない」という回答が約24%を占めた。
作花氏は、日本の単独親権制度は「国際社会から逸脱しており、時代遅れだ」と指摘する。世界的には、1980~90年代にかけてアメリカをはじめ、フランス、ドイツなどが次々と共同親権に切り替える動きが加速。2020年現在、G7加盟国で「離婚後共同親権」の制度を採用していないのは日本だけだ。
また、日本も批准しているハーグ条約では、片方の親が一方的に16歳未満の子を海外に連れ去った場合、残された親の求めに応じ、原則として元の居住国へ引き渡すと規定されている。国内の「連れ去り」は条約の対象ではないものの、今回の訴訟で原告団は、「日本も国境を越えた連れ去りを禁じるハーグ条約に加盟しているにもかかわらず、国内の連れ去りを放置しているのは違憲・違法である」と主張している。
こうした状況を「子どもへの重大な虐待だ」とみなした欧州連合(EU)は7月8日、日本人の親が国内で子どもを連れ去り、別れた相手と面会させないことなどを禁止する措置を早急に講じるよう、日本政府に要請する決議案を採択した。
EUの対日決議を機に、「ようやく動き始めたという実感があります」と語る作花氏。11月には、自由な面会交流を阻む法制度について国の責任を問う別の訴訟も控えており、原告の中には親だけでなく、片方の親に会えなくなった子どもも含まれているという。
「こうした問題は連れ去られた親の人権だけでなく、子どもの権利の問題でもあります。本来、家族法は子どものためにある。子どもの成長にとってマイナスにならないよう、国が介入していかなければならない。解決規定となる法律を、国会が制定すべきです」(同)
民間だけでなく、国会議員から国への働きかけも活発になっている。6月25日には、約90名の議員が所属する超党派の議連「共同養育支援議員連盟」が、森雅子法務相らに対し、養育費不払い解消に関する提言書を提出。離婚の際は、養育費の支払いと面会交流の双方を含む共同養育の取り決めが、離婚成立の要件とするよう求めた。
議連に所属する三谷英弘衆院議員は「養育費の確保と親への面会、両方が必要だ」と訴える。
「子どもにとって必要なのは、成長できる環境。お金だけあれば子どもは育つわけではなく、愛情をもらう機会も不可欠です。物理的な面と精神的な面がそろって、初めて成長できる環境が整うのです。そのため、金銭面だけでなく、子どもが親にアクセスする環境を整えていくことも我々の使命です」
三谷氏は子どもの親権をめぐるトラブルについて、「両者が交渉を進めるうえで、対等な関係にないことは問題だ」と指摘する。
「連れ去って育てている側が、絶対的に優位な側にいる。子どもを育てている側からすると、譲歩する必要性がないのです。一方、引き離された側は、何とか下手に出て、会いたいと乞うしかない。ひとたび子どもを取られ、会うのを拒否されれば、会うための手段がないのです」
こうした状況になれば、子どもとの面会交流にも影響を及ぼすことになる。三谷氏は「夫婦間のいざこざで、不利益を被るのは子どもです」と強調する。
「面会を拒まれれば、自分のルーツや、愛情を注がれる機会を断ち切られてしまう。離婚した親からしたら、過去を忘れたいというのが本音だと思いますが、子どもがいる以上、過去は清算できません。子どもの利益を最大化していくことが大事なので、別れてもお互いが父親であり母親なのだという意識が広がってほしいです」
では、こうした実態を国はどう捉えているのか。
集団訴訟について見解を問うと、法務省の担当者は「(今回の訴訟については)厳正に対処する。国として立証すべきことを果たしていく」とし、それ以上のコメントは控えた。だが「あくまでも一般論だが」と前置きしつつ、こう続けた。
「法律に不備があるとはとらえていない。離婚前後に取る手続きは、現行法でも十分に対処できる内容。その法律をどう運用するかは裁判所の判断になるが、制度がないというのは誤解」
親権者の決め方についてもこう述べる。
「親の状況や子の状況を総合的に判断して決めるので、子を連れ去った側が自動的に親権者になるわけでは決してない」
EUからの非難決議が出されたことについて見解を問うと、
「一つの意見としては受け止める。だが、制度に関していえば、国境をまたぐ事案も国内の事案も、条約違反であるとは認識していない」
と答えた。ただ、「その使い勝手や運用に対して、さまざまな批判があることは認識している」とも認める。
「ただちに違憲や条約違反とはならないと捉えているが、未来永劫、今の法律が100%正しいというわけではない。今後も意見を受け止めていく」(同前)
集団訴訟にまで発展した「連れ去り問題」は、別居後の親子関係を変える契機となるのか。裁判のゆくえが注目される。(取材・文=AERAdot.編集部・飯塚大和)
面会交流「同居親の協力が必要」当事者ら議論
出典:令和2年8月20日 沖縄タイムス
離婚などで離れて暮らす親と子が会う「面会交流」について学びを深めようと、オンライン講座「こどものための面会交流支援」が15日あった。子どもの心理に詳しい大学教員ら3人が講師を務め、両親の争いが子どもに与える影響や支援機関を整備する重要性を語った。離婚家庭の関係再構築をサポートする沖縄共同養育支援センターわらびの主催。ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使い、離婚の当事者や家族支援に携わる人など約30人が視聴した。
公認心理師で東京国際大の小田切紀子教授は、日本の家庭裁判所で決定する面会交流の頻度について「一律に月1回、数時間程度」とされることが多いと説明。「子どもの記憶はキャパシティーが小さく1カ月に1回だと(別居親を)忘れてしまう。子の年齢に応じた取り決めが重要で同居親の協力も不可欠」と述べた。面会交流の実施が対立する父母に委ねられていることを課題に挙げ、家裁と面会交流支援機関が連携し取り決めをフォローできる制度のほか、全都道府県への支援団体の設置、行政による資金助成の必要性を訴えた。
小田切教授はドメスティックバイオレンス(DV)などが問題になった場合、加害親を被害親と子から遠ざけ家族を解体することが主な解決方法になっているとも指摘。双方からの丁寧な聞き取りとともに「暴力の再発防止に向けた矯正プログラムが重要」とし、安全・安心を最優先しつつ親子交流を促す視点が大切と説いた。
精神保健福祉士で沖縄大の名城健二教授は、幼少期に受けた暴力や育児放棄などで人間形成に支障をきたす「愛着障害」を解説。親など特定の人との愛情を深められずに育ったことで周囲に強い警戒心を抱いて素直な態度が取れなかったり、逆に見知らぬ人にも無警戒に接してトラブルになったりする状態で、両親の離婚も要因になりうるという。愛着障害は衝動性や多動性の側面で先天性の脳機能障害である発達障害との区別が難しく、誤認されているケースもあるだろうとの見方を示し「見立てを間違えて対応すると、子どもを傷つけてしまうことにつながる」と懸念した。
また、名城教授は自殺願望や性依存が強かった男子大学生の事例を挙げ、小学生の頃に親が離婚し、大好きな父親と説明もなく離ればなれになった見捨てられ不安が背景にあったとおもんぱかった。「親は子どもの年齢に応じて離婚理由や今後の生活について説明しなければいけない。適切な説明がないと子どもの心に大きなしこりが残り、人格形成にも悪影響を与えかねない」と訴えた。
公認心理師でわらび理事でもある琉球大の草野智洋准教授は面会交流の基礎的な知識を講義。スタッフが父母の間に入って連絡調整や子どもの付き添い、共同養育プログラムなどを実施するわらびの活動内容を紹介し「沖縄の子どもたちの未来のため、活動に協力と支援をお願いしたい。まずはこの問題に関心を持ってほしい」と呼び掛けた。
「あの子が死んだのかもしれません」~子の連れ去りabductionにあった母の悲しみ
出典:令和2年8月18日 Yahoo!ニュース
「あの子が死んだのかもしれません」~子の連れ去りabductionにあった母の悲しみ
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■ 「こんな暑い日、あの子はどう過ごしているだろう」
前回僕は、離婚時の「連れ去り/拉致abduction」の被害にあった(子どもを一方的に連れ去られた)「別居親」の悲しみについて書いた(「パパ、神経衰弱しよう」~連れ去られた親の「抜け殻」感)。
それは父親の悲しみに若干特定してしまった感があったので、今回は母親の悲しみについて書く。
父親と同じく、理不尽な理由で離婚時に我が子を連れ去られた/拉致abductionされた母親は、数は少ないながらも存在する。
その理由はさまざまだろうが、「この場面は自分が引いたほうが子どもが悲しまないで済む」的な、女性ジェンダー的(受動的な配慮に基づく)理由もあるようだ。それは、男性元パートナーと闘うよりは自分が一歩引いたほうが子どもにとっては楽なんじゃないかという、配慮と態度だ。
その葛藤の奥には、それぞれのカップルの事情はあると思う。だから、目の前の傷ついている母に対して、カウンセラーの僕もそこまでなかなか聴くことはできない。
そのため、「別居親」に追いやられた理由に関しては、今のところその原因の一般性にまでは僕は到達していないのだが、子どもとの別居後、その子を思い日常を過ごす母たちのあり方はわかる。
それら別居母、拉致によって子どもから引き離された母たちは、日常を淡々と過ごしている。けれども、その日常には常にいなくなった子どものことが含まれている。
たとえば、
「こんな暑い日、あの子はどう過ごしているだろう」
「こんな大雪の日、あの子は無事学校から帰ることができているだろうか」
「コロナにあの子はかかってはいないだろうか」等。
■「こんなことで泣いてはいけないんですが」と言いつつ、謝る
そんな日常(どんな時も子どもを思う日々)を送っている母たちの表情からは、そのように常に子を思い子を心配する思いはなかなか読み取れない。
けれども、離婚時に子を拉致/abductionされた悲しみの傷は、常に抱き続けている。
諸事情があって、その悲しみと理不尽さをTwitterなどでは表出できないけれども、常に子を思うことに関しては、前回取り上げた別居親である父と変わりない。
実の母だもの、当たり前だ。
たとえば僕は、ある早朝に突然、Facebookのメッセンジャーを受け取ったことがある。それは、
「朝、ネットを見ていると、某県の中学で、プールでの事故があったという記事が目に入りました。その県は、私の息子が住んでいる県なのです。理性で考えるとそのプール事故で亡くなった生徒さんと私の息子が一致することはないのですが、どうしても心配してしまって」
と書いている。
何回かやりとりするうちに結局は電話することになり聞いていくと、その母は号泣してしまう。号泣しながらも僕に、「スミマセン、スミマセン」と謝る。
僕はそうした事態にはある意味慣れているため、何も謝られる必要はないが、その母たちは泣きながら謝る。
「こんなことで泣いてはいけないんですが」
と言いつつ、謝る。
■あの子は生きているのだろうか
子を授かったという喜びは、その子がいつ死んでしまうかもしれないという強迫観念に襲われ続けることと並列にある。
その強迫観念は、どんな親も抱いているのではないかと僕は想像している。こんなかわいい子どもを私は抱くことができた。今はたまたまこうして抱擁し幸福に包まれているが、この幸福はいつまで続くかはわからない。いついかなるアクシデントで、この幸福が破壊されることはありえる。
世の幸せな母たちは、子を抱擁しつつも、こうした強迫観念に苛まれていると僕は想像している。
ましてや、子どもとは関係のない夫婦間の離婚という事態で予想外に我が子と引き離された時、その強迫観念は常に別居母たちを襲い続ける。
あの子はいま何をしているのだろう?
あの子は生きているのだろうか。
あの子は死んだのかもしれない。
死んだはずはないに決まっているが、ニュースで流れるその死亡事故と、わたしの子どもの死がどうしてもつながってしまう。子どもと同居する親(元夫)に電話しても笑われるか無視されるだけなので、失礼とは思いながらもカウンセラー(僕)にメールしてしまう。結局は電話し、泣いてしまう。どうしても、プールで死んでしまった中学生と、わたしの息子の死がつながってしまうから。
その死で、わたしと彼(息子)のつながりがまったくなくなってしまうから。
そして、わたしも死にたくなるから。
そんな切実な思いを抱きつつ、子を奪われた親たちが日々過ごしていることを、子と同居している一方の親や拉致abductionを支持した弁護士は理解しているのだろうか。
早朝に目覚め、ついつい見てしまったスマホに現れたそんなニュース(プール事故等)から、ひとりベッドで泣く母たちの思いを、我々は想像することができるだろうか。
EU議会の対日決議で話題に…「共同監護」「共同親権」とは?
出典:令和2年8月18日 幻冬舎 GOLD ONLINE
離婚後、問題になることが多い「親権問題」。今回は世田谷用賀法律事務所の代表者、弁護士の水谷江利氏が「共同監護」「共同親権」について解説します。
日本では認められていない「共同親権」
欧州連合の欧州議会本会議が、先月7月8日、EU加盟国の国籍者と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が日本国内で子どもを一方的に連れ去る事例について、ハーグ条約を確実に履行する措置を講じるよう日本政府に要請する決議案を採択しました。
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200709/k10012505591000.html)
この決議は、これに進んで、日本は子の保護に関する国際ルールを遵守できていないとして、日本政府に「共同親権」を認めるよう国内法の改正を促したものとして、大々的に報道されました。
2019年3月には、「国連の児童の権利委員会」も日本政府に対して、離婚後の親子関係に関する法律を、「子供の最善の利益」に合致する場合に「共同養育権」を行使できるように改めるように勧告しています。
「共同監護」「共同親権」とは?
「共同監護」「共同親権」とは、どのようなことなのでしょうか。
日本は、先進国の中では珍しく、離婚後の両親について、一方にしか親権(親権は通常実際に子供を監護する「監護権」を含んだ概念です)を与えない法制度をとっています。これが「単独親権」です。
単独親権のみとしているのは、主要な国ではインドとトルコくらいのもので、そのほか多くの国では単独親権だけでなく共同親権をとることも認められているのです。「共同親権」というのは、別れた夫婦の双方に親権を認めるというものです。
法務省も、近年、日本の離婚後の親権をめぐる法制度と海外との比較について注目し、専門的な調査研究を進めてきました( 父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の公表について )。
冒頭のEU決議は、あくまで、国際離婚の事案で、国を超えた子の連れ去りがハーグ条約に違反することから、これについて向けられたものですが、日本で国を超えた連れ去りが正当化されるのは、日本が単独親権という制度をとっているからで、それがけしからん、というものです。
日本において、離婚後の父母のいずれかしか子に対する親権を持つことができない「単独親権」という制度がいいのか悪いのか、「共同親権」や「共同監護」の制度を真剣に検討した方がいいのではないかということは、「諸外国がそうだから」とか「国際社会から非難されたから」ということではなく、きちんと考えなければいけないことです。
離婚弁護士から見る共同親権・共同監護
「面会拒否」で対立が深まる事例は、決して少なくない
たしかに、日本は、離婚後どちらかの親しか親権を持つことができず、親権を持つ親が子供を監護する(親権と監護権の一致)することが多いですから、片方の親は面会という手段でしか子供にアクセスすることができません。
子どもに会うという「面会」は、間接強制という金銭的な制裁以外の方法では強制することができません。
子どもを心から愛する片方の親が、離婚後、面会を取り決めてもなお子供に会うことができない事案や、子どもに会いたいけれども、片方の親が何らかの理由でこれを断固拒否して面会の調停が極めて長期化し対立が深まる、といった苦しい事案。これらの事案には、離婚弁護士として接することは決して少なくありません。
離婚後の親権が片親に与えられることの帰結というべきか、現在の日本では、共同親権・共同監護下にある子を、夫婦の一方が連れて家を出る事案は違法とはされません。これが「連れ去り」の問題です。
一方、ひとたび片方の親が子供を単独で監護するようになると、まだ離婚が成立しておらず共同親権であってもなお、そこからの子供の連れ戻しは「誘拐」となってしまいます(別居中に、一方の親が、実力で他方の親から、子を奪ったとき未成年者略取誘拐罪が成立するとした最高裁判所平成17年12月6日判決。ただし、この事案は、連れ去りの親の性質がかなり悪質だったケースのようで、すべての事案が「誘拐」ということではありません)。
離婚後の子が育つ環境をどう考えるべきか
子どもが離婚後も双方の親に触れることで安定し、愛情を感じることができ、また、メインの監護にあたる親も、もう一方の親が関与し続けてくれることでいっときの負担の軽減になるのなら、離婚後も共同して双方の親が子供にかかわることができる共同親権・共同監護の制度がよいことは当然だと思います。
弊所のある世田谷区用賀には、離婚後の面会交流を通じて共同養育をサポートする「一般社団法人りむすび」さんがあります。
この「りむすび」さんの代表のしばはし聡子さん著作の書籍『別れてもふたりで育て 知っておきたい共同養育のコツ』には、このような共同監護(共同養育)の良さ、そのために克服しなければならないことなどが平素な言葉でわかりやすくまとまっていますので、おすすめです。
本拠地が同じということもあり、「りむすび」さんとはお仕事でお互いに協力をしたり情報交換をさせていただいたりしています。
共同親権や共同監護の制度で、難しいのはどんなことか
もし、離婚後に面会を渋ったり、あまり会わせたくないという気持ちが、片親の「こちらのやり方を乱されたくない」「いいとこどりをされたくない」とか「子供がパパ(ママ)のほうになびいてしまったらどうしよう」といったような心理的な壁だけであるなら、こういった点は乗り越えていかなければならない点だと思います。
単独親権、単独監護をとるときは、やはり離婚後の子は「どちらかのもの」となってしまうので、こういった傾向を助長し、もう一方の親が入り込む余地を失わせてしまう問題があると言わざるを得ません。
一方で、共同親権、共同監護という制度にも、難しい問題があるとされます。
片方の親が監護に当たる親として何らかの不適格な点がある場合にまで共同監護を認めていいのか。あるいは、子供が双方の親の環境や考え方の違いで悩み苦しんでいるときに、親の権利を双方に認めて良いのか、子供の安定は確保されるのか、とった点などです。
日本で単独親権が長く続いてきたのは、家督制度、家制度のもとで男性優位の「X家」というファミリー感が強かったこともありますし、高度経済成長期以来、男性の長時間労働、女性は家事労働といった役割分担のもとで、ベビーシッターなどの人件費も高額な社会背景の中、実際に男性が子供を引き取ることは困難であったという社会的な背景もあるのであろうと思います。
そう考えると、単に、主要各国がそうだからという理由で共同親権が是、単独親権が否ということもできないと思います。実際、諸外国も、「共同親権」を原則とするだけではなく、共同にするか単独にするか選択制となっているところも少なくありません。
このように考えると、
(1)子どもにとって双方の親に接することが利益になるような場合には共同監護を認める、あるいは共同監護的なことができるように単独親権の制度のもとにおいても十分な面会が確保される、
(2)一方で、子供にとって双方の親を関与させてしまうとかえって子供が苦しい立場におかれるような場合には,やはり一方の親のもとで安定した環境が確保されるようにし、面会は可能な限りで行われるようにする
というのが本来の理想的な手段であるのだと思います。
「単独親権」の制度は、これに対して現在違憲訴訟が進行中でもあり、今後目を離せない論点です。
水谷 江利
世田谷用賀法律事務所 弁護士
※追記(2020年8月19日)
当記事は、 「世田谷用賀法律事務所」 掲載の記事を転載・編集部にて再編集したものです。また記事の内容は、著者が特定の見解を持っていることを示すものではありません。
面会交流の権利「憲法の保障外」、二審も請求棄却
出典:令和2年8月13日 日本経済新聞
離婚などで別居した子どもと定期的に会う「面会交流」を義務付ける制度が未整備で精神的苦痛を受けたとして、男女14人が国に計900万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は13日、請求を退けた一審東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却した。
民法は、離婚時に父母が協議して面会交流について決めると規定。原告側は、子と同居する親が約束を破っても罰則がないのは問題だとして、面会交流保障の法整備が不可欠だと主張した。
高裁の白石史子裁判長は一審同様、面会交流をする権利が憲法上保障されているとは言えないと指摘。その上で、父母の協議で面会交流について決めることができなければ、家裁に審判を申し立てるといった制度があるとも言及し「現行法の規定が合理性を欠くとは言えない」と結論付けた。〔共同〕
別居親子の面会交流請求、2審も棄却 東京高裁
出典:令和2年8月13日 産経新聞
離婚などで別居した子供と定期的に会う「面会交流」を義務付ける制度が未整備で精神的苦痛を受けたとして、男女14人が国に計900万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(白石史子裁判長)は13日、請求を退けた1審東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却した。
民法は、離婚時に父母が協議して面会交流について決めると規定。原告側は、子と同居する親が約束を破っても罰則がないのは問題だとして、面会交流保障の法整備が不可欠だと主張した。
昨年11月の1審判決は、面会交流の実施方法は家庭の状況によって異なり、子の利益や福利を優先して検討すべきだと指摘。「面会交流をする権利が憲法上保障されているとは言えず、現行法の規定は憲法に違反しない」として請求を退けた。
養育費ビジネス化に懸念
出典:令和2年8月10日 神戸新聞
明石市が7月、自治体として初めて、不払いになっている養育費を立て替える取り組みを始めた。上限5万円、わずか1カ月分だけだが、国に先駆けて踏み出した一歩は大きい。
かたや、インターネット衣料品通販大手のZOZO(ゾゾ)の創業者前沢友作氏が設立した新会社の「養育費あんしん受取りサービス」はどうか。不払いの養育費を立て替えるまでは同じ。大きく異なるのは、毎月の養育費の15%、1年分を一括して受け取る場合は25%という保証料が必要になることだ。
明石市の泉房穂市長は先日、養育費保証をうたう民間ビジネスが少しずつ増えている現状を「不払いの解消は、ひとり親家庭の子どもの貧困をなくすため。子どもが受け取る養育費が保証料などで目減りするのは趣旨に反する」と訴えた。
2014年から、離婚する夫婦に養育費と面会交流を取り決める書式を配布する同市。市職員が両親同士の連絡調整や子どもの受け渡し、付き添いを担う「面会交流支援」にも取り組む。「すべては子どもの利益に」との視点で一貫している。
利潤を追求する民間ビジネスで、その視点を持ち続けることができるのか。そもそも諸外国のように、国が養育費の不払い対策をきっちりと制度化すれば、わざわざ民間ビジネスに頼る必要はないのではないか。泉市長の興奮した口ぶりに、そんなことを考えた。
国は重い腰をどう上げるのか。厚生労働省の調査(16年度)によると、ひとり親世帯の貧困率は5割を超え、養育費を受け取っている母子世帯は全体の4分の1以下。苦しんでいる世帯から上がる「待ったなし」の声は、警報となって今この時も鳴り続けている。
日本人の親による「子供連れ去り」にEU激怒──厳しい対日決議はなぜ起きたか
出典:令和2年8月5日 NEWSWEEK
日本人の親による「子供連れ去り」にEU激怒──厳しい対日決議はなぜ起きたか
<国際結婚と離婚の増加に伴って、日本の単独親権制度が問題に。子供に会えない悩みで自殺したフランス人男性もいる>
「まだ離婚していないのに、まだ親権を持っているのに、なぜ1年以上前から自分の子供に会えないのか」と、日本に住むあるフランス人男性が言う。2018年、長男の3歳の誕生日に彼が帰宅したら妻と2人の子供がいなくなっており、家はほぼ空っぽだった。「孫は突然連れ去られたが、日本の警察などが助けてくれないのはなぜか」と、男性の親も批判する。
2005年頃から欧米で問題になっているのが、「日本人の親による子供の連れ去り」。国際結婚が破綻した日本人(主に女性)が子供と家を出た後、配偶者を子供に会わせないケースだ。背景には、国際結婚とそれに伴う別居や離婚の増加と、親権制度の違いがある。
日本は先進国で唯一、離婚後に父母の一方にのみ親権を認める単独親権制度を取っている。「連れ去った」親は子供と同居しているため、裁判で親権が認められる可能性が高いと言われる。暴言や家庭内暴力(DV)から守る日本の法律が不十分なこともあり、被害を受けた女性が「逃げるしかない」ことも一つの原因と考えられる。
圧倒的多数で日本を批判
7月上旬、ツイッターやマスコミのウェブサイトにこんな見出しが躍った。「『親の子供連れ去り』禁止を要請 欧州議会が対日決議」
EUの欧州議会本会議は7月8日、日本に対する批判的な決議を採決した。賛成686票、反対1票、棄権8票。この決議で強調されたのは、主に以下の4点だ。
① EU市民の親の許可なしに、日本人配偶者が子供を連れ去る事件が増加している。
② 日本は子供の保護に関する国際ルールを尊重しない。EU加盟国の国籍を持つ子供の権利が保護されていない。
③ 日本の法律では、監護の共有は不可能。
④ 親権を持たない親に対する制限付き訪問権、または面会交流がほぼ認められない。
日本への要求は主に2つ。裁判の判決を必ず執行すること、日本が署名したハーグ条約をきちんと守ることだ。民主主義の国であり重要な経済パートナーの日本に対し、これほど強い批判的な表現を使うEUの決議は極めて珍しい。
決議に対し、茂木敏充外務相は「どのような根拠に基づきそのような主張をしているのか理解しかねる点は多い。国際規約を遵守していないとの指摘は全く当たらない」などと述べた。ただし、連れ去りは「子供にとって生活基盤が急変し、一方の親や親族・友人との交流が断絶される」など、有害な影響がある可能性は外務省も認めている。
こうした状況を解決するため、日本は2014年にハーグ条約の締約国になった。同条約は子供を守る目的で、元の居住国に子供を返すための手続きや、親子の面会交流を実現するための国際協力などについて定めている。双方の間で話し合いがつかない場合には裁判所が、原則として子供を元の居住国に返還することを命ずる。つまり、片親が「自分1人で子供の世話する」と決める権利はなく、子供を連れ去るのは違法だ。
だが現実には、ハーグ条約に基づいて解決されたケースは一部にとどまる。外務省によると、子供の返還などを実現するための援助の申請数は2014年度で113件。その後は、年間およそ50件。詳細を見ると、数年前から全く出口が見えないケースも残っている。
当事者であるフランス人男性がこう説明する。「日本の裁判で返還命令が出ても、なかなか執行されない。日本に連れ去られた子供は、日本人の親が返還を拒否したら返還されない。裁判で勝っても、いくら頑張っても外国人の親はもう子供に会えなくなってしまう。万が一、日本に来て子供に会おうとしたら逮捕される可能性がある。何人もそうなった。日本では強制的に子供を返還させることはしないから。国内法律を変えないとこの問題は解決できない」
「僕も自殺を考えた」
数年前には、子供に会えない悩みでフランス人男性2人が自殺した。「僕も自殺を考えたがやめた。息子に頑張っているパパの姿を見せたほうが意味がある。いつか息子が気付いてくれると期待している」と、別のフランス人男性は強調する。
外務省のハーグ条約担当者も裁判所の返還命令が執行されない例があると認め、「夫婦の関係が特に悪い事例で、解決方法がない」と言う。
ハーグ条約は、返還原則の例外も定めている。いくつかあるが、なかでも注目すべきは「返還により子が心身に害悪を受け、または他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合」。これには子供への虐待やDV等が含まれる。
子供を連れ去った疑いがある日本人女性はほとんどの件で、「DVを防ぐために逃げた」と説明する。もちろんDVがあった可能性は否定できないが、逃げるより先に居住国の警察などに相談すべきだろう。また、連れ去りの理由として、DVや虐待が不正に利用されるケースがないとも言い切れない。
フランスなどでは原則として共同親権だが、裁判はケース・バイ・ケースで判断し、DVなどを理由に単独親権を決定することも珍しくない。
EUは国境を超えた事例だけでなく、EU市民に関わる日本国内で起きる連れ去りにも懸念を示す。日本で暮らす国際結婚の夫婦が破綻し、日本人の親が子供を連れ去ることも多いからだ。「妻と子供がどこに住んでいるか分からない、子供に会いたい」という外国人男性は多い。
日本人の夫が連れ去るケースもある。「日本では実子誘拐をした片親に実質的に監護権が与えられることを、自分が同じ立場に置かれるまで知らなかった」と、オーストラリア人の女性が言う。彼女は1年前から、2人の子供に会えずにいる。
共同親権についての共著がある東京都立大学の木村草太教授によると、「日本には戸籍の附票制度があり、親権者であれば子供の居住地を追跡できるので通常、『子供がどこにいるのか分からない』事態は生じない。あるとすればDV等による保護措置が出ている場合だけだ」
だが子供に会えない外国人の親全員がDV加害者とは考えにくく、日本語が読めない、話せない彼らが自分の権利や可能な手続きを分かっていない可能性がある。日本人弁護士とのコミュニケーションも一つの課題だ。多くの場合、外国人当事者と日本人弁護士の共通言語は英語で、誤解が生まれることは防げない。子供に会えない外国人の裁判を筆者が取材したところ、通訳の問題もあるし、あまりやる気のない弁護士がいることも分かった。
フランスの国会議員リシャルド・ヤングは「父親と母親の関係が悪化したとしても、国は子供の権利を守り、両親との関係継続を確保すべき」と強調し、「日本の法律を改正することが必要ではないか」と言う。
裁判の判決が守られない
多くの欧米人からすると、単独親権制度は時代錯誤なだけでなく、日本が署名した「児童の権利に関する条約」に反する。特に、第9条に定められている親と引き離されている子供が、親と定期的に会ったり連絡したりする権利が守られていない。日本人の配偶者と別れた後、子供との面会交流ができない外国人親は多い。離婚するとさらに壁が高くなる。共同親権が認められたらこの問題を解決できるというのがEUの考え方だ。
一方、共同親権は必要ないと考える木村はこう説明する。「面会交流については、親権者が自由に決められる事柄ではない。父母どちらが親権を持つかにかかわらず、『子の利益』を最優先して監護・面会交流の方法を協議で決めなくてはならない。親権を持たなくなったほうは法律上、親として扱われなくなり、子供に会うこともできなくなるという説明は誤りだ」
ただ残念なことに、裁判で「面談交流、月2回」の命令が出ても、親権を持つ親がさまざまな理由で命令に応じないことも少なくない。「新型コロナウイルス感染のリスクがあるから会わせない」と言われたフランス人男性は「妻はなんでもかんでも理由にする」と言う。「裁判の判決が必ずしも守られていない」というEU決議の指摘は、こうした問題も含めている。
崩壊した日本人夫婦の間にも同じような事態は起きるが、外国人だとさらに複雑だ。国によって国際条約の理解が若干異なるのも大きい問題だろう。子供の利益を最優先すべきと言っても、「子供の利益」とは何か、国によって答えが違うかもしれない。
今回の決議が日本でも報道されたこともあり、EUやアメリカの意見に耳を傾ける日本の議員、弁護士や当事者も出てきた。今後は建設的な議論が可能かもしれない。今のままでは連れ去りの被害者となる子供が増え、日本のイメージも悪化する一方だ。
(筆者はフランス出身、1997年より日本在住。元AFP通信東京特派員)
<2020年8月11日/18日号掲載>
「パパ、神経衰弱しよう」~連れ去られた親の「抜け殻」
出典:令和2年8月8日 Yahoo News!
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■自殺の事実が、日本の単独親権の闇を示す
僕はふだんは不登校やひきこもり、発達障害の子をもつ親の面談支援を行なっている。すべて大阪市や大阪府の委託事業内で行ない、それは市民からみると通常の行政サービスに含まれる。そのため料金もすべて無料だ。
そのような看板(不登校相談等)で無料面談支援を行なっていると、時々「妻か夫に子どもを『連れ去られた』別居親」と出会うことがある。当欄でも度々指摘してきた、子どものabduction/連れ去り・拉致の被害者だ。
それらの親御さんは最初はためらってabductionの事実を伏せている。けれども話し込んでいくと、問題の本質は、離婚や別居時に起こったabduction/連れ去り・拉致であり、そのことに関して目の前のその親御さんが深く傷ついていることがわかってくる。
Twitterなどでは、連れ去ったほうの同居親(母親が多数)や弁護士に対する怒りの言葉が並ぶが、実際に面談支援の場に現れる別居親たちは怒りとは反対の悲しみに覆われている。
それは支援という角度で切り取ると、PTSDであり鬱状態なのだろう。実際、最近話題のこの記事
(日本人の親による「子供連れ去り」にEU激怒──厳しい対日決議はなぜ起きたか)でも、連れ去られた親の自殺の問題に触れている。
数年前には、子供に会えない悩みでフランス人男性2人が自殺した。「僕も自殺を考えたがやめた。息子に頑張っているパパの姿を見せたほうが意味がある。いつか息子が気付いてくれると期待している」と、別のフランス人男性は強調する。
出典:日本人の親による「子供連れ去り」にEU激怒──厳しい対日決議はなぜ起きたか
この記事でだけではなく、時に「虚偽DV」という悪質な手法のもと子どもを連れ去られ残された親が自殺に追い込まれることは、Twitterや個人ブログに溢れている(たとえばこれ。リンクされた記事群は資料的にも価値がある→人権弾圧により奪われ続ける報われない命)。
むしろ、DV対策の名のもとに隠蔽されていくこうした自殺の事実が、日本の単独親権の闇を示している。
■「パパ、神経衰弱をしよう」
精神医学的にはこうした自殺の背景を、PTSDや鬱状態で説明できるのだろうが、僕が実際に親御さんたちと話していて感じるのは、独特の
「抜け殻感」
だ。別居親の方々は毎日仕事もし、がんばって生きている。けれども、面談に訪れた彼ら彼女らの話しぶりや仕草からは、独特の諦めを僕は感じてしまう。
それは、「空気=同調圧力」社会ニホンで子どもを連れ去られ、それに加えて、虚偽DVや人間性の問題まで問われてしまった人の疲れだ。生きがいや希望だった子どもを連れ去られ、完全に孤独になってしまった現状を言語化することがつらすぎる人の諦めだ。
そうした、疲れや諦めが数年単位で積み重ねっていくことで、「抜け殻」のような雰囲気が現れてくる。
決して声も荒らげないし滅多なことで感情を噴出することもない。事実を淡々としゃべる。
子どもと過ごした時間、保育園や幼稚園に迎えに行ったこと、日曜日にいっしょに遊んだこと、誕生日プレゼントにぬいぐるみを買ってあげたこと。
楽しそうに親御さんたちは語るものの、その語りには細かい部分が欠落している。細かなディテールが少ないエピソード群は、それらの過去の思い出を半透明なものにしている。
僕は、そうしたディテールの欠落をクライエントのみなさんが苦しくない範囲で聞くことも「支援」だと思っている。生活の中での細かい情景を語ることで、問題の本質が見えてくることが多く、それは100年前のフロイトの著作群などにも感じることのできる、支援の極意だと解釈している。
連れ去られたことから生じるPTSDをお持ちのため、しつこくは当然聞かないけれども、たとえば子どもと室内で遊んでいた時「どんな遊びをしました?」などと聞く。
記憶にディテールを欠いているため即答はできないが、あるタイミングでたとえば、「トランプをよくしました」等の返答がある。
どんなトランプをしましたか? と僕は続けて聞く。すると、その別居親(父の場合もあれば母の場合もある)はこんなふうに答える。
「ああ、そういえば、子どもから『パパ、神経衰弱をしよう』」とよく誘われたなあ」
■耐え続けている
そのあと、目の前の父親の目に涙が浮かび始め、神経衰弱の有様を嗚咽をこらえつつ語ってくれたりする。
「僕が誤ってジョーカーを1枚だけ入れていたら、『パパ、ジョーカーは2枚入れなくっちゃ』とよく怒られました」
目の前に座る別居親である父親は、号泣する場合もある。
それだけ、別居親たちはふだん自分の置かれた理不尽さに耐え続けている。虚偽DVや親失格等の理不尽な言葉に耐え、ひとり取り残された自宅での膨大な時間に耐え、月1回2時間しかない「面会」時間さえ延期させられてしまう事実に耐えている。
そうした忍耐を続けていくために、自分の愛する子どもたちと過ごした時間の細かいディテールをあえて消去しているように僕には思える。
辛い境遇が延々と続いていく時、その辛さの源泉にたとえば幸福な過去の子どもの映像があったとすると、その幸福さと人は向き合えないのではないかと僕は推測している。
現在の大きな停滞感を凌ぐためには、そうした過去の幸福が邪魔になってくる。何月何日にこれをした的スケジュールの記憶は残っているが、そのスケジュールの中で起こった細かい事実を思い出すことがつらい。
たとえば、神経衰弱でジョーカーが1枚なことにに文句を言うかわいい子どもの表情を思い出すことができない。思い出してしまうと、今の自分を維持することが難しいからだ。
そうした理不尽さと忍耐と悲しみに毎日「連れ去られた親たち」は耐えている。記憶を少し薄くさせて、本当はずっと覚えておきたいその子どもの笑顔がその時なぜ現れたのか、そうした細かい場面をあえて封印している。
子どもの連れ去りとは、そうした別居親たちの悲しみと涙を潜在化させているというだけで犯罪的だ。
そして同時に、子どもも傷つき、それが潜在化していることも忘れてはいけない(「親が死ぬこと」を子は想像できない。
EUが日本非難!「子ども連れ去り」を止める法改正を
出典:令和2年8月1日 アゴラ
「もう、嘘をつかないでもらいたい」「認識があまりにも低すぎる」ーー。
国会議員らが、外務省と法務省の役人を厳しく追及する一幕があったのは、7月30日に衆議院議員会館で開かれた「共同養育支援議員連盟」の総会でのこと。
背景には、日本国内の離婚時の子どもの連れ去りに関して、7月8日に欧州連合(EU)議会で可決された日本への非難決議に対し、「EUの指摘には誤解されている部分が多い」「日本はきちんと対応している」とあくまで責任を回避しようとする法務省と外務省の煮え切らない態度がある。
非難決議によって、日本は「人権意識の低い国」との烙印を押され、EUと日本のパートナーシップは危機的状況にあると言っていい。このEUとの友好の危機を回避するためにはどうすれば良いか。これまでの経緯を振り返りながら考えたい。
□きっかけはフランス、イタリア出身の父親の訴え
今回のEU非難決議は、EU出身者と日本人の夫婦が離婚するとき、日本人の親が日本国内で子どもを一方的に連れ去り、別れた相手と面会させないことなどを禁止する措置を迅速に講じるよう、日本政府に求めたものだ。こうした子どもの連れ去りについて「子どもへの重大な虐待」とし、子どもの権利条約に反していると指摘する。
自民党の三谷英弘・衆議院議員は、議連の総会の中で「EUがほかの国に対する非難決議行うということは、基本的にはない。北朝鮮などに対して、人道的に緊急を要する場合はあるかもしれないが、それが日本に対して出されたということは、非常に重いこと」と指摘した。
この決議の出発点は、国内で実子誘拐にあったフランスとイタリア出身の父親の訴えだ。
フランス出身のヴィンセント・フィショ氏と、イタリア出身のトッマーソ・ペリーナ氏(いずれも東京都内在住)は、ともに日本人パートナーとの子どもを連れ去られ、自分の子どもと会えないどころか、電話1本できず、写真すら見ることができない状況が続いている。
彼らは、日本国内で子どもと引き離されたほかのEU出身者と一緒に、昨年から欧州の各国政府、国連などに出向き、日本国内の連れ去りをやめるよう、日本政府に訴えかけるように働きかけを行っている。その一環で、彼らのケースを「EU請願委員会」に訴えかけた。これがEU議会での調査につながり、今回のEU決議に至ったものだ。
ペリーナ氏は、「私たちのケースを日本が調査して、子どもたちを家に帰すことで、日本が人権問題に真剣に向き合っていることを国際社会に示すことになるでしょう」と話し、フィショ氏は「私たちの子どもたちを家に戻すことは、日本国の利益。その前例をつくることで、日本のすべての子どもたちにとっても、直接的な利益になると信じています」と彼らの働きかけの意味を語った。
□EU決議に対する外務省のトンチンカンな回答
EU決議について、記者会見の場で見解を求められた茂木敏充・外務大臣は「国内法制度に基づいて、国籍による区別なく、公平かつ公正に対応しており、決議にあるような国際規約を遵守していないという指摘は全く当たらない」と答え、さらに「法務省で取り組んでいることであり、法務省に聞いてもらいたい」と法務省へ責任を丸ごと押し付けた。
また、議連総会に出席していた外務省の担当者は、前出の国内で連れ去られた場合には適用されない「ハーグ条約」について、その取り組みを説明し、日本は「遵守している」と回答。
これに対して、日本維新の会の串田誠一・衆議院議員は、「EU決議が問題にしている主な問題は、(ハーグ条約の事例でなく)国内の連れ去り問題であり、国内の連れ去りは何件あって、何件返されたのか、その数字を示さないと、対策を検討すらできない」と断じた。
それに対する外務省担当者の「外国人にどうやって説明したらいいのか、法務省を連携して取り組んでいきたい」との言葉に、会場の議員席からは失笑が漏れた。
EU決議について、外務省が繰り返し「指摘は当たらない」「日本は条約を遵守している」と回答することで、日本が真剣にこの問題に向き合っていないことを示す格好になっていることを、国益を損ねる形になっていることを、外務省の役人たちは理解しているのだろうか。
□「養育費」問題の解消には熱心な法務省
法務省ではこれまでに、海外の24か国を対象に、離婚後の親権制度や子どもの養育のあり方について調査をしたり、親権制度の見直しの当否を検討する「家族法研究会」を7回にわたり開くなど、対応に当たってきた。
また法務省は、厚労省と連携して積極的に、養育費の不払いの解消に向けた取り組みを進めている。自民党女性活躍推進本部の猪口邦子本部長らが6月に、首相官邸で安倍晋三首相と会い、養育費の不払い問題で対策を提言し、それに取り組む同省の検討会議は年内をめどに取りまとめを行う予定で、積極的に進めている。
この問題を国会での質疑でもたびたび取り上げてきた嘉田由紀子・参議院議員は、自身のFacebookで「日本の民法819条で単独親権が決められ、片親の親権や子どもとの交流が公的に奪われながら、養育費支払いだけを義務化することは国家の法制度としてバランスを欠いているのではないか」「養育費の義務化は共同養育や共同親権とセットだろう」と指摘。
前出の三谷議員も総会の場で、「養育費だけ進めて、面会交流がおざなりにされることがないように、確認したい」とくぎを刺した。
□共同養育への法改正が、問題を打開する唯一の方法
日本国内で、一方の親から子どもを奪う人権侵害が横行しているとのEUからの指摘に、「子どもの権利条約」を管轄しているはずの外務省は「指摘は誤解だ。法務省に聞いてくれ」と逃げ、法務省は養育費の問題には熱心だが、共同養育への具体的な法改正については、いつ、どのように取り組むのか曖昧な姿勢のままだ。
このままの態度が続くのであれば、日本とEU間の政治・外交・社会関係の緊密化を目的として結ばれた「日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)」についても、「見直しも検討せざるを得ないだろう」と、ペリーナ、フィショ両氏は案じている。
議連の総会では、EUとの関係悪化の「問題を打開する唯一の方法は法改正だ」とし、議連の会長で自民党の馳浩・衆議院議員が、今後の方針として「連れ去り問題について、国内の無法状態についてどう対応するか検討し、離婚後の共同養育のルール化を制度としてしっかり作ること」を確認した。
日本は、EUからの指摘を真摯に受け止め、子どもの連れ去りを防ぎ、子どもたちが自分の親に自由に会える権利を制度として保証し、EUとの友好の危機を、回避できるのだろうか。EUは怒っている。時間はない。
この事態は、適切に対応することで日本が人権侵害に真摯に向き合う国だと示す好機なのだと、とらえたい。
超党派議連 離婚後も「共同養育」へ 法整備働きかけの方針確認
出典:令和2年7月30日 NHK
超党派議連 離婚後も「共同養育」へ 法整備働きかけの方針確認
結婚が破綻した場合の子どもの扱いをめぐって、超党派の議員連盟は、父母が共に子育てに関わる「共同養育」を推進するため、離婚後の面会交流の促進などに向けた法整備を急ぐよう政府に働きかけていく方針を確認しました。
離婚したあとの親権は、日本では、父母のいずれかが持つ「単独親権」が民法に規定されている一方、海外の先進国では、父母の双方が持つ「共同親権」が主流となっていて、EUの議会は、日本に「共同親権」を認める法整備などを求める決議を採択しました。
これを受けて、超党派の議員連盟は30日、国会内で会合を開き、会長を務める、馳 元文部科学大臣は、離婚したあとも父母が共に子育てに関わる「共同養育」の推進を目指す必要があるという考えを示しました。
そして、議員連盟では、離婚したあとの養育費の確保や、子どもとの安定した面会交流の促進に向けて法整備を急ぐよう、政府に働きかけていく方針を確認しました。
日本人親の子ども連れ去りに、世界がNO! EU議会が政府に禁止要請 変わるか社会通念
出典:令和2年7月15日 47NEWS
日本人親の子ども連れ去りに、世界がNO! EU議会が政府に禁止要請 変わるか社会通念
7月8日、欧州議会は、日本国籍とEU籍の両方を持つ子どもを日本人の親が連れ去ることを禁止するよう求める決議を、圧倒的賛成多数(賛成686、反対・棄権9)で採択した。といわれても、多くの日本の読者には何のことやらわからないかもしれない。EU市民を代表する欧州議会が抗議しているのは、EU籍を持つ子どもが、日本人のひとり親 に独断で連れ去られることにより「子どもの権利」が阻害されているという点だ。国際結婚が珍しくない現在でも、家族のあり方や子どもの権利についての日本の社会通念は、旧態依然のままだと欧州から見られているのだ。(ジャーナリスト=佐々木田鶴)
▽5年で累計1万件の連れ去り発生?
欧州議会には、EU市民が、直面する問題を訴え、助けを求めることのできる請願委員会というのがある。欧州市民の声を直接拾い上げる仕組みだ。今回は、フランス人、ドイツ人、イタリア人2人の合計4人の当事者による請願から始まった。彼らの日本人妻が、EU籍も持つ自身の子どもを日本に連れ去ってしまい、会うことさえままならない。日本は国境を越えた子どもの連れ去りを禁止するハーグ条約(「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」日本は2014年に批准)に違反し、国連の子どもの権利条約(日本は1994年に批准)が保証する子どもの権利を守るための法整備も怠っていると訴えた。
請願委員会事務局によると、正確な件数はわからないものの、「欧州ばかりでなく、北米、オセアニアからなどの情報を基に推計すると、日本人による子どもの連れ去りは、ここ5年ほどの累計で1万件を超える」という。欧州で子どもの奪取問題に取り組む国際民間非営利団体(NPO)ミッシング・チルドレン・ヨーロッパのデマレ氏は、日本のような先進国相手では信じがたい数だという。
近年、欧州各国では、核心を突く調査報道で知られるテレビ番組や特集記事などが、日本人の親による子どもの連れ去り問題をよく報じるようになった。フランス国営放送の人気番組「特派員」では、フランス人パパが連れ去られたわが子に会おうと日本に潜入する密着番組が放映され、「おもてなし」が売りの日本で、「ガイジンは嫌いだ!」と怒鳴られたり、国際法とは無縁そうな地元のおまわりさんに不審者扱いされたりする様子が物議を醸した。この番組によれば、同じような境遇で連携するフランス人の親は100人以上もいるという。アメリカの団体BacHomeでは400件以上と推計しているので、累計1万件というのも的外れではないのかもしれない。
▽国際政治の場でも日本批判の大合唱
マクロン仏大統領も、メルケル独首相も、コンテ伊首相も、これまで安倍首相に直接、何度も改善を要請してきた。在日本のEU加盟国の大使たちは、連名で日本の法務大臣に法整備を促す書簡を送っている。欧州議会の「子供の権利」専任コーディネータは、2018年以来、日本の法務大臣や駐EU日本大使に当事者たちの声を届けて改善を訴えている。19年8月には、国連人権委員会にも正式な訴えが起こされた。
そして、今回の決議では、EUはあらゆる外交機会を駆使して、日本に改善要求を続けるとしている。同じような外圧は、欧州以外からも繰り返されているはずだ。だが、今回の欧州議会決議を受けても、茂木敏充外務大臣は「決議にある『国際規約に遵守していない』という指摘はまったく当たらない」と答えている。政治家や行政がどこ吹く風と無作為に徹し、国内メディアがほとんど伝えなければ、日本社会や日本人に届くわけもない。
▽無断で子を連れ日本の実家へ帰ると誘拐に
筆者のように日本国外で30年も生きていれば、国際結婚の破たんを見ることは多い。そもそも同国籍、同人種間のカップルであっても、半数以上が破綻する今日では無理もない。欧州では離婚届に捺印して役所に届け出るだけでは離婚は成立しない。裁判所が介入して、子どもがいれば、必然的に親権能力が問われ、共同親権の詳細が裁定され、養育費や日常生活の分担が取り決められる。
にもかかわらず、日本人の女性の場合、関係が決裂すると一目散に子どもを連れて日本の実家に駆け込むことが多い。日系航空会社のカウンターでは、未成年の子どもを連れていても、パスポートと供に、欧米では常識的な「もう一人の親による同意書」の提示を求められることはまずないし、その行為が「誘拐」にあたるという意識もない。法律用語では「連れ去り」「奪取」と訳されている英語の「アブダクション」という言葉は、普通は「誘拐」と訳すのが一般的だ。
知識人といえるような友人ですら、「日本人の母親なら、どうしようもないヨーロッパ人の父親の元に子供を残しておけないと思うのが当然」などという。日本人女性は良妻賢母で、ガイジン夫は悪者と決めつけて疑いもしないようだ。
ハーグ条約関連の案件を多く手掛けて来た日本人の女性弁護士によれば、これらは日本の社会通念では当たり前だという。
「日本社会では長年にわたり単独親権があまりにも当然でした。父親は外で働いて家庭に生活費を入れ、母親は家で子育てという社会通念が根強い。別居や離婚の際には、母親が子どもを連れて家を出るのが当たり前。男性側が親権を求めることもなかったし、子どもに会いたがるとは考えもしない。(別れた男性は)養育費も支払わず、次の女性と結婚して新しい生活を始め、前の家庭のことは忘れようとするのが仕方ないと見なされがち。(女性側は)子どもが小さければお父さんは死んだと伝えるか、極悪人に仕立て上げるしかない。日本人の多くが、この社会通念をオカシイとして行動してこなかったために、法律も裁判所も変わってこなかったというのが実情です」
最近では日本の裁判所でも、連れ去られた子どもの返還を命ずるケースが増えてきているという。だが、関連する国際条約の精神が求めているのは、単に子どもだけを「返還」すればよいということではない。前述のデマレさんは、「子どもの権利に重きを置いて解決するならば、大人の都合で家庭が破壊されても、子どもが両親それぞれと親密な関係を保ち続けられる環境を、大人たちが用意しなければいけないのです」という。
▽日本に届け欧州決議
筆者は、当地で、刑務所に服役中の親が子どもとの関係を修復するリハビリテーションを観察させてもらったことがある。精神科医師や心理カウンセラーなどの専門家が、専門の裁判官や社会福祉士とスクラムを組んで長期にわたって慎重に進めるものだった。親にとっては更生の原動力となるかもしれず、子どもにとっては生涯に渡っての数少ない身内かもしれないからだ。
日本人と欧州人の両親が離婚し、ほとんど母親の元で父親の悪口ばかりを聞かされながら育った少女が、成人してから、父親とのよい関係を保って生きているケースも知っている。母親ががんで亡くなり、日本にはすでに遠縁の家族しかいない。父親の女癖も、稼ぎの悪さも、母親にとっては憎しみでしかなかったろうが、今の彼女には親身になってくれる唯一の家族だ。
大人本意で作られた古い社会通念を捨てて、「子ども本位」に変容させていかなければ、「子どもの権利」は保障できない。そのためには、メディアや政治や司法が、大衆の好みにおもねるのではなく「違うよ、この方がいいよ」と変容の方向を指し示すことが大切ではないだろうか。欧州議会の決議が、少しでも良識ある日本の人々の心に届くことを願いたい。
共同親権 導入是非含め検討「子どもの利益最優先に」森法相
出典:令和2年7月14日 NHK
国際結婚が破綻した場合などの子どもの扱いをめぐって、EUの議会が、共同親権を認める法整備を日本に求める決議を採択したことに関連し、森法務大臣は共同親権の導入の是非を含めて検討を進めているとして「子どもの利益を最優先にさまざまな意見を聞いていきたい」と述べました。
EUの議会は先週、加盟国の国籍をもつ人と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が、国内で子どもを一方的に連れ去るケースが相次いでいるとして、連れ去りを禁止する措置や共同親権を認める法整備などを求める決議を採択しました。
森法務大臣は記者会見で「外務省などと連携して対応しているが海外からの意見には、誤解も散見されるので、日本の法的手続きを正確に理解してもらうことが重要だ。引き続き丁寧に説明したい」と述べました。
そして、森大臣は共同親権については導入の是非を含めて検討を進めているとしたうえで「子どもの利益が最優先だという観点から、さまざまな意見にしっかり耳を傾けていきたい」と述べました。
欧州議会、日本におけるEU市民の親からの子の連れ去りに警鐘を鳴らす
出典:令和2年7月9日 駐日欧州連合代表部ホームページ
'欧州議会、日本におけるEU市民の親からの子の連れ去りに警鐘を鳴らす
Brussels, 08/07/2020 - 20:33, UNIQUE ID: 200709_8
Press releases
EU News 185/2020
<日本語仮抄訳>
欧州議会議員は、日本の当局が国際法の遵守に消極的であることで、日本において親による子の連れ去り事例が多数発生していることを懸念している。
7月8日(水)、賛成686票、反対1票、棄権8票で採択された決議において、欧州議会は、日本での親による子の連れ去りから生じる子どもの健康や幸福への影響について懸念を表明した。また日本の当局に対して、子どもの保護に関する国際法を履行し、共同親権を認めるよう法制度の変更を行うことを求めている。
国際法の履行
欧州議会は、EUの戦略的パートナーの一つである日本が、子の連れ去りに関する国際的なルールを遵守していないように見受けられることを遺憾としている。また日本の当局に対しては、国内法を国際的な公約や義務にと調和させるため、両親の婚姻関係が解消した後の子の返還や面会・訪問権に関する国内および国外の裁判所の決定を実行するよう求めている。
欧州議会議員は、子どもの最善の利益を守ることを第一に考えるべきであり、また子どもや親権のない親との将来の関係に及ぼす長期的な悪影響を避けるため、子の連れ去りの問題は、迅速に対処する必要があることを強調している。また、国連の「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」において、全ての子どもは、子の利益に反するものでない限り、両方の親との関係や直接的な交流を維持する権利があるとされていることを指摘している。
「親の子供連れ去り」禁止を要請 欧州議会が対日決議
出典:令和2年7月9日 共同通信
【ブリュッセル共同】欧州連合(EU)欧州議会本会議は8日、EU加盟国の国籍者と日本人の結婚が破綻した場合などに、日本人の親が日本国内で子どもを一方的に連れ去り、別れた相手と面会させないことなどを禁止する措置を迅速に講じるよう日本政府に要請する決議案を採択した。
日本は国境を越えて連れ去られた子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」締約国だが、国内の連れ去りには適用されない。
決議は子どもの連れ去り行為が相当数あるとした上で「子どもへの重大な虐待」と強調。EU欧州委員会や加盟国などに対しても日本側に改善を求めていくよう求めた。決議には法的強制力はない。
EU議会 日本へ一方的に子どもを連れ去る行為の禁止を求める
出典:令和2年7月9日 NHK
''EU議会 日本へ一方的に子どもを連れ去る行為の禁止を求める
国際結婚が破綻するなどした日本人が、相手の承諾を得ないで子どもを日本に連れ去るケースが続いているとして、EUの議会は、日本政府にこうした行為を禁止する措置を取るよう求める決議案を採択しました。
日本では、国際結婚が破綻した際の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」が2014年に発効しましたが、ヨーロッパでは、国際結婚が破綻したあとに、日本人の親が相手の承諾なしで、子どもを日本に連れ去るケースが続き、条約が順守されていないとして問題視されています。
こうした中、EUの議会にあたるヨーロッパ議会は8日、EU加盟国から日本へ一方的に子どもを連れ去ることを禁止する措置を取るよう日本政府に求める決議案を、賛成686票、反対1票で採択しました。
決議では子どもをEU加盟国の親の元に戻すことや、子どもに面会する権利を認めることなど、条約を順守するよう日本政府に求めているほか、EU加盟国などに対しても日本に改善を促すよう求めています。
決議に法的な拘束力はありませんが、ヨーロッパでは、ドイツやフランス、イタリアの首脳が安倍総理大臣との会談でこの問題を取り上げるなど、日本政府に改善を求める圧力が高まっています。
コロナ、遠ざけた親子 離婚・別居の家族、面会中止相次ぐ 当事者団体調査
出典:令和2年5月9日 朝日新聞
コロナ、遠ざけた親子 離婚・別居の家族、面会中止相次ぐ 当事者団体調査
新型コロナウイルスの感染拡大が、離婚などで離れて暮らす親子の「面会交流」=キーワード=にも影を落としている。当事者団体の調査では3月以降、面会できなくなったり、回数が減ったりする例が増え、関係断絶を心配する声が上がる。(阿部峻介、新屋絵理)
■「全く会えず」44%
当事者団体「共同親権草の根活動」が4月14〜20日にアンケート調査を実施。離婚や別居で子と離れて暮らす男女107人しか回答した。大半は月1回以上面会していたが、感染が拡大した3月以降「全く会えなくなった」人しか47人(44%)、「頻度・時間が減った」人が34人(32%)いた。
理由は「同居している親子が面会に否定的」が最多の58%。「外出自粛要請の対象があいまい」が19%、「自分の判断」が18%と続いた。大半はテレビ電話などの代替手段が実現しておらず、外出自粛が伸びた場合の親子関係について91人(85%)が「断絶を懸念する」と答えた。
団体側は「一度切れた人間関係を再び築くのは実の親子でも簡単ではない」と指摘。親子の交流を外出自粛の対象外にしている欧州の国々の事例をあげ、「日本の政府や自治体も面会交流の指針をはっきり示してほしい」と訴えている。
政府の緊急事態宣言を受け、各地の家裁が裁判手続きを中止した影響も出ている。別の団体「共同親権運動・国会賠償請求訴訟を進める会」が4月20〜23日に実施したアンケートによると、家裁に調停などを申し立てた94人の約7割が期日を取り消されたという。
同団体は先月末、「親子関係の維持、子育ての観点から『不要不急』と呼ぶ余地はない」として、最高裁に再会を求める要望書を出した。
■「面会は不要不急か」
※以下、紙面参照。
「子供に会えない」コロナで家裁調停中断、途方に暮れる親
出典:令和2年5月9日 産経新聞
新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言で、家裁での面会交流や引き渡しをめぐる審理が中断し、親が別居中の子供に会えないケースが相次いでいる。法務省はビデオ通話での親子の交流継続を呼びかけるが、当事者団体は「オンライン交流は代替手段にすぎない」として、対面での面会に向けた具体的な指針を国や裁判所に要望している。(桑村朋)
「このまま子供に会えないかもしれない。一体どうすれば」
4月下旬、北陸地方に住む30代のシングルマザーが電話取材に訴えた。離婚して地元に戻ったが、実家とは別の家に暮らす。昔から両親とは仲が悪く、長年顔を合わせていなかったが、今年、単独親権を持つ小学生の子供が実家に行ったきり帰らなくなった。
このため女性は実家側に子供の引き渡しを求め、地元の家裁に調停を申し立てた。調停は家裁の調停委員が間に入り、子供の引き渡しや住む場所について話し合いでの解決を目指すというもの。4月21日には最初の協議が予定されていた。
だが同月8日、家裁の担当者から「新型コロナの影響で調停は電話で行う」と連絡があった。政府が先行の7都府県に緊急事態宣言を出したタイミングと重なった。その後、女性が住む自治体でも感染者は増加。期日直前には家裁から改めて連絡があり、今度は「(期日は)5月6日以降に決め直す」と告げられた。
だが、8日時点でも家裁から連絡はない。女性は悲痛な胸の内を明かす。「このまま夏休みまで会えない可能性もある。体調管理をしてあげたいこの時期に一緒にいられずつらい」
◇7割、審理期日未定
「共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会」がまとめたアンケート結果によると、面会交流や離婚、子供の引き渡しなどを家裁で審理中の94人のうち、約7割の66人が、取り消しや延期で、次回の審理期日が決まっていないと答えた。
また56人が、子供に会うことができずに困っていると回答。「子供の安否が確認できない」(38人)、「相手方と連絡を取ることができない」(19人)といった意見もあった。「コロナを口実に面会交流を引き延ばされている」など、自由記述欄には切実な声も。
同会は4月末、アンケート結果を基に、家裁審理の早期再開を求める要望書を最高裁に提出。最高裁は緊急性の高い裁判は継続審理する考えだが、8日時点で新型コロナ禍での面会交流の指針は未公表だ。
一方、法務省は1日、面会交流が困難な親子らに向け、ビデオ通話で交流継続を呼びかける方針をホームページに公表。だが同会担当者は「あくまで重要なのは対面の面会。ビデオ通話が主流になれば、片親が今以上に会えなくなる恐れもある」と警鐘を鳴らす。
海外では都市封鎖(ロックダウン)中も面会交流できるよう行政が指針を出す国もあると指摘。「オンライン交流なども選択肢として確保すべきだが、自宅待機中でも子供が双方の親の家に移動できるようにするなど、国や裁判所には具体的な指針を出してほしい」と訴えた。
<新型コロナ>別居中の親が子どもに会えない 家裁の審理止まり、面会交流できず
出典:令和2年5月3日 東京新聞
<新型コロナ>別居中の親が子どもに会えない 家裁の審理止まり、面会交流できず
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で家裁の審理が止まるなどして、別居中の親が子どもに会えないケースが相次いでいる。面会交流や離婚などを巡って家裁で審理中の人に、市民団体が行ったアンケートでは、期日を取り消されたりして審理の見通しが立たない人が約七割に上った。専門家は「感染リスクに配慮する必要はあるにしても、司法は親子が断絶しないよう工夫すべきだ」と指摘している。(佐藤直子)
◆離婚調停の期日取り消し、娘の安否分からず
東京都内の男性が半年ぶりのわが子との面会で、読み聞かせようと用意した絵本。出番はまだない
「娘が元気なのか、どうしているのか。コロナ禍だというのに、安否や様子が分からない」。千葉県に住む四十代の男性会社員は不安をこぼした。昨年秋に始まった別居中の妻との離婚調停は四月に予定されていた期日を取り消され、次回は決まっていない。
婚姻中は原則父母がともに親権者となるが、日本では離婚後、父母の一方しか親権者になれない「単独親権」のため、別居する親と子どもとの面会交流の取り決めは離婚時に父母の間で交わすことになっている。
男性と娘の面会交流は、妻との間で暫定的に「月一回二時間」とした。だが、正式に定める調停がストップ。仲介役の支援団体も、やはりコロナ禍を理由に業務を休止し、娘とはこの二カ月、会えていない。
◆69%が「次回未定」市民団体アンケート
男性と同じように家裁で期日を取り消された人は多い。市民団体「共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会」が四月二十日から二十三日まで会員らに行ったアンケートでは、面会交流や離婚、子の監護者指定などを巡る家事事件で審理中の九十四人が回答。69%の六十五人が取り消しや延期によって次回期日が決まっていないと答えた。
期日の取り消しが続出するのは、最高裁が緊急時の事件処理などを定めた「新型インフルエンザ等対応業務継続計画」に基づき、全国の裁判所が業務を絞っているためだ。東京家裁は緊急事態宣言を受け、四月八日から五月六日まで緊急性が高いと判断した事件を除き、家事事件の期日を取り消した。その措置は十五日までの延長が決まった。
最高裁家庭局は「期日の指定や取り消しは裁判官の判断で行われる。感染リスクを避けて裁判所に必要な機能を維持するためにはやむをえない」と説明する。
しかし、期日が取り消された家事事件の多くは面会交流や離婚、養育費、父母のどちらを子の監護者にするかなどを決めるためのもので、当事者にとっては緊急性のある問題だ。
◆専門家「司法が介入して断絶防止を」
裁判所の対応について立命館大の二宮周平教授(家族法)は「別居の親は普段会えない子どものことを心配しているし、子どもは親と会うのを楽しみにしている。面会交流は離れて暮らす親子をつなぐ権利なのに、司法はこうした大切な人権を守ろうとしていない」と指摘。「裁判官が密集を避けるために調停を開けないというなら、権利侵害を受ける人に緊急性が高い事案だとして仮処分を出すように申し立ててもらい、面会交流の頻度などを職権で仮に定める方法も考えられる」と積極介入を訴える。
調停が終わった後でも、子どもに会えない親は多い。子どもと別居中の親を対象にした市民団体「共同親権・共同養育草の根活動」のアンケートで、百七人の回答者の76%が感染が拡大した三月以降、子どもと会えなくなったり、会う頻度や時間が減ったりした。
二宮氏は「同居親が感染リスクを心配したり、別居親も遠慮したりしているのだろう。でも、親子を断絶させてはいけない。密集が心配なら公園で会ったり、直接会うのが難しいならオンラインのテレビ通話もできる。コロナ禍だからこそ工夫して、面会交流を続けてほしい」と話している。
DV加害者にされた男性は名誉をどう回復したか 反論できない「支援措置制度」悪用の恐ろしさ
出典:令和2年5月1日 東洋経済ONLINE
DV加害者にされた男性は名誉をどう回復したか 反論できない「支援措置制度」悪用の恐ろしさ
西牟田 靖 : ノンフィクション作家・フリーライター
3月下旬、注目された行政に対する裁判が決着を迎えた(参考記事:「突然子どもに会えなくなる『虚偽DV』の悲劇」)。訴えていたのは愛知県在住の公務員、佐久間利幸さん(仮名、40代)。決着に至るまでの年月――それは男性にとってDV加害者としてのレッテルを引き剥がし、娘との絆を取り戻すための戦いであった。
3月30日、地元の東海テレビが行政に対する裁判の結果を伝えたが、報道された内容を要約すると次のとおり。
虚偽のDV被害を申告され、提訴していた公務員男性(40代)が愛知県の半田市とこのたび和解した。「元妻が捏造した相談でDV加害者として認定され、娘に会えなくなった」として、2016年、県(県警)と妻(当時)を提訴、1審の名古屋地裁では県の過失が認められたが、2審の名古屋高裁では退けられた。その後、男性はDVを認定した半田市を提訴、3月19日半田市が謝罪し和解が成立した。
■原告が勝訴する
佐久間さんと代理人である梅村真紀弁護士に話を伺う前に、まずは前記事の内容をダイジェストで記してみよう。
静香ちゃん宛に送った郵便物はすべて戻ってきてしまったという(筆者撮影)
2012年の年末、広子さん(仮名)は利幸さんが仕事をしている間に、当時未就学児だった静香ちゃん(仮名)を連れ、愛知県内の地方都市から近隣の半田市に転居する。
面会交流調停~審判では、宿泊と日帰りが1回ずつという月2回の面会交流のほか、休み期間中に長期宿泊面会する権利が認められ、学校行事への参加や手紙のやり取りは自由に行ってよいとされた。しかし妻が審判に反して面会交流を拒絶したため、佐久間さんは、学校訪問と手紙のやり取りだけで静香ちゃんと交流していた。
2016年3月、広子さんは警察へ出向く。そこで、広子さんはDV等支援措置の申し出に必要な「支援相当」の意見書を取得し、半田市役所で支援措置の手続きを行った。これにより、利幸さんは妻や娘の住民票の開示が不可能となった。さらには、学校を訪問して娘に会ったり、学校を含む行政機関から静香ちゃんの情報を共有してもらったりすることが不可能になった。
同(2016)年8月、利幸さんは損害賠償請求を名古屋地裁に申し立てた。
被告は、「暴力被害防止目的ではない目的で援助を求めた妻(広子さん)」と「それを安易に認め『支援相当』の意見を出した警察(愛知県)」であった。
判決は原告の勝訴。2018年4月、名古屋地裁の福田千恵子裁判長は利幸さん側の損害賠償請求に対し、広子さんと県の責任を認め、55万円の支払いを命じた。
広子さんの支援措置が目的外利用だと認められたのは、住所をブロックしなければ身に危険が及ぶというDVの危険性が認められなかったからだ。
2019年1月、名古屋高裁の控訴審では原告の訴えが覆された(なお、離婚については高裁の判決前に成立)。
梅村弁護士は次のように話す。
「判決では次のように述べられました。
①『学校行事参加妨害目的』でも『暴力被害防止目的』がなかったとは言えない。
②警察には妻の申告内容の真偽を加害者のために調査する義務はないし、最終的な支援措置実施の可否を判断するのは受付市町村なので警察には責任はない。
これまで支援措置に関する裁判は、受付市町村に対して裁判を起こすのが通常でした。その場合、『警察の“支援相当”の意見に基づいて市町村は支援措置を決定しているので、市町村に責任はない』とされ、訴えが棄却されてきました。
そこで、私たちは愛知県(県警)を訴えました。すると、名古屋高裁は『警察ではなく受付市町村の問題』という判断をしました。要するに責任のたらい回しです」
さらには最高裁への上告棄却により、県(警察)に責任がないということで、確定した。
■支援措置の違法性にこだわった
今回、半田市のみを提訴したのはなぜか。
「ムダな争点を排しました。責任は受付市町村にあると高裁が判断したのですから、受け付けた半田市だけを訴えようと」(梅村弁護士)
なぜこんなに支援措置にこだわるのか。
「支援措置制度のおかしさを世に訴えたかったからです。この措置は『被害者の申告』のみに基づいて、受け付けを行います。仮にその申告内容が虚偽だったとしても、罰則が存在しないんです。
申告された相手は一方的に『DV加害者』扱いされ、反論の機会も与えられません。ですので、虚偽の場合、加害者扱いされた人は、名誉を侵害されてしまいます。
また同時に、連れ去られた子どもの情報も、公平中立であるはずの行政機関から完全に秘匿されてしまいます。妻による面会審判不履行後も最低限行うことができていた、学校訪問と手紙のやり取りによる静香ちゃんとの交流さえも、DV支援措置以降できなくなってしまっています。
これは離婚前から、親権を剥奪されるのと同じです。要するに、何の反論の余地も与えられることなく、行政機関から子の親であることを一方的に否定され、子どもと生き別れ状態にされてしまうんです」(梅村弁護士)
佐久間さん自身、大変だったという。
「娘に会えなくなったことに加え、DV加害者という社会的なレッテルを貼られて苦しみました。昇任や昇給といった人事査定にも影響しましたし、ネット上でも相当たたかれました。とくに高裁の判決が出た後は、DV加害者と決めつけられ、いわれのない中傷が数々なされました」
彼は下血し入院を余儀なくされた。また子どもに会えないつらさも相まって、急に涙が出てきたり、仕事での集中力を欠き思うように仕事ができず、退職も考えていたそうだ。
■和解の意味
2019年3月、半田市との裁判が、名古屋地裁岡崎支部で始まった。
裁判では、半田市がさまざまな事情を知っていながら支援措置を受け付けたことが重視された。それは、面会交流審判の存在であったり、広子さんの半田市への相談内容だったり、佐久間さんがもともと知っている半田市内の住所をブロックしても暴力被害防止とはならなかったり、といったことだ。それは、警察の支援相当の意見を受けて、受理したという事情はあるにせよだ。
広子さんが暴力被害を防止する目的ではなく支援措置を申請している――そのことを半田市は知りながら受理し、住民票等を利幸さんに対してブロックした。
裁判所は、半田市に落ち度があることを指摘し、佐久間さんとともに和解勧告がなされ、両者はそれに従った。2020年3月19日のことだ。
「裁判だと判決が出るまでに時間を要しますので、和解勧告に応じました。金銭目的の裁判ではないので、金銭請求は放棄する一方、謝罪と被害内容を明確化することを求めました」(梅村弁護士)
和解条項は以下のとおりである。
1 被告は,原告に対し,原告を加害者とする住民基本台帳事務における支援措置申出につき,住民基本台帳事務処理要領に照らして不適正な取扱いを行ったことを認め,これを陳謝する。
2 被告は,支援措置の要件を満たさなかった状況において,原告について前項の支援措置における加害者であるかのような誤った印象や憶測が発生・継続したこと,原告が●●市において未成年者の法定代理人ないし直系尊属として未成年者の情報に接することが困難になったこと等を重く受け止め,今後の支援措置の実施に当たってはその適正性等につき更なる確認に努めることを確約する。(以下略)
この条項のキモは「2」である。
・佐久間さんをDV加害者だと見なし支援措置を受け付け、その措置をずっと撤回しなかったこと
・実の親が、離婚前も離婚後も、未成年である子どもに会うことはもちろん、居住地や学校などの情報にすら触れることができなくなったこと
誤った支援措置は、「名誉」と「親が子の情報に接する権利」という2つの重大な権利侵害を発生させる。
これを半田市が認めて謝罪したことにより、佐久間さんはDV加害者というレッテルを剥がし、ようやく名誉回復が図られるとともに「静香ちゃんの親」としての立場を取り戻したと言えるだろう。
「支援措置制度によって助かるDV被害者もいるでしょう。しかし、DV被害防止目的でなく、行政を味方につけることによって子の情報を相手に遮断し、『離婚に当たって親権を確実に得る』ために制度を悪用することもできるのです。
今回の和解で、私たちは、佐久間さんの名誉回復だけでなく、『証拠不要の支援措置を悪用した親子断絶被害の存在』を行政が認めることを、賠償金なしの和解に応じる絶対条件としました。
同じような被害を受けている人は、表面化していないだけで、全国には多数存在するはずです。この和解をきっかけに『DV被害者保護の名の下、制度悪用者が現れる危険性』『加害者扱いされた被害者の存在』『DV冤罪で生き別れになった親子の存在』に、行政だけでなく世間も目を向けてほしいと思っています」(梅村弁護士)
「私は、支援措置によって『DV加害者』『性的虐待者』扱いされ、名誉だけでなく学校等を含むすべての行政機関から『親であること』まで否定され、静香との面会を実質ゼロとされました。こんな私が親としての尊厳を取り戻し、再び子どもと会えるようになるためには戦うしかない思い、自分を鼓舞してきました。また、これは誰にでも起こりうる問題。被害者をこれ以上出したくないという気持ちもありました」(佐久間さん)
■親子の再会はいつ
なお、この和解は覆すことはできない。半田市役所が認め、謝罪したからだ。
和解した半田市にコメントを求めた。すると、担当者は次のように発言した。
「(元妻と娘が)半田市から転居し支援措置が終了していたにもかかわらず、手続きを怠ってしまいました。その点について謝罪いたします」
和解条項では、支援措置を受け付けたこと自体を謝罪していたにもかかわらず、その点についての謝罪は口にしなかった。
また、広子さんの代理人である可児康則弁護士にも結果についてのコメントを求めたが、コメントは得られなかった。
最後に、佐久間さんに娘の静香ちゃんとのその後について、伺った。
「もう4年あまり、消息すらわかりません。だけど、子どもが使っていた部屋はいつ帰ってきても使えるよう、今もそのままにしています」(佐久間さん)
親子の絆はそう簡単に切れるものではない。私は親子の再会を信じている。
新型コロナで「面会交流」困難も テレビ電話など検討を 法務省
出典:令和2年5月1日 NHK
新型コロナで「面会交流」困難も テレビ電話など検討を 法務省
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、離婚などで離れて暮らす親子が定期的に会う「面会交流」が困難なケースがあることから、法務省は、ホームページでテレビ電話による面会などを検討するよう促しています。
この中で法務省は「面会交流」について、「決められた方法で実施すると、子どもの安全を確保することが困難になる場合も生じ得るものと考えられる」としています。
そのうえで、当事者による話し合いが可能な場合には、テレビ電話や電話といった代わりの方法を検討するよう促しています。
一方、話し合いが困難な場合には、弁護士など専門家に相談するようにしてほしいとしています。
森法務大臣は、記者会見で「オンラインや電話などに変えることで面会を実現することはできる。両親の話し合いが前提だが、難しい場合の相談窓口も法務省から案内したい」と述べました。
専門家「国は丁寧に説明を」
離婚などで離れて暮らす親子をつなぐ「面会交流」は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、7割以上が全く面会できなくなったり、減ったりしたことが当事者団体の調査で分かっています。
法務省が面会交流への対応を公表したことについて、家族法が専門で面会交流の問題にも詳しい、早稲田大学の棚村政行教授は「子どもの健やかな成長のために面会交流はとても大事だが、新型コロナウイルスの影響でうまくいかなくなっていることに対して、国が情報発信をしてくれたことは評価できる」と話しています。
一方で棚村教授は、アメリカやイギリスなど諸外国では、面会交流の詳細な指針を示し、子どもが相談できる窓口が設けられているとして「現在のままでは、細かく指針を示せてはいない。面会交流が実際に滞っている、あるいはうまくいっていない親が、具体的に何をすればいいのかを丁寧に説明する必要がある」と指摘しています。
<以下、参考:法務省ホームページ掲載>
【新型コロナウイルス感染症関係情報】面会交流について
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00033.html
今般の新型コロナウイルス感染症に関連して,子どもの安全の確保や感染拡大防止の観点から,事前に取り決められていた条件での面会交流を実施することが困難な状況が生じた場合にとり得る対応について,以下のとおりご案内します。
1 面会交流は,子どもの健やかな成長のために重要なものですが,新型コロナウイルス感染症の拡大が問題となっている現在の状況の下では,従前取り決められた方法で面会交流を実施すると,子どもの安全を確保することが困難になる場合も生じ得るものと考えられます。
したがって,そのような場合には,面会交流の方法を変更すること等を検討していただく必要があるものと考えられますが,父母間で話合いをすることができる場合には,子どもの安全の確保に最大限配慮し,どのような方法で面会交流を実施するのが相当かについて話し合ってください。
例えば,これまでは,直接会う形での交流を続けてきた場合でも,子どもの安全等を考慮して,一定の期間,通信機器等を利用した方法での交流や,手紙での交流等に変更することを検討するときには,次のような事項について話合いをすることが考えられます。
○ 代替的な交流の方法(例えば,ビデオ電話,電話,メール等)
※ ビデオ電話や電話等の場合にはどちらから掛けるかも決めておくとよいと考えられます。
○ 日時(例えば,毎週何曜日の何時から何時まで等)
○ 代替的な交流の方法を用いる期間
○ その他,円滑な交流のために必要と考えられる項目
2 これに対し,父母間で落ち着いた話合いをすることが困難な場合には,互いに様々な不安を抱える状況にあること等を考慮して,無理に当事者間で話し合おうとはせずに,必要に応じて弁護士等の専門家に相談するようにしてください。
3 面会交流について知りたい方は,以下のホームページをご覧ください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00017.html
また,悩んだときは,専門家に相談してください。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00013.html
「リモート面会」も可 離婚後の親子 法務省
出典:令和2年5月1日 時事通信
法務省は1日、新型コロナウイルスの感染拡大により、離婚で別居している親子の面会交流が困難なケースが生じていることを受け、ビデオ通話などによる「リモート面会」を代替手段にすることも可能との見解をホームページに掲載した。
同省は「父母間で話し合いをすることができる場合は、子どもの安全確保に最大限配慮し、どのような方法で面会交流を実施するのが相当か話し合ってほしい」と呼び掛けている。
当事者/サバルタンである子どもは日本の離婚システムでは語れない~思想、裁判所、弁護士、法学者、NPO
出典:令和2年4月29日 Yahooニュース!
当事者/サバルタンである子どもは日本の離婚システムでは語れない~思想、裁判所、弁護士、法学者、NPO
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■20万人の子どもの落胆
現代の日本は世界でも珍しい「単独親権」制度をとるため、両親が離婚したあと子どもはどちらかの親(多くは母)と同居し、別居するもうひとりの親とは会えて月1回のペースになる。
月1回会えればいいほうで、なかには何年も会えない別居親もいる。
また、昨今の新型コロナ禍のために同居親が慎重になったりすることから月1回の子どもとの「面会交流」(この表現には問題があると当欄で指摘したアタッチメントが「ペアレンティング・タイム」をいざなう~離婚後の「面会交流」ではなく)が滞っている別居親もたくさんいる。
それら別居親の嘆きは、ツイッターの話題検索で「面会交流」「共同親権」等で検索していただければ簡単に読むことができる(面会交流 共同親権)。
多くの別居親が月1回の子どもとの交流に期待し、喜び、落胆し、涙している。
毎年20万組の夫婦が離婚するから、 すべての夫婦に子どもはいないにしろ子どもがいる夫婦は2人以上も珍しくないため20万人程度の子どもがそうした環境(別居親との実質的別離)に追いやられている。
■虚偽DV申告アドバイス
そうした単独親権離婚を「勝ち取る」ため、「虚偽DV」が弁護士によってアドバイスされていることも当欄では触れた。そしてそれを裁判所が追認し、そうしたプロセスに疑問を抱く別居親によって訴訟が起こっていることにも。
たとえば今月号の『月刊Hanada』には、弁護士による虚偽DV申告のアドバイス的な事例も紹介されている。同記事では、DVを訴えるために必要な項目として以下のようなものがあるので注意するように、と離婚を考える一方の親たちに弁護士たちはアドバイスしているそうだ。
……弁護士の提示した三つの「証拠」は、まさに日本国内で人権派弁護士らがDVの捏造を指南する時に利用する三点セット。
病院の診断書は、「ストレス性腸炎」などの病名で頼めばすぐに発行してもらえる。DVシェルターに「入っていた」という事実も、日本の裁判所では証拠になる。警察や婦人相談所へ「相談した」という事実も証拠として使える。この三点を使えば、まったくDVがなかったとしても簡単にDVの証拠を捏造できるし、日本の裁判所はDVの事実認定をしてくれる。
出典:ハーグ条約を“殺した”人権派弁護士たち 『月刊Hanada』6月号 池田良子
こうした「捏造」の実態は、あからさまなDVとは別に、記事にもあるような「夫婦喧嘩の過程でのどなり合い」といったシーンも多く含まれる。
夫婦喧嘩がエキサイトすると、どなり合ったり、モノを投げたり、モノや手や足で暴力に及ぶこともある。人間が遭遇する暴力の中では、意外と家族間の「喧嘩」が多く、夫婦のほかには、母子(ひきこもりや発達障害でよく見られる)、父子、兄弟などが普通に見られる。
そうした摩擦の一場面を、「法的視線」で切り取れば、それが双方向のアクションであったとしても(一方通行のアクションだと容易にDVや暴力に位置づけることができる)、たとえば上の「三点セット」や「痣の写真」などがあれば、それは即DVや虐待になる。
■「離婚複合体」が生むサバルタンとしての子ども
こうした「DV創作」も含めた、それら一連のプロセスやシステム(「単独親権離婚システム」)を思想として後押ししてきたのが「昭和フェミニズム」であると、当欄では2回言及した(虚偽DVは、「昭和フェミニズム」から生まれた 「少女フェミニズム」が単独親権を続ける)。
単独親権離婚システム、あるいはシンプルに現代の離婚システムには、このように、思想(昭和フェミニズム)、既存概念を追認する裁判所、そうした法曹界のエートスに便乗して「離婚ビジネス」を展開する弁護士、その周辺に群がる学者やNPOといったいくつかの層で構成されている。
「支える思想-追認する裁判所-ビジネスとして請け負う弁護士-周辺に群がる学者とNPO」、あの軍産複合体ではないが、「離婚複合体」のようなものが束になって日本の離婚事象を覆っている。
ここでいつも後回しにされるのが子どもで、日本は本当に当事者(この場合子ども)の人権は後回しにされる。これをポストコロニアル哲学の用語で表現すると、「サバルタン(最大の当事者)である子どもは語ることができない」という表現になる。
日本の場合、戦争でもあからさまな差別でもなく、「単独親権離婚システム」の形成によって、最大の当事者/サバルタンである子どもが語ることができない。できないどころか、子どもたちの声は「洗脳」され歪められる(「ぼくは、父(母)親に絶対会いたくありません」~「連れ去り洗脳」という児童虐待)。
日本ではやはりいつも子どもが犠牲になるが、「離婚ビジネス」で儲ける弁護士と黙認する裁判所、それらを背後で支える「昭和フェミニズム」というシステムがあることを意識しておきたい。
家裁審理が中断「早急に再開を」 別居の親、子どもに会えず
出典:令和2年4月27日 共同通信
新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言で家裁の審理が中断し、別居中の子どもに会えないケースが相次いでいるとのアンケート結果を当事者団体がまとめ、裁判を早急に再開するよう求める要望書を27日、最高裁に郵送した。
取りまとめたのは「共同親権運動・国家賠償請求訴訟を進める会」。メンバーの12人は、単独親権制度が法の下の平等を保障する憲法に反するとして、国に賠償を求めて東京地裁で係争中だ。
20~23日に実施したアンケートには、面会交流や離婚、子どもの引き渡しなどを家裁で審理中の94人が回答。7割近い65人が次回期日が決まっていないと答えた。
離れて暮らす親子の「面会交流」にも影響 新型コロナ
出典:令和2年4月26日 NHK
感染拡大の影響は、離婚などで離れて暮らす親子をつなぐ「面会交流」にも及んでいることがわかりました。当事者団体の調査で7割以上が全く面会できなくなったり減ったりしていたということで、専門家は「子どもが親と交流することは非常に重要なことで、直接会えなくてもオンラインでの面会交流を行っていくべきだ」と指摘しています。
離婚や別居で子どもと離れて暮らす親で作る団体では、今月20日までの1週間、新型コロナウイルスの感染拡大が面会交流に影響していないか、アンケート調査を行いました。
それによりますと、回答者160人のうち107人は感染が拡大する前のことし2月までは面会交流が行われていましたが、このうち「全く実施できなくなった」と答えた人が44%「会う頻度や時間が減った」と答えた人は32%でした。
これらの人の81%は、オンラインでのビデオ通話など代わりの方法での面会交流もできていないということです。
また、このまま外出自粛が続いた場合に、子どもとの断絶が進む懸念があるかを尋ねたところ、「強く懸念される」か「やや懸念される」と答えた人が85%に上りました。
娘と離れて暮らす父親「国などが面会可能な方法示して」
千葉県に住む40代の男性は昨年、妻と離婚し、月に4回の約束で幼い娘と面会交流を続けてきましたが、元妻から新型コロナウイルスの感染拡大を理由に会わせられないと伝えられ、現在は面会交流ができていない状況だということです。
男性は「元妻から『コロナがはやっていて危ないので会わせるつもりはない』という意思表示があり、面会交流は無くなりました。面会交流に関して調停を申し立てましたが、裁判所には緊急性が無いと判断されて延期され、話し合いもできない状態です」と話しています。
そして「子どもはやっと父親が誰かを覚えたばかりです。子どもの成長を見届けてあげられないことは本当にかわいそうだと思うし、子どもに会いたいです。オンラインで面会するといった方法を国や裁判所などが方針として示してくれれば非常に助かると思います」と話しています。
専門家「オンラインでの面会交流を」
家族法が専門で面会交流や養育費の問題に詳しい早稲田大学の棚村政行教授は「離れている親にとっては子どもと会えないことで健康状態も含めて心配になることは非常に理解できるし、一方、同居している親にとっても子どもや自分の健康、それに休業に伴うさまざまな影響にストレスや不安を感じ、面会交流も大切だがそれどころではないと、精神的に追い詰められている状況にあるのではないか」と分析しています。
そのうえで「アメリカなど外国ではオンラインでの面会交流が20年ほど前から行われていて、日本はかなり遅れをとっている。面会交流は非常に重要なので、たとえ直接会えなくてもオンラインなどで会話できたほうがよい」と指摘しています。
さらに「イギリスでは面会交流は非常に重要だとして、外出制限の例外に当たると明示している。ほかにも外国ではオンラインでの交流や養育費などの問題についてもワンストップの相談窓口を設けるなど、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてきめこまやかな配慮があるとうかがえる。感染拡大がいつまで続くのかわからない中、日本の裁判所や弁護士会にも同様の取り組みが求められる」と話しています。
「ぼくは、父(母)親に絶対会いたくありません」~「連れ去り洗脳」という児童虐待
出典:令和2年4月19日 BLOGOS
「ぼくは、父(母)親に絶対会いたくありません」~「連れ去り洗脳」という児童虐待
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■「おとうさん すき」から、「ぼくは、父親に絶対会いたくありません」へ
行政の子ども若者支援の委託事業をメインとして仕事をするようになったここ10年近く、僕は主として、不登校やひきこもりや発達障害をもつ親御さんの面談支援を担当している。
行政の事業なので当然無料のサービスで、区役所に置かれているチラシや広報を見てやってくる親御さんは上の3分野に限らず多様だ。あるいは、最初はたとえば子どもの不登校ということで面談に来られたものの、実は発達障害であったり夫からのDVであったり妻の不倫であったりと、真の問題に移行していくことがよくある。
そのなかでも、数は多くはないが、当欄でも度々触れている、離婚の際の「単独親権」にまつわる諸問題には深刻なケースが含まれる。
その代表が、離婚時に同居した親からの、子への「洗脳」問題がある。
Twitterに公開されているとはいえやはり究極のプライバシーだからその手紙をシェアするわけにはいけないが、今朝も、子どもからのこんな言葉を連ねたメモがツイートされていた。
「ぼくは、父親に絶対会いたくありません」
これをツイートしているのは、悲しいことに、会いたくないと言われた父親のほうだ。その父親は、10年前の手紙として、同じ子どもからの以下の言葉もツイートしている。
「おとうさん すき」
子どもは、おそらく現在が中学生、あとの言葉は10年前のものだというから5~6才の頃のものだ。
この問題は個別の事例でありながら、広く一般化できる(一般化できると思ったので、ここにも書いている)。というのも、上に書いた保護者との面談のなかで、それほど数は多くはないものの、同様の言葉を僕はこれまで何回か別の別居親たちから見せてもらったことがある。その言葉は、まるで同じ、「会いたくない」というものと「すき」というものも、まったく同じだ。
離婚の際子どもを「連れ去られ」、そのあと何年かして子どもの態度や言葉が豹変したこともまったく同じだ。
これが、連れ去り別居に伴う子どもへの「洗脳」として、現在とりあげられている問題である。
■「パパ(ママ)をきらいになることが、ママ(パパ)に気に入られるんだ」
先日、この「連れ去り」問題は基本的人権の侵害だとして集団提訴があり、その訴状には強引な連れ去りの姿が生々しく描かれている(子の連れ去り違憲訴訟)。
訴状の引用はフェアではないので控えるが、この産経新聞のネット記事(子の「連れ去り」規制を 引き離された親ら、国を集団提訴 )からも、原告側の無念さは伝わってくる。
こうした強引な「連れ去り」の結果、子どもたちにとって別居することになった親(多くは父だが、母も当然いらっしゃる)への見方が、月日をたつごとに変化していく。
その多くは、冒頭に引用したようにネガティブなものに変わる。
子どもを連れて同居する親(多くは母親だが、父もいる)は、離婚にまつわる感情的もつれから、当然元パートナーに対して悪感情を抱く。別居・離婚・連れ去りの過程を経て新しいパートナーと出会うことも珍しくはなく、その新パートナー(子どもにとってやがて新父母になっていく)とうまくやっていくためにも、旧夫・旧妻の悪口を言う。
それはたいてい、子どもの前で言われるだろう。
最近ようやく、子どもの前での夫婦げんか・DVは、「面前DV」と呼ばれ、児童虐待のひとつ(心理的虐待)としてカウントされるようになった。
それとは少し様相は異なるものの、この、子どもの前で元パートナーを否定し続けるという行為は、子どもにとっては、
「パパ(ママ」をきらいになることが、ママ(パパ)に気に入られるんだ」
という思考になる。
■踏み絵
僕もかれこれ25年ほど子ども若者支援をしてきたが、子ども(特に幼児)は、自分が「生き残っていく」ために、最も親しい大人の意見に自分を合わせようとする。
僕が敬愛するある里親の方は、もう20年ほどまえではあるが、よく僕にこう言ったものだ。
「田中くん、君が関わる子どもたちが君と仲良くなるのは、君の支援のスキルとは関係なく、子どもたちが君に合わせてくれているんだよ」
その方は、国立大学の理系の教授であり、自らも里親をされていたため、その言葉には説得力があった。
そう、子どもは、その子どもがしんどい環境に置かれていればいるほど、周囲の身近な大人に自分を合わせることで「生き残って」いこうとする。いわばこれが、子どもの「生存戦略」なのだ。
だから、
「ぼくは、父親に絶対会いたくありません」
という言葉は文面通りに受け取ることはできない。こう書くことで、こうパフォーマンスすることで、目の前の身近な大人(親と、新しくその親のパートナーになった大人)に気に入られることが目的だ。
「会いたくない」「きらい」ということで、新しい環境(住居や新しい「親」)に適応させてもらうことを子どもは無意識的に狙っている。
言い換えると、同居親はそうした効果をよく理解した上での、元パートナーへの悪口なのだ。
つまり、元パートナーの悪口を、連れてきた我が子が受け入れるかどうかは、
踏み絵
のようなものだ。
前のお父さん(お母さん)をお前は嫌いになることができる? できれば、私との新しい生活をともにしよう、というノンバーバル(言語外)なメッセージが、同居親が子に発する「おとうさん(おかあさん)は最低だった」という言葉に含まれている。
子どもの生存戦略的には、その言葉に従うしかない。その従属を言い換えると、
洗脳、
ということになる。
※Yahoo!ニュースからの転載
変化する家族のあり方 共同親権と選択的夫婦別姓の法整備を 真山勇一・参院議員
出典:令和2年4月16日 毎日新聞
変化する家族のあり方 共同親権と選択的夫婦別姓の法整備を 真山勇一・参院議員
国会議員になってすぐに参院法務委員会に配属され、国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めたハーグ条約の承認と国内法整備に関する議論に加わった。当時はハーグ条約に未加盟だったため、子どもの連れ去りを巡る国際トラブルが発生しているとして条約加盟に向けた手続きが急がれていた。
調べてみると、子どもの連れ去りは国際結婚だけの問題ではなく、国内でも同様の事案が起きているということが分かった。日本人同士で離婚したけれども、元配偶者がいつの間にか子どもと一緒に転居してしまい、行き先が分からず子どもに会うことができない……。こういった話を聞き、家族のあり方を巡る法整備を行う必要があると考えるようになった。
離婚は、夫婦が役所の窓口に離婚届を提出すれば成立する。たとえ、夫婦間で子どもの扱いをどうするか話し合われていなかったとしてもだ。すると、離れて暮らす親と子どもの面会が滞る、逆に一人親となった家庭に元配偶者から養育費が支払われないといった事態が発生する。
日本は子どもの7人に1人が貧困だと言われており、中には離婚した女性が1人で子どもを育てているケースも多い。離婚時に子どもの扱いに関する協議をするよう制度設計していけば、子どもの権利が侵害されることは防げるのではないか。
例えばオーストラリアでは、離婚に当たって相談する専門の機関があり、子どもの養育についての取り決めやその実施をサポートしてく…
※以下、記事を参照ください。
離婚後も「共同親権」24カ国中22カ国 法務省、海外の法制度調査
出典:令和2年4月11日 毎日新聞
離婚後も「共同親権」24カ国中22カ国 法務省、海外の法制度調査
法務省は10日、離婚後の親権や子の養育の法制度について海外を調査した報告書を公表した。調査した24カ国のうち22カ国が、離婚後も父母双方が子の養育に関わり、協力して教育や医療などの子の重要事項を決める「共同親権」を法的に認めていた。
日本は民法で、離婚後は父母いずれかが親権者となる「単独親権」を定めている。報告書によると、日本と同様に単独親権のみを認めるのはインドとトルコの2カ国だけ。イタリアやドイツ、フランスなどは共同親権を原則としつつ、裁判所の判断に基づく単独親権を認めている。韓国やインドネシアでは実際には単独親権を選ぶ例が多かった。英国は離婚時に親権行使の具体的方法を調整し、父母がそれぞれ単独で親権を行使できる。
※以下、記事参照
大半の国が共同親権採用、法務省調査 運用方法に違いも
出典:令和2年4月10日 日本経済新聞
法務省は10日、離婚後も父母の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入状況について、米国や英国など24カ国を調査した結果を公表した。22カ国が採用しており、日本と同様、父母の一方を親権者と定める「単独親権」のみの国はインドとトルコだけだった。
共同親権の是非は有識者や法務省の担当者らでつくる「家族法研究会」が議論しており、調査結果を参考資料にする。法改正が必要と判断すれば、法相が法制審議会に諮問するが、父母が対立している場合は共同親権が子どもの不利益になるとの意見も根強い。
共同親権は一般的に、父母が合意して親権を行使することと考えられているが、運用方法は各国で異なる。
イタリアやオーストラリア、ドイツといった国は、離婚後も原則として共同親権となる。スペインは父母の合意により、単独親権とすることができる。インドネシアは共同親権を認めているとはいえ、養育している親だけが親権を行使することが多い。
共同親権の範囲は、イタリアは教育などに限定。ドイツは、子どもにとって著しく重要な事項として抽象的に定めていた。スイスなどは限定していない。
共同親権の行使で父母が対立すれば、英国やドイツ、ブラジルをはじめ、最終的に裁判所が調整する国が多かった。調査は昨年から外務省を通じ実施していた。
共同親権、多数が採用 24カ国対象の法務省調査
出典:令和2年4月10日 時事通信
法務省は10日、離婚後の親権制度や子の養育の在り方をめぐり、外務省を通じて行った24カ国対象の調査結果を公表した。それによると、離婚後も父母双方に親権が残る「共同親権」は、カナダや中国など多くの国で認められている。日本のように離婚後は片方の親だけが親権を持つ「単独親権」はインドとトルコの2カ国のみだった。
「単独親権は違憲」と集団提訴 子育ての権利侵害、国を相手に―東京地裁
単独親権については、親権を失った親と子の交流機会が制限されるとの問題点が指摘されている。調査対象のほとんどの国で、離婚後の子と親の面会交流が適切に行われているかについて、公的機関が監視するなどの支援制度があるという。
共同親権、22カ国が採用 法務省調査、研究会の資料に
出典:令和2年4月10日 共同通信
法務省は10日、離婚後も父母の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入状況について、米国や英国など24カ国を調査した結果を公表した。22カ国が採用しており、日本と同様、父母の一方を親権者と定める「単独親権」のみの国はインドとトルコだけだった。
共同親権の是非は有識者や法務省の担当者らでつくる「家族法研究会」が議論しており、調査結果を参考資料にする。法改正が必要と判断すれば、法相が法制審議会に諮問するが、父母が対立している場合は共同親権が子どもの不利益になるとの意見も根強い。
(共同)
「実子誘拐ビジネス」の闇 人権派弁護士らのあくどい手口
出典:令和2年5月1日発行 月刊『Hanada』5月号
「実子誘拐ビジネス」の闇 人権派弁護士らのあくどい手口
記事の詳細、参考情報はこちらをクリックして参照ください。
(声)涙 離婚後も孫との時間ありがとう
出典:令和2年4月4日 朝日新聞デジタル
■みんなで語ろう 涙
無職 吉岡律子(福岡県 73)
二十数年前、初孫誕生の知らせを受け、夫と雪深い東北に駆けつけました。息子も彼女も20歳、東京の大学に通う学生でした。赤ちゃんと対面した時の感動は今でも忘れません。
大学を卒業した息子は妻と2歳児を連れて帰郷し、就職しました。それからわずか3年で離婚。孫は母親が親権を得て、父子は泣く泣く別れました。私も涙がかれるほど泣きました。その後、双方が話し合い、父親と月に1回の面会ができるように。以来毎月1、2泊で我が家に来るようになりました。
息子が仕事で忙しい時は、私が孫を迎えに行き、駅から2人で手をつないで童謡を歌いながら家路につきました。さらに春夏冬休みの長期滞在も加わり、すっかり家族の一員に。大人になった今も遊びに来ます。
今年の正月、「6月に結婚します」と彼女を連れて報告に来ました。私たち夫婦を「僕の両親のような存在だよ」と紹介していました。うれし涙があふれました。もちろん、女手一つで彼を立派に育て、私たちに会わせてくれた母親に、いまは感謝の気持ちでいっぱいです。
別居親 子に会えず苦悩 交流支援を望む声も
出典:令和2年4月1日 沖縄タイムズ
「DVの加害者と判断された」市に損害賠償求めていた公務員の46歳男性 市が謝罪し和解成立
出典:令和2年3月30日 東海テレビ
「DVの加害者と判断された」市に損害賠償求めていた公務員の46歳男性 市が謝罪し和解成立
元妻にウソのDV被害を申告されたと訴える男性。DVの加害者だと判断した愛知県半田市を訴えていましたが、和解が成立です。
愛知県内の公務員の男性(46)は、「元妻が捏造した相談でDV加害者として認定され、娘に会えなくなった」として、2016年、元妻と県に合わせて330万円の損害賠償を求める裁判を起こしていました。
一審の名古屋地裁は、元妻のDVの相談が娘との面会を阻止する目的だったことと県警の過失を認めましたが、二審の名古屋高裁は、DVの判断は警察ではなく行政が下すものとして、訴えを退けました。
これを受け、男性はDVを認定した半田市を相手に損害賠償を求めて訴えていましたが、3月19日半田市が謝罪し、和解が成立しました。
「透明」になって傷つける〜日本の離婚の専門家たち
出典:令和2年3月28日 Yahoo ニュース!
田中俊英 | 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■39名
前回、日本における「子ども」とは、産業革命以前の「小さな大人」でもなく近代的「権利の主体」でもなく、それはあたかも鑑賞物のような、目の前にある置物のような、主体的意思は持っているのだろうがそれ以前にこちらに従属する付属品(英語ではアタッチメント)のような、「オブジェ」のような存在ではないか、と書いてみた(子どもはオブジェ〜小さな大人でもなく、権利の主体でもなく)。
そのような客観的モノである存在であれば、子どもの意思に無断で「誘拐」することにはそれほど罪悪感は抱かないはずだ。
そう、我が国では、夫婦が離婚する際、一方の親(母が多い)が他方の親(父が多い)に無断で、子どもを連れ去ることが日常的に起こっている。日本で毎年離婚する20万組のうち、その行為は10万組とも15万組ともあると言われる。
欧米諸国からは日本のこの「連れ去り」行為は「誘拐」とみなされ、ヨーロッパ(フランスほか)を中心に、激しい抗議が毎年のように寄せられている。普通の日本国民がそれを知らないのは、単にメディアが報道しないからだ。
そうした実態について報告し、連れ去り/誘拐の代表的裁判(松戸判決〜一審では画期的な「フレンドリー・ペアレント・ルール」が採用されながら二審ではそれが破棄された「事件」。これが連れ去りの代表的な法的根拠となっている)も丁寧に説明してくれる記事が発表された(月刊Hanada2020年5月号 [雑誌花田紀凱、 月刊Hanada編集部])。
この記事は近々起こされるであろう民事訴訟をメインに取り上げ、そこでは、弁護士・裁判官・NPO・大学教授等39名もの専門家・有名人たちが名誉毀損の被告とされていることを報告する。
39名のなかで代表的な人々はすべて実名をあげられている。ここでは名前は記さないものの、その名前の半分以上は僕は以前より知っている。
■誘拐、継続性の原則、虚偽DV、人格破壊、天下り
この記事はネットに要約版が出ている(有名リベラル論客を多数提訴〜「実子誘拐」を巡る注目の裁判 - 牧野 のぞみ)。
また、珍しいことに『英語版」も公開されている(Darkness of child abduction business|Nozomi Makino)。
元読売新聞の記者の記事らしく、社会的問題としてこの裁判の意味に切り込む。それは、
1.日本の「誘拐/連れ去り」は国際問題だということ
2.「松戸判決」が重大なポイントであるが、一審は画期的判決で勝訴した父が、二審では従来の「継続性の原則」(「誘拐/連れ去り」の結果同居している親〜多くは母〜の立場を優先する)を根拠に敗訴したこと
3.一審を覆すためか、二審を根拠づけるためか、おそらく両方だろうが、二審敗訴の父を「DV父」(実際は虚偽)だとして専門家たちが追求し始めたこと
4.それは「人格破壊 Character Assassinasion」と呼ばれる、集団でこの父/原告の人間的あり方を貶めるものであったこと
5.そうした人格破壊集団(記事では「集団リンチ」と表現されている)の一員には、たとえば裁判官が含まれており(なんと松戸判決の審判書を書いた裁判官だという)、退官後は母側(父側の敵対者)の代理人の弁護士事務所に天下ったこと
等を指摘する。
これらの過程には「子どもの声」は聞こえず顔も見えない。子どもは「対象物」として裁判の一事象として潜在化させられている(ポストコロニアル哲学的には「サバルタン」化)。
同時に、紋切り的事象(DV)と紋切り的約束事(「継続性の原則」)をつなぎ合わせてひとつの典型的物語をこしらえる。それを待ったあと、「法」がなんの悩みもなく紋切り的決定「同居親の元に子は属する」を行なう。
■透明と省略の暴力
ここには、3つの問題点がある。それは、
1.最大の「当事者」である子どもを潜在化させ、近代的法システムの中では堅くて古い議論(継続性の原則)と事実ではない(虚偽)通俗的言説(DV)で、単独的事象を覆い隠す。
2.覆い隠す論者・専門家達は、自らを客観的存在とし、第三者的立場をとり公平にふるまう。この公平さにより論者(たとえばNPO代表)の顔はそこに見える割にはその論者がまとう「正義」のマントにより、「透明」な存在となる。
3.「継続性の原則」という紋切り的言説を採用することで、目の前の単独的事象について、単独的決定ができない。松戸判決の二審は「決定」とは言えず、単なる惰性であり、それは当事者たち(ここでは子と父)の「声」を隠蔽する機能を持つ。
つまり、その事例に宿る特別で単独的意味を消失させる。
消失させる人々は権力をまといながらも「透明」になって逃げている。
そして「決定」が行なわれないため、最大の当事者(子ども)がまたもや潜在化させられる。
ポストコロニアル哲学における「サバルタン」の創出は、前前世紀のインドだけにとどまらず、21世紀のニホンにおいてこのように典型的に行なわれている。
同哲学の代表的書物である『サバルタンは語ることができるか』(G.C.スピヴァク)は、同書1章において、上1と2を指摘し、あの著名な哲学者であるM.フーコーとG.ドゥルーズも「透明な存在」と化し海外の元植民地事情を捨象してフランス国内へと話題を省略化しているとする。言い換えるとその省略化は「暴力」である。
■紋切りの暴力
そうすることで、フーコーとドゥルーズは安全な高みに自らを置き、「透明な存在」となって問題を浮き上がらせる。
上の3については、J.デリダが『法の哲学』のなかで厳しく語る「決定」とはまったく逆の行ないが生じている。
世界で唯一つの単独的な事象を「決定」するためには、前例を踏襲しながらも(継続性の原則)、その単独的事象に対して世界で唯一の単独的決定を行なう必要がある。
その決定の瞬間は「幽霊が宿る」瞬間であり、それが言い換えると「脱構築」であるとデリダは語る。松戸判決ほかの、日本で日常的に行われる「継続性の原則」に則った紋切り判決は脱構築どころか、個々の当事者たちに対して圧倒的に無礼である。
その無礼さを言い換えると、その紋切り的決定は「暴力」である。
このような2種類の暴力が、当事者をサバルタン化・潜在化させている。そしてその暴力に加担しているのが、ここでは39名の専門家・著名人たちだということだ。
全ての子どもにまつわる事件の当事者の親御さんたちは、最高裁判所の動画を武器にしっかりと身に着けるべき 最高裁は私たちの味方だ!
出典:令和2年3月27日 土井法律事務所ブログ
全ての子どもにまつわる事件の当事者の親御さんたちは、最高裁判所の動画を武器にしっかりと身に着けるべき 最高裁は私たちの味方だ!
最高裁判所が動画を配信しています。
https://www.courts.go.jp/links/video/hanashiai_video/index_woc.html
ビデオ「子どもにとって望ましい話し合いとなるために」という動画があり「基本説明編」と「子どもの年代別説明編」の2本が配信されています。
子どもと言っても発育段階によって感じ方に違いがありますので、年代別説明編を作ったことはとても配慮されていると思います。
基本説明編では未就学児と小学校高学年を例に模擬事件を作ってわかりやすい説明がなされています。これはとても使えます。
面会交流調停だけでなく、親権者の指定(離婚調停、訴訟)、変更、監護者の指定、子の引き渡し全ての事件で、この動画を裏付け資料として主張を行うべきなので、内容を紹介します。
基本説明編の内容としては、大きく分けて二つの構成で、<子どもが両親の争いから受ける影響>とそれを踏まえて<子どもを両親の争いに巻き込まないために>が述べられています。
全体の章立ては、
1. 話し合いを行うときに
2. 子どもが両親の争いから受ける影響
3. 子どもを両親の争いに巻き込まないために
4. 自分自身の心の状態を知る
5. 子どもへの接し方
6. 話し合う内容と心がけること
となっており、最初の画面からその動画部分に飛べるようです。
この点もよくできています。
先ず、<子どもが両親の争いから受ける影響>が述べられています。文字ではなく動画で、しかも子役がみな素晴らしい演技をしているのでこれでもかというほどわかりやすくなっています。
10歳の子どもの場合は、一見平気そうに見えても、内面では悲しい気持ち、辛い気持ち、不満などを抱えていることがあるというようなことを説明しています。
よく調停などで、子どもは平気そうにしているから今の環境になじんでいるとか別居親と会わなくても良いから会わせないとか等と言う当事者がいるわけですが、その言い回しは間違っているということの裏付けとして使えるわけです。
まさかとは思いますけれど調査官調査報告書がこのようなトーンで書かれていたら最高裁の見解に反するという言い回しも可能になるでしょう。
もし万が一、審判でこのような能天気な理由付けがなされていたら抗告理由に私は使わせていただきます。
ビデオの内容の説明を続けます。
小学校高学年になるとどちらの親の気持ちもわかるためどちらにも気を使って板挟みになり辛い気持ちになっているということも説明されています。
そして、板挟みになることを避けるためにどちらか一方の親の肩を持つような極端な言動をすることがあるとまではっきり説明しているのです。
子どもは親に気を使うわけです。それにも関わらず、子どもの言葉を表面的にとらえて能天気な、つまり、ものを考えない結論を出してはならないと最高裁判所は考えているわけです。
また、動画は良い子にしていると両親が仲直りするのではないかと無理をして良い子にふるまうことがあるということを指摘しています。
これはよく見られる現象で勉強を頑張ったり、習い事を頑張ったり無理をする子どもたちを学校現場でもたくさん見ているそうです。
小学校低学年までは自発的に無理をする子はほかにあまりいないため無理をすればするほど成績は上がります。しかし、小学校高学年から中学年にかけてになると無理して頑張るだけでは成績はついてきません。自分にかかる歪んだ期待の大きさと、成績という現実とのギャップに子どもは苦しみます。
学校や習い事の成績がいつしか子どもにとっては自分をささえる唯一の道具になっていますから成績が頭打ちすることは精神的な打撃になるようです。
自分が無理をしないでありのままにいても尊重されるべきだという発想は、子どもには持てません。保健室登校や不登校につながる事例があるようです。
まさかとは思いますが、調査官調査や審判書などで子どもがテストでよい点数を取っているから子どもに問題が起きていないなんてことは言わないと思いますが、もし、万が一そのようなことがあれば最高裁の考え方とは全く違うということを教えてあげなければなりません。
次の大きなまとまりは<子どもを両親の争いに巻き込まないために>ですポイントとしては「心の状態を知る」「子どもへの接し方」「話し合う内容と心がけること」が挙げられています
心の状態を知るとは、親自身が自分の心の状態を知るべきだということなのだそうです。離婚の問題はこれまでになかった強いストレスを受けるので、相手の言動を実際よりも悪くとらえてしまうときちんと説明されています。
これは、とても基本的なことなのですが、これまで家裁実務では、あまり取り上げられてきませんでした。
当事者が感じたことを、すべて事実だというような扱いがされることがたびたびありました。裏付けもないのに暴力があった等と言う認定はないと信じたいのですが、それに似たようなことはたくさん目にしています。事実でないことで不利な決定を受けた方は防ぎようのない攻撃を受けることになります。
ビデオでは悲嘆反応にまで言及しています。
次は子どもへの接し方です。
子どもに親の争いを見せないということが一番に出てきます。これはとても大切なことです。これは同居時に子どもの前で喧嘩しないということが勿論一番ですが、別居した後でも、子どもの前で、相手の悪口を言うとか、別居してよかったとかそういう話をするということも同じだと思います。
昔は、親の親、子どもから見れば祖父母は相手の悪口を子どもの前で言うことを良しとしない風潮がありましたが、今の祖父母は、子どもの前で平気でその子どもの血を分けた親の悪口を言っているという嘆かわしい世の中に日本はなっているようです。
嘘でも良いから相手の良いところだけを子どもには知らせるべきでそれをする能力がないならせめて悪口を言わないということをするべきです。
子どもの心に目をくばり、逆に子どもに悩みの相談に乗ってもらってはいけないということが言われています。
また、一方の親に気を使って一方の親が悪くない、相手が悪い等と子どもが言ったらそれをやめさせるべきであることが情感豊かに描かれています。
これからの生活の見通しを述べることが子どもの気持ちの安定のためには有効であることが述べられています。
そうであるならば子どもに何らの説明もしないで転校を余儀なくする引っ越しを突然することはこの観点からも子どもの心に負担が生じることだということが導かれます。
子の福祉にとって有害なことのカタログのようなビデオです。大いに活用できると思います。もっとも、相手を攻撃するために使うのではなく自戒のためのビデオなので念のため。最後は話し合う内容と心がけることについてです。子どものために何を話し、何を決めるのかということをまず考えなくてはならないと言っています。
ところが、家庭裁判所では、子どもの利益があまり話題にならないように感じています。親同士が、私は私はということで争っていることが多いのではないでしょうか。
子どもという一つの人格が無視されているということに警鐘を鳴らす内容となっています。
離婚となった場合は、当然に面会交流をするという流れにもなっています。これは全て子どもの利益であり、親ならば最優先しなければならないとビデオは訴えているように思われます。
ところが、地方の裁判所では、まだまだ面会交流を当然行うべきだという流れにはならず、同居親の葛藤が高ければ実施できないとか間接面会交流にしなさいと言ってきたりするところもあります。最高裁の考え方とまるっきり違うわけです。
また、間接面会交流の意味ですが子どもが読むことすら見通しがないにもかかわらずに別居親が一方的に手紙などを出してそれで終わりという無責任な方法を面会交流だと勘違いしている関係者も多くいます。交流ですらないと思います。
ビデオでは、面会交流は、離れて暮らす親も自分に愛情を注いでくれると実感することが子どもにとって大切だと言っています。
届かない手紙を出すことは面会交流とは言いません。子どもが読まないから仕方がない等と言う人もいますが、子どもは気を使って読まないのです。
養育費についても子どもが愛情を実感するという利益があることを述べています。
最後に子どもの「将来のために」何が必要かという視点が必要だと力説している要に私は感じました。
大事なことは、子どもの場合今だけでなく子どもは成長する存在であり、それに応じた配慮が必要だと説得的に述べています。
家庭裁判所の話し合いも当然にその視点で行わなければならないはずです。
年代別の動画も基本的には今述べてきた内容を子どもの年齢に応じた発達段階に合わせて丁寧に解説されています。ポイントと対応方法をきちんと整理してわかりやすいです。またどの子役の方々も演技が素晴らしい。
ご自分のお子さんの年齢の部分は私がこのブログで抜き書きしたように抜き書きして手元に置いて調停に臨むべきです。
家事調停は、事件ごとにいろいろな顔があります。必ずしも法律で画一的に調停の流れを決めることはできません。それはそうでしょう。
しかし、現実の家事調停の多くが、何らよるべき基準を設けず、調停委員や、裁判官、調査官の個人的考えに従ってフリーハンドで行われているのではないかという危機感があります。
最大の問題は子どもの将来が全く考えられていないということです。
家裁月報や「子どものための法律と実務」安倍嘉人、西岡清一郎監修(日本加除出版社)等、勉強する文献はたくさんありますが、その成果がコンセンサスになっていないのではないかと感じてなりません。
今回おそらく建前としては一般国民を対象として最高裁は動画配信を行ったのでしょう。しかし、一般国民に向けてこのような内容の動画を作るということは、ほかならぬ裁判所は、この動画と同じ考えで、家裁の手続きを行うということを宣言したに等しいと考えるべきだと思います。
全ての子どもの事件の当事者の皆さんが、この動画をよく観て、内容を自分のものにするべきです。
もし家庭裁判所がこの動画に反する行動をとったならば動画の内容を教えるべきだと思います。そして動画を見ることを提案してください。
この先、長い目で見れば子どもの権利はますます拡充していくことと思います。そうなれば、この動画でも不十分な点が感じられるかもしれません。
しかし、現時点においてはこれは強力な武器です。それだけこの動画とは異なる考えで実務は動いてしまっているということです。
おそらく最高裁の真意は一般国民に向けてというよりも家事実務の在り方に対して動画という形であるべき形を示したのではないかと考えたくなっている次第です。
いずれも、このような動画は、最高裁判所が配信しているものです。最高裁判所は私たちの味方だということに確信を持つべきだと思います。
《感想》『有名リベラル論客を多数提訴〜「実子誘拐」を巡る注目の裁判 - 牧野 のぞみ』
出典:令和2年3月27日 ishiimasa's blog
《感想》『有名リベラル論客を多数提訴〜「実子誘拐」を巡る注目の裁判 - 牧野 のぞみ』
ライター ユニークフェイス 石井政之
当該の記事をKindleで購入して読みました。 冤罪DVはゼロだった、という主張を書いている有識者がいたのは、新鮮な驚き。 無理な発言をしていると訴えられる、ということが分かっていなかったようだ。
虚偽DVによる家庭崩壊。被害者は夫が多い、という構造的な社会問題については、さまざまな人が取材して記事にしていく必要があると思う。これは少子化、ひとり親の貧困化の強力なトリガーになっている。リベラルな人たちがつくりあげた、「夫のDV。妻の被害」という構造は、不正確であることは間違いない。
仮定として。10年くらいかけて出来上がった「夫のDV。妻の被害。悪いのは100パーセント男だ」という虚構の世論は、10年くらい時間をかけないと、虚構の世論は一層できない、と私は想像する。長丁場になる。
日本のフェミニストのダークサイド。それは「夫のDV。妻の被害。悪いのは100パーセント男だ」という虚構を、さまざまな関係者に信じさせたことだろう。この虚構で、多くの家庭がこわれて、少子化と貧困化が進んだ。のこるのは生活保護や政府の優遇をもとめる、自立心無きひとり親と、そのストレスのなかで生きる子どもたち。
「夫のDV。妻の被害。悪いのは100パーセント男だ」という虚構。嘘つきが多い世界に接すると、燃えますね。若手の記者には、ここに日本の家族制度の闇があり、読者のニーズがある、と熱く語りたいですね。そういう勉強会もやっていきたい。#共同親権研究会
冤罪DVはゼロでした。という情報は、虚構。安倍総理の虚偽答弁と同じレベル。日本のフェミニストに自浄作用はないのだろうか。
バカも休み休み言え。虚偽DVも休み休み言え。
100パーセントのバカはいない。
100パーセントの離婚男がDVをしているわけがない。
追記。「月刊Hanada」 は、ネトウヨ雑誌。この雑誌の編集方針は容認できない。しかし、読みたい記事があるときは買う。
当該記事の英文は、以下のリンクで公開。
https://hanada-plus.jp/articles/311
有名リベラル論客を多数提訴〜「実子誘拐」を巡る注目の裁判 --- 牧野 のぞみ
出典:令和2年3月26日 アゴラ
有名リベラル論客を多数提訴〜「実子誘拐」を巡る注目の裁判 - 牧野 のぞみ
■日本では知られていない「実子誘拐」
日本人による「実子誘拐ビジネス」は、日本ではあまり報道されないが、実はそれが原因で諸外国から「日本は子どもの拉致国家だ」と繰り返し非難されるほどの大きな外交問題になっている。
では、外交問題にまでなっている「実子誘拐」とは何なのか。
ある日、家に帰ってくると子どもが突然いなくなっている。そして、その子どもを連れ去ったのは、もう一方の親である。欧米などの先進国の大半では、これは誘拐罪に該当する重罪である。
しかし日本においては、実子誘拐は罪に問われず日常的に行われている。突然愛するわが子を奪われ、子どもに会えなくなり養育費だけを支払い続けることで、精神的、経済的に追い込まれ自殺する親も後を絶たない。
■実子連れ去り被害の男性が訴えた注目の裁判
そのような実子誘拐に関連して、注目すべき民事訴訟が始まろうとしている。
この訴訟は、実子を離婚した元妻に連れ去られた男性Aさん(仮名)が、裁判所で別に争った自身の離婚訴訟に関連し「妻に暴力をふるうDV夫に仕立て上げられ名誉を傷つけられた」として39人を相手に民事訴訟を起こした。訴状ではこの行為を「集団リンチ」と非難している。
被告人が誰なのかは、26日発売の月刊『Hanada』5月号で主だった面々を実名で書いているが、39人の中には、「人権派」弁護士の大物をはじめとして、保守系メディアから「リベラル系論客」としてよく批判される著名人も多数含まれている。
たとえば、弁護士では、元千葉県弁護士会会長も歴任したK氏(女性)、A氏の離婚訴訟の元担当裁判官で、A氏敗訴の判決を下し、退官後はA氏の妻の代理人の弁護士事務所に所属しているY氏(男性)がいる。
社会起業家では、厚生労働省の「イクメン(育 MEN)プロジェクト推進委員会」委員をつとめるK氏(男性)や、シングルマザーを支援し、養育費の取立て運動を行っているC氏(女性)などがメディアでしばしば登場する人も。ほかにも安倍政権の憲法解釈などをマスコミでたびたび批判し、民放報道番組のコメンテーターを務めたこともある若手の憲法学者など、錚々たる者が並ぶ。
■男性は「人権派」の虎の尾を踏んだ?
なぜ、原告のA氏は39人もの者から「集団リンチ」を受けたと主張しているのか。それは「実子誘拐」をあたかもビジネスのように生業とする弁護士らの虎の尾を踏んだからだと見ているからのようだ。
この問題を取材して弁護士の世界の「常識」だとわかったが、弁護士が一方の親に子どもを誘拐するようそそのかし裁判を提起させれば、裁判官が「継続性の原則」(別居した夫婦の間の子どもが、一定期間一方の親と同居し、安定した生活を送っている場合は、その現状維持が子どもの利益となるという考え方)に基づき親権を与える段取りとなっている。
勝訴した弁護士は、親権を奪われた親から奪い取った子どもの養育費の一部を「成功報酬」として懐に入れる。取材を進めると、弁護士側勝訴の判決を下した裁判官の中には、そのお礼として退官後に弁護士事務所に天下りすることもあるという信じがたい話もあった。
なお、今回の原告、A氏の離婚訴訟の1審判決は「継続性の原則」を採用しない画期的なものであった。この判決が最高裁で確定し先例となれば、子どもたちが両親と離婚後も普通に会える社会に変わることが予想された。それは子どもの利益に資するものである。
しかし、「実子誘拐ビジネス」に関わる人たちにとって、実子誘拐をした親が裁判で親権をとれないことになれば、ビジネスは壊滅的ダメージを受け多大な不利益を被る。それは断じて許すわけにはいかないわけだ。
■国連子どもの権利委が対日勧告:新たな流れ
これはあくまでA氏側の主張だが、彼らが共謀し、A氏を二審及び最高裁で敗訴させるため、また、一審判決が不当なものであるとの印象操作をするため、A氏をDV夫に仕立て上げ社会的に抹殺しようとした、と訴状で提起している。
もしかしたら、A氏の新たな訴訟が始まれば、被告の属性もあって「保守VSリベラル」的なイデオロギー論争になってしまいかねないが、本質的な問題から目を背けてはなるまい。
冒頭で「外交問題」と書いたが、実子の連れ去りは「親権」と密接に絡んでいる。国連子どもの権利委員会は昨年2月、日本政府に対し、共同親権を認めるために、離婚後の親子関係に関する法律を改正するよう勧告した。
今後の動きを占う上で、いま何が起きているか。詳細については月刊『Hanada』5月号をご覧いただきたい。
子供を連れ去って不倫男と暮らす妻に、毎月10万円を払う不条理
出典:令和2年3月26日 PRESIDENT Online
子供を連れ去って不倫男と暮らす妻に、毎月10万円を払う不条理
■「妻の不倫」で離婚しても、夫は親権を取れない
日本では離婚した場合、子供の親権は両親のどちらかに移る。親権が争われた場合、圧倒的に有利なのは女性だ。厚労省の統計によれば、親権者が母親となるケースは8割に上る。
個別のケースを調べると離婚事由が妻側にあっても、親権者が母親となるケースが多い。例えば、妻が不倫をして離婚することになっても、夫は親権を取れない恐れが強いのだ。
田村仁志さん(44=仮名)のケースを紹介しよう。仁志さんは都内の有名私大を卒業後に、一部上場の大手電子機器系メーカーに就職。現在の年収は約800万円のサラリーマンだ。
9歳下の妻・かな子さんとは、12年に友人の紹介で知り合い、翌年に結婚。二人の子宝(現在は長男5歳と長女3歳)に恵まれた。しかし、妻が職場に復帰する頃になると、子供の育児をめぐって、夫婦関係は悪化していった。
■妻はスマホに「今度いつ遊べる? ? 」というLINEの通知が
「私は子供たちに規則正しい生活のリズムを付けて欲しかったのですが、妻は食事を与える時間や子供たちを寝かしつける時間などがバラバラでした。食事内容も、極力、手料理を食べさせたかったのですが、妻は週2~3回はコンビニやファストフード店で、家でもレトルトや冷凍食品で、手料理はほとんどありませんでした」(仁志さん)
現在行われている離婚調停で、妻側はコンビニやファストフード店の利用は2週間に1度で、ほぼ毎日手料理を食べさせていた、と主張しているという。どちらの主張が正しいのか定かではないが、夫婦関係が悪化していたことは間違いなかった。
仁志さんが妻の不審な行動が気になり始めたのは、17年の夏頃だった。家族で遊園地に出かけた際に、妻が頻繁にスマホを操作していた。その後、妻はスマホを肌身離さず持ち歩くようになり、仁志さんは「おかしい」と感じ始めた。あるとき、妻のスマホに着信がきたタイミングで、画面を見た。男性と思しき名前の送信者から「今度いつ遊べる? ? 」というLINEのメッセージがきていたという。
「探偵会社に妻の素行調査を依頼しました。結果は黒。妻が男のマンションに出入りする姿がバッチリ映っている写真を探偵から見せられ、どこか予感はしていたのですが、やはりショックでした」(仁志さん)
■長男と遊園地に行くはずの日に不倫男と会っていた
すぐに、仁志さんは妻を問いただしたというが、妻は宿泊の事実は認めたものの、不貞行為は否定。だが、その後の探偵会社の調査により、不倫相手が妻の職場の上司であることがわかった。男に損害賠償を請求すると、男は不貞行為を認め、100万円の和解金を提示してきたという。
「妻が不倫していたことは大きなショックでしたが、妻はまだ若いですし、一度くらいは大目にみようと思ったんです。ただ、妻が不倫男と会っていた日は、長男と遊園地に行くはずの日だったんです。妻は女友達と旅行にいくと言っていましたが、男と会っていた。子供たちとの行事より、不倫相手を優先したってことじゃないですか。それがどうしても許せませんでした」
しかし、子供のことを考えると、仁志さんはなかなか離婚へ向けて踏み出すことができなかったという。
「子供たちは夫婦仲のいい、あたたかい家庭で育てたかった。その一心で、不倫の事実を受け入れ、なんとか妻との関係改善を試みました。しかし、妻とやり直さなきゃと頭ではわかっていても、気持ちはついていかなかった。妻に対して感情的になってしまうこともあり、妻も不倫をやめるそぶりがまったくなく、関係改善には向かいませんでした」(仁志さん)
■「妻と子供が行方不明」と相談したが、警察は取り合わず
不倫発覚から5カ月後、予想外のことが起きた。妻が無断で子供を連れて別居を開始したのだ。その当時、お互い冷静になるため、仁志さんは週に2~3日は自身の実家に泊まっていた。妻が子供を連れだしたのは、そんな日だった。
「後で、マンションの防犯カメラの映像を確認すると、深夜2時頃に妻の母と、妻の兄がトラックでやってきて、自宅から家財道具を搬出。妻は寝ている子供たちを抱きかかえて、家から出ていく姿が確認できました」(仁志さん)
妻は転居先を隠し、仁志さんは子供たちと会えない状況となった。子供たちも突然、父親と会えなくなり、長男は保育園を転園せざるを得なくなったという。仁志さんはすぐさま警察に駆け込み、妻と子供が行方不明になったと相談したが取り合ってくれず、途方に暮れているところに妻の弁護士から通知が届いた。
■子供たちの養育費と妻の生活費として毎月10万円を支払う
そこには、離婚調停、別居中の生活費である婚姻費用調停を申立てる旨と、妻、子供に接近禁止を求めると書かれていた。仁志さんは弁護士に相談し、家庭裁判所に子供の引き渡し審判と、子の監護者指定審判を申し立てた。
仁志さんは子供に自由に会えなくなってしまったが子供たちの養育費と妻の生活費として毎月10万円を支払っている。
妻側に不貞行為があったのだから、仁志さんは「当然、親権はとれる」と考えていた。しかし、実際は違う。離婚問題に詳しいレイ法律事務所の松下真由美弁護士がこう解説する。
「妻が子を連れて出ていって時間も経っているとなると、仁志さんが親権を取れる可能性は5%もないと思います。家庭裁判所は、よき妻であることと、よき母であることは別として考え、親権者を決める際に子の福祉を一番重要視します。妻が不貞行為をしたからといって、ただちに男性側が監護権、親権を獲得できるわけではありません。子供に対する監護実績や監護能力等を比較し、父母のどちらと生活することが子の福祉に資するかという点で判断をします。つまり、夫と妻のどちらが、より、子供たちの世話をしていたか、また、今後世話をできるかということですね」
■なぜ「連れ去り勝ち」が横行しているのか
仁志さんは妻と同居中に、子供のお風呂、歯磨き、寝かしつけや、妻が仕事の日は一日、面倒を見るなど育児にも積極的に参加していたが、今回のケースではさらにもう一つ、妻側が有利な事情があるという。
「妻が現に子供と生活している点です。子供の環境を無理に変えることは、子供にも負担がかかります。そのため、家庭裁判所は、現在の子供の監護状況に問題がなければ、現に子供と同居している親を親権者に指定する傾向が強いんです。調停や裁判が長引けば長引くほど、子供は現在の環境になじんでいき、妻側が有利となってしまいます。今回の事案は、妻側に育児放棄や虐待のような事実がない限り、仁志さんが親権を獲得するのは難しいかもしれません」(松下真由美弁護士)
つまり、親権争いになった際、自分が不利になると思ったら、子供を連れ去り、監護実績を積み重ねる。そして、調停、裁判にできる限り長い時間をかければ、子供が環境に馴染んでいると認められ、親権獲得に有利な状況となりうるのだ。これは男性が子供を連れ去った場合も同じ。このため“連れ去り勝ち”が横行しているといわれる。
■妻の「転居先」は、不倫男の自宅の近所だった
「また、今回の事案はお子さんがまだ5歳と3歳と幼い。家庭裁判所は、子どもが幼いと、母親の必要性を優先する傾向があります。お子さんの意思も大切ですが、幼いうちは明確に意思表示もできませんので、結局母親が優先されることが多いといえるでしょう。私自身、男性側の代理人として裁判所に立つ機会もありますが、正直なところ、母性優先という結論ありきの判決なのではないかと、悔しい思いをしたこともあります」(松下真由美弁護士)
仁志さんは探偵の調査により妻の転居先を知り、さらに打ちのめされることになる。妻の転居先は不倫男の自宅の近所だったのだ。そこで不倫相手に、示談金の交渉と子供への接触禁止を要求したが、男は既に仁志さんの妻の家に出入りしており、それには応じられないとの返答だった。
「私は、自分の愛すべき子供たちに会うために、様々な制限がありますし、会いたいときに会えるわけではありません。それなのに、不倫男は子供たちが住むアパートに好きに出入りしている。こんなことが許されるなんて……」
「私は大人ですから感情を抑えられます。でも子供たちは保育園と自宅、近くの公園という狭い世界を突然奪われ、知らない環境で生活せざるを得なくなっています。さらに見ず知らずの男と一緒に生活する、となれば恐怖でしかない。昨今の『連れ子虐待』のニュースを見るたびに、気が気ではありません」
■「妻の機嫌を損なえば子供に会えなくなると思うと…」
今後、妻と離婚が成立し、仁志さんが親権を失えば、不倫男が子供たちと養子縁組をすることを仁志さんは拒否できない。仁志さんに残された権利は、子供との面会交流と妻の不貞行為に対する慰謝料の請求だ。しかし、その権利も声高に主張ができない事情があるという。
「妻は子供を連れ去ったあと、私の渡す生活費で不倫相手と生活し、たまに面会交流で子供たちと会えるという飴をちらつかせて、離婚を迫ってくる。面会交流に関して調停の場でルールが決まっていない現状では子供に会えるかどうかは妻の気分次第です」
「妻の機嫌を損なえば子供に会えなくなると思うと、こちらから慰謝料など請求できるはずもありませんし、面会交流に関しても妻の事情を考慮して主張せざるをえません。まるで子供を人質に取られたみたいです」
■突然1カ月に2時間しか子供に会えなくなる別居親の苦痛
ひとり親家庭の大多数が貧困に陥っていることから、国や自治体はひとり親家庭の支援に躍起になっている。子供の福祉のために、養育費の不払いを解消していくことが必須であることは間違いない。
しかし、その一方で、仁志さんのように、子供の親権を取りたくても取れない別居親が大勢いる。家庭裁判所によれば、子供と離れて暮らす別居親たちが子供に会えるのは、1カ月に1回2時間が6割だという。毎日一緒に生活をしていた子供たちと突然、1カ月に2時間しか会えなくなる別居親の苦痛は計り知れない。
親権は母親有利。その根底には、子供の養育には母親との関りが重要だとする母性神話がある。しかし、時代は変わり、男女ともに仕事をし、ともに育児をするという家庭も増えた。それにもかかわらず、いまだに家庭裁判所は“育児は女性の仕事”とし、親権争いの場で母親を優遇している。
仁志さんのように、「妻が不倫し、家庭を顧みなかった」という状況でも、子供の親権は取れず、子供に会えるのは1カ月に2時間となる恐れが強い。このような現状で、強制力のある養育費の取り立て方法だけが決まっていっていいのだろうか。養育費の支払い義務を負う、別居親の声に耳を傾ける必要があるのではないだろうか。
松本 朔太郎(まつもと・さくたろう)
フリーライター
自身の離婚経験を機に親子断絶、連れ去り問題などの家族問題をテーマに取材活動を行う。ツイッター:@korokoropo
離婚後の共同親権、是非は 法制化を望む声の一方で慎重論も
出典:令和2年3月20日 西日本新聞
離婚後も父母の両方が子どもの親権を持つ「共同親権」制度を巡る議論が本格化している。日本では離婚後は父母のどちらかを親権者とする「単独親権」を採用する中、親権を持たない親たちが「子育てに関われない」と共同親権の実現を求める一方で、ひとり親や識者からは慎重な声も聞かれる。国も制度の在り方について検討を始めた。
「離婚で子どもたちと会えなくなるなんて考えもしなかった」。12日、東京地裁の法廷で柳原賢さん(57)=富山県=は訴えた。柳原さんら男女12人は、民法の単独親権制度は、子育てする権利を侵害し、幸福追求権などを定めた憲法に違反しているとして、昨年11月、国に損害賠償を求める訴訟を起こした。
妻と離婚し、当時小学生と園児の娘2人と離れて暮らし12年。調停で年3回の面会交流が決まったものの、守られたことはない。遠くから見るだけでも、と子どもの学校の学習発表会に足を運んだ時は、元妻と教師にすぐ追い出された。
柳原さんは「同じように苦しむ人はたくさんいる。離婚は夫婦の別れであって、親子の別れではない」と制度の不備を訴える。一方、国側は答弁書で原告の子育て機会が阻まれているのは「(同居する)親の意向によるものと思われ、国に賠償請求する根拠が不明」と反論している。
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本紙の「あなたの特命取材班」にも、共同親権を求める親たちから声が届いている。妻と別居中の大分県の男性(35)は2年前、仕事を終えて帰宅すると、家具と共に妻と子ども2人が消えていた。
自身の預金口座から多額を引き出され、妻の不貞行為も判明。調停で子の引き渡しや、監護者の指定を求めたが認められず、月に1回の面会交流だけが心の支えだ。「子の養育環境が変わるのは良くないと、同居親に親権が認められる場合が多い。子を連れ去った方が勝つという状況を国が追認するのはおかしい」。男性は2月26日、「連れ去り」の規制を求めて、同じ状況の親13人と東京地裁に国家賠償を求め提訴した。
日本も加盟する「ハーグ条約」は、片方の親が16歳未満の子を国外に連れ去った場合、もう一方の親の求めに応じて原則、元の居住国へ引き渡さなければならない。ただ、国内の連れ去りは対象外だ。原告側は、子を育てる権利を侵害され、子の人権も侵害していると訴えている。
原告代理人の作花知志弁護士は「共同親権を採用する欧米では、連れ去りにペナルティーが課され、親権争いで不利になる。国内法を整備してこなかった国の責任を問いたい」と話す。
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民法は、離婚時に親子の面会交流を取り決めると定めるが、強制力はない。厚生労働省の2016年度調査では、別居する親と定期的に面会しているのは母子家庭で29・8%、父子家庭で45・5%に過ぎない。
共働き世帯が増え、男性の育児参加が進む中、離婚後も子育てに関わりたいと望む親は増えている。離婚件数は減少しているのに対し、監護者指定や面会交流、子の引き渡しを求める調停・審判は、いずれもこの10年間で倍増している。
海外では欧米を中心に、離婚後も共同で養育する国が主流だ。早稲田大の棚村政行教授(家族法)によると、米カリフォルニア州が1979年に「共同監護」を導入し、全米に拡大。90年代からは「子どもの権利」として父母双方と関わり続けることを尊重する風潮が世界的に広まった。
昨年2月には国連の「子どもの権利委員会」が離婚後の共同養育を認めるよう日本に勧告。法務省は11月に有識者による研究会を立ち上げ、共同親権の是非や法制度の議論を始めた。
棚村教授は「離婚後も両親が共同で責任を持つという考え方は大切」としつつも、共同親権の導入は慎重にすべきだと主張する。裁判所が全ての離婚に関わり、DVや児童虐待への対策も講じている欧米と異なり、紙一枚で協議離婚できる日本では対策が不十分と考えるからだ。「親ではなく子の権利を最優先と法律に明記し、離婚後の養育計画に公的機関が介入する仕組みを整えるなど、まずは相談、支援体制を充実させる必要がある」と話している。 (新西ましほ)
単独親権制度 違憲訴訟始まる
出典:令和2年3月13日 日本経済新聞
離婚すると父母の一方しか子どもの親権を持てない単独親権制度は、法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法の規定に反するとして、8都道府県の男女12人が国に総額1200万円の賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が12日、東京地裁(下沢良太裁判長)であり、国は請求棄却を求めた。原告側は「子育ての権利を奪われた」と意見陳述した。
国は答弁書で「仮に権利侵害があるとしても、原因は他方親の意向によるもので、国に賠償を求める根拠は不明だ」と反論した。
離婚後「子どもと会えない」母親の悲痛 単独親権が壁に?
出典:令和2年3月9日 信濃毎日新聞
「子どもと最後に会えたのは1年半以上前です」。県内の30代女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に悲痛な声が届いた。離婚後、面会できることを条件に息子2人の親権を元夫に譲ったが、元夫の意向次第で会えないことが多くなったという。民法は、離婚後に一方の親にしか親権を認めない単独親権制度を採り、女性と同様のケースは多数ある。「共同親権」を求める訴訟も起きており、国も導入の是非を議論している。(奥川瑞己)
女性は2003年に県外で男性と結婚し、息子2人を授かった。だが、元夫と折り合いがつかなくなり、長男が6歳、次男が3歳だった10年夏、離婚を切り出した。元夫は息子2人と出ていった。
家庭裁判所での調停の末、同年12月に離婚が成立。当初は「面会交流」という形で月1、2回、自宅や実家などで息子たちに会うことができた。ただ、14年8月に女性に交際相手ができたことを知ると、元夫は「もう会わなくていいだろう」と言った。
「(近くにいても)会えないのだから」。女性は身を切られる思いを振り切るように引っ越しを決意し、県内に移り住んだ。
それでも会いたいという気持ちは止められなかった。元夫に知られないよう学校帰りの息子たちに会いに行った。5年前には長男の修学旅行先を訪ねた。この頃、密かに会っていることを元夫に知られ、面会を拒否されるように。それ以来、会えたのは18年7月の1度だけだ。
◇
この女性のようなケースで子どもに会えないのは「民法の単独親権に問題がある」。県内で双方が親権を持つ共同親権の実現を求める運動に取り組む、著述業の宗像充さん(44)=下伊那郡大鹿村=は訴える。民法は婚姻中は共同で親権を持ち、離婚後は一方を親権者にすると定める。親権を手放した親は子どもとの関係が断たれやすく、調停で面会交流の回数や時間を決めても、実際には会えなくなる傾向があるという。
宗像さんの場合、元妻が親権を持っている。娘との面会は月1回、4時間以内に制限された他、元妻の意向で会えない時期もあった。
◇
女性は離婚から間もなく10年。長男は高校1年、次男は中学1年になった。周囲からは「子どもを引き取れないのはひどい母親だからだ」「また産めばいい」と言われ、傷つくこともあった。
それでも女性を支えたのは、息子2人の言葉などを書き留めた「育児日記」と長男からもらったお守りがあったからだ。「母ちゃんの夢、いっつも見るよ」「母ちゃんのご飯が一番」。育児日記を読み返すと涙があふれる。お守りはかつて会いに行った際、長男が修学旅行のお土産としてそっと渡してくれた。「幸せを呼ぶ」と書かれている。
女性は支援団体や弁護士に相談し、昨年4月、面会を求める調停を家裁に申し立てた。調停中のため、女性の意向で元夫の話は聞けなかったが、元夫は「子どもが会いたくないと言っている」と主張し、協議が続いている。
◇
【審判・調停申し立て、県内も増加】
子どもとの面会交流を巡る審判や調停の申し立て件数は近年増えている。裁判所がまとめた司法統計によると、全国では2008年度の7281件が、18年度には1万4943件へと増加。県内も08年度の89件から18年度は2・6倍の233件になっている=グラフ。
早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、背景に単独親権への不満があると分析。「共働きで育児も共同で行う家庭が多くなり、離婚後も子どもに関わりたいと考える親が増えている」と指摘する。
昨年11月、宗像さんを含む8都道府県の父母12人は、単独親権は法の下の平等を定めた憲法に違反し、子どもと自由に会えない―などとして、国に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。第1回口頭弁論は3月12日の予定。
国も共同親権導入の是非について検討を始めた。法務省は昨年11月、弁護士や大学教授らの研究会を発足。議論は1年程度かかるとみられるが、海外の実態などを参考に報告書をまとめるという。
共同親権を巡っては、家庭内暴力(DV)が原因の離婚などで問題が生じるとして、慎重意見がある。だが、棚村教授は「両方の親の援助を受けることができるなど、離婚後も両親が共同で責任を持つ考え方は大事」と強調。欧米のように両者の間に入って支援する機関を設けることを提案している。
◇
[単独親権]
離婚後の子育てに関して、欧米では共同で養育するのが主流だが、日本は単独親権制度を採用している。民法819条は、父母が協議上の離婚をする時は一方を親権者と定めなければならない―と規定。単独親権は教育や住居、医療などの方針を決定しやすい利点もあるが、面会交流の回数や時間などは親権者側の意向が大きく働き、面会が実現していないケースもある。
「単独親権は違憲」の集団訴訟、国が争う姿勢 東京地裁で初弁論
出典:令和2年3月12日 産経新聞
「単独親権は違憲」の集団訴訟、国が争う姿勢 東京地裁で初弁論
離婚すると父母の一方しか子供の親権を持てない「単独親権」制度は法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法に違反し、子育てする権利を侵害しているとして、8都道府県の男女12人が国に計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が12日、東京地裁(下沢良太裁判長)であった。国は請求棄却を求め、争う姿勢を示した。
原告らは離婚で親権を失うなどして子供と別居している。訴訟発起人のフリーライター、宗像充さんが意見陳述し、子供と同居する親側の意向などで面会交流が実施されないケースがあると指摘。「親同士の関係と親子関係は別物。同じ境遇の親子は年々増えている」とし、制度に不備があると訴えた。
訴状によると、原告らは子育ての意思があるのに「司法に救済を求めても、わずかな面会交流しか認められない」などと主張。国側は答弁書で、原告側の養育機会が阻まれているのは「(同居する)親の意向によるものと思われ、国に賠償請求する根拠が不明」と反論している。
”じぃじ”と”ばぁば”に会いたい!連れ去りに遭った孫と祖父母が会えなくなる日本の悲劇。
出典:令和2年3月12日 Yahoo!ニュース
”じぃじ”と”ばぁば”に会いたい!連れ去りに遭った孫と祖父母が会えなくなる日本の悲劇。
明智カイト 『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
先日、事前に何の協議もなく妻によって5歳の息子を連れ去られる被害に遭った雷鳥風月さん(仮名・40代)の記事を書きました。
妻に子どもが連れ去られたら父親として認めない!?イクメン、男性育休を推進する日本社会の矛盾。(明智カイト)
日本では離婚すると単独親権のため片方の親が親権者となりますが、雷鳥風月さんの場合はまだ離婚が成立していないため、正確にはまだ親権者です。しかし、日本では「子どもを連れ去った側の親」の言いなりにならなければならない現実があります。
現在、雷鳥風月さんは離婚後共同親権の実現に取り組んでいます。最近の主な活動として街中でチラシを配布しているそうです。チラシには『”じぃじ”と”ばぁば”に会いたい!』と大きく書いてあるためか、街中で配ると高齢者が中心にチラシを受け取ってくれます。今回は、このチラシに込めた想いについて雷鳥風月さんにお聞きしました。
間接的面会交流って何?
間接的面会交流とは何らかの事情で、子どもと直接会う形での面会交流が認められない場合であっても、子どもと手紙のやり取りをしたり、誕生日等にプレゼントを贈ったり、監護親から定期的に写真等を送ってもらったりするなどの方法で子どもと交流をもつことです。
前回の記事でも雷鳥風月さんが子どもの誕生日にプレゼントを贈った話題について触れました。その後の調停で雷鳥風月さんは子どもとクリスマスの面会交流や、年末年始の宿泊面会交流をお願いしたのに却下されたといいます。結局、クリスマスのプレゼントは郵送のみ許可されています。
しかし、それでも雷鳥風月さんはまだ良いケースのようです。たとえば別居親から届けられた子どもへのプレゼントを同居親が受け取りを拒否して問答無用で捨ててしまったり、あるいは送り返すことがあるそうです。
両親の離婚で祖父母に会えない子どもたち
しかし、ここでも子どもを連れ去られた側の親には大きな壁が立ちはだかってきます。家庭裁判所の面会交流では祖父母が対象とされていません。そして、祖母にあたる雷鳥風月さんの母親もまた連れ去られた後はお孫さんと会えなくなりました。
子どもは祖母とはとても仲良しで「ばあちゃんに会いたい」と話しているそうです。しかし、お互いに会いたいと望んでいても今の日本では両者が会うことは叶わないのです。こうして祖母は唯一の孫と会えなくなったのです。
そしてこれは祖父母と孫だけの関係に留まりません。他の親族とも会えなくなってしまいます。たとえば祖父の13回忌、実兄の危篤や葬儀のときに別居している妻へどんなにお願いをしても、子どもに来てもらう事は叶いませんでした。
雷鳥風月さんには子どもが妻に連れ去られた後から祖母が急に老け込んでしまったように見えました。食事の量も減り、口数も減ってしまい、祖母に精神的負担を掛けてしまっている事を申し訳なく感じる日々を過ごしています。
「70歳を超えた母親にこんな思いをさせてしまっている事を心苦しく感じている、なんとか子ども(孫)と自由に会わせてあげたい。」と考えていましたが、母親から見れば雷鳥風月さんは昨年長男が亡くなり残された唯一の息子。その子どもが実の子どもに会えずに苦しんでいる姿を見る事も、それに対して自分が何も出来ないという事も母親をより苦しめてしまっているという事に今更ながら気付きました。
「現状、定期的に顔を出す事ぐらいしか出来ていない。なんとか親孝行をしたいという思いは募るが、子どもが自由に祖母に会える、別居親に自由に会える。この実現が唯一の親孝行」だと雷鳥風月さんは考えています。
そんな雷鳥風月さんの想いが通じたのか、祖母には孫の運動会を観る許可がでました。運動会中に子どもへ話し掛けることは「保育園の規則で出来ない」と言われたため、本当に観ているだけでしたが。
雷鳥風月さんは妻に対して子どもの事を最優先に考えて欲しいと願っています。たとえ夫婦が離婚をしてしまったとしても子どもの親である事には変わりがありません。子どもは両親から養育を受ける権利を持っています。子どもの事を考えお互いを尊重することができれば、みんながもっと幸せを感じる事が出来るはず。今のままでは誰も幸せになれません。
子どもが会いたいと希望しているにもかかわらず、別居親だけではなく親戚や祖父母にも会えないことは大人だけの都合で決められた話であり、それが子どもたちの犠牲の上に成り立っていることを私たちは忘れてはなりません。
離婚によって「親権」を奪い合うのは先進国で日本だけです。親権を失った側の祖父母には孫に会う法的な権利はありません。主要先進国では、離婚した夫婦が子どもたちに対して、お互いが保護者の責任を果たしていけるように「共同親権制度」を採用しています。
「離婚しても パパはパパ、ママはママ 」、子どもが大人のエゴに巻き込まれない様な親権制度が日本にも必要なのです。
離婚後の親子「面会交流」支援
出典:令和2年3月10日 読売新聞
離婚後、一緒に暮らしていない親子が定期的に接する「面会交流」への関心が高まっている。子どもの健やかな成長を助けるといった効用があり、支援の動きも広がる。離婚後も両親が子育てに関わる「共同養育」の第一歩といえる。(及川昭夫)
2月上旬、東京都内の飲食店で、離婚した親たちの交流会が開かれた。離れて暮らす我が子の共同養育をどうすれば実現できるかといった問題や悩みを語り合った。1年半前に離婚した男性会社員(33)は「なかなか会えないが、自分も父親として息子の養育に関わりたい」と打ち明けた。
別居中や離婚後の子育てに悩む人への助言や、面会交流支援を行う一般社団法人「りむすび」(東京)が主催した。悩みや経験を共有しながら、共同養育の前向きな環境を作ることが狙いだ。代表のしばはし聡子さんは「離婚しても子どもにとっては親は2人。子どもの気持ちを第一に考えることが、子育ての負担減にもつながる」と話す。
※以下、記事PDF参照。
離婚後の共同親権法制化「慎重な議論を」 法相に署名1万人
出典:令和2年2月28日 産経新聞
ひとり親世帯らの支援を行う「シングルマザーサポート団体全国協議会」は28日、離婚後も父母の両方が子供の親権を持つ「共同親権」の法制化に慎重な議論を求める1万708人分の署名と要望書を森雅子法相に提出した。
共同親権をめぐっては法務省が昨年、導入の是非などを議論する研究会を立ち上げている。署名はドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の被害者らでつくるグループが平成30年3月からインターネットを通じて募り、同協議会に託された。署名は現在も増え続けているという。
同協議会は共同親権について、子供やDV被害者の安全が確保されていない現状では法制化を進めないことを要望。さらに、DV防止法を改正し、保護命令対象に社会的・経済的DVを加えることなどを求めた。
同協議会の赤石千衣子代表は「DVや虐待の被害者は、加害者からの追跡におびえながら暮らしている」と説明。「声をあげることが困難だったり、危険だったりする人たちの声がまだまだ国会や関係省庁などに届いていない。そうした中で、共同親権導入に向けた議論が進んでいる」と危機感をあらわにした。
子どもの連れ去り、放置しないで 14人が国を提訴
出典:令和2年2月26日 朝日新聞
国内で別居した夫婦の子どもが一方の親に連れ去られた状態のまま放置されているのは法の未整備が原因だとして、子と離れて暮らす親ら14人が26日、計約150万円の国家賠償を求めて東京地裁に提訴した。
国境を越えた子の連れ去りについて引き渡しのルールを定めた「ハーグ条約」では、一方的に子が海外に連れ去られた場合、元の居住国へ引き渡すことを規定する。訴状では、日本もハーグ条約に加盟しているのに、「国内では同様の規定がない」と主張。原告の男女14人は「国内での子の連れ去りが放置されており、幸福追求権を定めた憲法13条に違反している」などとして、1人あたり11万円の支払いを国に求めている。
離婚が成立した夫婦間の子の引き渡しについては、ルールを明確化した改正民事執行法が今年4月に施行される。だが、原告側は離婚成立前の子の連れ去りについての法整備が不十分だと主張している。(新屋絵理)
夫婦の別居で「子の連れ去りが横行」「国は規制を怠った」当事者が集団提訴
出典:令和2年2月26日 弁護士ドットコム
夫婦の別居で「子の連れ去りが横行」「国は規制を怠った」当事者が集団提訴
子どものいる夫婦が、不和による別居をするにあたっては、どちらか一方が子どもとともに家を出ることが多い。子どもと離れて暮らす親14人が2月26日、子の「連れ去り」を防止する立法措置を国が怠り多大な精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、1人あたり11 万円の国家賠償を求めて集団提訴した。
原告らは、一方の親が、もう一方の親の同意を得ずに子どもを連れて別居することを「連れ去り」と表現している。提訴後、東京・霞が関で会見を開いた代理人の作花知志弁護士は「子どもの連れ去りが日本では横行しているが、それを防ぐための立法措置を講じていない国会の責任を問う裁判だ」と語った。
●「ハーグ条約に適合する国内法」を求める
訴状などによれば、原告は「配偶者に子を連れ去られた(引き離された)結果、憲法13条(幸福追求権、人格権)、憲法24条1項により保障されている(1)リプロダクティブ権(子を産み育てるかどうかを意思決定する権利)、(2)親権、(3)監護権の基本的人権を、それぞれ侵害された」としている。
日本が加盟する「ハーグ条約」は原則として、片方の親が16歳未満の子を国外に連れ去った場合、親の求めに応じて元の居住国へ引き渡す。ハーグ条約では国内については対象ではない。
作花弁護士は「この裁判を通して法律が変わり、ハーグ条約に適合する国内法になること。いわば親による子どもの誘拐、無法地帯のような状態をなくすことがこの裁判の最大の目的だ」と話した。
子の「連れ去り」規制を 引き離された親ら、国を集団提訴
出典:令和2年2月26日 産経新聞
夫婦の一方が相手に黙って子供と家を出る「連れ去り」を国が規制しないのは違法として、子供を連れ去られたとする日本籍や外国籍の男女14人が26日、国に計約150万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状によると、原告らは子を連れ去られて別居している間、裁判所が連れ去った親側に監護権を認めるなどしたため子供に会えなくなったと主張。会えても月1回数時間程度で、親が子を育てる権利を侵害されたほか、両親の監護を受ける権利がある子供側の利益も侵害したと訴えている。
ハーグ条約の規定では、一方の親が子を国外へ連れ出した場合、原則、元の居住国へ返還するとしているが、日本国内での連れ去りは対象にならない。訴状では、国に「国内で連れ去られた親の権利侵害も防ぐ義務がある」とも指摘する。
提訴後、会見した原告の女性(37)は、夫や夫の親に子供3人を引き離され監護権を失ったといい、「連れ去りが違法になれば子供の寂しさや悲しさを減らすことができ、自分も夫の支配から解放される。この事実を問題として受け止めてほしい」と涙を浮かべながら訴えた。
家事手続き上の親権争いでは、子供にとって育成環境が変わるのは不利益との考えから、同居する親を優先する「監護の継続性」に重きが置かれるとされる。一方で、無断で連れ去ったこと自体にペナルティーはなく、原告代理人の作花知志(さっか・ともし)弁護士は「完全な無法地帯で、連れ去った者勝ちの状態だ」と話した。
プレゼントを捨てられる〜単独親権の悲劇
出典:令和2年2月11日 Yahoo!ニュース
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■離婚に伴う「別居親」の悲劇
DVや児童虐待が注目されるため、離婚に伴う「別居親」の悲劇はそこに回収され見えにくくなる。我が国の年間の離婚件数は3組に1組で20万組強、そのなかでどれだけの「悲劇」が隠されているかはわからないが、DVや児童虐待よりは確実に多いはずだ。
こういきなり一般化してもなかなか想像できないが、DV・虐待等の特殊事例以外の、多くの離婚カップルに見られる「連れ去り別居」に伴う悲劇は、メディアではほぼ報じられていない。
それは、DV・虐待のハードな事例の影響もあるのだが、「離婚過程ではたいていは女性が弱者」という固定観念や、それとほぼ同じだが「離婚に至る原因はほぼ夫側が悪い」といったこれも固定観念が背景にあると思う。
現実は、妻側が泥沼離婚を避けるため一歩引いたのだが、日本の単独親権制度のリジッドな壁に阻まれ、日々涙するというパターンもある。また、妻側の祖父母と結託して元夫を排除し、妻-妻の父母という三角形が子を取り込んでいくパターンも珍しくない。
メディアでは報じられない+「離婚したのは別居された側が悪い」という根拠のない批判から、いわゆる別居親は社会的ポジションを失い、鬱に追い込まれる。
■自死を選んでしまった別居親
また、少数のDV等事例を根拠に発信していくNPOの存在感にそれら別居親は追い込まれている。そうしたNPOは、DV支援をする立場から目立ちにくい事例(DVはないが排斥された別居親)を「ないもの」として処理していく。
DV被害者たちを守るためにそれらNPOは極端な議論に走る。DV被害者を守れ、そして加害者を糾弾せよ。
そうした単純な議論が、多数の「潜在化される別居親」の声を隠していく。
僕はそうした別居親たちへの面談支援を時々行なうが、テレビや新聞という「オールドメディア」ではなかなか報じられない悲劇が面談中には溢れている。
別居親たちは涙している。それを具体的に書くとかなりの個人情報に触れるため表現が難しいのだが、とにかく泣いている。
そのことを、僕は知ってほしいと思う。
極端な事例では、送ったプレゼント(多くは誕生日プレゼント)を、義理の祖父母が子の目の前で破壊したり捨てる場合がある。
そこまでいかずとも、別居親から届けられたプレゼントを、問答無用で送り返すことはよくある行為だ。
こうした行為の積み重ねに衝撃を受け、自死を選んでしまったであろう別居親も少なからず存在するだろうが、メディアでは伝えられない。
■思い切って子にプレゼント(アナユキグッズとか)を送ってみたけれども、送り返されてしまった
こうなると、DVや虐待といった「派手な」事例にのみ着目するNPOは、それら派手な事例に引っ張られてしまう罪作りな存在なのかもしれない。
DVや虐待は当然防止する必要があり、そのためのそれらNPOの存在なのだろう。
けれども、それらの影に隠れて日々泣いている別居親たちが存在する。
自分は、DVも虐待も関係ない。けれども、離婚の理由にそれらを相手方に持ってこられ、真偽を確定されないうちに子を連れ去られてしまった。
そして、想像もしていなかった長期間、我が子と会うことができない。
この事態は何なのだろうか。
思い切って子にプレゼント(アナユキグッズとか)を送ってみたけれども、送り返されてしまった。
最悪の場合は、目の前で捨てられることもある。「紙」のプレゼントであれば、別居親の目の前で(そして子の目の前で)そのプレゼントは破棄あるいは破り捨てられる。
そんな権利は誰にある?
「連れ去ったもの」がその権利を持つのだろうか?
離婚後共同親権の導入検討=福岡大教授・小川富之氏
出典:令和2年2月11日 毎日新聞
法務省が離婚後の子育てに関する法制度を検討する研究会を設置した。論点の一つが親権=1=制度だ。日本は父母が離婚した場合、一方が親権を持つ「単独親権」制度だが、離婚後共同親権の導入に向けた国会議員の活動が活発化し、肯定的な報道も相次いでいる。問題はないのか。欧米の家族法制に詳しい福岡大・小川富之教授(家族法)に聞いた。【聞き手・中川聡子】
※以下、紙面参照
当該記事について、毎日新聞まで意見をお願いします。
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大きく後れを取る日本の養育費制度、海外では給与から天引き徴収も
出典:令和2年2月9日 マネーポストWEB
大きく後れを取る日本の養育費制度、海外では給与から天引き徴収も
「こんなひどい国は先進国で日本だけ」――これは、養育費の未払い問題に関する兵庫県明石市の泉房穂市長の発言だ。日本では母子家庭で養育費を受け取っている割合は24.3%に過ぎない現実がある(厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯等調査』より)。
だが、16年ぶりに最高裁判所が養育費算定表を改定、新算定表では増額傾向となり、また、自治体が回収代行や公文書作成費用補償などの支援開始を準備始めた例もある。明石市もそうだ。はたして日本は「ひどい」のか。確かにOECD(経済協力開発機構)の調べによると、日本のひとり親世帯の相対性貧困率は54.6%と、先進国の中では群を抜いて高い。
アメリカ、イギリス、オーストラリアでは養育費を給与から天引きして強制的に徴収するほか、フランスやスウェーデンでは国が立て替えている。韓国では、受取率が17%くらいしかなかったのが、2015年3月からアジア初の養育費確保の支援機関ができて、養育費回収率が33%程度にまで上がった。
滞納した場合は、不払い者の運転免許の停止やパスポートの停止など、厳しいペナルティーが待っている。なかでもアメリカでは不払いの親がピザを注文した場合、宅配されたピザの箱に顔写真付きで「養育費を払いなさい」と書かれた紙が貼られることもあり、韓国では「バッドファーザーズ」として、不払いの親の身元をネット公開することが“公益のため”とされているほど。
「養育費も面会交流も子供の権利だという意識が徹底されています。義務教育と同じ扱いで、国は無償で保障しなければならない。だからそこに税金を使ってもいいという国民の同意があるんです。面会交流施設も身近にあって、元夫婦が顔を合わせなくても安全に面会できます。
日本は、まだまだ離婚は当事者が悪い、という個人責任論が多い。養育費を支払うのは親の義務という教育と、それをサポートする国の体制づくりが必要だと思います」(離婚問題に詳しい榊原富士子弁護士)
ただ、諸外国と比較すると、離婚後も父母両方が子供に対する親権を持つ「共同親権」が導入されている点が、「単独親権」をとる日本とは大きく異なる。2019年11月22日には、親権を失った親が子供との交流を絶たれるのは違憲だとし、別居親らが東京地裁に集団訴訟を行った。
子の養育に必要なことは何か──少しずつではあるが、潮目は変わり始めている。
※女性セブン2020年2月13日号
子の連れ去り規制、「国は未整備」 当事者ら集団提訴へ
出典:令和2年2月9日 朝日新聞
国は子の連れ去りを規制する法を整備せず、立法義務を怠っている――。配偶者らに子を連れ去られたと訴える男女14人が近く、国に国家賠償を求める集団訴訟を東京地裁に起こす。国境を越えた連れ去りについて定めたハーグ条約に加盟しているのに、国内の連れ去りを「放置」しているのは違憲・違法だとし、国の責任を問うという。
ハーグ条約の定めでは、片方の親が一方的に16歳未満の子を国外に連れ去った場合、残された親の求めに応じ、原則として元の居住国へ引き渡す。ただ、国内の連れ去りについては条約の対象ではない。
原告は配偶者との間に未成年の子がいる日本籍や外国籍の14人。配偶者に子を連れ去られ、親権や監護権が侵害されていると主張。国内での一方的な連れ去りを禁止する法規定がなく、「子を産み育てる幸福追求権を保障した憲法13条に違反し、連れ去られた子の人権も侵害している」として、原告1人あたり11万円の支払いを求める。
※以下、紙面を参照ください。
円満離婚へADR助成 港区「子どもの健全な成長のため」
出典:令和2年2月1日 東京新聞
円満離婚へADR助成 港区「子どもの健全な成長のため」 [#v323e3ed]
港区は三十一日、親の離婚によって子どもの生活が不安定にならないよう、離婚前後の弁護士への相談費用や、裁判でなく第三者が関与して話し合いで解決する「裁判外紛争解決手続き(ADR)」を利用する際の費用の一部を助成する。
区によると、区内の離婚率は2・32%と二十三区では中央区に次いで二位。区に寄せられる家庭相談でも「約束した養育費を払ってくれない」などといった相談が目立つという。
離婚に際して夫婦が取り決めをする子どもの親権や養育費、面会などについて弁護士や、都内四カ所ある民間のADRを利用する際に費用の一部を補助。そのほか民間の保証会社を利用して養育費の保証契約を結ぶ際にも補助する。区役所で行う弁護士への相談は無料、ADRは初期費用と一回目までの相談費用の一部を助成する。
子どもの心理面での負担を最小限にするためにも、別居した親との定期的な面会も支援する。民間の支援機関が面会交流を支えており、初回相談料と十二回分の費用を支援する。
区の担当者は「子どもの健全な成長のため、ひとり親支援ネットワークを構築し情報提供したい」と話した。 (市川千晴)
東京都港区、離婚トラブルのADR費用を助成 20年度
出典:令和2年1月31日 日本経済新聞
東京都港区は31日、養育費不払いなどの離婚トラブルの解決を支援する事業を2020年度に始めると発表した。裁判外紛争解決手続き(ADR)の費用を一部助成するほか、中学生以下の子どもと別居する親との面会も手助けする。養育費の不払いなどが原因でひとり親世帯が経済困窮するのを防ぐとともに、子どもへの心理・経済的な負担をやわらげる。
ADRは裁判ではなく第三者を交えての話し合いで問題を解決する仕組み。申し立てと1回目の相談の費用を5万円まで助成する。同区によるとADRの費用助成は全国で初めてだ。
離婚の際には養育費の支払いや子どもとの面会などについて、夫婦間できちんと取り決めがされないまま別れるケースがある。ADRを通じて解決を促す。
ADRを使わず、養育費の不払い分の立て替えと離婚相手から回収する契約を保証会社と結ぶ場合にも、5万円を上限に助成する。
また、離婚後に別居している子どもとの面会のルールを決めている親を対象に、面会のコーディネートをする。親同士で取り決めをしていても何らかの事情で会えない場合があり、円滑な面会を支援する。
離婚を考えている人が弁護士に相談できる体制もつくる。同区は離婚に関する支援事業に20年度予算案で367万円を計上した。
「離婚国家」の親権は?
出典:令和2年1月26日 Yahoo!ニュース
田中俊英 一般社団法人officeドーナツトーク代表
■変な国
日本はやはり変な国で、その変な国をリードする霞が関も変な行政組織だ。
それは、ここ数日報道されている「養育費を行政予算で」という政治家や民間からの要望に前向きな法務省の姿を見てもわかる(離婚後の養育費不払い 国が立て替える制度導入を要望)。
当欄でも度々触れているように、養育費等の離婚後の補償問題を考える時、その「離婚」のかたちがポイントになる。
日本はそのかたちが「単独親権」であり、離婚後はどちらかの親に親権が偏ってしまう。
この単独親権国家は世界でも珍しく、「北朝鮮と日本だけ」はオーバーにしろ、G20のなかでの単独親権国家は、日本・インド・サウジアラビア・トルコ程度なのだそうだ(法務省も研究会立ち上げへ!離婚後の親権制度、日本ではどうあるべき?単独親権派と共同親権派が討論)。
養育費を考える時、離婚後の親のあり方をまずは考え尽くす、という態度が僕には当たり前のように思える。
夫婦は、その夫婦なりの理由があるとはいえ、とにかく離婚することになった。そうなった時、日本は「単独親権」に移行し、親権を奪われた親(父親が大半)は親としてのすべての権利を剥奪される。
この離婚に至るエピソードに、不倫やDV、児童虐待も含まれるため、我が国ではなんとなく「離婚したのなら親権がなくなってもしかたないだろう」という風潮が蔓延している。そうした風潮をもとに、離婚後単独親権のシステムは我が国にでは明治以来変わらない。
■『離婚国家」
離婚した方ならわかるだろうが(ちなみに僕もバツイチ)、その原因はなかなか一つに絞り込むことは難しい。法律情報サイトの調査によると、心理的暴力(ことばの暴力)も含んだ暴力に関する離婚原因は半数近くに及ぶ(妻からの離婚理由離婚原因ランキングと裁判で認められやすい離婚原因)。
けれどもこの調査は重複原因も認めているので、やはり離婚原因をひとつに絞り込むのは難しい。日本はすでに 3組のうち1組が離婚する「離婚国家」になっており、それが30%にまで登ってしまうと、もはや「結婚とはそもそも破綻するもの」といってよく、その原因に関して細かく分析しても仕方ないのかもしれない。
とにかく、結婚すると、その1/3は別れる。その原因はさまざまにしろ、別れる。中には激しいDVや虐待も含まれるが、それは福祉+警察案件だ。そのなかには事件化してしまう場合もあるだろうが、年間20万件の離婚数と比較すると少数案件だと思われる。
その場合は、他の事件と同じように警察案件化するしかない。親権云々を語るのとは別のレベルで、逮捕・送検・裁判というコースを辿るしかない。こうした特殊事例を元にして、「親権」問題(単独親権か共同親権か)を語るのは、議論のレベルが異なる(ちなみに僕は虐待犯罪も熟考している→ことばの苦しさ〜児童虐待死が迫ってくる)。
■カントと「親権」
だから、まずは「親権」問題が先にある。単独親権派は、上に書いた警察案件をまずは心配している。DVや虐待の支援を行なうNPOや弁護士からすると当たり前かもしれない。
けれどもそれは、親権という「基礎的レベル」を議論する場所とは別の次元にある。暴力と警察案件は、親権という基礎的レベルと同じレベルで語ることはできない。
親権という「基礎」「土台」は、まずはそれ自体で語り考え結論づける必要がある。それは、その土台の「上」で生じるであろうさまざまな出来事に影響されてはいけない。
それはまるで、カントが『純粋理性批判』や『実践理性批判』で基礎づけした理性や道徳と同じだ。時間と空間や絶対道徳は、すべての問題の「先」にある。すべてのものを基礎付けるものとしてそれらは存在している。家族関係・問題における「親権」とは、カントの時空や道徳と同じ位置にある。
だから、「養育費」は、そうした基礎的問題を位置づけたあとに現れる事柄なのだ。家族や親権問題でいうと、親権を「共同親権」か「単独親権」か、その土台と基礎を位置づけたあとにやっと現れる問題である。
この「順番」が、弁護士やNPOたちにはわからない。目先の訴えに気軽に飛びつく。その訴えをしている人々も看過はできないが、その訴えの影に隠れた何十倍もの「(離婚)当事者たち」をスルーする。離婚し、親権を奪われ、現在話題の「子どもの連れ去り(誘拐)」の被害に遭い、日々泣いている別居親たちがそこにいる。
別居親たちの「涙」を救済するには、養育費の問題の前に、「親権」をどう位置づけるか、という重要問題がある。まずは、他のG20なみに共同親権にする時がいまやってきている。
子どもを訪ねて有罪に…在日豪州人サッカー記者が逮捕。問われるべき日本の重大な人権問題
出典:令和2年1月26日 Yahoo!ニュース(フットボールチャンネル)
子どもを訪ねて有罪に…在日豪州人サッカー記者が逮捕。問われるべき日本の重大な人権問題
日本を拠点に活動するオーストラリア人のフットボールジャーナリスト、スコット・マッキンタイア氏のことを知る者は少ないだろう。彼は自分の子どもに会おうとした行動を咎められ逮捕されたうえ、45日間の勾留の末、先ごろ裁判で有罪判決を下された。なぜそのような事態に至ったのだろうか。キーワードは「片親誘拐」。スポーツ界にとどまらず、スコットが身を以て問いかけるのは日本社会が黙認、そして放置してきた重大な人権問題だ。(取材・文:植松久隆【オーストラリア】)
スコット・マッキンタイア氏のツイッターでの最後の投稿は昨年11月24日のものだ【写真:Twitter(@mcintinhos)】
●「片親誘拐」と書かれたTシャツを着て
1月16日、某英字紙のウェブニュースに上がった一枚の写真に心を揺さぶられた。
「こんな彼の姿を見ても、何も行動しないままでいいのか…」
そんな自問が浮かび、消えなかった。
当稿でこれから語る事件の発生を知ってから約1ヶ月、ようやく今「自分のやれることで彼の力になろう」と意を決して、この原稿の筆を起こすことができた。
その写真に写った男は、誰の目にも明らかなくらいに憔悴している。いくら暖冬とは言えども、真冬の日本には似つかわしくないカーキ色のロングTシャツ。その胸には「片親誘拐」と手書きで書かれている。その表情には、ただやつれているだけではない、内に秘めた闘志と諦めない強い意志が強い眼光と併せて、しっかりと見て取れる。
ところで、この記事をここまで読み進めた読者のどれだけが、この写真の人物にどんな災禍が降り掛かったかを知っているのだろうか……その答えは、残念ながら極々わずかに留まる。
というのも、この写真の人物に関わる記事が、日本の日本語メディアで活字になるのは、おそらく、今読み進めているこの記事が初めてで、日本のメインストリームのメディアは一切関心を示さずスルーしているからだ。
男の名は、スコット・マッキンタイア。46歳のオーストラリア人で、フリーランスのジャーナリストを生業としている。その専門はフットボールで、本国や英字メディア業界ではアジアのフットボール通としてとみに知られた存在だ。
母国・豪州の準国営放送『SBS』勤務時には、同国で長く愛されるフットボール情報番組『ザ・ワールド・ゲーム』に出演していたので、それで彼を知る豪州滞在経験者も多少はいるだろうか。ちなみに、筆者と彼は、かつて同じ豪州をベースにしていた同業者として良く知る仲だ。
●突然の逮捕。そして45日間におよんだ勾留
そんなスコットにまつわる予期せぬニュースが飛び込んできたのは、昨年12月19日。英字紙『ガーディアン』の日本特派員ジャスティン・マッカーリーによる記事だった。そこには、スコットが2015年から活動のベースとしていた東京で11月28日に逮捕され、およそ3週間が経ってもまだ勾留されているという衝撃の事実が綴ってあった。
その罪状は「住居侵入罪」、いわゆる不法侵入。昨年5月、日本人の妻が突然どこかへと連れ去って以来、行方が分からない2人の子どもたちの所在を確認するために、都内に住む義理の両親のマンションの共用スペースに入ったことを咎められたものだ。
本来であれば、逮捕すらしないような状況で通報を受けた警察が具体的に動いたのは、不可解なことに実際のマンション“訪問”から、およそ1ヶ月後。スコットは、突然自宅にやってきた警察に逮捕拘引された。
この経緯を踏まえても、この逮捕には作為的なものを感じずにはいられない。仮に、同じ状況が日本人男性によって引き起こされたとして、その日本人男性は1ヶ月後に突然、拘引されたりするだろうか。さらには、後述するような長きに渡る勾留を強いられるだろうか。
筆者は、スコットの今回の事件がどうしても他人事には思えなかった。それはニュースになった当の本人をよく知っているからという“同情心”だけでは決してない。筆者とスコットには、共通点が多くある。まずは、同い年。そして、共に日豪ハーフの2人の子どもの父親で、フットボールを愛し、上述したようにフットボールをメインに執筆する書き手としての同業のよしみもある。
スコットに起きたことは、立場を変えれば筆者にだって起こりうる。関係がうまくいかなくなった国際結婚のカップル間で大きな問題になる、いわゆる「片親による子どもの連れ去り」は、どの国際結婚カップルにとっても決して「対岸の火事」たり得ない。筆者の知る範囲でも、離婚・別居後の子どもの養育をめぐって鋭く対立する破綻した国際結婚カップル、そこからエスカレートしての連れ去りというケースは決して少なくない。
●国際社会から非難を浴びる日本のロジック
国際結婚カップルの破綻後の子どもの庇護養育に関する問題は、過去最高ともいわれる日豪関係で捕鯨問題と共に数少ない対立項として存在する。日豪両国の子どもの連れ去りに関しての法的な解釈の違いをここで詳述する必要はないが、現実問題として、日本はハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)締結国ながら、日本人の親(そのほとんどが母親が日本人というケース)による「連れ去り」が後を絶たないという現実を直視しなければならない。
そういった日本人の親の国内での連れ去りが犯罪とならないのには、からくりがある。日本でも「国内で子である未成年者を略取、誘拐」すれば犯罪(刑法224条)なのだが、「母親が子を連れて実家に帰る、どこかへ逃げる」といったケースが犯罪にならないのは、普通はその行為が暴力を用いて連れ去る「略取」にも、嘘や甘言を用いて連れ去る「誘拐」にも該当しないからというロジックがある。
それがゆえに、日本はハーグ条約の締結国でありながら、実際的には条約の不履行が横行しているとの批判を、連れ去られた側の親の出身国を中心とした各国から浴び続けている。そして今回のスコットのケースも、まさにその最新事例の1つということになる。
今回のケースで、スコットの妻子は突然、姿を消した。夫婦間での婚姻関係のあり方に関わる話し合いは始まっていたとは言えど、彼の立場からすれば、突然の失踪だけに妻が子どもを「誘拐」したという認識になる。
これに関しては、妻側の主張が聞こえてこないのでバランスを欠くと言われる可能性はある。ただ、姿を消してからは、妻の携帯電話、メールなどの連絡先はすべて変えられ、妻からの連絡もすべて代理人である弁護士を通じてに限られるところに、妻の意志が透けて見える。
●日本は真の意味で「近代的国家」なのか?
2015年に日本に居を移してからのスコットは、本業以上に2人の子どもの養育に力を入れていたと共通の知人づてに聞いていた。そんな彼が子どもを心から愛していることに疑いの余地はない。それでも、1月15日の公判では、「禁錮6ヶ月、執行猶予3年」の執行猶予付きの有罪判決が下された。連れ去られた我が子の行方を知りたかっただけのスコットは「犯罪者」になってしまった。
執行猶予がついてようやく自由の身になれたものの、実に45日間にも渡った勾留期間でスコットが心身ともに受けた大きなダメージは測り知れない。まずは、その回復こそが先決だ。しかも、彼は勾留期間中に家族で住んでいた住居の退去を余儀なくされて、住むところもなく、今は、支援者である友人の家で居候の身。収入の道も断たれ、今後の子どもたちを取り戻すための活動の資金も友人たちが立ち上げたファンド・レイジングや豪州の家族頼みとならざるを得ない。その前途は決して楽観できるものではない。
それでも、スコットは諦めない。そのシャツの胸に書かれていた「片親誘拐」の文字に彼の不退転の決意が透けて見える。8ヶ月以上会うことも許されない子どもたちの居場所を突き止めて、何とか自分の元に取り戻すという強い気持ち。そして、自分だけではなく同じ苦しみを持つ多くの人々のために決して諦めないという強い意志、さらには、どこかでその写真を見るであろう妻への牽制の意味も込められているのかも知れない。
近しい友人で、豪州から支援を続ける同じフットボール・ジャーナリストのポール・ウィリアムスは、スコットのこれからの動きの展望を以下のように語ってくれた。
「今回の問題は、もうスコット個人の問題というレベルでは収まらない。というのも、世界では何千人もの親たちが同じような状況下に置かれていて、そのこと自体がとても心を裂かれるようなことなのに、近代的国家であるはずの日本では、そういう事実がまったく反映されていない。(中略)スコットは、まずは自分の生活を取り戻しつつ、引き続き子どもたちを取り戻すために闘い続けると同時に、多くの親たちがその子どもと再び一緒になれるように働きかけていくだろう。そして、私や彼の世界中の友人の全ては彼のその闘いを心からサポートしていくことになる」
●「時間的空白」を埋め、幸せを取り戻すために
今回、この記事を書くにあたって、スコット本人にメールで報告するとすぐに丁寧な返事が戻ってきた。
私信ではあるが、一部をここで公開しよう。
「タカ、温かいメッセージをありがとう。日本語で、どんなものでも書いてもらいたい。というのも、多くの一般の日本人はこの問題(筆者注:片親による子どもの連れ去り)についてまったく知らないし、それを知ったときにはショックを受けるはず。だから、日本に(この件に関しての)どんな関心でも惹き起こすことは、僕らの子どもたちすべてにとって歓迎すべきことなんだ。(中略)まずは、住むところを見つけて、しっかりと落ち着かなきゃだけど、なんとかすぐにそれらの心配が片付くように願っている。そうしたら、またゆっくり話そう」
この原稿を書いている間に、スコットのツイッター・アカウント(@mcintinhos)を久々に覗いてみた。これまでは日本をはじめとしたアジアのフットボールネタが頻繁に更新されていたアカウントの最後の更新は、2019年11月24日。彼の突然の逮捕のわずか4日前だ。
その後、45日間も勾留されていたので、当然ながら、その間のツイッターの更新はない。この時間的空白が彼の苦難が続いていることを示す1つの指標となるのかも知れない。彼が、ツイッターでまた愛するフットボールのことを気楽につぶやけるような日は訪れるのだろうか……。
スコット自身の名誉回復と、父親としての権利回復への長い闘いは始まったばかりだ。彼は、その闘いの有り様を、フットボールに替わる彼自身のほとばしるジャーナリズムの情熱の対象として、書き記していくことでアピールしていくのだろうか。なるべく近い将来、彼が求めるものを手に入れたその時、誇らしげなツイートがまた投稿されると信じて待つことにしよう。
Never give up, mate. We football family are always with you.
<追記>
公判で、検察側はスコット・マッキンタイアの家庭内暴力を主張。なお、マッキンタイア氏は、公判後の日本外国特派員協会での会見で記者の質問に答えるかたちでも、そのことを明確に否定している。
(取材・文:植松久隆【オーストラリア】)
子供訪ね住居侵入で起訴の豪男性、日本で有罪 共同親権訴え
出典:令和2年1月23日 BBC NEWS JAPAN
子供を訪ねて、義理の両親が住むマンション共用部分に侵入したとして、住居侵入罪に問われた日本在住のオーストラリア人男性が15日、東京地裁で懲役6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。
豪民放SBSのサッカー・ジャーナリストだったスコット・マッキンタイヤ氏は昨年11月、義理の両親が暮らすマンションの共用スペースに侵入したとして逮捕された。
家族との関係が破綻した5月以降、子供に会っていなかったという。
日本は先進国としては珍しく、父母が婚姻していないと、共同親権が認められない。
「文明社会の一員になってほしい」
マッキンタイヤ氏は、不法侵入について謝罪。10月に日本を襲った台風19号「ハギビス」の後、子供たちが無事だったかを確かめたかったと話した。
妻について、現在11歳と8歳の子供を誘拐し、連絡を取れなくしたと非難している。
一方、マッキンタイヤ氏の元パートナーは、同氏に暴力を振るわれたとしている。同氏はこれを否定している。
同氏は逮捕から裁判まで1カ月以上勾留された。照明がついたままの部屋に閉じ込められ、風呂は不定期にしか入れなかったという。
判決の言い渡しで、東京地裁の多田裕一裁判官は、「この刑は軽いものではない」と述べた。
一方、「侵入場所は共用スペースで、無理やり押し入ったわけでもない。前科もなく、二度と同じことはしないと法廷で誓った」として、情状を酌量した。
判決後、マッキンタイヤ氏は「私や他の親たちは、日本が文明社会の一員となり、共同親権のシステムを導入してほしいと願っている」と語った。
「私は、声を上げられない誘拐された子供たちに代わってここにいる。現代社会はこうあるべきではない。子供には2人の親が必要だ」
(英語記事 Man freed after arrest in Japan child custody row)
日本のシステムはクレイジー」海外メディア 我が子の安否確認に行き有罪 豪男性はもう1人のゴーンか?
出典:令和2年1月21日 Yahoo!ニュース
日本のシステムはクレイジー」海外メディア 我が子の安否確認に行き有罪 豪男性はもう1人のゴーンか?
飯塚真紀子(在米ジャーナリスト)
日本の司法制度の問題が世界に露呈されてしまったカルロス・ゴーン氏の逃亡劇。
ゴーン氏は会見で、日本の司法制度を痛烈に批判し、自分は日本の司法制度の犠牲者だと主張したが、同様の思いを抱いているのは同氏だけではないようだ。
オーストラリアのSBSネットワークの元スポーツ・ジャーナリスト、スコット・マッキンタイヤ氏もまた、日本の司法制度の問題を訴え、同氏の声は米紙ニューヨーク・タイムズや英BBCニュースなど欧米のメディアで報じられた。
我が子の無事を確認に行ったら、不法侵入に
マッキンタイヤ氏は、昨年10月末、大型の台風19号が東京を襲った後、妻に連れ去られたという子供たち(11歳の娘と7歳の息子)の無事を確認に、子供たちが住むアパートの共有エリアに入った。しかし、それから約1ヶ月経った昨年11月28日、不法侵入の容疑で逮捕され、44日間拘留されてしまったのだ。
1月10日、マッキンタイヤ氏は保釈金を払って釈放された。1月15日に東京地裁で行われた裁判で、検察側は同氏が娘に暴力をふるったと主張したが、同氏はそれを否定。結局、同氏には懲役6ヶ月、執行猶予3年の有罪判決が言い渡された。
裁判所から出てきた同氏は、共同親権制度がない日本の問題を強く訴えた。
「子供たちにはもう250日間会えていない。何の説明もなく、妻に“誘拐”された。家庭裁判所は親による子供の連れ去りを調査しようとしない。僕の場合、警察に何度も行き、調査するように頼んだが、警察は何もしなかった。日本の親権法は子供の“誘拐”を助長している。連れ去られたのは日本に共同親権制度がないからだ。共同親権は基本的人権だ。僕は、子供が連れ去られたフランスやイタリア、ドイツ、アメリカ、カナダ、アジア、アフリカなどの国々の親たちのために立ち上がっている。何より、日本の親たちのために立ち上がっている。日本は文明社会の一員となって、共同親権制度を導入してほしい」
なぜ、同氏が不法侵入から1ヶ月以上も経ってから逮捕され、長期間拘留されたのかは不明だ。また、最初に同氏が保釈金による釈放を求めた時は、証拠隠滅や国外逃亡の恐れがあるという理由で、釈放が認められなかったという。
この事件について、米紙ワシントン・ポストは「日本、子供たちに会おうとしたオーストラリア人を有罪に」というタイトルで、US News and World Reportは「オーストラリア人男性、日本で、子供を探すために侵入、逮捕された後、釈放される」というタイトルで、日本の司法制度や共同親権制度がない問題を報じている。
マッキンタイヤ氏は昨年5月まで妻や子供たちと一緒に暮らしていた。しかし、妻が両親と一緒に住みたいという理由で子供たちを連れ去り、それ以来、妻とコンタクトが取れず、子供たちに会うことができない状況だ。警察や妻の弁護士(同氏と妻は離婚調停中だった)に子供たちの無事を教えてほしいとリクエストしたが、拒否されてしまったという。
同氏は拘留中の体験をこう語っている。
「24時間、灯りがつけられた。弁護士が同席することなく、尋問された」
これは、ゴーン氏が記者会見でした主張と重なる。
日本の司法制度はクレイジー
このマッキンタイヤ氏の逮捕・拘留について、オーストラリアのABCニュースは「日本の司法制度はクレイジーだ」と非難する同氏の両親のコメントを伝えた。
「第一、アパートに入っただけで拘留されるなんて信じられません。オーストラリアなら、これは軽犯罪で、100ドル払えば釈放されます。日本では、事情を説明する機会さえ与えられず、何ヶ月も拘留されます。クレイジーなシステムです」
また、同ニュースは「先進国とは違い、日本には共同親権制度(離婚後も父母の両方が親権を持つ権利)がなく、裁判所が命じた面会権(離婚した親が、他方の親の元にいる子どもに会う権利)はしばしば無視され、それにより処罰を受けることもない」と司法制度における日本の後進国ぶりを批判している。
安倍首相に問題提起
片方の親が、もう片方の親の同意なく、子供を連れ去った場合、国際的にそれは“誘拐”あるいは“拉致”と見なされる。日本にはそのようなケースが多数あり、子供を連れ去られた親の方は子供に会えない状況となる。昨年11月には、子どもの養育に関われなくなった親たちが、単独親権制度は違憲であるとして、国家賠償訴訟も起こした。
「日本には親権を擁護しようという意思がなく、このことは国際的に批判されています。日本の法律は非常に旧態然としている。アメリカやドイツなど他の国々もかつては片方の親が親権を持つ単独親権制度を採用していましたが、30年前に法律を変えたのです。日本は遅れを取らないようにする必要がある」
と共同親権導入に取り組む串田誠一議員は前述のABCニュースで主張している。
昨年、EU加盟国の大使20名以上が日本政府に文書を送り、子供が親に会う権利を尊重するよう日本側に求めた。フランスのマクロン大統領とイタリアのコンテ首相も、安倍首相にこの問題を提起したという。
日本の司法制度の後進国ぶりは、ゴーン氏の逃亡劇を機に、マッキンタイヤ氏のように日本で人権無視のような拘留劇や親権問題を目の当たりにした外国人の声も加わって、これからも世界に露呈されて行くかもしれない。
豪男性、日本で45日間勾留執行猶予付きの実刑
出典:令和2年1月17日 NICHIGO PRESS
元妻のハーグ条約違反で拉致された子供を捜し
2015年以来日本に住んでいるジャーナリストのオーストラリア人男性は、別離した妻が子供2人を祖父母のところに連れて行ったまま、二度と帰って来ず、連絡も絶ったため、面会権など父親としての権利を否定された男性は、妻の弁護士、警察などに被害を訴えた。しかし、何の進展もないため、妻の祖父母が住んでいるアパートの共有部分に入り、祖父母のドアをノックし、子供の安否を尋ねた。その後、1か月してから、「家宅不法侵入罪」で逮捕され、45日間勾留の上、弁護士の付き添いなしで取り調べを受けるなどした。日本人妻が子供を連れて日本に逃げ帰る事件は頻発しており、日本国内では連れ帰った女性側に有利な法的慣習があることとオーストラリアでは既に過去のものになったような日本の司法制度が再び先進諸国の関心を集めている。
シドニー・モーニング・ヘラルド紙(SMH、電子版)が伝えた。
この男性、スコット・マッキンタイア氏は、結局、裁判で禁固6か月、執行猶予3年の判決を受けた。国際結婚が破綻し、片親が子供を連れて出身国に帰ってしまう事例が大きな問題になっている。そのために、1980年に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」通称ハーグ条約が採択され、1983年に発効している。また、日本は長年抵抗していたが2013年に国会で条約承認、2014年発効に至っている。しかし、日本の条約承認は形ばかりであり、現実には条約違反が横行しているとの批判は以前から根強い。
マッキンタイア氏は東京に本拠を置くスポーツ・ジャーナリストで、オーストラリアの弁護士や法律問題専門家は、「日本ではドメスティック・バイオレンスが関わっているかどうかと無関係に片親による拉致が司法によって大目に見られており、子供との面会の権利を奪われた側が子供に面会しようとしたり、元の状態に復帰させようとすると逮捕されることになる」と語っている。
日本の司法制度は、元日産会長のカルロス・ゴーン氏の長期拘留で世界の先進国の注意を惹いたばかりで、日本の司法制度が再びネガティブな注目を浴びることになった。
■ソース
Australian father Scott McIntyre freed in Japan after arrest for seeking kids
国際結婚の破綻、国内で紛争に 豪男性、子に会おうと妻の実家に侵入
出典:令和2年1月11日 朝日新聞
国際結婚の破綻、国内で紛争に 豪男性、子に会おうと妻の実家に侵入
国際結婚の破綻(はたん)が増える中、日本国内で、外国人と日本人の夫婦の子どもをめぐるトラブルが起きている。欧米と日本では家族をめぐる法制度や考え方の違いが大きいからだ。刑事事件に発展するケースもあり、海外メディアも注目し始めている。
10日、別居した子ども2人に会おうとして、住居侵入の罪に問われたオーストラリア人のスポーツジャーナリストの男性(45)の初公判が東京地裁であった。
男性は2007年にオーストラリアで日本人女性と結婚。15年に来日して日本で暮らし始めたが、昨年5月、妻が子ども2人を連れて別居し、居場所がわからなくなった。離婚は成立していない。
同10月、子どもの安否を尋ねようと妻の両親が住む都内のマンションを訪問。オートロックを解錠した住民の後に続いて共用部分に入ったとして逮捕された。
男性はこの日の法廷で、妻の実家を訪ねた理由について「大きな台風があったので、子どもたちが無事かどうか知りたかった」と語り、「子どもの連れ去りは誘拐だ」とも主張した。だが、検察側は長女に対し男性のDVがあったと主張。懲役6カ月を求刑した。
離婚後も両親が共同で親権を持つことが主流の欧米では、片方の親が無断で子どもを連れて別居すると誘拐罪に問われることもある。さらに、日本も13年にハーグ条約=キーワード=を批准。国境を越えて子どもを連れ去られた場合は連れ戻せる仕組みができたのに、双方が日本国内にいると適用されないため、日本にいる外国人が不満をより強く感じる原因になっている。
事件についてオーストラリアでは「日本は共同監護権を認めない世界でも数少ない先進国の一つ」などと報じられ、英仏の主要紙でも取り上げられている。
奈良大の床谷文雄教授(家族法)は「結婚が国際化する中、今後、日本の法制度と条約をどう調和させていくのか議論が必要だ」と話す。(杉原里美)
◆キーワード
<ハーグ条約> 一方の親が無断で16歳未満の子を国外に連れ去った場合、残された親の求めに応じて、原則として元の居住国へ返還することや、親子の面会交流を支援することなどを定めている。日本を含む101カ国が締約している。外国人が当事者でも、日本国内の紛争には適用されない。
世界から『日本は拉致国家』と非難を浴びている、国際的な子の連れ去り問題について
出典:令和2年1月6日 Yahoo!ニュース
世界から『日本は拉致国家』と非難を浴びている、国際的な子の連れ去り問題について
みなさんは日本人による国際的な子の連れ去りが、日本と諸外国の間で国際問題となっていることをご存知でしょうか。
1970年には年間5,000件程度だった日本人と外国人の国際結婚は、1980年代の後半から急増し、2005年には年間4万件を超えました。これに伴い国際離婚も増加し、結婚生活が破綻した際、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子を自分の母国へ連れ出し、もう一方の親に面会させないといった「子の連れ去り」が問題視されているのです。
つい先日、イタリア政府などは一方の親が日本人である場合、日本へ行くと子どもが誘拐されるかもしれないと、渡航に関する注意喚起をしました。イタリアなどでは一方の親による子どもの連れ去りは犯罪行為ですが、日本国内では容認されてしまっていることが原因のようです。
日本における国際的な子の連れ去り
日本における国際的な子の連れ去り(以下、拉致とも)とは、もともとの居住地から日本への違法な拉致を指すものであり、ほとんどの場合は元居住国裁判所が発行した面会交流または共同親権命令に反し、子を日本に連れて行くことです。
例外的な状況を除いて、児童拉致の影響は一般的に子の福祉への有害性が指摘されているにもかかわらず拉致は行われ、被害親とその親族の生活にも壊滅的な影響を与えているのです。
もともと日本の家庭裁判所は民事訴訟における強制的執行を好まない傾向にあり、両親による和解を強く推奨して面会交流や育児支援にはほとんど介入してきませんでした。そして、外国人親が自力救済として日本に連れてこられた子を取り戻そうとすると、本来、日本にいる事が「拉致拘禁状況」に該当しているにもかかわらず、日本の警察によって逮捕され、刑事訴追される可能性があります。
また、外国の父親が子どもを自国に連れ帰ろうとすれば、「所在国外移送目的略取及び誘拐」(刑法第226条第1項)も追加され、2年以上の懲役刑が科される可能性すらあるのです。刑法第226条は元来、中国等へ未成年者が性的奴隷として誘拐される事を防止するための特別法でしたが、現在は外国人親による子の連れ戻しを防止するための有力な手段として使用されています。
「ハーグ条約」へ加盟した日本に集まる国際社会の非難
離婚などに伴う国境を越えた子どもの連れ去りを防止する「ハーグ条約」に日本は加盟していますが、条約の履行が不十分として国際社会から非難を集めています。
ハーグ条約では拉致された子どもたちは、拉致前に「本来居住していた家」に戻されることになっています。子どもの拉致を重罪と規定している国に対しては、監護親を拉致犯として通知することができ、拉致親は他国滞在中に逮捕される可能性もあります。条約は、当事国の家庭裁判所の判決を他の国が認めることを必要とせず、署名国が拉致された児童の所在を知覚した場合には、速やかに本来の居住地に戻すことを要求しています。
もともと日本の家族法はハーグ条約の各条項と整合性がなく、日本が署名するためには法律の抜本的な改正や新法導入が必要でした。日本の民法は、両親間の合意によって決定されない場合、子の最善の利益に基づいて問題を解決することが強調されていますが、家庭裁判所の判決に強い強制力はなく、遵守するかどうかは本質的に両親の自主性に任されていて、両親の合意がなければ判決を下すことも極めて困難なようです。
日本を拉致国家と呼ばせないためには
最大の障害となっているのは子どもの親権に対する法制度の変更です。日本の法曹関係者の多くは離婚後共同親権・共同監護の重要性を認識してきませんでした。日本はハーグ条約に先立ち「子どもの権利条約」に署名しており、同条約第9条に定められている通り、日本は非親権者の面会交流を子どもの権利として認めなければなりません。しかし、日本国最高裁判所は、非親権者は子どもと会う権利はなく、国家による面会交流の強制は、親や子どもの権利ではないと裁定しています。この裁定により、事実上、親権者の協力なしには、面会交流は不可能となっているのです。
フランスやアメリカなどの一部の国では、子どもがいる夫婦の離婚の場合、両親の共同養育が法律で定められていますが、日本の法律ではこのような取り決めはありません。離婚後の子どもの親権を両親それぞれが維持するという考え方は、日本人の文化や歴史にはないため、日本法にそのような思想はほぼ皆無なのです。日本では結婚が合法的に解消されると、一方の親にのみ親権が与えられ、分離された「非監護親」は肉親であるにもかかわらず子どもから完全に分離されます。
ハーグ条約批准国82か国の間でも、親権に関する取扱は国によって異なります。日本においては、戦後高度成長期に母親が通常単独または主たる監護権を得る形が一般的でしたが、その間に他の先進国では共同養育および共同親権に移行する機運が高まっていきました。日本も世界から拉致国家と呼ばせないために、離婚後共同親権に関する議論を進める時期にきています。
参考文献:外務省HP
明智カイト氏:
『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、ホワイト企業の証しである「ホワイトマーク」を推進している安全衛生優良企業マーク推進機構の顧問などを務めている。
社会の「絶対的断絶」に泣けてくる~NPO代表や離婚弁護士や
出典:令和2年1月5日 BLOGOS
■ 小さな我が子とともに微笑む
某有名NPO代表が小さな我が子とともに微笑む写真がある。その写真を中心として、「貧困支援」の意味についてその代表はエッセイを綴る。
自分の子どもは幸いにも、(自分たちという)両親が揃い2人とも働いており(ということはそこそこの収入もあり)住居も確保できている。
それに比べて、現代の貧困世帯の子どもには、これらが揃っていないことも珍しくない。だからこそ、子どもたちを支援しなければいけない。
その代表が言う「支援」の中身は、当欄でも僕が指摘した、袋菓子やレトルト食品だったりする(「ジャンク支援」~貧困層の主食のお菓子を「宅食」する意味)。それらは僕が書いたように、貧困世帯とは親和性がある。そうした袋菓子を子どもたちは日常的に食べ、カップ麺やレトルト食品を日々食べている。
貧困のリアルな食生活とはそんなものだ。
そうした袋菓子やレトルト食品が箱一杯に詰まった「食糧提供支援」を、収入も家もそれなりに揃うその代表の団体が行なう。代表は、赤ちゃんの我が子を抱きしめ、日本の貧困問題について怒り、問題提起する。
■ 当事者たちは、「違う」と明言しないままひっそりとその場を退場する
その代表の行ない自体、なんら悪くない。日本のソーシャルセクターをここ15年引っ張ってきた自負もあるだろうし、それだけの実績ももつ。
けれども、我が子を抱きしめた写真を顔出しで公開し、我が子は満たされているが満たされていない子どもたちがたくさんがおり、自分はそれら満たされていない子どもたちのために支援をしたいと意思表明するその文章や顔写真自体に拒否反応を示す人々がいる。
なんとなく「違うだろ?」と人々は拒否するのだ。そしてその中でも、「当事者」と呼ぶしかない貧困世帯当事者たちは、違うと明言しないままひっそりとその場を退場していく。
またたとえば、「連れ去り離婚」を手助けするいわゆる「離婚弁護士」のなかには、自分の子どもが習い事などに通う写真を意気揚々とSNSに掲げる人がいる。
そんな写真を見て、我が子を連れ去られた「別居親」たちは、複雑な感情を抱く。
Twitterにはこんな叫びが満ち溢れる。
『時々、親子引き離しで有名な弁護士先生が自身の子どもの発表会(ピアノ等)の様子を楽しげにSNSで書いていたりします。悔しくて、悔しくて。涙が出ました。』
この「悔しくて悔しくて」に、僕は打たれる。自分たちは子を連れ去られ、多くても月に2時間程度しか子どもと「面会」できない。その苦難さを打開するために、「共同親権」の確立に向けて動いている。
その一方で、連れ去りのベースにある「単独親権」に乗り、その仕組みの中で弁護し収入を得、子どもとの習い事の写真をSNSに投稿する弁護士がいる。
なんという落差だろう。
■ 自分の体臭が自分では嗅ぎとれないように
話はNPOに戻るが、いまだ「起業」をすすめるNPO代表がいる。自分たちの「夢」を起業することで叶えようというわけだが、現実の起業のほとんどは失敗する。
また、そんな競争の中でもたまたま生き残ったNPOに就職しそのNPO内で出世したいと夢見る学生もいる。
が、NPO内の20代スタッフの年収は概ね低く(社会保険等を合わせた総額でも250万程度)、30代からの昇給カーブも緩いところも珍しくはない。
起業は困難であり、年収も低い。つまりは「やりがい搾取」の代表が現在のNPOなわけだが、起業をすすめる代表たちは決してそうした事実は語らない。あくまでも、「夢」を語る。
これらは一部の例であり、また本当に社会の役に立っている場合もあるだろう。
けれども、何か「断絶」してしまっている。生活保護や困窮層の子どもや若者、子を連れ去られた孤独な別居親が毎日感じているその感覚とは何かが決定的に引き離れズレまくっている。
そのズレは、社会の困った人たちからのニーズに「本気で」答えようとしているそうした偽善的な人々には感じることができない。また、自分たちの振る舞いや考え方から「当事者たち」が逃げていくことの意味もよくわからないのかもしれない。
階級社会や単独親権社会の「勝ち組」サイドからものごとを見て判断して行動するとはそういうことかもしれない。
ここではたまたまTwitterなどで目についた代表や弁護士を例にとったが、こうした勝ち組、マジョリティが無意識的に醸し出すその立ち振る舞いは、勝った者にはわからないのかもしれない。自分の体臭が自分では嗅ぎとれないように。
そこには「絶対的断絶」がある。僕は朝っぱらからTwitterを見てこの断絶を叩きつけられ、不覚にもうっすらと泣いてしまった。
養育費の算定基準改定への疑問、特に養育費を支払う方の女性には地獄となる。家族解体という思想を隠して離婚後のバラ色の生活の誤解による離婚への誘導から、あなたと家族を守らなくてはならないということ。
出典:令和元年12月23日 土井法律事務所ブログ
養育費の算定基準改定への疑問、特に養育費を支払う方の女性には地獄となる。家族解体という思想を隠して離婚後のバラ色の生活の誤解による離婚への誘導から、あなたと家族を守らなくてはならないということ。
最高裁は、令和元年12月23日、
養育費の算定基準を見直した。
多くのケースで養育費が増額されるらしい。
その目的は、新聞報道によると
「最新の家庭の支出動向を反映させた結果、全体的に月額で数万円程度、増額される傾向となった。子どもの貧困対策の必要性が指摘される中、ひとり親家庭を支援する見直しになりそうだ。」
とされている。
ちなみに、離婚前は、婚姻費用(婚費)分担と言い、子どもの費用と相手方の費用も含まれて金額が決まるが離婚後は、相手方の生活に対する費用分担は原則なく文字通り、子どもを養育する費用ということになる。
このような基準を変えることは、常にメリットデメリットがある。今回の養育費等の増額についても、それによってなるほど一方で、シングルマザーの生活が幾分向上するかもしれないが当然のことながら支払者の負担も増額する。
最高裁は、税制の変更などを理由に挙げるがどの税制の変更が、どのように考量されたのかの説明がない。給与所得者などの税制が軽減されたということはないだろう。説明になっていない。
また、スマートフォン使用の低年齢化等子どもの費用が高額になったということが挙げられているが、それは、別居親だけが負担することなのだろうか。それではまるで、携帯電話会社の収益を上げるために支払額を増やそうとしているだけではないかと疑いをもってしまう。
私は様々な理由から中学生までは原則としてスマートフォンは与えるべきではないと考えている。これは別の論点なので詳述はしない。
そして、極めつけなのは最高裁は認めていないと思うが、今回の基準改定が子どもの貧困対策だと報道しているが、そのことについては疑問も大きい。
実務的観点からいくつかの疑問を述べたい。
1 離婚、別居は、必然的に貧困に向かう
人権相談には、離婚後に子どもを抱えた母親から相談が入る。「役所に言われた通り離婚をしたが、生活は楽にならず、とても苦しい
話が違う。
離婚しなければ良かったと役所に問い合わせたら、『離婚はあなたが決めたことです。』と言われて電話を切られてしまった。」ということが典型的な相談である。
確かに見通しが甘く離婚に踏み切ってしまった本人にも落ち度はあるだろう。
しかし、どうやら、「離婚調停を申し立てれば慰謝料はもらえるし、養育費ももらえる。今夫から渡されている生活費で生活するよりよっぽど経済的にも楽な、もちろん精神的にも楽な生活ができるようになる。」という未来を示されて離婚に踏み切った人が多いようなのだ。
何人かの「こんなはずはなかった」ということから逆算して考えると浮かび上がってくるのはそういうことだ。
そしてその支援者たちが間違ったことを言う原因も少しずつ分かってきている。
第1に、個別事情を無視した画一的なマニュアルアドバイスだ。
妻が悩んでいると本当は、自分の精神的な問題、体調の問題なのに、「それはあなたは悪くない。夫のDVだ。」と決めつけてアドバイスがなされることが多すぎる。
言われた通り、保護命令を申し立て、離婚調停を申し立てても、保護命令事由がないとして却下され、離婚理由がないということで離婚が認められなかったり慰謝料が認められないことが多い。妻に嘘をつかれて窮地に追い込まれた夫は妻を許さないし精神的に破たんして就労不能になる場合もある。
理由のない離婚請求なので当然夫は抵抗する。おそらく妻は2,3月で離婚後の明るい生活が始まると思っているようで、調停がそれ以上続くことで、疑問がわき、焦りがでてくる。
暴行などの事実がないので離婚原因を立証できないし、主張もできない。無理に暴力をでっちあげるから嘘がばれる裁判所の心象も悪くなる。
画一的なアドバイスをした支援者は、離婚が成立して、わずかな養育費での生活となっても、責任をとることはない。
第2に、経済的問題で言えば、例えば「夫から月3万円しか生活費が渡されていない。」と聞くとそれは経済的DVだとアドバイスをする支援者が多いようだ。
よくよく話を聞いてみると、光熱費、子どもの学費等の必要経費は夫の通帳から引き落とされており、食料もほとんどが夫の実家から送られてくる。その他の食材や生活に必要な物は週末夫と買い出しに行って夫が支払う。3万円は妻の小遣いみたいなものだった。
そして、夫の収入が手取りで20万円にも満たないで、夫は毎日500円くらいを持たされて昼食を食べているということが明らかになっていく。
見通しが甘いのは妻ではなく妻に対するアドバイスをした者のことが実に多い。
このような経済状態で別居してしまうと夫も妻子も生活が成り立たなくなってしまう。そういうケースが実に多い。
ちなみに、このような見通しの甘い妻は家計簿をつけていない。
こういうケースは少なくない。少ない夫の収入の中からどんなに割合を大きくしても養育費が必要な額に達することはない。
本質的な問題は労働者の低賃金の蔓延化なのである。あるいは離婚後の女性の不平等な低賃金なのである。そのことを離婚のセールスマンたちは絶対に言わない。全てを夫の責任にしようとする。
いずれにしても、少ない収入の中で、別居して経費が二倍になれば当然貧困に向かっていく。
それでも妻を誤解させて離婚に向かわせているのが国や自治体ならば、労働者の低賃金、女性の低賃金の不具合は国や自治体が補填することが筋であろうと思われる。
調停も一回で終了して裁判に進められて離婚させられるわけがわかならないまま離婚となり、子どもにも会えないのに養育費だけを払わなければならないそんな中でメンタルをやられてしまっているそんな夫だけに責任を負わせることは、あまりにも過酷で不合理だ。
離婚は必然的に貧困に向かうのだから、離婚を進めておいて養育費の割合を増やしても解決はしない。
2 一方的な離婚を後押しする婚費の制度
婚費の決め方は税込みの年収額だけの突合せだけで決まる。
住宅ローンがあって夫が支払っていてもそれは月々の金額に考慮されない。妻が使用する自動車のローンを夫が支払っていても妻がその自動車を使用しなくなるのであればやはり考慮はされない。
その他、今後も共同生活を続けるという前提で様々な月払いが行われているのが現実の夫婦だ。しかし、それらは考慮されない。現実の生活が無視されて婚費や養育費は定められる。
そういうことをここで持ち出すには理由がある。子連れ別居から離婚に向かう事案の少なくない割合で新居を建築し、住宅ローンが発生した直後という事情があるからだ。
子連れ別居のケースでよくあるのは、第1に妻の体調からの精神状態、第2に子どもに障害がある場合、第3に住宅ローンである。
新居移転を目前にして、あるいは引っ越しのさなか子連れ別居は起きている。
別居して離婚することが確定なら住宅は手放すことも合理的かもしれない。しかし、突然理由も告げず子どもを連れて家から去り、わけがわからないうちに裁判所に呼び出されて、住宅ローンの支払いなど関係なく月額の支払いが定められるもう離婚しか選択肢がないように思わされる。
現実問題として住宅を手放さなければならなくなる。
子どもたちの生活も待ったなしだが住宅ローンも待ったなしである。
しかし、住宅を手放しても住宅ローンはなくならない。中には、住宅ローンを支払いながら思い出の詰まった家に住み続けるしかない夫たちもいる。住宅ローンと家賃の二重払いこそ無理だからである。極めて精神状態に悪い。
これが婚姻費用分担や養育費の支払いが住宅ローンの存在を無視して行われる結果である。
この住宅ローンの支払いは本当に無視されてよいのだろうか。夫が一方的に住宅の新築をしたというならともかく、多くの事例では妻が新築を希望して無理して住宅ローンを組んで家が建てられているのである。
住宅ローンはマイナス財産として財産分与では考慮されるが、実際には住宅ローンを支払わなければならないから養育費などのねん出が難しいということなのである。
第三者から見ると婚姻費用や養育費の算定方法はこういう事情で無理を強いる場合が多い。
今回の基準の見直しでさらに金額が上がってしまうとさらに無理が大きくなることは間違いない。
婚姻費用の分担は特に住宅ローンがある場合はこのように、今後同居しないということが前提となっているように感じられる。
離婚をするかしないか、やり直すとしたらどうすればよいかやり直さないとしてもどのように子どもの共同養育をしていくかそういうことを話し合うために、離婚は訴訟から行うことができず、
話し合いの手続きである調停から行わなければならないとしている。現行の婚姻費用の決め方は一部その制度と矛盾し、一方が離婚を求めていることを後押しをする制度になっていると感じる。
3 養育費を支払っている女性を無視している。
今回の基準改定で一番影響があるのは養育費を支払っている女性の負担が大きくなるということである。
女性は、婚家から追い出される形で子どもと会えなくなる。私から言わせればそれが普通の人間だと思う範囲のヒステリーだったり、ワガママだったり、要領の悪さだったりということで主として姑から嫌われて追い出されてしまう。
夫から受けた暴力が影響してあるいは出産後のホルモンバランスの変化によってうつ病やパニック障害等になった結果の場合もある。
多くの事例で子どもとの面会を拒否されている。自分が命を懸けて産んだ我が子と会えないという不合理が実際に起きているのである。
まさに女性の権利の侵害である。
それにも関わらず、子どもに会えない母親たちに養育費の支払い義務を課せられる。
子どもに会えない母親たちの多くは非正規労働者であり介護職だったり、事務職だったりの低賃金という事情に加えて、いつ労働契約が終了するかもわからない。今年の源泉徴収票が原則5年後は通用しない社会なのである。それでも養育費の金額は放っておけば継続される。
元妻が元夫に養育費を支払うケースは元妻が追い出されて子どもと一緒に住めなくなったが夫が妻よりも収入が少ない場合である。
極端な話、夫が精神疾患などで就労できず、収入がないという場合もある。このようなケースでは福祉の手続きもとらないから、裁判所では源泉徴収票の額面で元妻の元夫に対して支払う養育費の額が決定されてしまう。
子どもに会えない母親は今でも子どものためにと言い聞かせて少ない賃金の中から自分の生活費を削って養育費を支払っている。その上、今回の改定で、さらに大きな金額の支払いを余儀なくされてしまうと裁判所由来の絶対的貧困が生まれてしまう恐れが出てくる。それだけ、母親は、子どもに会えなくても、自分が食べられなくても子どもには食べさせたいと行動してしまうのである。
シングルマザー保護の活動家などが今回の基準では生ぬるいから別居親にもっと大きな支出をさせろと声高に叫んでいる場合、実際に元夫に対して養育費を払っている女性は活動家の仲間である「女性」の中から排除されているのだ。活動家が憐みを授ける対象となる女性の中から排除されているのだ。
私は、女性の権利擁護の立場から今回の養育費改正には反対するが、男女平等を叫ぶ活動かなんて自分たちの都合の良い現実しか相手にしないという印象がある。目をつぶれば世界が無くなると言わんばかりである。
その人たちの一定部分の活動の目的は家族制度の解体なのだそうだ。家族制度とは、父親と母親と子どもと生活する家族のことである。家族制度こそが、女性を不当に拘束する元凶だというのだ。「あなたは悪くない。」
という言葉も、このような思想によって言われていることが多いかもしれない。「あなたは悪くない 家族制度とそれにあぐらをかく夫が悪いのだ」という意味だとすれば極めて単純明快ではある。
そういう人たちから見れば離婚後あなたがどのように経済的に、精神的に追い詰められようと気にならない。離婚を一件成立させることができれば、自分たちの理想である「家族のない世の中」に近づくのである。
活動家の中には一定割合の人間がこういうことを本気で考えている。しかし自分の本音を真正面から主張することは少ないのでわからないだけである。
子どもの貧困の多くは、そもそも労働者の低賃金が原因であり、離婚後は女性の低賃金が原因である。その上、無理やり需要を掘り起こされている。社会から取り残されるという脅迫観念の植え付けが原因である。
子どもや家族が豊かに生きていくための費用である賃金を支払うそういう職場が絶対的に足りないのである。離婚や別居は子どもの貧困を確実に助長する。
このような社会、特に大企業の問題は不問に付して全てを夫の責任として、負担を夫だけに押し付けるという現代のフェミニズムの姿が浮かび上がってくるコメントだった。
低賃金の企業に対して一切文句を言わずその上、スマホ代金などを男性から搾り取って大企業に差し出させようとするのである。
家族制度解体の活動家が既に離婚を成立させて、養育費を支払っている女性を無視できるということもわかりやすい。既に離婚をして家族解体を進めているのだからこれ以上保護を与える意味がないというのであれば実にわかりやすい。
子どもの利益よりも家族解体の促進に価値をおくのであれば離婚の影響で子どもの健全な成長が阻害されること等必要経費のようなものだから、無視できる。そもそも離婚が子どもに悪影響を与えないと頑張っているのかもしれない。
対人関係学は家族という最小の単位を充実させることによって複雑化して、利害対立が多発する現代社会の仲間でも幸せを感じて生きていくことを目指す学問なので、家族解体思想という非科学的な思い付きとは全く相いれないということが今日の考察でつくづく分かった。
4 これから離婚をしようと考えている女性の皆さんへ
以上、今回の養育費の改定のニュースに関する疑問を述べた。これから離婚を考えている女性たちには特に知識を増やしてほしい。
養育費の算定基準が改定されて養育費が上がったところで、そもそもない所からは取れない。女性の賃金の改定の方は一向に着手される気配はない。同一労働、同一賃金に過度の期待をするわけにはいかない。別居や離婚をすれば、確実に経済力は低下する。
バラ色の離婚後の人生はないと思うべきだ。この文章を書いているまさにその時、事務所の電話が鳴り、養育費地獄にあえぐ元夫の悲鳴を聞かされている。「これ以上養育費が上がれば生きていくことができない」という悲鳴だ。現実に支払えないので、賃金の差し押さえをされてしまうだろう差し押さえがなされたら会社から解雇されるだろうというのだ。極めて深刻なメンタル状態であり、自死の危険も否定できない。しかし、解雇されたり、自死されたりすれば養育費は入らないのだ。
都合の良い話ほど真に受けてはならない。あなたにとって都合の良いことを言っている人たちの一定割合は家族制度を解体しようという思想が何よりも優先されている。その思想を実現するためにあなたが離婚させようとしているのだ。
自分や家族の利益を第一に考えて行動するべきだと思う。
できることなら、現状に不満があっても、第三者機関を利用する等して夫をコントロールすることを考えるべきだ。現状を前提として少しでも快適な生活に進んで行こうとすることが最善の策かもしれないという選択肢を頭の片隅に必ず入れてほしい。
「離婚したけれど、こんなはずではなかった。」という電話は本当に悲しすぎる。
養育費、やっと拡充 算定表16年ぶり見直し ひとり親家庭を支援
出典:令和元年12月23日 毎日新聞
養育費、やっと拡充 算定表16年ぶり見直し ひとり親家庭を支援
離婚した親の子が自立するまでの生活費として欠かせない養育費の算定表が16年ぶりに見直された。ひとり親家庭の貧困問題を受け、世相の変化を反映させた結果、増額傾向となった。一方、取り決められた養育費が支払われない例も多く、行政や弁護士が強制的な回収の手立てを模索している。【服部陽】
離婚して別居しても、親は子の生活を保障し、成長する環境を確保する責任を負う。民法は養育費の額の算定に当たり、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定める。
※以下、紙面参照。
最高裁が養育費の算定表を公表しましたが、幼児、高等教育の無償化が進んでいるにもかかわらず増額されています。最高裁が密室で策定し、その算定根拠も明確にしておらず、別居親への逆差別を助長する内容で算定の信頼性が疑われます。養育費を支払ってもその使途が明確でなく本当に子どものために使われているのかも確認できない制度不備の中、別居親の不信感は募るばかりでないでしょうか。また、養育費支払いだけ強制性を持たせていますが、子どもが両親の愛情を受け、自己肯定感を高め、健全な成長に重要な親子交流(面会交流)を置き去りにする最高裁は、子どもの最善の利益を軽視しており、子どもの権利条約を守ろうとする姿勢は全く感じられません。
離婚後の別居親と子 面会交流で両親に変化
出典:令和元年12月22日 東京新聞
離婚後の別居親と子 面会交流で両親に変化
離婚しても子どもにとっては親は二人。そう分かっていても子どもと一緒に暮らす親にとって、別居する親が子どもと定期的に会う(面会交流)となれば複雑な思いもわいてくる。そんな葛藤を乗り越え、面会交流を続ける離婚経験者たちがいる。別居親と子どもの面会交流にはどんな意義があるのか。(佐藤直子)
「子どもと私は別人格。『お父さんはこんな人』という見方を、私から押しつけたくはなかった」。
※以下、紙面参照。
「共同親権」の導入 是非は?
出典:令和元年12月20日 日本経済新聞
法務省は11月中旬、離婚した親と子の関係について検討する研究会を設置した。未成年の子を育てる親の権利や義務である「親権」がテーマだ。いまの民法は父と母が離婚すると、どちらか一方の親が子の親権を持つ「単独親権」を規定している。米欧諸国のように離婚後も父母の両方が子の親権を持つ「共同親権」が必要かどうかを議論する。
共同親権を扱うのは、国内外から現行制度の見直しを求める声が出ているからだ。
「子供は両親から愛される権利も自由も奪われてしまいます」。今年11月、離婚などで親権を持てず子に会えなくなったと主張する男女12人が集団訴訟を起こした。「共同親権を認めない現行法は養育権の侵害にあたり、違憲だ」と国に損害賠償を求めた。
2月には国連の「子どもの権利委員会」が離婚後の共同養育を認める法改正を日本に勧告した。国際結婚が増え、日本人女性が離婚後に海外から無断で子を連れて帰る事例が起き、共同親権の米欧諸国が問題視してきた。日本は米国などに迫られ、国境を越える子の扱いを定めたハーグ条約に加盟し、2014年に同条約は発効した。19年5月には改正ハーグ条約実施法も整備したが米欧には「問題は単独親権だ」との見方も残る。
日本の民法では、親権は父母が共同で行使するのが原則だ。だが離婚した場合は父母の一方しか親権者になれないとも定めている。同居して世話や養育をする身上監護のほか、教育や財産管理が親権の主な内容になる。
民法766条は「子の利益を優先して監護・面会交流の方法を協議で定める」と記している。親権を持たない親が子と会う「面会交流」に関しては、その頻度などの具体的な規定が法律には記されていない。父母の話し合いで決めることが前提になる。
■面会交流の調停増える
衝突が起きるのはこの「協議で定める」ところだ。父母の協議で決着しなければ家庭裁判所(家裁)に調停を申し立てる。家裁が家庭に関する事件を調停する「家事調停」の統計をみると、06年度から面会交流に関する調停の申立件数が急増している。06年度の約7千件から18年は3倍近い約2万件になった。20歳未満の子を持つ夫婦の離婚件数は同時期に減少傾向だったにもかかわらず増えていた。
離婚後に母親が親権を持つ事例は85%に上る。離婚事件を多く扱う弁護士は「日本の司法は『母親に監護させることが子の利益になる』と判断することが多い」と話す。親権を得られなかった父親が母親から子との面会を制限される例もある。
近年は共働き世帯が増え、父親の育児参画が進んでいる。この弁護士は「昔より父親が『子育てに参画したい』と思うようになってきた。母親を親権者とする司法判断に納得できないのだろう」と分析する。面会交流の協議がなかなか決着しないことへの不満が、いまの民法の単独親権の制度への不信につながっていると指摘する声もある。
■父母対立で子に不利益も
とはいっても共同親権を導入すれば様々な問題が解決する、というわけでもない。政府は12月17日、共同親権をもし導入した場合について答弁書を閣議決定した。
「父母が離婚後も子の養育に積極的に関わるようになることが期待される一方、子の養育について適時に適切な合意を形成することができないときは子の利益を害するおそれがある」。共同親権への懸念に答弁書は言及している。
法務省幹部は「民法を改正して共同親権に変えても、父母の合意がなければ面会交流は増えない」と話す。単独親権か共同親権かにかかわらず、面会交流の実施や頻度などは最終的には父母が協議して決めるからだ。「子と離れて暮らす親が『子に会う』という目的は、現行の単独親権の下での協議の枠組みで対応できる」とも強調する。
家庭内暴力や虐待で離婚した父母が共同親権になったとき、子の養育に関する話し合いをどこまでできるのかという指摘もある。子と同居する親が海外に移住したり、子の財産の扱いや進学などを決めたりする際にはその都度、もう片方の親の合意が必要になる。父母の関係が悪ければ、片方の親が幾度も拒否権を行使して様々な決定が滞る可能性も出てくる。
■各国研究から開始
法務省は外務省を通じて海外の親権の実態を調査している。担当者は「まずは論点を整理することが重要だ」と語る。設置した研究会も共同親権の導入を前提に議論を進めていくわけではない。
例えば共同親権を採用する米欧には日本が単独親権のままでも参考にできそうな事例がある。米国では面会交流を民間の第三者が支援する体制が整っており、フランスでは民法典に「面会場」を明記している。片方の親による暴力や虐待を防ぐためのインフラをつくっている。面会交流の実務に携わる弁護士からは、家裁で家事調停の内容を調べる調査官の人員増や、民間の支援施設の整備を求める声もある。共同親権を導入するか否かとは別に、まず米欧諸国を参考に面会交流の支援策を考えるべきだという意見だ。
研究会の議論は20年に本格化する。結論を出す時期は未定だが、民法改正が必要な共同親権を導入するか否かの判断はその後になる。立場によって利害が大きく食い違う問題だ。親が主張する権利で子が不利益を被らないよう、子の視点を意識した慎重な検討が必要になる。
離婚と親権
出典:令和元年12月12日 宮崎日日新聞
◆子ども本位で制度見直しを◆
離婚後も父母が共に子どもの親権を持つ「共同親権」の導入を求める声が広がり、法務省は民法学者や弁護士、最高裁と関係省庁の担当者らから成る「家族法研究会」を発足させ、議論を進めている。面会交流を促進したり、養育費の支払いを確実にしたりする方策も検討する。
親権は親が子どもを監護・教育し、しつけのために戒める、住む場所を指定する、財産を管理する―などの義務と権利で、民法に規定が置かれる。欧米を中心に離婚後の共同親権を認めている国は多いが、日本では離婚したら、どちらか一方を親権者とする「単独親権」だ。
単独親権は進学など子育ての意思決定がしやすいといわれるが、離婚の際に面会交流を決めても、親権者の意思次第で親権を失った親が養育に関われないこともある。一方で共同親権では、離婚の背景に児童虐待やドメスティックバイオレンス(DV)があると、子どもに望ましくない影響が及ぶ懸念がある。
年間20万組以上が離婚し、子どもの奪い合いは絶えない。単独か共同か。どちらかを選択できるか。課題は多いが、研究会には、親の事情で争いに巻き込まれた子ども本位で制度見直しに取り組むことが求められる。
40~60代の男女12人が先月下旬、単独親権制度は法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法に反し、子育ての権利を侵害されたとして国に損害賠償を求め東京地裁に提訴。国に共同親権制度の立法を怠った責任があると主張する。離婚協議などで面会交流の内容が決められるが、原告で最も頻度の高い人は「月2回程度、2時間」。幼いころ会えなくなり、成人後の行方すら分からないケースもある。
司法統計によると、離婚や別居をした父母が子どもの監護を巡って対立し、家庭裁判所に申し立てられた調停・審判は2018年に4万4千件余りに達し09年と比べて約1万1千件増えた。また厚生労働省の16年度全国ひとり親世帯等調査では、養育費について離婚した父親から「現在も受けている」は24・3%、母親からは3・2%。面会交流については「現在も行っている」が母子世帯で29・8%、父子世帯で45・5%だった。
いずれも低調で、離婚時に子どもの養育計画策定を父母に義務付ける案もあるが、DVの被害者が加害者から離れるのを難しくする恐れも指摘される。共同親権でも、全てが解決するわけではない。DVや虐待、父母の対立が持ち越され、離婚後の子育てが不安定になることも考えられる。
それぞれの制度の問題点の相談・支援体制の拡充で、どこまで対応できるかが今後の議論の焦点となろう。
「単独親権は違憲」 国を提訴 欧米は共同親権主流
出典:令和元年12月7日 中日新聞
「単独親権は違憲」 国を提訴 欧米は共同親権主流
離婚しても親なのに
民法は離婚後、父母どちらか一方にしか子どもの親権を認めない。この「単独親権制度」を憲法違反として、親権を奪われた親たちが国を相手に集団訴訟を起こした。子を見守り、育てるという基本的人権(養育権)を侵害され、「一緒に過ごせたはずの時間を奪われた苦しみ」を訴える。離婚を親子の断絶につなげてしまう制度を温存してきたとして、国の姿勢を問うこの訴訟。見据えるのは、両親がともに子育てにかかわれる共同親権制度の実現だ。
※以下、紙面参照。
離婚後の子、どう守る
出典:令和元年12月2日 朝日新聞
夫婦の3組に1組が離婚する時代。親が離婚した子は20万人を超え、1950年の約2.7倍に増えた。母親が引き取ることが多いが、母子家庭の7割超は養育費を受け取れず、立て替え払いを検討する自治体も出てきた。一方、父親の約半数は離別した子と交流したことがなく、面会を求める訴訟が相次ぐ。離婚後の子の養育を社会はどう支えるべきか。
■養育費不払い多発、個人の対応に限界 大阪社会部・長富由希子
元夫の不倫が原因で3歳と7歳の子を連れ、約5年前に離婚した神奈川県の会社員女性(36)は嘆く。「出来ることは全てしたが、元夫が養育費を払わない。このままでは子どもを大学に行かせられない」
2人で計月14万円。裁判所の調停で離婚した際、会社社長の元夫の収入などから養育費の額は決まったが、約1年で不払いになった。裁判所から「不払いになっても相手の財産を差し押さえる強制執行がある」との説明を受けていたが、手続きの大変さに驚いた。
法律を調べ、裁判所が元夫に支払いを促す「履行勧告」をしたが、強制力がなく反応がない。元夫の預貯金の差し押さえを考えたが、口座がある銀行の支店名まで自分で探す必要がある。夫の行動範囲の銀行を探し、法務局などで銀行の代表者事項証明書などを取り、裁判所に強制執行を申し立てた。
弁護士への依頼も考えたが、15万円と言われた着手金が払えない。自力で手続きを進めて三つの口座を差し押さえたが、離婚時に相当額あった残高は、10万円以下に激減していた。女性は「養育費から逃げるマニュアルがネットにあふれている。元夫が強制執行を恐れ、貯金を移したと思う」と肩を落とす。元夫は再婚した相手とも離婚し、今は新しい彼女がいて、海外旅行も楽しんでいると知人に聞いた。
来春からは手続きが少し楽になる。改正民事執行法が施行され、不払いの親の勤務先や預貯金の情報提供を裁判所が市町村や銀行などに命じられる。養育費に詳しい榊原富士子弁護士は「前進だが、調停調書などの公の文書で養育費を決めた人だけが対象。手続きの時間や精神的余裕がない親が多い。そもそも、養育費を決めていない母子家庭が過半数。根本解決からほど遠い」と話す。
労働政策研究・研修機構の調査では、子と別居する父の年収が500万円以上の74%もが不払いだ。養育費を受け取る母子家庭は厚生労働省の2016年度調査でわずか24%。OECDによると、子がいる大人が1人の現役世帯の相対的貧困率は先進国で最悪水準だ。小川富之福岡大教授(家族法)は「政策決定の場に女性が少なく、困窮した母子の政治的影響力も小さい中、国が放置してきた」と指摘する。
この事態にしびれを切らしたのが兵庫県明石市だ。市が養育費を立て替えた上、親に市が請求する独自条例案の検討を始めた。子が市民の場合に限られる見込みで、泉房穂市長は「国が動いて」と訴える。
子どもの権利条約は、扶養料の確保策をとるよう締約国に求め、欧米や韓国は不払いへの罰則や立て替え払いで積極介入する。「私人間の紛争に行政は介入すべきでない」との考えもあるが、同志社大の横田光平教授(行政法)は「建設工事の請負契約の紛争解決など、私人間の紛争への行政の関与はあり、ハードルではない」とみる。
小川教授によると、豪州も1988年調査の「養育費支払率」は34%だが、「子の貧困の撲滅」をめざして養育費対策法を80年代後半に制定し、徴収する行政機関をつくった。父母の課税所得の情報を国税局から受けて額を毎年自動調整し、不払いには給与の強制的な天引きや出国禁止も実施。近年の徴収率は養育費支払総額の97%にのぼる。
「離婚相手と関わりたくない」「相手からDVを受けていた」――。不払いには多様な事情もあり、元夫婦だけで解決するのは限界がある。その中で「離れて暮らす親は経済力があるのに、自分の食費や教育費を払ってくれず、生活が苦しい」という子どもたちがいる。安倍晋三首相は4年近く前の16年1月の参院決算委員会で「子どもの貧困対策は未来への投資であり、国を挙げて推進していく」と述べている。政府は、いつまで、多発する養育費の不払いから目をそらすのか。
■面会に強制力なし、共同親権求める声 専門記者(家族担当)・杉原里美
11月の週末、都内のコンビニの駐車場で、NPO法人ウィーズの職員が40代の母親から小学生の男の子2人を預かり、父親が待つ近くの施設へ向かった。子どもたちは父親と2時間ボール投げなどをして遊び、別の場所で母親に返された。
ウィーズは離婚や別居した親子の面会交流を支援する団体だ。顔を合わせたくない父母の間に入り、仲介する。
母親は面会に消極的だったが、離婚への疑問が消えない子どもたちを見て「自分の目で判断してほしい」と父親に会わせている。「元夫に子どもを連れ去られないか不安だったので、第三者が見守ってくれるのはありがたい」
ウィーズ理事の羽賀晃さん(47)は「親と会えば似ているところが分かったり、話を聞いて離婚を納得できたりする。子の自己肯定感を育てるためにも、面会交流は重要だ」と話す。
だが、日本では離婚後も両親と子どもが交流を続けるケースは少ない。
日本は離婚すると父母の片方しか親権を持てない「単独親権」を採用しており、母親が子を引き取るケースが約9割と圧倒的だ。「夫婦の離婚」が「親子の絶縁」につながっている。
民法では、離婚時に親子の面会交流や養育費を取り決めると定めているが、強制力はない。厚生労働省の2016年度調査では、母子家庭の46%は父と子の面会交流の経験がなかった。
一方、欧米では離婚後も子どもが双方の親から養育を受けられるよう、「共同親権」が主流だ。アジアにも広がっており、韓国は08年から、子がいる夫婦の離婚では、面会交流の日程や養育費の受取口座などを記した協議書の提出を義務づけた。家庭法院(家裁)で最長1年間、面会交流の支援を無料で受けられるところもある。
日本への視線は厳しさを増す。今年2月には、国連子どもの権利委員会が離婚後も子どもの共同養育を認めるよう日本に法改正を勧告した。
法務省は11月、家族法研究会を設け、ようやく共同親権の是非を含めた議論を始めた。ただ、「方向性は定めない」(発表当時の河井克行法相)としており、親権や面会交流のあり方が変わるかは不透明だ。
政府の腰は重いが、現状を変えようとする動きは強まっている。
離婚などで子に会えなくなった父母14人が18年、面会交流制度の不備を訴えて集団提訴。11月22日の東京地裁判決は「面会交流は憲法上保障された権利とはいえない」と退けたが、同じ日には離婚後の共同親権を求める集団訴訟も新たに東京地裁に起こされた。
ただ、面会交流や共同親権を進めることに慎重な意見もある。ひとり親支援団体でつくる「シングルマザーサポート団体全国協議会」は、共同親権の導入に否定的だ。離婚訴訟で精神的なDVが認められにくいため、「DVから母子が逃げた後も夫による支配が続く」という懸念が念頭にある。
DV防止は重要だが、親権を失い、子どもに会えなくなっているのはDV加害者ばかりではない。これまで取材で会った人たちの中には、育児に積極的に関わっていた父親や、DV加害者の夫に子どもを奪い取られた母親もいる。子どもの立場からみても、一方の親に急に会えなくなった経験を持つ子は、親密な人間関係を築くのが苦手になるという調査結果もある。
離婚で子どもの親権をめぐって争いになるのを防ぎ、子どもの人格を尊重するためにも、養育費や面会交流の取り決めを義務化し、問題なければ共同親権も選べる制度が必要ではないか。
韓国では、離婚制度改正時に民間のDVシェルターへの予算を増やし、加害者の処罰と被害者保護を強化した。米国・カリフォルニア州では、面会交流の部屋に危険があれば警察に通報できるボタンがあった。海外の事例も参考に、法整備を急いでほしい。
「単独親権は違憲」提訴 離婚後、親子断絶 面会の約束ほご
出典:令和元年12月1日 東京新聞
民法は離婚後、父母のどちらか一方にしか子どもの親権を認めない。この「単独親権制度」を憲法違反として、親権を奪われた親たちが国を相手に集団訴訟を起こした。子を見守り、育てるという基本的人権(養育権)を侵害され、「一緒に過ごせたはずの時間を奪われた苦しみ」を訴える。離婚を親子の断絶にまでつなげてしまう制度を温存してきた国の姿勢を問うこの訴訟が見据えるのは、両親がともに子育てにかかわれる共同親権制度の実現だ。 (佐藤直子)
以下、記事参照。
子どもの人権尊重 欧州議会が決議 日本の現状には触れず
出典:令和元年11月28日 東京新聞
子どもの人権尊重 欧州議会が決議 日本の現状には触れず
国連の「子どもの権利条約(CRC)」(1989年11月20日採択)の30周年を記念し、欧州議会は26日、フランス東部ストラスブールで本会議を開き、子どもの人権に関する決議を採択した。
世界中の子どもたちを守り、権利を推進するとするCRCの理念の尊重を確認する一方で、欧州連合(EU)が長く問題視する「日本の実子連れ去り問題」については明記されなかった。
記念演説で、イタリア選出の議員は「(94年にCRCを批准した)日本では毎年、推定15万人もの子が一方の親に連れ去られている。裁判所の判決を無視しても制裁は科せられない」と批判し、日本在住のイタリア人とフランス人の被害ケースを実名で紹介した。決議の「対外的方針」では、離婚後単独親権制度を規定する日本の現状には触れなかった。
CRCの締約国・地域は200近くに上る。日本は94年に批准、2014年には国際的な連れ去りに対処する「ハーグ条約」も批准している。(早川昌幸)
【記念演説の動画】
https://www.youtube.com/watch?v=-etEa_OJZMY
「海外では共同親権が主流、それなのに…」単独親権違憲訴訟提訴
出典:令和元年11月22日 毎日新聞
「海外では共同親権が主流、それなのに…」単独親権違憲訴訟提訴
単独親権制度は憲法に違反するとして、子どもの養育に関われなくなった親たちが22日に国家賠償訴訟を起こした。海外では共同親権が主流で、国内でも法務省が離婚後の養育の在り方の研究会を発足させた。子どもとの交流を断たれた親からは制度改正への期待が高まるが、慎重論も根強い。
※以下、紙面参照
「共同親権」求め、別居親ら初の集団提訴 東京地裁
出典:令和元年11月22日 産経新聞
離婚すると父母の一方しか子供の親権を持てない「単独親権」制度は法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法の規定に反し、子育てをする権利が侵害されて精神的苦痛を受けたとして、8都道府県の40~60代の男女12人が22日、国に計1200万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に提起した。
原告側によると、単独親権制度を違憲だと主張する集団訴訟は初めて。これとは別に都内の男性1人が今年3月に同様の訴訟を起こし、東京地裁で係争中。
訴状によると、原告らは離婚で親権を失うなどして子供と別居し、子育ての意思があるのに「司法に救済を求めてもわずかな面会交流しか認められない」などと主張。国には「共同親権」制度の立法を怠った責任があるとしている。
中学2年の娘と月に1度しか会えないという原告でフリーライターの宗像(むなかた)充さん(44)は、提訴後に会見し「子供に会えないのは親の個人的な問題だといわれるが、社会や制度の問題だと訴えたい。親と会えない子供たちは、会えないことをあきらめないでほしいと伝えたい」と話した。
法務省は「訴状を受け取っていないのでコメントできない」としている。
離婚後「子に関わりたい」 親権のあり方、議論広がる
出典:令和元年11月22日 日本経済新聞
離婚後に父母の一方しか子の親権を持てない「単独親権」の見直しを求める声が強まっている。親権を持たないため子どもに自由に会えなくなったという父母らが22日、現行制度は違憲として集団提訴した。単独親権を採用する国は先進国では珍しく、離婚後も子育てに関わり続けたいという人は増えるなか、共同親権導入の是非を巡る議論も進んでいる。
「離婚や別居をすると、なぜ愛する子どもと会えないのか」。離婚などで子の養育に関わるのが難しくなった8都道府県の男女12人が22日、国に計1200万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こし、都内で記者会見した。弁護団によると、単独親権制度を違憲として国に賠償を求める集団訴訟は初めてという。
訴状によると、12人は離婚や別居などを機に子と自由に会うことができなくなった。子を養育する権利は憲法が保障する基本的人権にあたり、離婚後の共同親権制度を整備しない国の対応は違法と訴えている。
原告の一人は子どもが1歳半の時に離婚し約11年がたつが「年3回の面会交流が一度も守られたことがない」と訴えた。
親権は親が子を保護・監督し、教育を受けさせたり財産を管理したりする義務と権利を指す。民法は婚姻中は父母が共同で親権を持ち、離婚の際はどちらか一方が持つと規定している。年間約20万組の夫婦が離婚するが、日常的に子の面倒を見ていることが重視され、母親が親権を持つケースが多い。
単独親権は、子育てで進学や医療などに関する意思決定がしやすい一方、親権を失った親は養育に関与しにくくなる面がある。調停や審判を通じて面会の頻度や時間を決めても、守られずに子との交流が絶たれるケースも少なくない。
離婚に際して子どもを巡る争いは増えている。司法統計などによると、子の監護を巡って父母が対立し、申し立てられた調停・審判は2018年に約4万4300件に上り、09年と比べ約1万1千件増加。別居する親が子との面会を求める調停申し立ては18年に約1万3千件あった。
専門家は背景として、共働き世帯や育児参加する父親の増加、少子化などを背景に、子と親の結びつきが強くなっていることを指摘する。
こうした状況を受け大学教授や裁判官らによる研究会が11月、離婚後の共同親権導入の是非について議論を始めた。虐待やドメスティックバイオレンス(DV)を理由に離婚するケースもあるため、導入を前提とした場合、どのようなケースで共同親権を認めるかや、父母がどのように養育に伴う決定に関わるかを整理する。そのうえで、導入が必要と法相が判断すれば、法制審議会に諮問することになる。
早稲田大の棚村政行教授(家族法)は「共同親権は世界的な流れだが、導入であらゆる問題が解決するわけではない」と指摘。「親権の見直しにあたっては子の権利を最優先に考え、虐待やDV被害への支援体制をどう整えるかといった包括的な議論が必要だ」と話している。
■「共同親権」欧米で主流
法務省の委託調査などによると、米国や英国など離婚後の共同親権を認める国は多い。親との面会交流は「子の権利」として位置づけられ、子の意見を聴いた上で積極的に交流を認める傾向が強いという。
家制度を色濃く反映した明治民法では、父の単独親権が原則で、母が親権者になるのは父の死亡など例外的な場合に限られていた。戦後の民法改正で現在の制度に改められたが、当時は欧米諸国も単独親権が主流だったため、大きく問題視されることはなかった。
米カリフォルニア州では1970年代に「共同監護」の制度を導入。離婚後も親子が継続的に面会することが州の基本政策とされ、80年代以降に全米に広がった。監護権を持つ親が面会交流を妨害すれば、制裁金や拘禁などの処罰が科される。
このほか、韓国は離婚後の親権について父を優先する原則があったが、90年の民法改正で単独親権か共同親権かを選択できるようになった。
「離婚後の親権、片方のみの制度は違憲」 国を集団提訴
出典:令和元年11月22日 朝日新聞
離婚したら父母のどちらかしか子の親権を持てない民法の単独親権制度は、親の養育権を侵害し、法の下の平等などを定めた憲法に違反しているとして、東京、長野、兵庫など8都道府県の男女12人が22日、国を相手取り1人あたり100万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
民法では、婚姻中は父母が共同で親権を持つが、離婚後は片方を親権者と定めなければならない。
原告は離婚して親権を失ったり、離婚協議中で別居したりしている40代から60代の男女。訴状などによると、親が子を監護・養育する権利は憲法13条で保障される基本的人権であり、単独親権制度は、親権を失う親の養育権を侵害し、婚姻の有無で差別していると主張している。
原告で長野県に住む小畑ちさほさん(57)は、元夫が親権を持っており、学校から子どもの様子を知らせてもらえなかった。「子どもを養育するということは、日常の喜びや悲しみを共有することであり、月に1、2回程度の面会交流では不十分だ。単独親権は問題だということを知ってほしい」と話した。(杉原里美)
離婚と子ども 法整備を、「面会交流」や「共同親権」
出典:令和元年11月22日 TBSニュース
離婚後の親と子どもの関係をめぐって、法制度の整備を求める裁判が相次いでいます。
娘の写真を見て涙を流すのは、関東地方に住む30代の女性です。元夫のもとにいる2人の娘と思うように会えないつらさを訴えます。
「いや、つらかったですね」(原告の30代女性)
5年前、2人の娘は元夫が連れ去るように引き取りましたが、裁判の末、親権は元夫に認められました。次女は本人も望んでいるとして一定の制限のもとで面会ができてはいますが、長女は・・・
「『きょうはパパといるから行かない』と言いだして。『どうしたの』と聞くと、泣いて答えられなくなったり、板挟みになったり」(原告の30代女性)
会って確めることもできないまま、子どもが望んでいないとされ、およそ4年間、面会できていません。女性はこう訴えます。
「夫婦としてうまくいかなくても、子どものために協力して、子育てできるのが一番いいのかなと」(原告の30代女性)
そもそも離婚した親と子の「面会交流がきちんと行えるよう、法整備をしていないこと自体がおかしい」。女性は他の13人と、国に対し、あわせて900万円の損害賠償を求める裁判を去年3月に起こしました。
しかし、22日、東京地裁は「立法措置が必要不可欠だとは認められない」として、女性らの請求を退ける判決を言い渡しました。
一方、22日、もうひとつの裁判が起こされました。離婚した親のどちらかしか親権を持てないのは憲法違反だとして、「共同親権制度」を求めて男女12人が国を相手取り、初めて集団提訴をしたのです。
「夫婦の別れが親子の別れにもつながっています。子ども目線で見ても単独親権は何のメリットもありません。子どもならば両方の親に甘えたいし、一緒に過ごしたいと思うのは当然です」(「共同親権制度」求めて提訴 原告の男性)
3組に1組が離婚している現在の日本。法制度はどうあるべきか、裁判が続いています。
「単独親権は違憲」と集団提訴 子育ての権利侵害、国を相手に―東京地裁
出典:令和元年11月22日 時事通信
「単独親権は違憲」と集団提訴 子育ての権利侵害、国を相手に―東京地裁
子どもの親権を父母一方に限る単独親権は親の権利侵害として東京地裁に提訴する原告団=22日午後、東京地裁
離婚後は父母のどちらか一方にしか子どもの親権を認めない民法の「単独親権規定」は法の下の平等に反し違憲だなどとして、男女12人が22日、国に総額1200万円の賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。原告代理人によると、単独親権をめぐる集団訴訟は初。
訴えたのは、東京、長野、兵庫など8都道府県の男女。訴状で、離婚や別居で子どもと自由に面会できなくなり、「通常の親子関係を奪われ、精神的苦痛を受けた」などとしている。
提訴後、記者会見した原告らは「離婚を親子関係の断絶につなげてしまう制度は不合理だ」と主張。「親権を持つ親が拒めば子どもに会う手段がなくなる。愛する子を見守れる制度を整えてほしい」などと訴えた。
「面会交流」立法不作為訴訟 原告の請求棄却 東京地裁
出典:令和元年11月22日 毎日新聞
離婚や別居で面会交流の機会を確保するための立法措置が講じられていないのは違憲として、子どもと会えなくなった親が計900万円の国家賠償を求めた訴訟で、東京地裁は22日、請求を棄却した。
原告は父母ら14人。離婚や別居した際に、家族間で子どもと面会する約束を交わしていたが、実現していないと訴えていた。前沢達朗裁判長は「別居している親の面会交流権が憲法上保障された権利であるということはできない」などと述べた。
国は「主張が認められたと理解している」とのコメントした。【巽賢司】
続「共同親権の展望」(下)海外の厳しい目
出典:令和元年10月13日 中日新聞
続「共同親権の展望」(下)海外の厳しい目 早川昌幸(読者センター)
フランスの人権派弁護士ジェシカ・フィナーリさんの法律事務所(パリ)は今年八月、国連の人権理事会(HRC)に対し、「日本の“実子誘拐”が重大な人権侵害に当たる」と申し立て、受理された、と発表した。
◆実子連れ去りを非難
フィナーリ弁護士らは、NPO法人「絆・チャイルド・ペアレント・リユニオン」(東京)の推計データを基に「毎年十五万人の子どもたちが、片方の親によって不法に連れ去られ、子どもの最善の利益という基本的人権が尊重されていない」と非難した。九月二十日には、同じ事務所のフランソワ・ジムレ弁護士(元人権担当フランス大使)が、フランス人で当事者の一人、ビンセント・フィショーさんとともに参院法務委員会のメンバーを訪ね、連れ去りの“被害”を訴えた。
フィショーさんは一年前、東京・世田谷の自宅に帰ってくると、日本人の妻と三歳の息子、十一カ月の娘が姿を消していた。フィショーさんによると、「離婚の示唆」はしたが、具体的な話し合いは何も進んでいなかった、という。
ことし六月、来日中のマクロン大統領がフランス大使館で日本国内の当事者と面会。親としての悲痛な思いを共有し、後日、夕食を共にした安倍晋三首相にこの問題について述べた。今回の一行の国会訪問は、それを踏まえての行動という。
欧米で主流の「共同親権」は、離婚後も父母の双方が養育・監護に責任を持つことが、子どもの利益につながるとの考えに基づく。日本は二〇一四年、国際結婚の破綻時に子どもの連れ去りを防ぐハーグ条約に加盟したが、面会交流の実情は先進国の標準とはほど遠い。その元凶が「単独親権」とみられているのだ。自らの意見を表明できない幼子の場合、誰かが代弁しなければならないという「世界の常識」をあらためて国内でも共有する必要があるだろう。
愛知県内の大手メーカー社員の男性(43)は「試行的面会交流」でたった三十分間、四歳の長女と〇歳の長男と触れ合ったきり、会えない状況が続く。
父親側の弁護士によると、家裁調査官から裁判官あてに「父子交流の機会を設けることが相当と考える」との調査報告書が出たが、妻側の代理人弁護士は裁判所で「面会交流はしない。離婚したら会わせる」との一点張りだった。その主張に裁判官も疑問を投げ掛けているという。男性にとって救いになった娘からの手紙には、こうつづられている。「みんなでいたいよ」「かくれて ごめんね」「パパ だいすきだよう」
米国の事情に詳しい棚瀬孝雄弁護士(76)によると、カリフォルニア州では「離婚または別居後も、両方の親が子育ての責任と権限を共有することが州の公共政策である」と宣言。面会交流について「頻回かつ定期的」と踏み込んだ内容を規定している。改正民法七六六条は面会交流の取り決めを定めたが、明示的な指針は与えられていない。
一六年三月、千葉家裁松戸支部が夫を親権者とした「松戸判決」。後に、高裁で同居親を重視する従来の「継続性の原則」を踏襲し、妻が逆転勝訴し、最高裁も夫の上告を受理しなかったが、面会交流を相手方に幅広く認めた方を親権者とする「寛容性の原則」を適用した一審は、日本では「異例」と注目を集めた。
一審家裁支部は「(親権者になった場合)妻に娘を年間百日会わせる」「その約束を破った場合は親権者変更に応じる」との夫の提案を評価し、夫を親権者とする判決を下したのに対し、二審東京高裁は「面会の重要性は高くない。年間百日の面会は近所の友達との交流などに支障が生ずる恐れがあり、子の利益になるとは限らない。子は妻との同居で順調に成長しており、妻が親権者として適当」と判示した。その後、妻は娘を夫に面会させることもなく、娘は父親と九年以上会えないでいるという。
離婚後単独親権違憲訴訟の原告代理人・作花知志(さっかともし)弁護士は、再婚相手からの児童虐待事件を例に「親権者が一人に減ることで、侵害される子どもたちの基本的人権をどう守っていくのか」と問題提起し、「共同親権の導入後を見据え、子どもを守る諸施策の議論は、もう始めていなければならない」と訴える。
◆両方の親で見守りを
外国特派員協会での会見をきっかけに、関心を持ったという米有力紙ワシントン・ポストのサイモン・デニヤ東京支局長は、日本の現状をこう危惧する。「子どもには両方の親に見守られる権利があるし、(危険な状態が生じないという前提で)片方の親がそれを拒む権利はないと思う。すべての西洋人の考えを代弁することは、もちろんできないが、多くの人が日本の問題点を同じように感じているのではないか」
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「娘が車のトランクに」日本で横行する実子誘拐 「連れ去り勝ち」にEU各国が抗議
出典:令和元年10月10日 PRESIDENT Online
「娘が車のトランクに」日本で横行する実子誘拐 「連れ去り勝ち」にEU各国が抗議
日本は離婚すると親権が父か母のどちらかにうつる。だが、こうした「単独親権」を採るのは、G20の中で日本とインド、トルコだけだ。ほかの国では離婚後も父母ともに親権がある「共同親権」のため、国際結婚ではトラブルが起きやすい。なかでも深刻なのが相手の了解なしに子どもを連れ去る「実子誘拐」だ——。
娘は車のトランクに入れられて「誘拐」された
2018年8月、東京・世田谷に住むフランス出身のヴィンセント・フィショ氏は、仕事から帰ると自宅が空っぽになっていたことに愕然とした。妻と3歳の息子、11カ月の娘が、忽然
こつぜんと姿を消していた。一体何があったのか……。
両親の離婚後、子どもの親権について父親か母親かのどちらかに帰属する「単独親権制度」を採る日本。「相手方に取られる前に子どもの親権を自分のものにしたい」と、ある日突然、実子を連れ去る「実子誘拐」が横行し、外交問題にまで発展しようとしている。
フィショ氏の場合、妻側の弁護士から後日「今後のご連絡等はすべて当職までいただきたい」とする紙切れ一枚が届き、以来、子どもと会うことはおろか、連絡を取ることもできず、何をしているのかもわからない状態だ。
後で防犯カメラの映像を確認すると、彼の娘は自宅のガレージから車のトランクに入れられて実の母親によって「誘拐」されたという。「実子誘拐は児童虐待で、深刻な人権侵害だ。日本はなぜこのようなことがまかり通るのか」と彼は憤る。
「子どもたちの権利のために闘いたい」
イタリア出身で東京在住のトッマーソ・ペリーナ氏は、妻が休暇で2人の子どもを連れて実家に帰った際、その数日後に妻から「離婚したい」と告げられたという。ペリーナ氏は、2017年8月から息子と娘に会えていない。
仙台家庭裁判所は、彼に子どもと会うことができる「面会交流権」を審判で認めたが、彼の妻はその命令の受け入れを拒否し、住所も変えてしまった。日本の警察は、彼の子どもたちの居場所を把握しているが、イタリア大使館が警察や外務省に問い合わせても回答はない。
ペリーナ氏は、子どもに会うために、さらに同家裁に「調停」を申立てることになる。このような家裁の手続きの慣習により、連れ去られてから再び会えるまで、さらに長い時間を要することになる。子どもに会えないまま、すでに2年がたっている。
「子どもたちには、父親、母親の両方と一緒にいるための権利がある。自分の権利のためではなく、子どもたちの権利のために自分は闘いたい」と彼は「宣戦布告」する。
世界でも珍しい「単独親権制度」の日本
フィショ氏もペリーナ氏も、それぞれの大使館を通して子どもたちの身の安全を確認するよう要請しており、各国大使は日本に滞在している本国の未成年者の住所や健康事情などを把握する責任があるが、これに対する協力を別居親自身も日本政府も、拒否している状況だ。これについての大使の権限はウィーン条約の取り決めのため、この条約を日本は守っていないことになる。
単独親権制度は、世界でも珍しくG20の中では日本とインド、トルコのみだ。ほかの国は離婚後も両親ともに親権がある「共同親権」制度となっている。
フィショ、トッマーソ両氏のようなケースは、日本人同士の夫婦においても横行しており、これまでに数十万人の子どもたちが一方の親から引き離されている。
近年の国際結婚の増加により、外国人がこうした「連れ去り」の被害者となり、日本政府や国連への抗議活動を行い、こうした問題を指摘し始めた。それによって、今、深刻な外交問題となりつつある。
26人のEU加盟国大使が日本に文書を提出
子どもたちが日本で誘拐されて以降、日本に住み続けているフィショ、ペリーナ両氏は、ヨーロッパで、この問題への関心を向ける政治的な働きかけも行う。昨年、26人のEU加盟国大使が親に会う子どもの権利を尊重するよう日本に訴えかける文書を出したが、その動きを後押ししたのも彼らだ。
今年6月には、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が、フィショ氏やほかのフランス人の父親と会談。安倍晋三首相に彼らの状況について問題提起した上で、「容認できない」と言及した。
イタリアのジュゼッペ・コンテ首相もまた、6月に大阪で開催されたG20のグループ会議でイタリアの両親の権利について安倍首相と話した。以来、フランスとイタリアのメディアは頻繁にこの問題を取り上げている。
8月、フィショとペリーナ両氏は、ほかの7人の父親と1人の母親とともに、米国、カナダ、フランス、イタリア、日本にいる14人の子どもの代理として、国連人権理事会に正式に告訴を申立てた。今の状況が、「子どもの権利条約」および「国際的な子の奪取に関するハーグ条約」に大きく違反しているためだ。
国連は法律の改正を日本政府に勧告した
日本は1994年に子どもの権利条約に批准しているが、「児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する(9条1項)」などとする条約内容に明確に違反する状態となっている。
このため、国連の子どもの権利委員会は今年2月、共同親権を認めるために離婚後の親子関係に関する法律を改正することを日本政府に勧告した。日本が「単独親権」の状態のまま問題を放置していることを、国際社会から公然と非難されているということだ。
この問題に取り組む上野晃弁護士は、日本人同士の夫婦で同じように事実上誘拐され、もう一方の親との接触を断たれる子どもたちは「年間数万人に上る」と話す。多くの場合、父親が連れ去りの「被害者」となるが、彼らが子どもに会おうとしても、政府や裁判所は助けてはくれない。
裁判所は、これまでの子どもの生活拠点を優先する「継続性の原則」を適用して、一方の親(たいていは母親)に親権を与える。また、刑法の未成年者誘拐の規定は「実の親はのぞく」といった規定は設けられていないにもかかわらず、実の親が子どもを連れ去った場合は、誘拐には当たらない慣習となっている。時間がたって子どもが新しい環境に馴染
なじめば、「誘拐」の事実はなかったことになり、連れ去った側のみに親権が与えられることになる。
「DVがあった」と主張すれば親権が奪える
上野弁護士は、「問題は日本文化に深く根差している」と言う。伝統的に、子どもは一人の人格を持った人間というより、「家の所有」と考えられている。子どもが新しい家に移されると、引き離された側の親は、新しい家に介入する権利のない「部外者」にされてしまう。「数え切れないほどの数の子どもを奪われた日本の親たちが沈黙を強いられている」と語ります。
また、日本では、ドメスティックバイオレンス(DV)の申立ての真偽を評価する仕組みがなく、その結果、DVの申立ては離婚の際に当たり前のようになされる。DVの申立てをすることで、相手方と子どもとの交流を拒否する根拠となり、「確実に親権を奪える」ことになる。
フィショとペリーナ両氏はどちらもDVの申立てがなされ、その主張を覆すことができた。フィショ氏は、妻が「家に閉じ込められていた」と主張した2週間の間に買い物と外食をしていたことを、領収書や銀行取引明細書、写真などで証明し、ペリーナ氏に対する申し立てについては、裁判所は「虚偽である」と判断した。
裁判所はフィショ氏の親権の主張を退けた
今年7月、DVの認定はされなかったものの、裁判所はフィショ氏の親権の主張を退けた。裁判官は、「妻は1年以上子どもの世話をしており、子どもたちの教育により深く関わり、より多くの愛情を持っていた」と判断したのだ。車のトランクに子どもを入れて連れ去ったことについては、「本人かどうか特定できない」。フィショ氏は、「家のガレージから連れ去られて、母親ではないなら誰なの? それこそ大事件でしょ」とその判断のおかしさを指摘する。もっともだ。
こうしている間にも、単純計算で数十人の子どもたちが国内で一方の親から引き離されているかもしれない。フィショ、ペリーナ両氏は、今後も国内外で訴えを強めていくという。
国内の政治家、行政、裁判所も、海外からの声にようやく、重い腰を上げる時が来た。実子誘拐が犯罪となり、子どもたちが親から引き離されなくなる制度が実現する日が、もう目の前に来ている
DV被害、追い出し離婚…、共同親権を望む母親たちの声
出典:令和元年10月8日 Yahooニュース
これまで日本における子どもの連れ去り被害や、共同親権を望む当事者の声は父親がほとんどでした。しかし、実際には母親の側も共同親権を望んでいるのです。特にDVの被害に遭い、しかも親権をとれなかった別居母親たちの声は全く社会には届いていません。
共同親権の説明についてはこちらの記事をご覧ください。
日本でも離婚後の「共同親権」導入を(親子が親子であることを当たり前の社会へ)
今回は、追い出し離婚によって子どもたちと引き離された母親と、DVの被害に遭い子どもたちと一緒に逃げ出した母親について取材しました。
現代にも残る「追い出し離婚」の実態
ジブリさん(仮名・40代)は「追い出し離婚」の被害者です。長男と長女の2人と無理矢理に引き離された後、元夫側から子どもたちに会いたいなら離婚届に署名しろと脅迫を受けました。今現在、子どもたちは徳島県の山間部に住んでいますが、限界集落での生活を余儀なくされています。子どもたちにはアレルギー疾患が判明していましたが、治療も受けられず医療虐待の疑いがあります。今年7月には子どもたちをジブリさんが引き取ることになっていましたが、元義父に妨害され音信不通です。警察にも介入してもらっていますが、向こうの元義父母から跡継ぎが出来たのでジブリさんはもう用済みだと言われています。
ジブリさんは「子どもたちに会えるという期待や希望が踏みにじられてからは、日常生活もまともに送れず涙が止まらない日々が続いています。何とかアレルギー疾患で命を落とす事が無いよう回避して欲しいと願っています。そして、必ず時間が掛かったとしても会えたときには二人の子どもたちを思いきり抱きしめたいです。共同親権であれば子どもたちの意志も尊重されるようになると思いますし、そう願っています。」と涙声で語っていました。
DV被害者が共同親権を望む理由
岡田 茜さん(仮名・40代)はDV被害者で二児の母親です。元夫によるDV被害から逃れるため子どもたちと一緒に警察に保護を求めてシェルターへ避難しました。保護命令1回目の期間中に元夫からの接触(脅迫行為)があり、2回目(延長)を申請して受理されています。判決では面会交流は「無し」となりましたが、離婚成立後に岡田さんの一存で数回子どもたちと面会させていました。
共同親権のことを岡田さんが知ったきっかけは児童福祉施設でのボランティア活動だったといいます。離れて暮らす実両親を恋しがる子どもたちに触れ、子どもの気持ち、親権の在り方について考えたのが始まりでした。あるお子さんに「新しいお家、嫌だ。本当のお父さんの所がいい。先生お願い、連れてって」と言われたときは本当に辛かったし、今でも思い出すと涙が出てくるそうです。
岡田さんは「子どもの連れ去り、虚偽DVという言葉はTwitterの書き込みを見て知りました。まさかこんな悲しみが潜んでいたのかと、かなり衝撃を受けましたね。子どもと引き離された親の悲しみと、親を求めた施設の子どもたちが重なって一気に引き込まれていきました。」と、そのときの想いを語ってくれました。
同じDV被害者からも理解されない悩み
岡田さんはDV被害者の中で「単独親権=同居親=DV被害者」と、「共同親権=別居親=連れ去り被害者」の構図があることに衝撃を受けたと言います。なぜなら、子どもの連れ去り被害者の中にもDVの被害に遭っている母親がいることを知っていたからです。親権を失ったDV被害者や、DVを立証できない被害者を救える手立ては共同親権しかないと考えていました。
「子どもと引き離された親の中にDV被害者がいるのに、なぜ共同親権に反対をしているのか?」と、いつしか岡田さんは共同親権に反対しているDV被害者へ理解を求めるようになりました。しかし、ようやく得た平穏な生活を脅かされる危惧があるのか、なかなか理解は得られない状況が続いています。Twitter上では「DV被害者のくせに」と共同親権を推進している岡田さんを批判する人たちまであらわれました。
共同親権に反対しているDV被害者のほとんどは親権を有する同居親です。係争中の方もいるかもしれませんが、深刻な事態からは脱し、救済された形となっています。その上で共同親権に反対するのはなぜか。岡田さんの目には、自分たちの安全・安心のために親権を失った別居親、DV被害者の犠牲から目を背けているように映っていました。
DVの被害に遭い、しかも親権をとれなかった別居母親たちを救いたい
諸外国の運用を見ると、離婚後共同親権制度には単独親権が含まれています。加害性があるなど、子どもに悪い影響を与える親には監護権は認められず、面会も制限されます。また、親権停止・剥奪と組み合わせれば完全に単独親権状態となります。共同親権が導入されてもDV支援の運用が見直されない限り虚偽DVでの連れ去りは後をたちません。虚偽DVが大きな問題となればシェルター運営に支障をきたし、真正のDV被害者までいわれのない疑いをうける可能性があります。そして付け焼き刃のような運用見直しが行われれば避難・保護の妨げになる可能性もあります。
岡田さんは最後に「同居DV被害者の皆さんも過去のトラウマなどで苦しんでおられると思います。ケアサポートが不十分ですからね。でも優先すべきは今現在、苦しんでおられる方々です。DV被害者を含む別居親のみなさんを救いたし、子どもたちの尊厳を守りたいと思っています。」と、強い決意を語ってくれました。
法務省は離婚後も父母の両方が親権を持つ「共同親権」の導入の是非について検討する研究会を年内に設置すると発表しました。結論を受けて導入が必要と判断すれば、法相が民法改正を法制審議会(法相の諮問機関)に諮問する見通しです。ぜひとも、共同親権が実現し、被害者と子どもたちが断絶させられている今の日本の社会を変えて欲しいと願っています。
離婚後の共同親権は制度改定だけでは不十分
出典:令和元年10月8日 Newsweek
<両親の離婚後も、子どもが双方の家族から愛情を受けられるよう、制度とカルチャーの両面を変えていくことが必要>
日本の法務省は9月27日、離婚後も父母双方が子供の親権を待つ「共同親権」制度の是非をめぐる研究会を立ち上げ、議論を開始すると発表しました。河井克行法相は同日午前の記者会見で、この共同親権の問題について、「一定の方向性をあらかじめ定めているわけではない。実り多い議論が行われることを期待する」と述べたそうです。
この制度ですが、このコラムでも再三にわたって取り上げた「ハーグ条約」、つまり国際離婚における子どもの一方的な連れ去りを禁止し、連れ去りが発生した場合は子どもを元の居住国に戻すことなどを定めた条約を日本が批准したことで、改めて必要になってきた制度であると言えます。
現在の日本の民法では、この共同親権制度がありません。そのために、国際結婚が破綻した場合に、日本で離婚裁判を行うと単独親権という判決が出ることから、欧米圏出身の配偶者の場合は、そもそも日本での裁判に応じないという実情があります。その結果として、外国人の側の親は自分の国における離婚裁判を強硬に主張して、日本人の親に不利な結果を引き出す傾向があります。
共同親権制度が導入されれば、離婚後に母親が単独親権を獲得した場合に、父親の面会権が十分に保障されないとか、反対に父親が養育費の支払い義務を怠るといった問題が、改善されるケースも増える可能性があります。
制度への社会的な理解が必要
ですが、この問題、制度だけを用意してもダメだと思います。離婚と親権、面会権などを取り巻く、社会的な理解を変えていかなければ、制度だけを変えてもうまくいかないからです。
1つは、共同親権という制度への社会的理解をどう進めるかという問題です。共同親権というのは、離婚後の子どもについて、例えば平日は母親で、週末は父親であるとか、通常は父親だが夏休みは母親といった取り決めをして、子どもは双方の親の間を行き来するという制度です。
社会的理解というのは、ある子どもの家庭が、そのような選択をした場合に、学校や子どもの友人の家庭などが、そのことにしっかり理解を示すことが必要だということです。共同親権の下で育てられている子どもが差別されたり、誤解を受けたりするようなことがあってはなりません。
2つ目は、ルールを厳格に決めるということです。共同親権というのは、すでに夫婦ではなくなった、そして離婚の過程で利害衝突を調整してきた当事者達によって公正に運用されなくてはなりません。反対に、ルール違反が起きた際には厳格に対処する規定も必要です。例えば、自分が担当でない日に子供を連れ去るような問題には、厳重な罰則を設定しつつ、そのような事態を防止するために周囲の理解を進める仕掛けが必要です。
3つ目は、離婚後の新しい配偶者の問題です。日本でも、もちろん血の繋がらない親子関係を立派に築いてお子さんに愛情を注いでいる親御さんもたくさんいます。ですが、社会として「血の繋がりがない」場合に、愛情が注げないことへの「許容」がまだ残っているように見られます。
極端な例は、近年問題になっている「再婚カップルにおける連れ子への虐待」です。もちろん、明るみに出れば厳しいペナルティを課すようになっていますが、社会として防止策は十分とは言えないように思います。
連れ子に対して「冷淡な」カルチャー
例えば、現在の離婚後の運用においては、親権のない親に面会権があったとしても、「その親が再婚したら面会権を遠慮する」とか「再婚相手が、前の婚姻における子供と面会することに対して不